「にっかり青江単騎出陣」
2022秋-山形公演
9.22(木) 山形市民会館 大ホール

 

ジンっ….と芯にくるにっかりさんだった。
微笑みがふわりふわりと降り積もって。しんしんと降り積る雪でジンと痺れる手をしっかりと握ってくれているような。優しい、滋味深い刀剣男士。

足音のしない登場に鳥肌が立った。
神が降り立つ。
ゆらゆらとはためく布と照明に揺れる輪郭。

幽玄の世界にひゅっと吸い込まれて、気がつげば観客である自分が魂になってにっかりさんと対話をしているみたいな。一人一人をよく見て、微笑んでくれていた。

少し話が逸れますが、今日山形の街並みを散歩していた際、急に両足が攣ってしまったんです。今までにない事で、訳もわからず壁に手をついて動けずにいたら、通りがかった方々が心配してくれて、まず座って、水を飲むと良いですよと。たまたまかもしれないけれど、まるでご近所の方のように、さらっと隣人に優しくできる豊かな土地なんだなぁと。嬉しかった。
劇場で両隣に座られた方々も、じっとご観劇されていたかと思ったら、終演後に涙をふいていて。

なんだかそんな土地の豊かさというか、感受性豊かに受け止めて、じっと耐えて、笑いかけられる人柄が伝播したようなにっかりさんだったように思います。

言葉が先に出てきて、後から心が追いつくような。自然と出た自分の言葉を噛み締めて、あぁそうだ、そうだったのだと。気づいて、はたと我に返り、その度に優しく笑いかけてくれる。
包み隠さず見せてくれてありがとう。

講談、ずっとにっかり青江だった。
と書くのも変なのですが。
読み聞かせるのではなく、50年という歳月を共に過ごし見守ってきたにっかりさんが見てきた物語。

風車、なんだか石切丸さんの歌声が聞こえてくるみたいな。三百年のあの成長期を見守る情景が浮かんで…止まる。はっとして、微笑む。

優しくて優しくて。本丸の皆んなをふわりと包んでいて。だから旅に出るのも、それほどまでに深い想いを気持ちを、抱えているなんて思えなくて。でも剣舞で知る。芯の強い、滋味深い、守るための厚みのある大脇差だったことを。
にっこりと微笑んで駆けてゆく。

手遊び。朴訥としていて、ひとりひとりを尊重してくれて、嬉しかったなぁ。初めての方が多かったのかしら?客席の、其々の楽しみ方を見守りながら、ゆっくりと対話をしてくれているような。

何度も腕の中を見て、すやすやと寝ているのを確かめながら、囁くように子守唄をうたう。悠久の時を懐かしむ。
そして子を育て歴史を作る皆のことも優しく見守ってきたのだなぁと。目尻が下がるように嬉しそうに思い出し、教えてくれる。豆が破けない理由、聞いたのだろうな。そして彼の優しさに学び、誇らしく思ったのだろうな。
口に出して、気づく。自らのてのひら。ほんの少しだけ、心の深淵が顔を覗かせる。

自問自答。ひとつひとつ、あぁそうだったのかと。
行き詰まった時に現れた彼女は、ぼうっと残像が残るように白く発光していた。腰の刀を撫でるようにしてはたと気づく。あら…?外に出てきてしまったわ…と。復讐…?繰り返して口にして、その意味を咀嚼する。ひとつひとつ、にっかりさんと心を紐解いて深く深く。そわりと首筋を撫でて、宙へ浮かぶ。

….ちがう。ぽつりと呟き、その言葉がじわりじわりと身体を伝う。知っているよと身体中で叫ぶ。
そして初めて考える。自分がどうなりたいのかと。今までずっと周囲のことだけを考えてきた彼が、自らのなりたいものを。刀剣男士として成さなければならないと思っていたこと。自らが成したいもの。其々を受け入れて、靭くなる。

ふぅっ…と息を吐いて、放つ。
雄大な空へ、かの人達へ、私たちへ。

右へ左へ、全てを包み込んで。
深々とお辞儀をする。

ただただ、ありがとう。と思って。
精一杯拍手をするのだけれど、全然足りなくて。胸がいっぱいです。
なんで何度見ても泣いちゃうのかなぁ。今日しか、この土地でしか、この観客でしか会えないにっかり青江。

劇場を出たら、秋の風が吹き、鈴虫がりんりんと、凛々と力強く鳴いていた。肌寒く感じたのは、劇場の熱が身体を包んでいたから。
火照った心を抱えて家路に着く。
なんと幸せなことだろうか。
荒木さんと一座の皆様と友人と、名も知らぬ今日同じ空間にいらした方々に感謝を。

どうかこの先の旅路も、豊かな幸せが続きますように。

 


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