患者さんの手に届くまでやりたい・・・。

 

研究は2019年度に再スタート。入浴着の開発に熱意を持つ2人の学生(現在は卒業)が現れました。福祉などにも興味を持つ学生さんだった。

 

2020年に実施したアンケート調査(※奈良県福祉医療部疾病対策課、文化・教育・くらし創造部消費・生活安全課の協力を得て、奈良県内の乳がん術後女性および入浴施設へ調査)でも、入浴着の認知度は術後女性・施設とも低く、「知らない」「あまり知らない」と回答した女性が57%、施設で88%にも及んでいた。認知度も低く、使えるところでも運用が徹底されていないことも明らかに。

 

さらに当事者に必要とされる入浴着のタイプや入浴着に必要な機能・素材等の課題も浮かび上がってきた。

 

実際に村田先生は近隣府県で入浴着を扱っている入浴施設を回られたそうだ。

 

村田先生『レンタルを申し込んだらボロボロだったんです。これを貸してもらっても、、でした。もうレンタルじゃなくて使い切りで検討してみてはどうか、と一気に舵を切りました。』

 

これまでいくつも市販されている入浴着のほとんどはポリエステル素材が多く、水切れがよくなかったり、軽くて浮いてくるなどの課題があった。私自身も実感している。『着脱が簡単』『お湯の中でも生地が浮かず』『ぬれても不快感のない素材』を探す日々。

 

撥水性のある布地を探していて、生地問屋を回って探した。

 

そこで見つけたのが今回の生地にもなった、不織布。なんと元は防災用のもの。業者(GSIクレオス)の方は最初はピンと来ていなかったようだ。

 

試作や着用テストを繰り返して行い、着脱がしやすく、お湯切れの良いデザインにたどりつく。誰かのためにと愛がなければ、熱意がなければできない作業だ。

 

村田先生『速乾性と吸水性は相反するものなので、今回の生地が見つかってよかったです。サンドイッチのような生地の構造になっていて、ゴムが伸縮性を出しているのです。』

 

デザインの特長は、肌に近い色の生地を使用することで着用していることが目立たず、胸の上部の切り替え部分にギャザーを入れることにより、左右の胸のバランスをカバー。  

生地の外側にはっ水性、内側に吸水性の性能を持つ素材を使用。湯につかっても浮き上がらず、湯船から出た時にも湯切れを良くした。

生地の内層部に伸縮性のあるポリウレタンを使用し、背中をV字型に大きく開けるデザインにすることで身体を洗い易く。

結果、首、裾部分のどちらからでも、着用時の動作や脱着がしやすくなった。

 

サンプルをいただいたとき、これまでのものとはまったく違うアプローチ、こんなの待ってました、、というものだった。これまでのものは脱ぎ着の兼ね合いから片方だけ肩がある入浴着が多いのだが、私は両側。着ると上から見えてしまうので使えないと思っていた。このデザインなら左右どちらでも、両側でも安心感あるデザインでギャザーが入ってふくらみがあるので助かる。

 

ピンクだけでなく、肌なじみのよいベージュやボーダー、グレーを含めた全4色。

そもそも着目したのは乳がん治癒後の健康改善、QOL向上を支援すること。日常の楽しみの一つである温泉への入浴に着目してくださったことがありがたい。

 

一方で『使っていると目立つ』という声へも配慮されている。なんと入浴着が、公衆浴場、旅館・ホテルの浴場、サウナなどで活用できるよう奈良県では、今年の3月、県内すべての施設に「入浴着を着用した入浴に理解を求める」ポスターを制作・配布し、県民への周知と理解を求めているとのこと。学生さんと先生の熱意がすべてを動かしている。各地に広がるとうれしい。