先月、NHKで、坂本龍一さんの癌再発から最期の時までを遺族から提供された資料を加えて記録した番組『Last Days 坂本龍一 最期の日々』が放送されました。
「俺の人生、終わった」「音楽だけが正気を保つ唯一の方法かもしれない」
穏やかな表情の裏にある苦悩を書き綴った日記の公開。
同じく闘病生活を送っていた盟友に会いに行くも、一足違いで入院してしまっていて会えずに残した言葉《高橋幸宏さま 生き直そう》。
日を跨いで収録された渾身のピアノ演奏。
最後まで譜面を見つめ続けた坂本さんが行き着いたのは、自然に聞こえてくる''音''でした。
亡くなる前、酸素マスクを付けながらスマホ越しに自分が手掛けた東北の子供たちのオーケストラの演奏に耳を傾け指揮をするかのように右腕をゆっくりと振る坂本さん。
意識が無くなり、事切れる一時間前にも右手はピアノの鍵盤を弾く仕草を見せていた……
その映像で番組は終わりました。
「禁区」など4曲を提供している細野晴臣さん、明菜も何度か出演した情報番組『AXEL』でMCをしていた高橋幸宏さん、元々は明菜への提供曲として制作された「過激な淑女」、Y.M.O.とは縁がある明菜ですが、坂本龍一さんとの接点と言えば、1993年5月21日に発売された両A面シングル「Everlasting Love」/「NOT CRAZY TO ME」です。
MCAビクター移籍後初、2年ぶりに発売されたこのシングルは、作詞:大貫妙子,NOKKO、作:編曲:プロデュース/坂本龍一 と豪華な布陣で制作されヒットが期待できましたが、オリコン10位/13万枚と前作までよりかなり数字を落とす結果となりました。
正直、シングルにするにはインパクトに欠けるなぁ、アルバムの中の一曲なら収まりが良かったかもという印象だったし、今も、「愛撫」の方をシングルにしていれば90年代以降歌っていなかったかのようなことを言う人もいなかったのでは?という気持ちがあります。
明菜も発売当時披露して以降はセットリストに入れていないし、ジャケットやキャッチコピーもイマイチとの声が多くてファンに人気の曲とは言えないです。
でも、番組を観て思うことがありました。
N.Y.マンハッタンのレコーディングスタジオ4時a.m.。「OK!」坂本龍一の声が飛ぶ。「お疲れ様でした!」明菜がすかさず声をかける……。「最初、私が坂本さんにお願いしたのは''カッコよくおしゃれにしてください''ってことだったの。たとえばカラオケで聞いたときに、''あ、カッコいいじゃない''っていわれるようなね。ただ単にヒットするとかしないとかってことじゃなくて、私が好きな、自分で聴きたいと思うような曲にしてほしかったから。で、初めてこの曲を聴いたとき、''ワァー、いいー''って思ったの。でも今回、スローなほうの曲は、今までに歌った中でも一番むずかしい」(JUNON1993年6月号)
レコーディングスタジオにあまり人をを入れることを好まず、詞、曲提供者でも直接会ったことがないという人が多いのに、N.Y.在住同志ということもあってか緊張の中でもリラックスした雰囲気で坂本さんとレコーディングに臨む明菜。
命尽きるまでひたすら音楽と向き合った''教授''との時間は、明菜にとって財産となったはずだと。
坂本龍一さんの訃報を告げる声明文には、坂本さんが好きだった言葉として古代ギリシアの医学者ヒポクラテスの「箴言」の一節が記されました。
“Ars longa, vita brevis.” (芸術は長く、人生は短し)
芸術に人生を捧げた人が辿り着く境地なのでしょう。