井戸へ移動 なんちゃって
どうやらお菊には何につけても真剣さが足りないようです。それは本人も自覚していて、この期に及んで駄洒落かましてテヘペロしてる自分に軽くがっかりしました。
いくら新米の幽霊とはいえ、これでは若様やご隠居様を懲らしめるどころか笑われてしまいます。今の自分に成すべきことは、幽霊としての仕事をきっちりこなすこと、つまり人々を恐怖のドン底に落とすことなのです。でも、果たしてお菊にそんなことができるのでしょうか。
こういう時こそ先達に学ぶのです。
お菊は「リング」の貞子と「嵐が丘」のキャサリンを研究してプロ幽霊としての振る舞いを身につけることにしました。何しろ死んでますから何でもアリです。時代も時空も越えられるのです。念じれば youtube だって脳内で自動再生されるのです。
幽霊ですから。
無理です。怖すぎます。
お菊は恐怖におののきました。とてもあんな怖いオーラを出せる気がしません。けれどもやらねばならないのです。いつまでもこのままでは成仏もできません。
お菊は覚悟を決めて、井戸から姿を現しました。
終わりました。
なんとか形にはなっていたようです。若様もご隠居様も泣いて怖がっていましたから。二人は腰を抜かしながらもお菊に向かって手を合わせ、ひたすら謝ってきました。それでも殿様だけは怖がらず、お菊をまっすぐに見つめながらこう言ったのです。
「お菊、すまないことをした。父と息子の不始末は、わしの不始末じゃ。許せるものではないであろうが、許してもらいたい。お前のことは労災扱いにして、実家にも手厚いケアをするように家老に申しつけてある。立派な墓も用意した。どうか成仏してくれ」
お菊はまず腰元の立場で殿様にお礼を言いました。
「殿様、もったいないお言葉です。私は別に恨みを残しているのではありません。足りない皿(レコード)も見つかりましたからもういいのです。私のような者に過分なお気遣い、心から感謝申し上げます。ただ、最後に一つだけお願いがあるのです。その願いをお聞き届けいただければ、もう思い残すことはございません」
殿様がにっこり笑ってうなずく姿を見て、お菊は明るく張りのある声でその場にいる全員に向かって言いました。
「じゃあヒースクリフ、そして一緒に働いた皆さん!私を笑って見送ってちょうだい。最後にみんなで マツケンサンバⅡ を歌って踊って、それをお別れの挨拶にしたいの。そしたらさくっと成仏するから!」
殿様(ヒースクリフ)は目を細めながら大きくうなずいて、お菊の願いを叶える約束をしてくれました。そして…
思うさま生ききり、そして死にきったお菊は幸せな気分で成仏いたしました。
めでたしめでたし。
(完)
すみません、力不足で…