涙で乳がんがわかる?

 

 

神戸大大学院工学研究科(神戸市灘区)の竹内俊文教授(当時)研究。

 

『涙の中に含まれるエクソソームを調べることで、乳がんかどうかがわかる』

『涙の中に含まれるエクソソームを調べることで再発している』こともわかる可能性があるという。SODANE読者の方が教えてくださって、twitterでつながった。

 

 その技術とは、試験紙で採取した涙で、がんがあるかないかを判定する方法「TearExo(ティアエクソ)法」。

 涙の成分のうち、がん細胞から放出されて表面にがん由来のタンパク質がくっついた小胞「エクソソーム」を分析。特定のタンパク質が多いと、がんの疑いがあり、最短10分ほどで検出できるという。乳がんの手術を受けた人も、その後のケアや再発チェックに利用できるのではないかと研究が進んでいる。

 

 少し難しいのだが、エクソソームはさまざまな細胞から放出される100ナノメートルほどととてもミクロな世界の細胞外小胞の一つ。がん細胞から出るエクソソームは、がんの増殖や転移に関わることが研究で明らかになってきていてこのエクソソームを涙から取り出して分析するんだそうだ。

 

検査の方法は涙をとるだけ。ドライアイの検査で用いるシルマー試験紙を目尻に挟んで、数分。試験紙に涙がにじんで青色に変わってきたらOK。あとは自動分析計で涙の中のエクソソームを測定すれば、乳がんの細胞があるかないかがわかる。

 

血液じゃなくて、涙でできる可能性が高いと感じていた竹内先生。がん細胞からは特有のエクソソームが出ている。その表面には、放出元のがん細胞に由来するたんぱく質がくっついている。中身についてもがん細胞と同じ中身をもっててでていく。そこで、表面についたたんぱく質をターゲットにしている。

 

乳がんのサブタイプとして、”HER2”タイプがある。がん細胞にHER2たんぱくが含まれていることで知られていて、そのがん細胞から出るエクソソームにも、HER2たんぱくが含まれるんだそうだ。

乳がん患者とがんがない方のエクソソームの違いも判別。つまり、乳がんの可能性があるないかが高い精度で確認できるようになったことを表している。

 

 今、注目しているのは、『術前・術後の違い』。乳がんは人によって違うので平均値をとってもうまくいかないだろうということで同じ個人の術前と術後は比べてどうなるのか、ということを調査中。

 

竹内先生『乳がんは個人個人でパターン違うので、個人によって、3~4の検査するタンパク質も違う組み合わせを考えて調べています。今は、術後を主に考えているのですが、再発していないかどうか、チェックできるかをやろうとしているのです。』

 

 現在はHER2は+3か、FISHで陽性の方がハーセプチンなどの分子標的薬の対象。低発現の人でも効果があるのではないかという薬の治験も進んでいる。

 

竹内先生『HER2ネガティブの人でも、僕たちにはポジティブに見える人もいる。分子標的薬を使う線引きもこの方法は感度がいいので、効かないと思われていた人にも薬が効くようになるのではないのか、とこれからの研究次第ですが個人的には思っています。』

 

術前に値を測って、術後にも測る。術前の値まで近づいてきたら、マンモグラフィやエコーなどを併用しながら、検査をより強化する。そうすることで、少しでも再発しているのでは、という見えないストレスが減るのではないかという思いで取り組んでおられる。

 

竹内先生:『薬が効いているかとかも見えるのではないかと。臨床をやらないと確実なことはいえませんが。』

『患者さんが乳がんか、そうではないかを涙で診断するには、かなり臨床(研究)を多くしないと難しいのですが、乳がんと診断された方が、術前と術後でどう変わったかを調べて、それでも5年・10年のスパンはかかりますが、目で見えるような形にできたらいいなと。』

 

先生の原動力は地元のメディアで紹介されたときの電話。涙で乳がんがわかる、という放送を見た人から”術後で、いつまで検査をし続けるのかストレス。チェックできるものがあるとうれしい、いつできるの?”と。乳がんはステージ1、2で見つかると、いのちは助かる可能性は高いけれども、その後の治療が長い、ということが知られていないのではと感じているそうだ。。

 

私たちが求めているものに近いなあ、というのが印象。

 

がんと言われると、相当に重病に見えるけど、なんとか働ける。でもいつまで治療が続くかはわからないし、いつ治ったの?がない。治ったといえない、という微妙な感覚がある。

 さらに毎回、血液検査で血管に針を入れるが、私の場合は両側でどんどんとれる血管がなくなってきている。それで調べた腫瘍マーカーも万能ではない。

 

竹内先生:『血液も針でとって、糖尿病の方が日々チェックされているが、原理上、涙もできるのではないかと思っている。血液は様々なものが入っているので装置が大変。一方で涙は不純物が入っていないので適しているが、センサーの感度がよくないとダメ。』

 

先生たちのチームで作り出したセンサーは従来の1000倍の感度だそうだ。

 

竹内先生:『腫瘍マーカーはがんを特定するわけではない。ちゃんと機能しているのは前立腺特異抗原(PSA)くらい。ですから、現状の血液検査で再発を見つけるのは無理なのではないかと感じています。』

 

 

 私がこれまでお話を聞いていて感じたのはこの技術で妊孕性の問題を解決できないか、ということ。手術後にどれだけそのがん由来の因子が減ったかを確認できたら、すぐに治療を始めなくても、上がり始めるまではホルモン治療を遅らせて妊活できたりする可能性があるのではないか?

 

竹内先生:『治療方針なので、命に別条がないという確信がないとそうはならないとは思うが、臨床研究で判断ができることになったら、患者さんの希望と併用しながら、一年間だけ治療までの間、余裕が出せるようになるのかどうか、調べてはみたいと思います。』

 

竹内先生:『たんぱく質は遺伝子からできるが、遺伝子だけではがん由来のたんぱく質ができるとは言えない。100%ではないので(変異のある)遺伝子をみてがんになるよねとしてと予防的切除は(研究者としては)違うなと思っている。(研究者としては)がん由来で発現したたんぱくがあるよ、まで言いたい。遺伝子は黙っていることがある。家族が乳がんで、遺伝性と診断されてもがんにならない方もいるので検査のオーバースペックにならないようにしたい。』

 

最近は、いろいろなバイオマーカーが注目されている。 

 

『『線虫を使った尿でわかるがん、でどこかわからないけどがんがあるだと不安なのではないかと。私たちは、確実な物質をとらえていきたい。将来的には、きちんとがんを特定できる、という言い方ができたらいいなと。尿と唾液、さらに涙もできるようになれば、検診などで選択してもらえるので、受診する方にとっていいことになるかなと。』

 

 確実性、信頼性を確かめるために始まったこのトライは検診率や再発への恐怖、社会復帰への時間の短縮など様々な課題の解決への一歩、私も応援したい。