タロットカード


お嬢が東京へ戻った。

ふと気がつくと、本棚にあったタロットカードがない。

多分、彼女が黙って持って行ったのだろう。

フランス人の魔女友が、ニューヨークに旅行した時に、ギャラリーで売っていた猫の図柄の

タロットカードをおみやげに持ってきた。

タロットにしては、可愛らしいネコ物で、悪いカードを引いてしまっても悲壮感がなく気に入っていたのだが、残念、、、時は遅し、、、

錬金術師の必要アイテムの一つ、タロットカードがなくては話にならないと思い、新しい物を買おうと

思い、書店を探した。

これがまた、普通の本屋では売っていない。

Librairie de L’inconnu (誰も知らない書店)という不思議な名前の店を見つけた。





いわゆるスピリチュアル系の書物やグッズ、魔法のアイテムを売っている店で、宇宙のハイヤーマインド系の本や、チベット仏教セット、鐘やお香、占星術、悪魔の書や幽霊グッズなどと幅広く扱っている。

白魔術、黒魔術、分け隔てなく売っているところが、ビジネスで良い。





店員さんも普通の感じの女の人で、「タロットカードありますか?」ときくと「そこの壁の棚、全部が

そうよ」とおしえてくれた。





流石、タロットの伝統の国、フランス。

もともとタロットは古代エジプトや古代ユダヤであったという説があるが、1392年の「シャルル6世の

タロット」が記録上最古である、とされている。

とてもシンプルな物で、現在の占いに使用されているタロットとは、ほど遠いものらしい。


「マルセイユ版タロット」の誕生





現在、私達が手にする事が出来る最古の図柄は、「マルセイユ版」という1650年に巴里で発行された

「ジャン・ノブレ版」だという。

さらに1783年から1785年、最初の職業タロット占い師であるエッティラが、エジプト起源説をもとに

新解釈のタロットを作り出し、タロット占いに初めて「逆位置(リバース)」という解釈法を加えた。

さらに小アルカナの4スートに四大元素を当てはめるなど、タロットと占星術を具体的に結びつけ、

大アルカナから3枚を除いた19枚に7惑星や12星座との関連を与えたようだ。

どうやらこのあたりから、貴族達のただのお遊びカードから、ぐっと深掘りして、神秘主義や錬金術と

関連して行ったようだ。

「マルセイユ版」を手に取ってみた。

ちょっと試しにシャッフルしてみると、「血腥い」感触がした。

図柄も宗教色が濃すぎて、「私には合ってないかも」という気がした。


「ウェイト版タロット」の出現





タロット史の第二の革命は、19世紀に入り、アーサー・エドワード・ウェイトによる「ウェイト版」

によって起こった。

これまでのフランスのタロットの流れに激しく刺激され、イギリスでも魔術結社「黄金の夜明け団」

が生まれ、小アルカナにワンド、カップ、ソード、ペンタクルを加え、カバラの創世論にあるアツィルト

、ブリアー、イエツイラー、アッシャーの4つの世界をキング、クイーン、ナイト、ペイジに置き換え、

斬新な変化を与えた。

その上、単調な数符だった小アルカナ全てに、創作的な絵柄をつけ、これが多くのタロット愛好家の人気を獲得した。

かつてフランスで、タロットといえば「エッティラ版」と謳われたように、英米ではタロットといえば

「ウェイト版」と持て囃されるようになった。

「ウェイト版」を手に取ってみると、大きすぎず小さすぎず、掌にぴったりと馴染み、シャッフルして

みると軽い。

なにしろさっぱり感があり、清々しい感じがする。

図柄はクラシックで結構、怖いのだが、そこが不思議なところ。

ハリーポッターみたいな魔術系の図柄も気に入った。

「これにしよう」と何の迷いもなく、即決めた。


そして、この「誰も知らない書店」からの帰り道。

橋を渡って、右岸まで歩いた。

もうすぐ陽が沈む。

とうとう、うちのお嬢も、私の本棚から「不思議の国」へのポータルをみつけてしまったようだ。

ちょっと、、、複雑な心境にかられた。