田代さんて、ミステリー畑の人かと思ってましたけれど、戦記モノもこれがなかなか、面白かった。
大国の皇太子にして、軍の総司令官だった青年が権力争いに敗れて国から逃げる、というのは決して珍しくないシチュエーションだけれど、流れる先がその大国に滅ぼされかかってる小国というのはともかく、完全に文明圏が違う蛮族の生息圏に流れる、というのは結構見ないかも。
国力の差こそあれ、だいたい同じ文明圏ですもんね。ところが、このウィルフレドが落ち延びるのは、侵略者として彼が総指揮していた、海を隔てた新大陸の、部族単位で戦力をなしている獣人たちの郷。国家も軍もないどころか、ちゃんと組織だった統治システムすら構築されてない文明圏なんですよね。
いわば、アメリカ大陸のネイティブアメリカンの集落に逃げるとか、中華圏から遊牧民族の匈奴とかに逃げ込むようなものか。本邦で言うなら、坂上田村麻呂が一度破って捕らえた蝦夷のアテルイと一緒に逃げ出して、蝦夷と協力して逆に蝦夷征伐軍を破っちゃうような話だよなあ、これ。
国に居られなくなったとしても、そこに逃げるか、という選択肢なんですよね。それを、わりと平々と屈託なくやれてしまうあたり、このウィルフレドという皇子、ちょっとおかしい。
どうも価値基準がややズレてる気がするんですよね。あまり、復権に関して関心がない気すらする。力を取り戻して、自分を追い出した奸臣たちを排して、帝国の皇太子として舞い戻るつもりにしては、行動がおかしいんですよね。なにしろ、彼が蛮族たちと協力して徹底的に打ち破ることになる軍団は元々彼が率いていた一団であり、皇子を崇拝し慕う兵士や将校もたくさんいる、ウィルフレド派……身内と言ってもいい軍団なわけですよ。復権を考えるならば、まず最初に取り込まなければならない一勢ですらあるのに。
彼の中の優先順位と、その特性については彼自身の口から語られてしまっているので、齟齬はないのですけれど……これは面白い奇妙さだなあ。
彼が自覚している通り、ウィルフレドって状況に対して対処、或いは準備しておくことに関しては凄まじいの一言なんだけれど、その状況そのものを動かす、或いは作り出すことに関しては全く手を出さないのである。
つまり、事が起こってから、或いは起こることを見越して動くだけれで、対処行動予備行動に限定されちゃってるんですよね。マクロで見ると、徹底して状況に流され続けている、とすら言えるわけだ。これだと、まず政局や戦局のイニシアチブは取れないわけで、常に後手に回り続けないといけないわけで、これは相当に苦しい縛りですよ。本人、なんかそれを楽しんでいる素振りすらあるのが、危なっかしいというか若干壊れてる印象を伴う理由なんだろうなあ。
とはいえ、このままだと蛮族側で発言権を手に入れても、ろくに動けないので彼自身意識改革をしていかざるを得ないんだろうけれど……。何しろ、彼の優先順位的には獣姫ククルが一番になっちゃってるからなあ。帝国に戻ること云々がどうでもいいとなると、ククルが望む方向にどうしたって行くことになるので、むしろこれ、脳筋っぽいククルが先行きに関するヴィジョンを提示しないといけなくなるんじゃないだろうか。つまるところ、獣姫が黒狐を使えるようにならないと、話にならないわけで……こりゃ、ククルが大変だ、大変だ。
えらいもん、拾ってきてしまったんじゃなかろうか、彼女w
既に彼を受け入れた族長が、色々と面倒押し付けられてえらいことになってるし。あの皇子のへらへらした笑顔、救いの神というより疫病神みたいなもんじゃないんだろうか、これw
帝国に残されたウィルフレド派の人たちも大変だし、国を追われた皇子よりもむしろ周りの方が苦労しそうな話だなあ、でも面白い。
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自分の信念に殉じる、という人を描くのはなかなか難しいと思うのだ。下手をすると意固地のただの頑固者になってしまうし、度が過ぎれば狂信者じみたキャラクターになってしまう。周りを見ずに暴走する困ったちゃんにもなれば、人の話を聞かずに結論にしがみつく迷惑な人にもなるだろう。
譲れないものを抱え込む、というのは対立軸を作りだしてしまうものだから、どうしたって争いは起こってしまうものなのだ。
その意味では、彼女……この物語の主人公であるミカヤのそれは、泥と苦渋に塗れてなお譲れない、譲らないと見定めた、決意の信念なのである。自らの大切なものを折り、背を向けて、罪を犯してなおそれでも貫くと決断した信念なのである。
考えなしに武器として振り回す武器としての棒きれではなく、自らを飾って見せるための装いでもない、こう生きるのだと決めた、生き様なのだ。
だからこそ、カッコいい。だからこそ、惚れ惚れとする。
逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せた暗殺者アイスフェルドが、どうしてこの裁判に付き合い続けたのか。彼女を見ていたかったからだ。彼女の生き様を、見届けたかったからだ。彼女が信念を貫く様が、見ていて心躍るものだったからだ。輝く魂ほど、見ていて心浮き立つものはない。
だからこそ、彼は容疑者であり被弁護人という立場でありながら、常に真実を語り、自分に不利となる証言も厭わず、からかい混じりにだが公平に発言し続ける。
さあ、真実を明らかにしてみせろ、と自らの弁護人を挑発しながらだ。
その挑発に、或いは挑戦に、彼女は真っ向から挑むのだ。実に、良い主人公である。
そして面白いことに、この物語は真犯人とミカヤの対決ではなく、おおよそ弁護士であるミカヤと容疑者であるアイスフェルドとの対決であった、と言えるのかもしれない。
肝心の裁判パートだけれど、ファンタジー世界という要素を加味しつつ、これがまたかなりしっかり出来てるんですよね。この手の裁判モノはライトノベルでもいくつか出てますけれど、その中でも質実剛健に出来上がっている部類なんじゃないでしょうか。検事サイドとの駆け引きや証拠・証人集め。真実を求めて、危険も顧みず家中へと踏み込んでいく果敢な行動。そして、虫食い状態の証拠を繋いで、真実を見出していく推理パート、と丁寧に積み上げてってるんですよね。
ファンタジー要素についても、荒唐無稽ではなく、きちんと説明して論理だてて証拠の中に組み込んでいますし。偶然、事件の折に真犯人に辿り着く証拠となり得る出来事が起こっていた、なんて展開はまあミステリーでは珍しくもないので、これは突っ込むほどのことでもないでしょう。
瑕疵を感じたところがあるとすれば、けっこう無造作に人が死にすぎてるんじゃないかなあ、というところですか。たった一人の殺人事件の裁判にも関わらず、ちょっと無造作な余計な死人が多すぎたような。危険度高すぎですよー、これ。
これ一巻で完結していて、なかなか続きを出すのは難しそうな展開でしたが……いや、無理やりアイスフェルドを絡めなければ、普通に別の事件での裁判にすればいいから、続けようと思えば全然続けられるのか。
誰かに寄りかからないとダメなヒロインではなく、決然と自分で立って戦える女性が主人公ということで、なかなか見応えのある裁判ものでした。善哉。
このジャケットデザインは好きだなあ。ピトスの初登場時は、治癒術師でサポート役という役回りもあり、自己主張も少なく穏やかに笑ってるような大人しめのキャラクターに見えたのが、バリバリの武闘派だったのがよく分かる勇ましいイラストじゃないですか。
未だメンバーの大半が登場していないアスタの元仲間たちである【七星旅団】のメンバーも世間的にも知られている事は少なく謎多き存在なのですけれど、学園組に当たるピトスたちも何気に大概謎なんですよね。ピトスからして、学園生としては埒外なほどの戦闘経験の持ち主で明らかに修羅場慣れしているという。シャルに関しては、むしろ当人のほうが自分の出自についてわかっていないのですが。魔法使いアーサー=クリスファウストの娘、を自称しながらその詳細を全く知らない、という。
ともあれ学園第二学年四傑のレヴィ、ピトス、シャル、ウェリウスの四人は、こうしてみるとアスタと同世代というだけあって、物語の主役格でありヒロインなんですよね。むしろ、七星旅団のメンバーはRPGで言うところの前作の主人公たち、みたいな役回りなのかもしれない。まあ、メロは年少組ということもあってバリバリに絡んで来てますけれど。彼女もまた成長枠だしなあ。あとは、フェオもこれ今後も深く関わってくるので……主要メンバーこうしてみると多いなあ。最後に現れた彼女もそうですしねえ。逆に、最初まるでメインヒロインのように登場したレヴィが一番出番少ない、という。ウェリウスなんて、最初のダンジョンで痛い目見てフェイドアウトするいけ好かない増長した貴族キャラ、と見せかけて、レヴィなんかよりもよっぽど出番ありますもんねえ。
さて、ウェブ版を先に読んでいるとピトスの事情や過去についてはだいたい明らかになっているので、この時のアスタとのやり取りを見ていると色々と気づくこともあって、面白い。彼女の正体を知ったあとだと、会話の内容や反応でけっこう「おっ!?」と思う部分があるんですよね。こういう所なんぞは、再読の楽しみである。
優しげに見えて、情の深いというか怖い女性だからなあ、ピトスって。こういう穏やかな言動を装いつつ、急所をグリグリと捻ってくる押しの強いキャラは好みなのでいいんですけれど。それに、アスタっていつ如何なる時も血を吐いて怪我しまくる主人公なんで、どう考えても治癒術使う人が傍に居ないとすぐ使い物にならなくなるんですよねえ。となると、ピトスがメインヒロイン枠というのもある意味当然なのか。前日譚においても、主にコンビ組んでたの、治癒術師の娘でしたし。
相変わらず、訳がわからないけどすげえ! という描写は面白い。メロにしても、アスタにしても、先生にしても、それぞれ訳の分からなさの質、タイプがそれぞれ違うのも楽しさの理由なんですよね。通り一遍の強い描写だと飽きがくる。でも、手を変え品を変えの訳の分からなさ、というのはワクワクさせてくれるものです。
それに、七星旅団メンバーのような天井突き抜けた理解の埒外みたいなのだけではなく、例えばピトスのサポート役と見せかけて、フェオの前衛シャルの後衛というバランス取れたコンビ相手に、その肉体一つでぶん殴り蹴っ飛ばしねじ伏せるという肉体言語バリバリな戦闘スタイルで圧倒する、という意外性もまた、シャルやフェオからすると「なにこれ分けわかんないんだけど!?」という意味不明さなんですよね。
いろんな場面、様々なスケールで「想像を超える」シチュエーションが用意されている。こういうのって、楽しめるなら実に面白いんですよね。そして、こういうケースは能力面のみならず、感情的なもの人間関係のぶつかり合いとしても、時としてそれぞれのキャラが抱いている「予想」を越えるシチュエーションも入ってくるわけですよ。そうなると、恋愛パートでも友情パートでも、実に楽しいことになってくる。
波長が合ってるんでしょうね、この作品だから凄い好きなんだよなあ。
なあ、ちょっと七曜教団絡みの展開には、その分じれったさを感じてしまうところですけれど。他が基本、痛快感を感じさせるところが多いだけに、余計にこっちのターンがほとんどない教団相手の展開は焦らされるんでしょうけれど。
自分たちの国を作る、という夢は夢として、ファルたちが一番楽しいのはやっぱり三人で冒険の旅をする、というところなんだろうなあ、とリュシュール姫からの依頼に応えてエルドーム王国に向かうことになってからのファルとルシードのウキウキっぷりを見るとそう思うわけで。
現状、とても国としての体裁を整えられてるとは言えないのだけれど、パルミラ王国からファルを慕って部隊が抜けてきてるのかー。三人だけの旅じゃなく、ちゃんと兵隊を引き連れての旅になってるあたり、メインの三人が何だかんだと全員王族であるのが出てて面白い。一冒険者の出世譚や成り上がり物語じゃなくて一応最初から王族だった人達による建国譚なんですよねえ。
そもそも、パルミラのファルと、カーヴェル王国のルシードとコンスタンスが共同統治してるように彼女たちの国は最初から違う国の者同士が寄り集まって新しい国を作る、というカタチになっているのだけれど、今回エルドーム王国での冒険で、ファルが連れてきたパルミラ兵とリュシュール姫の護衛として連れてきたエルドーム兵が一緒に戦うことで戦友としての共感を抱くようになっているのを見ると、今後はパルミラとカーヴェルだけじゃなく、それ以外の国々からも人が流入してきて、というカタチになるんだろうか。どちらにしろ、今のままだと国どころか都市とも言えない辺境の村に過ぎないので、いずれにしても入植者は募らないといけないことになるんだろうけれど。
となると、今回のエルドームとの誼を通じた件も大事なんですよね。言及はされてませんけれど、リュシュールの第五王女、という立場は身内からは愛されているのはともかくとして、政略結婚の駒として利用されるのが当然の立ち位置ですからね。こっちに送られてくる可能性高そうだなあ。
ただ、そういう婚姻外交が絡んでくると、やっぱりファルとルシードとコンスタンスが上下の差がない共同統治者、という点が面倒になってくるんですよねえ。建前的にも本音的にも、くっついちゃって問題はなさそうなんだけれど……。
ファルも全然まんざらじゃなさそうなんだがなあ。リュシュールからの依頼を受けるかどうかを、彼女がルシードたちの意見を聞いてから受けるかどうか決めたのだって、立場を考えてとか気を遣ってとかじゃなくて、極々自然に勝手してルシードやコンスタンスに嫌がられたくない、という気持ちからみたいでしたし。
まあ、ルシードたちからすると、ファルが受けるのはまず当然として、それをどう処理するか、に最初から頭が行っていたみたいなので、ファルの心配しすぎだったのですが。
でも、姉兄二人がくっついちゃうと、コンスタンスが浮いちゃうのか。この世界の倫理観的に腹違いの妹までならOKなら別にいいんだけれど。コンスタンス的には兄にべったりですしねえ。
今回の冒険で、単に兄にくっついていくだけじゃなく、ちゃんと自分の力で立った上で兄にくっついていく自信は得たみたいですけれど。
しかし、ファルの姉姫様は一応クーデター政府に対して正当派を主張する勢力を束ねて引っ張ってるのかー。聖剣問題からして、正当パルミラを名乗るからには本物の聖剣を手に入れたとするファルに対しては偽物だと非難する他ないので、これは簡単に合流とはいかないかも。一応、姉姫さま当人は沈黙を守ることでファルを守ってるみたいだけれど。
あー、そうなるとイフリートの祭壇の奥で新たに見つかった朽ちた聖剣が、色々と重要になってくるのか。もしかしたら、聖剣は一本じゃなかったかもしれなくなるわけだし。
これは異世界違う! 異界や!!
いやまじで、異世界観が他と違いすぎる。それよりも、綾里けいし作品で度々邂逅することになる「異界」と呼んだ方がよっぽどしっくりとくる世界であるこれ。
なにより、作中における内臓率が高すぎる。腸率が高すぎる。残虐劇(グランギニョル)たる作品は決して珍しくはないけれど、それはどちらかというと鮮血の血塗れ的なそれで、そう血の赤なのである。液体としての赤なのである。鮮烈な赤なのである。
それに対して、本作ときたら敷き詰められるように内臓の赤。壁に手を付けばブニョブニョと腸のような感触で、天井からは腐肉がポタポタと肉汁を垂らしてきそうな、そんな四方が人間を解体して引きずりだした中身で組み立てられたような世界なのである。
だから言う。これは異世界違う! 異界や!!
そんな気が狂いそうな世界に、呼びだされた少年瀬名櫂人。彼が死んだ理由はトラックに轢かれたなんて優しいものではなく、肉親である父親に虐待され、踏み躙られ、人として扱われずゴミとして甚振り尽くされたあとに、無造作に放り捨てるようにして踏み潰される、というその生に喜びもなく尊厳もなく誇りもなく、何もないまま殺された無残極まる死であった。故にこそ、何もなかったからこそ彼は罪なき無垢な魂として呼び出され、人形の体に取り憑かされる。
死んだあとに呼び出された世界が、こんなおぞましくグロテスクで死臭しかしない世界だなんて、普通に地獄におちたと勘違いしても不思議ではないだろう。
ところが、そこで彼を呼び出した自らを拷問姫、誇り高き狼にして卑しき雌豚であると名乗る少女に、彼は魅了されていく。その生き様、その死に様に惹かれていった、と言っていいのかもしれない。
自らの領地の領民たちを拷問によってすべて責め殺し、根絶やしにしたという人類最悪の乙女。世界に潜む十四の悪魔をことごとく殺戮した末に、自らも火刑に処せられて死ぬことを高らかに謳う少女。
たった一人で死ぬことを、心から望む姫。
そんな彼女の戦いと、その果てに待つだろう孤独な死を、最後まで見届けようと思い定めた少年の心はいったいどんなものなんだろう。虐げられ続けた側である少年が、一時駆られた魂を燃焼させるような復讐心を休めてなお、彼女を最後まで見届けようと思った心の置き所はどこなのだろう。
ヒナ、という全肯定者に救われた部分もあるのだろう。凄惨すぎるこの異世界での経験が、かつての前世の恐怖を結果として拭い去ってくれた、どれほどつまらない事だったのかに気付かされたというのもあるのだろう。
それでも、この無垢で歪んだ櫂人という子の魂を捉えて離さなくなったのは、拷問姫その人なのだ。
彼女は微塵も救われることを望んでいない。そして、今のところ彼もまた彼女を救おうとは思っていない。ただ、見届けるのみだ。
彼女の生き様は、贖罪のそれなのか。それとも犠牲を糧にした救済なのか。いずれにしても、人は拷問によって与えられる苦痛の凄まじさを知らないと同時に、欠片も望まぬ拷問を、何の罪もないと知っている無辜の民に掛けて責殺す側の苦しみも知らない。
この物語に、通り一遍のハッピーエンドは訪れないかもしれない。拷問姫は、彼女の望むとおりに救われないまま焼き殺されるのだろう。それでも、孤独に、哀れに死ぬことだけは、ないと信じたい。それぐらいは、願いたい。