学科の専門に移ってからは

講義に実習に真剣に取り組みました

 

研究室に配属されてからは

卒論に向けての研究もありましたし

国家資格取得に向けての勉強もありました

 

公さんとは研究室の件を除けば良好な関係で

一緒に居る時はとても楽しかったし

充実していたと思います

 

 


私は大学を卒業して就職の道を選びました

 

公さんは大学に残って進学する道を選びました

 

 

私は会社の単身社宅に住むことになり

妹との同居を解消することにしました

お金の遣り繰りばかりの貧乏生活からの脱却です

 

指定された住まいは

通勤に1時間以上かかる遠方にあって

築50年近くの古いアパート

 

でも、就職したら通勤手当は出るし

家賃は安いに越したことはないですからね

 

身についた節約生活のお陰で

安月給でも年間200万円ほど貯めることができました

ずっと月に食費1万円生活してましたから…

 

 

公さんとのお付き合いは順調でした

 

研究室の問題が無くなったし

生活圏が離れて適度な距離ができたのかもしれません

 

 

仕事帰りに公さんの家に行って

そのまま泊って出勤することもありました

少しの着替えと生活道具を置いてました

 

もちろん、夜の生活も毎回ありました

女としても満たされていました

 

 


別れの要因のふたつは

最後の1年間に起こりました

 

 

私の仕事が忙しくなったころ

公さんの家に寝泊まりすることが増えました

 

私の住まいよりも公さんの家の方が

私の職場に近かったのです

 

夜の生活の頻度も増えていました

 


そして…妊娠したのです

 

基本的に避妊していましたが

していなかった日もあったように思います

 

大丈夫な日だと思っていても

私は生理周期が不順でしたので

予期せぬ妊娠でした

 

 

私は就職して2年目の半ば

それなりに貯金はできたし

私はもう27歳になっていました


社会人と大学院生の結婚はありだと思ってました

 

公さんとは結婚を前提に付き合っているのだから

すんなり了承してくれると思ってました

 

 

でも、公さんは渋い顔をしました

快く首を縦にふることはありませんでした

 

安定していたと思っていた公さんとの関係が

実は脆いものだと感じました

 

 

中絶経験のある私には

「おろす」という選択はしたくありませんでした

 

結婚を約束している人との間に授かったのに

産まない選択なんてしたくなかったのです

 

私生児にもしたくないので

結婚してから産みたいと望みました

 

公さんからは…返事がありませんでした

 

 

私は日に日に弱っていきました

 

激務の仕事のストレスはありましたし

公さんとの関係でも悩むようになりました


妊娠による体調不良もあったでしょう


 

 

ある日、体調が悪かったのが理由だと思うのですが

少し早めに退社させてもらいました

 

当時上司だった夫と記憶を辿ったのですが…

夕方早い時間だったのは確かなのです

早めに帰ることになった理由を正確には覚えていません

当時の記憶が曖昧なのです

 

 

電車を待つホームで

脚になにか生あたたかいものが伝うのを感じました


手で触れると

べとっ

べったりと血が付きました

 

お腹が痛かったことはなんとなく覚えています

 

 

不安になって公さんに電話しました

 

…何度かけても出ません

 

 

上司(←夫です)に電話をかけました

 

翌日に出社できないかもしれないと話す私に

 

上司は私の体調を気遣う言葉のあと

すぐに病院に行くように指示しました

 

 

その後、産婦人科に行きました

 

このあたりの時系列はあまり覚えていません

 

 

ただ、覚えているのは

流産しかけています、と先生に言われたこと

掻爬(そうは)手術が必要だと言われたこと

 

日を改めて手術になったような気もします

 

手術の時までの待合室では

公さんが横にいたように思います


 

でも、そこに至るまでに

口論があったようにも思います

 

なぜすぐに電話に出てくれなかったのか

不安でたまらない時に支えてくれなかったのか

 

泣きながら責めたような気がします


 

その理由にまたショックを受けました

 

自分の研究で忙しくて手が離せなかった

 

私のことより

また自分のことを優先したの?

 

足元が真っ暗闇に沈んでいく感覚でした

 

 

あと覚えているのは

麻酔無しでの掻爬手術のときのこと

 

痛みを我慢するために

棒のようなものを掴むように指示されて

 

下から挿入される金属の器具のひんやりとした感触

カチャカチャという金属音

奥底に感じる激痛

 

先生に言われた指示

 

我慢しなさいね

これをきちんときれいにしないと次の妊娠に響くから

痛いだろうけど我慢してね

 

 

麻酔で寝ている間にすべて終わった中絶手術とは違って

意識も痛みもすべて感じた流産の掻爬手術

 

信じていた人を信じきることができない現実

 

身も心もボロボロになっていました

 

 

手術の後は安静を指示されていて

仕事をしばらく休んでいたと思います

 

 

流産したと知ったとき

公さんはおそらくホッとしたような

そう思えるような表情を見た気がします

 

それにまた私は傷ついていました

 

私の思い過ごしなのか?

 

 

いや、きっと安堵したのは間違いないと思います

このときに結婚する意思は無かったと思うのです

 

そのことは三つ目の出来事のときに

確信に近い形で思うようになりました