映画、オッペンハイマーを観てきた。

さすが、オスカーを数部門獲得した作品だと感嘆した。プロットが見事である。

映画としては、文句のつけようのない作品である。

音楽、映像、俳優の扱い方、何もかもが凝っている。

実は、私は、もっと恐ろしい作品だと覚悟して、

レイトショーであるということも考慮し、

観て良いものか、迷いながらも、出かけた。

確かに、素晴らしい作品である。そして、憂慮した程物凄い衝撃はなかった。

日本人の直接の被曝被害の描写はない。不思議であるが、その点に救われたと言っても良い。

これは劇場で観るべき作品である。

まず、音響、映像の素晴らしさに圧倒される。

原爆が爆発するシーンは確かに辛い。迫力ある音響と映像シーンである。

直接の被曝の描写はなくとも、音声と閃光だけで、充分大量破壊兵器である核の恐ろしさは体感できる。

しかし、数十年にわたり原爆症で苦しんできたヒロシマ、ナガサキの人々

を攻撃した通常兵器とは違う、そうした核兵器への特質にはほとんど触れない。

残忍な部分は全くない。綺麗なのだ。

さすが巨大帝国USAと言わざるを得ない。

軍事基地であるヒロシマ、ナガサキを攻撃した理由も、明確にされていない点が、残念なところではある。

また、京都は外そう、なぜなら文化遺産も多いし、私が、新婚旅行に行ったところでもあるからとの、

ジェイムズ・レマー演じるスティムソンの発言も、聞いていて不可解ではある。というより、不快である。

この映画に相応しくない単純さだ。

(この発言は、後に彼のアドリブだったとわかるのだが、スティムソンが京都を外させた事実は確かに存在する)

確かに、オッペンハイマーの苦悩を描いた作品ではある。天才は苦悩するものだ。

当時のUSAの天才科学者達が、皆集結し、試行錯誤しながら原爆を作り上げていく工程は面白い。

日本人として、知っていておいた方が良いかもしれない。

事前の原爆実験のテストシーンも、凄いの一言である。

名優、キリアン・マーフィーの真骨頂と言っても良いだろう、迫力満点である。

充分楽しませていただいた。

この辺りが、第二次世界大戦をテーマを扱いながらの、ノーラン監督の凄さである。

共産主義と赤狩りの時代、スパイを送り込むロシア。

脇を固めるロバート・ダウニー Jr.、マット・デイモンらの名演にも圧倒される。

そしてマシンガンの様な台詞の多さ、眼に焼き付けられる斬新なカットの割り振り、

大勢の出入りによる一気に魅せるスピード感、終始ストレスの多い3時間であるが飽きさせない。

惹きつけられる。

これは、核肯定映画ではない。ノーラン監督なりの、反核映画である。

最後まで観ていて、終了後も、立ち上がる観客が一人もいなかった事に驚いた。

劇場の電気がついても、立ち上がらない。

それぞれに、皆想いは複雑であろう。

私には、物理学博士の弟がいる。

その弟と一緒に観に行った。

彼はどう感じたのか、後日聞いてみたいところではある。

3時間と長いが、モノの見事に引き込まれていくオッペンハイマー。

もう一度、と、数回、観に行き、多いに論じたいところだ。

できれば、史実をある程度、予習して行かれることをお勧めする。

登場人物も多ければ、セリフも多い。

この作品、賛否両論あるものの、被爆国民である日本人として、論ずる前に、まずは、

ぜひ、観ておきたい映画である。