これまたずぅ~っと気になっていた駅を2日にわたって訪ねてみた。以前からこの駅を通過するたびに自分の目で確かめなければと思っていたのだ。
【気になる施設】
長谷寺駅には 1)大近鉄の大幹線である大阪線の上下本線間になんと手動のポイントがあるのだ!! そして 2)構内には興味深い謎の側線もある。
2回目の訪問時駅員氏と話す機会があり長谷寺駅に関する疑問をいろいろお尋ねしなるほど面白い事実を知ることが出来た。
長谷寺駅は参宮急行電鉄の駅として昭和4年に開業した駅で相対式ホーム2面で2線配置ながら上下線間の渡り線と側線を有する。そのそれぞれが手動式ポイントなのだ。特急が100K超で通過する上下本線間に手動式ポイントの渡り線があるのが信じられない!
【駅構内】
長谷寺駅ホーム。左(北側)が下り1番線・右(南側)が上り2番線。山の斜面にあり駅舎は下りホームの下方にある。従って改札口からホームへは線路の下を潜って階段を上る。
名張・名古屋・伊勢方。先に渡り線が見える。
大阪方。ホームは大阪方へ延長され有効長は6両。
大阪方へ進むと・・
33.3‰の下り急勾配がある。
この区間を特急は100K超で通過する。下り線から分岐する側線の向こう名張方へ進むといきなり急勾配が始まる。
名張方側線分岐ポイントの向こうに33.3‰の勾配標が!
長谷寺駅は山の斜面に造成された平地にありその前後が33.3‰の急勾配なのである。
【上下本線間の渡り線】
名張方にある渡り線用ポイント。確かに電気転轍機はない。
さらに詳細を見ると・・
上り線側には手動式転轍機と転轍機標識(定位を示す青地の円板に白線)が設けられている。転轍機そのものはあまり見かけない形状である。何やらスイッチボックスらしきものがあり転轍機にはハンドルが付いている。どうやらこのハンドルをグルグル回してポイントを切り替えるようだ。直ぐそばまで近付けないのでこれ以上詳細は不明。
そしてそこからロッドが伸び標識を回転させると共に・・
ロッドは上り線に沿って伸び直角に曲がって下り線ポイントに至る。下り線ポイントは標識のみで上り線側にある転轍機によりロッドを介して転換する仕組みである。
要は現場で手動による操作が行われるようだ。頻回に使用されるポイントなら電気転轍機が設置されるだろうから使用は非常の折り返し時などに限られているのだろう。しかしポイント部には塗油が施され維持管理されていることが分かる。
大近鉄の大幹線である大阪線の上下本線間に手動式ポイントがあるなど信じられない。しかも工事用モーターカーやトロッコに限った横取り装置式ポイントではなくちゃんと車両が通過出来るポイントなのだ。
でも一体いつ何を目的に使用するの??
駅員氏:「いざポイントを切り替える際には保線作業員を含む複数名の職員が転轍機のハンドルをグルグル回し同時に信号機を赤にするんです」
【側線】
渡り線の更に名張方には下り線から分岐する側線がある。
側線は怪しげな古くて短いホームを有し下り線ホームに沿って更に大阪方へ伸びている。下り線との合流側にはちゃんと2個のATS地上子が設けられ架線も張られてまだ活きている側線だ。
側線は下り線ホームから少し離れた状態で伸びており・・
側線は下り線ホームを共用していない。
終端部には・・
車止めの手前に「一旦停止」の標識が。
そして車止め直前にはATS地上子が設置されている。
架線といいATS地上子といいこれは列車の進入を前提とした側線だ。しかし何のため??
駅員氏:「これは電車が勾配を上れない時一旦側線に収容しその後渡り線を使って戻すんです。たまに訓練もします。確か十年以上前にやったような記憶があります。今ではそんなこと起こりませんけど(笑)。」
私は線路支障とかの非常時に使うのかな?とか昔長谷寺駅止まりの臨時列車を折り返すために使ったのかな?とか想像してたんだけど。実際長谷寺のぼたんが咲く時期運転される「ぼたん号」なる臨時列車は名張行きとして設定されるのだ。側線と渡り線は多分電車の性能がよろしくなかった昔の設定が今も残ってるのか・・。でも今でもイザと言う時のために訓練してるってのは驚き!!
しかしさすがに・・
レールの踏面は錆びているが・・何かが通った痕跡が・・??
枕木の一部はひどい状態・・。
ところで・・
側線架線柱の終端と6両編成の列車から推測するに側線の有効長は余裕を考慮すればおおよそ4両編成か? 無理すれば6両も収容可能な側線だ。
さて側線分岐ポイントはどうなってるのか?
側線分岐部には近付けないがどうやら標識を含む通常の手動転轍機のようだ。
帰路「青山町」行き急行の前面から側線分岐部を見る。ここもちゃんと塗油による管理が行われている。
長谷寺駅構内のポイント群は下図の通り;
【構内信号システム】
ところで側線や上下渡り線のある構内で信号機はどうなってる??
ホームの名張側と大阪側には上下線路それぞれに「場内」と書かれた信号機が設置されている。しかし「出発」信号機はない。
大阪方。出発信号機はなく通常の閉塞信号機がある。その向こうに下り線用場内信号機がある。
大阪方から見た下り線用場内信号機。側線や渡り線の使用時にはこの信号が「赤」になる。
【側線にあるホーム】
使用されなくなってから随分年月が経っているようだが真ん中が通路で分断されてる。このホームは何だろ??
駅員氏:「あれは昔のホームの跡です。今のホームは移動されたホームです。」
なるほど・・開業当初のホーム跡だったんだ。長谷寺止まりの臨時列車用ホームかと思った・・。
【付設臨時通路】
上下ホームには線路下を潜る通常の構内通路とは別に柵で囲まれ直接外へ通じる通路がある。
下り線ホームの名張方にある臨時通路の出入り口は閉鎖されている。
そしてこの通路は古いホームを分断し・・
下り線ホームから駅前へと続く臨時通路。
駅前に通じる出入り口も閉ざされている。
臨時通路は上り線側にもある・・
上り線ホームの臨時通路出入り口。
上り線側の臨時通路はそのまま細い市道へ出る。
この上下線ホームから直接構外に出る通路は何のため?? 団体客や多客時に使用するの?
駅員氏:「あれは車椅子のお客さんのためです。ホームでは階段があり車椅子では通れませんので。」
なるほど・・そうだったのかあ。よく観察すると・・
それぞれに係員呼び出し用のインターホンが設置されてる。
【線路下トンネル通路】
駅裏に口を開けた歩行者用の南北連絡通路の階段を下りると・・
駅員氏:「構内通路は近鉄の管理・・南北連絡通路は市の管理です。」
駅構内通路と一般南北連絡通路が柵を隔てて線路下で同じトンネルになっているのが面白い。
車椅子通路概図。上り線ホームから出た車椅子は市道をぐるりと回って駅前に至ることになる。
【駅舎】
駅舎はホームより一段下にある。
一部二階建ての駅舎。
改札口。駅員常駐の駅である。
改札口を入り右が上り大阪方面2番線ホーム・左が下り名古屋・伊勢方面1番線ホームへ。正面石積みの上が側線部分である。
南北一般連絡通路と上りホームへ向かう構内通路が柵を介して線路を潜る同じ通路となる。
上りホームに向かう構内通路でホームへの階段は画面左(名張方)へ一方向のみ。
改札を入って左側へ進むと下りホームへ。
下り線ホーム階段は二方向に開口する。上屋は年季の入った鉄骨組。
【駅前】
何やら商店があったようながら閉鎖! 駅前には一般駐車場はない・・まあ一時的には駐車出来るかな。
正面に長谷寺へ向かう小道がある。
右側を下ると国道165号線へ。
左側を下っても国道165号線へ。この先には細いながら線路を潜り駅裏へ通ずる小道がある。
駅前(画面奥)から少し下るとかろうじて車が通れる線路を潜るトンネルがあり・・
反対側のいわゆる駅裏へ通ずる。
上り線路に沿って坂を上ると・・
上り線ホームにある臨時通路がここに通じているのだ。
駅員氏:「こっち側では車椅子の方は階段のある南北連絡通路を通れませんので延々とこの道を通って駅前に行っていただきます。」
なるほど非常時の車両留置・入れ替えや車椅子の方の誘導などで駅員の常駐が必要なのだ。
【長谷寺】
長谷寺駅まで行きながら長谷寺には行かず・・
こちら側から谷を下りると国道165号線があり再び向こう側を上ると長谷寺。
長谷寺駅が山の斜面にありお寺へ行くには駅から急な坂で谷へ下り更に向こう側では坂を上り・・さすがに行きはよいよい帰りはかなわん!ってやつだ。撮影しながら駅の周りを歩くだけでもたいがい坂を上ったり下ったりで・・。
訪問1日目あちこち写真を撮りつつ何で?何のために?という疑問が次々と! 帰宅後写真の処理をしつつブログに記録し始めたもののやはり納得が行かず日を空けて2回目の訪問となった次第。駅務室には駅員さんがおられるけれど詰まらん鉄道趣味人の相手をしてもらうには気が引けたのだ。しかし2回目訪問時ちょうど構内の落ち葉掃きをされていた50代前半くらいの駅員氏を見かけたので挨拶がてら「この駅なかなか面白いので写真を撮りに来ました」と伝えると駅員氏は「ああそれはありがとうございます」とさすがにベテラン! そこで疑問に思ってたことをいろいろお尋ねした次第なのだ。若いお兄ちゃん駅員だったら知らないだろうけどさすがベテランでした。
多数の特急が高速で走行する幹線にいかに厳重に鎖錠されているとは言え本線に直結する手動ポイントがあるとは!! いやぁ実に面白い興味ある駅だ!