吉例顔見世興行 昼の部(南座) 
 
幕開きは『双蝶々曲輪日記』角力場から。
鴈治郎の濡髪長五郎は、体格を心配もしたが流石の貫禄。芸で見せて大力士らしさが立ち居振る舞いから沸き立った。
 
隼人の放駒長吉は気合い充分で、上方言葉も口跡良く難なくこなした。出の印象だけがやや薄いように感じたが、役を重ねることで深まるであろう。鴈治郎に合わせて、背をかなり盗んで鮮やかに見得を切る等、不自然さを感じさせなかった。
 
つっころばしと呼ばれる与五郎役は染五郎。なよなよとした若旦那を物腰柔らかに演じ、父、幸四郎を思わせた。特に「何じゃい。」とふてくされる台詞回しが良い。
 
壱太郎の吾妻は、舞台に居る時間は短いものの、妖艶さが際立っていた。壱太郎以外は皆初役という新鮮な舞台に仕上がっていた。
 
 『外郎売』は八代目市川新之助の初舞台の演目。花道で名前を問われ、自分の芸名を名乗るのがお決まりだが、彼は、「わたくしの名は…」と暫し思案し、曽我五郎時致と名乗れない現状をきっちりと理解した上で演じており、もはや子役ではないと驚いた。
 
劇中口上で、工藤左衛門祐経役の梅玉が新之助を紹介。続く新之助は、一生懸命に勤めるときっぱりとした挨拶。間の良さは彼の天性の素質なのかもしれないが、見せ所の早口言葉の言い立ても全く危な気なく、心地よく聴くことができた。
 
雀右衛門、家橘、市蔵、男女蔵、九團次、扇雀、孝太郎、児太郎、莟玉(順不同)らが、初舞台の新之助の背中を終始温かく見守った。
 
『男伊達花廓』(おとこだてはなのよしわら)は、市川ぼたんの禿たよりの踊りから始まる長唄。杵屋勝松作曲で振付は藤間勘十郎。随所に長唄『羽根の禿』の歌詞が散りばめられていた。
 
ぼたんは、おすべり等で中腰の姿勢になる時、腰をかなり深く落としており、綺麗な形を作っていた。重いかつらを掛けているにも関わらず、後ろ向きになった時に反る姿も美しい。日々の稽古の成せる技だとは思うものの、なかなか小学生の小さな体でこなせるものではない。
 
十三代目市川團十郎白猿は、花道の出から華があり、まさしく御所五郎蔵そのもので、美しい立ち姿に客席からはどよめきに近い溜息が漏れた。
 
立師は市川新十郎。若い者八人が傘を使って成田屋の三升紋をかたどったりと、洒落た工夫が施されていた。廣松の三好枡兵衛、歌昇の荒波磯蔵。 
 
『景清』は昼の部最後の演目。雀右衛門の傾城阿古屋の花道の出は艶やかで、その雰囲気を本舞台に入ってからもまとっており色あせしないのが良い。
 
右團次の岩永左衛門宗連が滑舌の良い台詞回しと気持ちの入った演技で、かつて三代目猿之助一座に在籍し、主役を演じていた頃を思い出した。彼の持ち味が発揮される好配役だった。
 
九團次、廣松、玉太郎、男寅も気迫のある演技で脇を固めた。
 
團十郎の悪七兵衛景清と梅玉の秩父庄司重忠とのやり取りも分かりやすく、テンポも良かった。
 
今回は津軽三味線と和太鼓が花を添え、大道具も目に映え、襲名披露興行らしい華やかな一幕となった。