悪食 70点
今年 40本目
監督、脚本 小島淳二
プロデューサー 荒木孝眞
撮影 安岡洋史
録音 阿尾茂穀
効果 ジミー寺川
出演 中島セナ
大迫一平
宮内麗花
MEGUMI
安原琉那
陶芸の街を舞台に揺れ動く少女の心情を綴った青春映画。
渋谷美学校試写室へ。
鑑賞結果、思春期の揺れ動く少女の情感を何も理解しようとしない大人や周りの人間を通して描いている。
極端な行動が子供の危うい精神をよく表している。
ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️
伝統工芸、有田焼の街で父、信夫(大迫一平)と祖母と3人で暮らしていた絵を描くことが大好きな14歳の結衣(中島セナ)は、美しいと感じたものを自分の色使いで自分の世界の中で表現していた。
美術教室に通っていたが、先生から最初は基本に忠実にと何度も言われながらも、自分の感じた形、色にこだわって絵を描いていた。
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父、信夫(大迫一平)は離婚して陶芸家の美樹(宮内麗花)と付き合っていた。
結衣(中島せな)は独創的な絵柄と色を使う美樹に惹かれていたが、美樹は美術展に出品する作品に悩んでいた。
有田の街の美術展では伝統的な絵柄や色が好まれており、新しい風を受け入れ難い風土があった。
事実、美樹の師匠も美樹独自に考えた絵柄や色は「マリメッコなどのパクリだろ」と言って全く認めてくれなかった。
美樹も次の美術展ではグランプリを取って独立したいと考えていた為、師匠の言う通りの作品を出すか自分の個性を出した作品を出すかで悩んでいた。
美術展用に出来上がった壺は2つ。
一つは黄色の花の壺。美樹らしい作品。
もう一つは伝統的な赤い花の壺。
結衣は線も力強くて色が鮮やかな黄色い壺を出すべきだと主張した。
美樹もその壺の方が好きだった。
しかし師匠は「俺に恥をかかすなよ」と伝統的な赤色の花の壺を出展しろと言っていた。
出展日、父、信夫(大迫一平)と一緒に準備会場に訪れた結衣(中島セナ)。
美樹(宮内麗花)の作品は赤い花の壺だった。
結衣は美樹に「どうして?」と迫るが美樹は何も答えずその場を立ち去った。
結衣は他の出展者が「寄付金を多額に出したみたいだよ。勝負に出たねぇ」と美樹に対して噂をしているのを聞いた。
結衣は会場を飛び出した。
その夜、美樹が家に来て信夫とセックスするのを隣の部屋で息を殺しながら聞いていた。
翌日、焼肉屋で食事をする3人。
妙にテンションの高い信夫と美樹。信夫は「結衣にはお母さんが必要だ。美樹さんはどうかな?」と言った。
結衣は「好きにすればいい」と言いながらも大人の汚い部分を感じていて吐き気がしていた。
金で買ったグランプリ。それを応援する父親。父親と美樹の男と女の関係。それも金で繋がっているように感じた。
大人は汚くて醜い。結衣は店を出るとその場で吐いた。心配する2人には触られたくもなかった。
結衣(中島セナ)は「汚い大人達はみんな死ねばいい」と思った。
以前、遊びで睡眠薬をオーバードーズさせたことがあった。
先ずは結衣を裏切り、汚い世界に行ってしまった美樹(宮内麗花)を殺そうと思った。
展覧会の発表の前に美術教室へ呼び出し、友達4人で美樹を殺す計画を立てた。
結「絵を見て欲しい」と言われた美樹は美術教室にやってくる。そこで大量の睡眠薬入りの飲み物を飲まされる。昏倒したところへ追い討ちの睡眠薬入りの飲み物を渡すのだが、怖くなった結衣の友達、咲(安原琉那)がそれをさせなかった。
美樹はフラフラになりながらトイレへと行く。
結衣達はそんな美樹を見捨てて家に帰った。
しかし自分たちのやったことが怖くなって咲が母親に話したことから、結衣の母親(MEGUMI)に連絡が入り、事件が発覚。
美樹は救急車で病院に運ばれ、結衣達は警察に補導された。
美樹(宮内麗花)は退院したが、信夫(大迫一平)の世話にはなりたくないと暫く会わないと告げた。
美樹は誰かに頼る生活が嫌で、師匠の元を離れ独立することに。
以前、信夫が紹介してくれた投資家の援助で独立を果たす。
しかしその投資家もまた美樹を食い物にしようとする1人だった。
美樹は全てを無くした。
結衣は偶然その姿を見ていた。美樹も苦しんでいることを知った。
結衣(中島セナ)がしたことを父、信夫(大迫一平)が知っているはずなのに結衣に何も言わなかった。
結衣はそれが解らない。どうして怒らないのか?なぜ何も言わないのか?
信夫もまた解らなかった。結衣が何を考えているのか?どう接していいのか?
信夫は別れた元妻(MEGUMI)のもとに行った。解らなくなって藁にもすがる思いだった。元妻は呆れて言った。「本当に結衣のことが何も分かっていない。それでも父親か」と。「絵を始めたのも信雄が褒めたからだ。大好きな父親に褒められて絵に興味を持ったのだ。そんなことも分からない父親に結衣と暮らす権利なんか無い」と。
結衣(中島セナ)は滝を見に行く。そしてそこで美樹(宮内麗花)を偶然見つける。
美樹は何か心が崩れそうになると、ここに来て滝を見るのだと言う。
そして結衣に「ごめんね」と謝るのだ。
結衣は理解出来なかった。謝るのは自分で美樹ではないはずだと。
大人はこうやって気遣う。自分にはそれが出来ない。
結衣は吐き出せない気持ちをただ泣いて訴えるしかなかった。
結衣(中島セナ)は一生懸命絵を描いている。一心不乱に色を塗り続ける耳元で「きれい」という美樹(宮内麗花)の声がした気がした。
夢だった。結衣は起き上がると美樹が愛した黄色の絵の具をときはじめた。
エンド。
という映画だ。
思春期の女子中学生が両親の離婚を経て、片親の寂しさを絵の世界に入り込むことで紛らわしていた。
しかし父親は新しい彼女と付き合いだし、再婚しようとしている。
父親は厳しい人ではないのだが、だからと言って自分を見て理解してくれる人でもない。
結衣にとっては絵とそれに色を載せていくことが、自分の幸せな未来の一筋の光だった。好きなものを好きと言える世界だった。
父親の彼女もそんな人だと思っていた。
古い伝統を重んじる有田の街で陶芸家として修行している。しかし自分の作りたいもの、色というものをしっかりと持っている人に見えた。それは結衣と通じるものがあるということだ。だから父親の彼女であってもその一点では理解し合える同志と思っていた。
しかしその想いは打ち砕かれる。大人の事情だかなんだか知らないが、純粋なはずの創作の世界の中にお金とか欲とかを持ち込み汚した。
それは結衣には我慢出来ないものだった。そんなことにはつゆとも気がつかない父親にも嫌悪が起きる。そしてその嫌悪は殺意となって美樹に向けられるのである。
殺されかけたのに、殺そうとしたのに、父親も美樹も結衣を責めない。
大人が益々解らなくなった。
しかし解らなくなっても冷静になる時間が自分が犯した罪を突きつけてくる。
その感情に気持ちは益々荒ぶる。
収拾がつかなくなる。
その気持ちを整理したくて自分の原点でもある滝を見にいく。
そこで思いがけなく美樹と遭遇する。
謝りたい自分がいるのに、謝れない。その中で美樹が謝ってきた。益々解らなくなる。
いつも感情を出さない結衣が爆発する。
号泣する。
その感情の中で見えたのは、やはり自分が愛する色と絵だった。
まだ何も理解出来ない思春期の中でも一筋の光のようにその色は輝いていた。
思春期の少女の心を色で表現する。
いろんな人がいろんな感情を持つ。それはあたかも色が色とりどりであるように。
その中には自分が憧れる色がある。
自分がなりたい大人への階段の色だ。
そんな思春期の少女の心情表現を小島監督は描いている。
監督自身が創作者であるが故の自分が感じてきた大人の世界なのかもしれない。
なかなか見応えのある映画である。
渋谷シネクイントで劇場公開されたが短い期間になりそうだ。
是非、劇場で観て欲しい。