あれはまぶしい太陽に目を細めるような、
暑い暑い夏の日のことだった。


高校生になった私は、甲子園地方予選最終戦に来ていた。

我が校始まって以来の、甲子園全国大会を目の前にして、
観客席で生徒全員がメガホンを持ち、祈るように応援していた。

1年生ながらスタメンで活躍する
サード・2番バッターの渋谷くんは、
お調子者でムードメーカー。

同じクラスで隣の席になって1ヶ月。
いつもふざけてる彼だけど、本当はすごくまじめで
努力家だということを私は知っている。



4回裏 上野先輩の2ベースヒットで逆転。

歓喜する気持ちとともに、私は複雑な気持ちになった。





相手チームのレフトを守る1番バッター目黒くん。
彼は中学の同級生。

そして彼が私の長かった初恋…の相手。

3塁側のアルプススタンドで応援していた私の
目の前に目黒くんがいる。

遠くから見ても、卒業したときより一回り・・・二回りくらい
大きく大人になっていた彼。

増していく鼓動の早さを、隣の子に気付かれないか心配だった。



私たちが中学3年生のとき…
今日みたいな茹だるような暑さの中、
自主練を終えて教室に戻ってきた彼。

進路に迷う私に

『同じ高校に行こう』

と耳まで真っ赤にして言ってくれたのに、
私は茶化してしまった。

正直になれなかったんだ。
まだまだ若かったんだ。


寡黙な彼は苦笑して教室を出て行ってしまったけど、
本当は涙が出る程嬉しかったんだ。


8回表 相手チームのホームランでまさかの逆転。


我が校のアルプススタンドは、意気消沈。
それを表すかのように、重く厚い雲が広がり
空を灰色にしていった。

やがて大粒の雨がスタンドに叩きつけ、スコールを降らせた。

アルプススタンドでは、吹奏楽部員が楽器を雨から守り、
8回裏1アウトで試合も一時中断。


私は雨宿りのためスタジアムの中へ入り、
ジュースを買いに自販機へ向かって歩いた。


目の前には渋谷くん。

いつものような笑い話と他愛ない会話。

会話が途切れたその時

『もし、次の・・・次の打席でホームランを打ったら付き合ってもらえませんか。』


《ガチャン・・・》


あっ・・・目黒くんだ。

かぶっていた帽子を目深にかぶり直し
彼は何も言わずに私たちの横を過ぎ去っていった。


どんよりとした雨雲は嘘みたいに晴れ渡り、
試合が再開されたのはそれから20分後のことだった。


8回裏2アウト。
3塁に走者を置き迎えたバッターは渋谷くん。

4対3の1点差



カキーンと乾いたバッド音とともに、大きく弧を描いたボールは
2度、3塁側のポールギリギリのベンチスタンドに入りファウルとなった。


2アウト 2ストライク 3ボール。

泣き出す女子生徒。

枯らした喉で、叫び続ける応援団。

ピッチャーが振りかぶった最後のボールは、バッドの芯に当たり
心地よく 高く 高く 空へ舞った。

歓喜の声が上がる中、守備位置からボールの軌道も見ずに
スタンドへ駆け込む目黒くん。


入るか・・・・


《パシッ》


空には大きな虹が架かっていた
★29歳独身負け犬女の日記★-2009080917460000.jpg


なーんて思い出が、

「あったらいいのになー」
って思う、29歳の秋。


あっ。アタシ、そもそも女子校出身だったわ。