「にっかり青江単騎出陣」
2022秋-大阪公演
10.8(土)昼 箕面市立文化芸能劇場 大ホール

 

美しい劇場。
木目調の壁、紅葉色の客席。左右の壁には青色にも虹色にも見える照明が美しく反射している。天井には水中から天を仰ぐように銀杏や水泡の様なモチーフが浮かび、隙間から照明の光が照らされている。
舞台上には一本の刀。
天井から一筋の光が差している。

秋の空。
湖の奥底に揺らめいて見えるような。透明でひんやりとしたにっかりさんでした。落ち着いたトーンの声色が、はらりはらりと落ち葉のように心に降り積もる。

これは何度目の始まり?
声が深みを増し、幾重の時を思い起こさせる。

見えているのに、手を伸ばしても永遠に届かない冷たい湖の底に居るようで。でも触れようとすると水面が揺れて見えなくなってしまうから。そっと見守らなくちゃと。

やってみようか、と和かな講談の始まり。遠くでひゅうと吹く風が聞こえている。
沢山の人たちを見守って、見送ってきた。分かっていながら歴史を辿る。振り返った背中が物語る惨状。

愛おしそうに橋掛かりを撫で、腰掛ける。
幾年月を懐かしむように、少し寂しげに。
言葉静かに、物腰柔らかくこの本丸を実直に見守ってきたのだろうな。

人々と手遊びで触れ合い、感じた安らぎ。故郷に戻ってきたような気持ち。子育てをした想い出。少しづつ少しづつ心が浮上し、開いてゆく。

懐かしいな、何もかも。
なんて膨らみがあるのかと驚愕しました。
静かに見守ってきたにっかりさんの記憶がぶわっと広がるようで。

一滴の本心が水面を揺らす。
馴染んでいく掌を慈しむように包み、指先から解放する。守りたいもの、守れないこと、そして斬ることに馴染んでしまいたくない、この心をなんと言うのだろう。

ゆらりゆらめくように。黙って見守る強さを保ち続けてきた彼と、何かに怯えて見ないようにしている彼とが滲む。

「あまり無理をすると、壊れてしまうんだって」
あの時の言葉を思い出す。

上手の座席から見た彼は、小さく膝を抱えて、鏡面舞台に流れる川に反射してゆらめいて見えた。
どうやら僕に斬ってほしいようだね。と肩を落とす。もう、斬りたくないんだと言わんばかりで。

静かに佇んで、見守ってきた。
そんなにっかりさんだからこそ、そっと現れた幽霊さん。ふわ〜っと、しっとりと、何故だか怖くなくて。一緒に正面から向き合って、伝えて、包んでくれるような。

僕は斬ってきた。
刀剣男士だから。
泣いているかのようだった。

どうなりたいのかと、聞かれて。
虚空を見つめたまま、表情を変えずに。考え続けてきた答えをするりと口にする。そして無理だと知っているよ、と自嘲するかのように呟く。笑ってみたいと。
張り詰めた糸が切れたように左手をついて。
曝け出した無垢の心で真実を見い出す。

自らに、そして見守ってきてくれた彼女に誓う。一肌の温もりを得たような、触れればふわりと微笑んでくれるようなにっかりさん。

刀剣乱舞、なんだか分からないけれど涙が出てしまって困りました。力強く舞って歌う。
芯がしっかりとあるにっかりさんだからこそ、これからの本丸での活躍を見てみたいなぁとも。きっと、もっともっと強くなる。

祝祭の歌、ひとつひとつの言葉を歌に。歌うのではなく、言葉が舞い伝わるようで、あぁまた深化するのだなぁと思いました。美しいとか上手いとかだけじゃない演劇の「歌」。
あなめでたや。
桜吹雪が客席まで桜色に染まって温かくて。にっかりさんにはどんな風に見えたかなぁ。
ソワレ公演を控えているのに。
いつもの全身全霊のお芝居。
ありがとうございます。
大丈夫かなぁと心配になるけれど。
荒木さんだから。大丈夫。きっと。

そんな風に思いながら、劇場横のテラスでこの備忘録を書き綴って。桜が客席や壁まで舞い散る照明…下関の劇場を思い出したり。こうやって積み重なることの幸せをじんわりじんわりと噛み締めています。
ソワレ公演も無事に幕が上がりますように。

 


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