悪食 80点
今年 22本目
監督 ハンナ・べルイホルム
脚本 イリヤ・ラウチ
主演 シーリ・ソラリンナ
ソフィア・ヘイッキラ
ヤニ・ボラネン
レイノ・ノルディン
フィンランド製ホラー映画だそうです。
新宿シネマカリテへ。
鑑賞結果、不思議なホラーです。メタファーだと理解すれば解りやすいのですが。
ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️
フィンランドの幸せそうな家族。父、母、娘、弟の4人家族。絵に描いたような幸せな家族だが。
幸せな家族をSNSで発信する母(ソフィア・ヘイッキラ)。
この家族が壊れて行く様が描かれていくのですが。
ファーストカットは非常に良いです。
ドローン撮影されたフィンランドの住宅街の街並み。美しいです。悪食はこんな街に住みたいです。憧れます。
窓ガラスにカラスが当たる。窓を開けるとカラスは部屋の中に入り込んで、部屋の中をメチャメチャにする。
娘のティンヤ(シーリ・ソナリンヤ)がカラスを捕まえると母はその場で殺してしまった。
夜中にカラスの鳴き声で目が覚めたティンヤはその声に導かれるように森の中へ。
森の中には死にかけたカラスが鳴いていた。ティンヤは思わずカラスを叩き殺してしまう。
そしてその時に一つの卵を見つけ、持ち帰り大事に温めるのだ。
先ず、このシーンがこれから始まる物語のメタファーとなる。
外からの侵入者。それは家庭をめちゃめちゃにする。そしてその家で最も強いものに殺されてしまう。しかし死んではいなかった。必死に逃げ、助けを呼ぶ。その結果は、無惨に殺される。しかし最初に殺したカラスと森の中で死にかけていたカラスが同じカラスとは限らない。見た目が同じだけだ。
これが何を意味するのか?映画を見ていくと、これがメタファーであったことに誰もが気付く。
この冒頭のエピソードはこの映画を端的に表している。これから起こること、そしてどうなるのかを。
母(ソフィア・ヘイッキラ)は、テロ(レイノ・ノルディン)と公然と浮気をしていた。娘に見られてもお構いなし。それどころか秘密を共有しようとまで言い出す。泊まりがけのセミナーと言ってはテロとの逢瀬を繰り返す。
父(ヤニ・ボラネン)はそのことを知っても母を責めようとしないどころか母の行動を認めるのだ。
しかも母は本気だと言い出した。12歳の少女に受け止めきれないことを受け止めさせようとする母親。
この家の狂気は母親が振り撒いているのだ。
母(ソフィア・ヘイッキラ)の狂気は家族全員の心を冒している。
父親(ヤニ・ボラネン)は、妻を愛しているが故に妻の行動を正当化して娘ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)にお父さんはお母さんの行動を認めているどころか尊敬しているとまで言い張るのである。
父親は完全に心を冒されている。
ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)が育てていた卵はみるみる大きくなり、ある夜、殻を破って誕生した。
これもまたメタファーに他ならない。
みるみる大きくなる卵はティンヤ(シーリ・ソラリンナ)の怒り、哀しみ、不満、絶望だ。
そしてそれは見事に花を咲かす。生まれ出るのだ。悍ましい姿で。
その姿は不気味で巨大な鳥の雛の様だった。
ティンヤは最初は恐れ慄くが、それは最初に目にしたティンヤをまるで母親の様に慕うのである。どこか愛着が湧くティンヤ。
ティンヤは密かにそれを育てるのである。そしてそれにアッリ(水鳥)という名前をつけた。
アッリは、ティンヤに対して異常な執着を見せていく。ティンヤに敵対するものは全てアッリの敵になった。
夜中に吠えまくるうるさい隣の飼い犬は、アッリが食い殺した。
ティンヤの体操クラブのライバルはアッリによって再起不能になるまでの重傷を負わされた。
アッリはその姿をどんどん変えていった。クチバシが取れ、ティンヤにどんどん似てきたのだ。
そしてアッリは、母(ソフィア・ヘイキッラ)の恋人テロ(レイノ・ノルディン)の子供まで手にかけようとした。
テロはティンヤだと思い、二人をもう二度と家に来ないでくれと追い出してしまった。
ティンヤはアッリに暴力的なことはやめてくれと頼むが、アッリには解らない。
ついにアッリは家族にまでその敵意を向け始めた。
母は自分の幸せに見える家族を守ろうとアッリに包丁を向けた。
そしてアッリに包丁を突き立てようとした時、そこには咄嗟にアッリを守ろうとしたティンヤがいた。包丁はティンヤの胸に刺さっていた。床に崩れ落ち絶命するティンヤ。
それを見たアッリの姿は悲しみに震えていたが、姿はどんどんティンヤそっくりなっていた。
母は優しくアッリを抱いた。ティンヤをまた手に入れた様に。
エンド。
これほど恐ろしい話があるだろうか?
母(ソフィア・ヘイキッラ)の虚栄でしかない家族自慢。しかしそこに彼女の発するSNSの反応は無い。その場面が無いのだ。もしかしたらそれすらも彼女が見せかけているだけなのかもしれない。そうまでしても自分の家族は最高に素晴らしく幸せであると思い込みたいのだ。
しかもそう見せかけながら、本当の自分の気持ちも抑えられない。愛欲をセーブ出来ないのだ。ならばそれを家族に認めさせればいい。恐ろしい考え方だ。そしてそれを実践する。母の異常な行動に家族はなすすべもなく巻き込まれていく。心を冒されていく。
しかし冒された心はそのままでは無い。
その怒り、哀しみ、不満、絶望は徐々に大きくなり悍ましい攻撃的な姿で現れたのだ。
本来ならその矛先は母に向くはずなのだが、この映画はそうでは無い。
やはり母に依存していくのだ。母もまたそれを受け入れる。全てが狂っているのだ。
娘を殺しても娘がいる。問題はないではないか。
これからも私の幸せは続く。母の狂気に冒された家族の映画だ。
これは確かにホラー映画だ。
薄気味悪い、寒々としたホラーだ。
面白いとしか言いようがない。