私は入院日から一か月、休みをとった。そんなに長く休みをとったこともなく、とにかく家にいるのが苦痛だった。

 

買い物かごひとつ自分で持てないし、フライパンも持てない。さらになんかだるい、、、。術前に診断を受けたとおりであることを前提に、ホルモン治療薬を飲み始めていたから、暑かったり、寒かったりする更年期症状がすでに始まっていた。

乳がんにもサブタイプと呼ばれるタイプがあってそれぞれに治療法が違う。さらに腫瘍の大きさやリンパ節への転移があるかないか、分子標的薬が効くタイプかそうでないか、などで異なる。この間やっている治療はとりあえずのもの。病理検査の結果が出るまでの3週間が本当に心が落ち着かない日々だった。まだ母親には話せていない。

 

 

  抗がん剤よりもホルモン治療にかけたい

 

 

 手術から3週間。病理検査の結果が出た。私はホルモン治療の方がよく効くタイプ、と判断された。正直、両側だったこともあり、抗がん剤治療を覚悟していたし、左は組織を見ていたので強ホルモン陽性だったが、右は違うタイプの可能性が高いように先生も見立てていた。

自分自身がとらわれていたがんの無意識の偏見。がんイコール抗がん剤、がんイコール死、がんイコール脱毛・・・のような世にあるイメージが自分自身にもあったので大丈夫なのか?と理事長先生に尋ねた。

 

 「両方とも腫瘍の大きさ的には初期。ホルモン治療がよく効くタイプなのに、抗がん剤するのははっきりいって無駄だ」と一蹴された。閉経前ということもあり、ホルモン治療(タモキシフェン)だけで心元ないのであれば、エビデンスが出ている、卵巣の機能を止める注射(リュープリン)を足そうということになった。このリュープリンはそこそこ高い。リュープリンを打った日の会計は3割負担でも3万を超える。

 

 あとで知った話だが、取材を始めたころに出会った患者さんがリュープリンの治験に参加していたという。少し古いレジメン(抗がん剤の組み合わせ)とリュープリンとの比較で再発率は遜色ないと結果が出て、数年前から標準治療とされている。おかげで納得して選択することができたことになる。

 

 治療の選択は腫瘍の大きさとがんのサブタイプ、リンパ節への転移の有無、がんの増殖能力などを組み合わせて判断される。術中のセンチネルリンパ節生検で陰性でも、病理で転移あり、と言われることもある。私も左は微小転移。追加切除する人もいるが、再発率には差は出ても、生存率に変わりはないとされている。はっきりいってここから先は運でしかない。  

 

 一方で、ホルモン受容体陽性でher2陰性でリンパ節3本以内の転移であれば「オンコタイプDX」の対象範囲なので、自分の手術で取り出したがんの遺伝子から抗がん剤の上乗せ効果・再発率を調べることができる。しかし、手術時は保険収載されておらず、自費診療となり、45万ほどと高額。先生はその分、おいしいものを食べて旅行でもしたほうがいい、と検査はしないことになった。(※2023年度に保険収載・・・間に合わないのですよ、過去の人は。)

 

 「初発と再発が一気に来たのにこれでいいのか?」

 

今も悩んでいる。

 乳がんの場合はステージ1だと10年生存率が9割を大きく超える。これはほとんどが片側の方のデータだ。同時両側は5%未満で、生存率などのデータがあまりない。同時両側は片方ずつ適切に治療すれば、生存率に影響はなく、再発といえなくもないがステージ4の目安となる遠隔転移とは別ものだと説明を受けた。ステージごとの生存率は目安にはなるが、私には今もこれからも当てはまるものではない。