合宿免許から帰ってきてからのお話です

 


久しぶりに英さんから呼び出しされました

バイクのメンテナンスの助手です


言われた道具を箱から取り出して

手渡すお手伝いだったかな

…あまり覚えてません

 

二輪免許も取れば良いのにと言われて

親が大反対しているから無理だと答えました

 

中学の同級生がバイク事故で亡くなっていて

バイク乗りは危ないと母はしきりに言ってました

 

自分の力でバイクを立てることができれば大丈夫と言われて

英さんのバイクで試してみることにしました

 

400ccのヨーロピアンスタイル

 

跨ったまでは良かったのですが

あまりの重さによろけてしまいました

 

脚をめいいっぱい踏ん張って

腕でも力いっぱい支えたのですが…

ゆっくりとバイクが横倒しになっていきました

かなり焦っていたために

私にはスローモーションのように感じただけかもしれません

 

少しボディーにヒビがはいりました

 

英さんにこっぴどく怒られました

 

ボディ部分を総とっかえする必要があると言われ

30万円を請求されました

 

あまりのショックな出来事に

怒鳴られたことと請求された額は覚えていますが

その後のことはあまり覚えていません

 

 

お金を稼ぐ方法を必死に考えました

 

その頃の私にそんな大金はありません

私はとても貧乏な生活をしていたからです

 

お昼ご飯は「ロシア」というパン1個だけを大学生協で購入する生活

100円で大きなパンだったので

いつも食べていました

 

そんな私に

万単位のお金があるはずがないのです

 

 

20歳の娘が手っ取り早く稼ぐ方法

やはり…風俗…?

 

風俗のチラシをかき集めて考えました


でも、浪人生の時に親を泣かせた私

再び悲しませるような選択が出来ませんでした

 

 

大通りに面したところに新オープン予定

24時間営業の弁当屋のスタッフ募集を見つけました

 

22時以降は時給1,000円

そこでバイトをすることに決めました

 

なるべく時給が良くて起きていられる時間で…

21時から深夜2時までの5時間

採用が決まりました

 

 

大学が終わってからご飯を食べて

20分ほど自転車で大通りを滑走して通いました

 

深夜なので掃除をしながら接客します

厨房で料理をすることもあれば

注文をうけてレジ打ちもしました

 

バイトが終わるとヘロヘロになって

帰り着くと倒れこんで意識が飛びました

きちんと布団で寝ていたかなぁ…

それすら覚えていません

 

家にはお風呂がないため

バイトの日は揚げ物をして油の臭いが全身に染み付いたままで翌日を過ごすことになります

 

バイトの無い日に公衆浴場に行きましたが

到底20歳の娘が送るとは思えない生活でした

 

 

深夜バイトを続けていくうちに

大学に遅刻してばかりになりました

 

必修授業は主に午前中にあったので

私は遅刻常習犯で必修に居ないことが多い人

クラスの友達にはそう認識されてました

 

 

いつ英さんからお金の督促が来るのかと怯えながら

10月…11月…12月と過ぎていきましたが

 

英さんからは何も連絡がありませんでした

 

 

12月の中旬ごろでしょうか

大学の友達から

英さんが事故に遭って入院していると聞きました

 

バイクを走らせているときに爆発したらしいよ

 

え?あのヒビのせい?

私は青ざめました

私が倒したことが原因かもしれないと話しました

 

もし、それが原因だとしても

修理しないで乗っていた本人が悪いんだよ


倒れたときだって

横にいたのに支えてあげなかったのがダメなんだよ

 

友達は口々にそう言ってくれました


 

寝不足でヤツれて痩せてきた姿に

大学の勉強を疎かにしている私を心配して

皆がバイトもう止めなよと言ってくれました

 

 

店長にバイトを続けるのが無理そうなので

辞めさせてほしいと伝えました

 

店長からは年末年始は人が少ないので

その後にしてほしいと頼まれました

 

大晦日から元旦にかけての夜は

翌朝のシフトまで徹夜で仕事しました

 

店長と二人で見上げた朝日が眩しかったことを覚えています

 

 

3カ月の期間、必死に稼いだのに

全部で18万円…

1か月あたり6万円でした


30万円には届きませんでした

 

大学の勉強を疎かにしてまで働いても

こんな程度のものか…


自分の無力さを痛感しました

 

 

忘れたころに英さんは来るかもしれない

30万円は稼がなければならない

 

でも、もうこれ以上

大学生活を犠牲にしたくはありませんでした

 

 

大学生協で掲示されているバイト募集があるよ

同級生が教えてくれました

 

ベビーシッターと家庭教師をしました

弁当屋よりも時給が良かったです

 

知らないっていうのは良くありませんね

教えてくれた友達に感謝しました

 

 

無理しない範囲でバイトをして

少しずつお金を稼いで

ようやく30万円貯めました

 

英さんからは何も連絡は来ませんでした

 

PHSも携帯電話も持っていなかったので

こちらから連絡する手段もありませんでした

 

 

 

それっきり英さんと会うことはありませんでした