言われたときは”頭を殴られたような気分”

 

阿久津『誰もがそうだと思いますが、告知のときはショックでしたよね?』

 

麻衣さん『告知されたときは頭を鈍器で殴られた気分でした。ランチを食べて、きょうはいいよね、とビールを飲んで、気持ちを落ち着かせてから夫に電話しました。夫は(前の年の)良性の腫瘍のことがあったので”きたかー”と言われました。”ずっと気になっていて、自分が早く言えばよかった”と。』

 

麻酔医でもある旦那さん。医療者なのでこのあとどんなことが進み、その結果によってどう選択があるのかなどの次のイメージが湧く。でもかえって旦那さんの方がやせていってしまった、という。家族も”第2の患者”なのだ。

 

麻衣さん『家族をしんどくさせるのがつらかった。夫が疲弊していく様子を見るのが苦しかった。その疲弊があふれて、入院中のふとしたきっかけで結婚して初めて強い言葉を投げかけられたのです。』

 

手術前の抗がん剤治療を”ただただ必死でこなしていて”、”考えると余計しんどくなる”ので思考をオフにしていた”という麻衣さん。

 

表面上、旦那さんには辛そうに見えていなかったのではという。だからこそ募るイライラがあったのかもしれない。でも「無表情でタンタンと」それしか乗り越える手立てがなかった。

 

麻衣さん「つらい記憶が比較的残っていないのは、それだけ思考や気持ちを言語化して記憶に定着させる作業ができなかったから」と言語学者らしい表現で振り返る。

 

抗がん剤治療を受けながらも、手術も年末の休みとうまく合ったこともあり、これまで途切れることなく、仕事を続けている。