2020年 公開
とてもいい映画でした。
昨今のBLとは一味違い、単純にひと括りに
してしまうには幻想的で琴線に触れる映画
だと思います。

ーあらすじ概要ー
サラリーマンの大伴恭一は、流されやすく
断れない性格から浮気をくりかえしていた。
妻の知佳子は夫の浮気調査を依頼。
依頼を受けたのは興信所で働く大学の後輩
今ヶ瀬渉だった。
今ヶ瀬は浮気をしていたことを知佳子に
報告しない変わりに自分と関係を持って
欲しいと脅迫。男となんて付き合えないと
跳ね返すが断れない大伴は今ヶ瀬との
関係を持つ。
しかし、知佳子は夫との関係に限界を
感じ、離婚の理由としての浮気調査であった
事から大伴は離婚。
離婚し、独り暮らしになった大伴の元に
今ヶ瀬は通うようになり、断れない大伴は
ズルズルと関係を続けてしまう。
そんな中、大伴は大学の同級生の夏生と
再会。夏生は今ヶ瀬と大伴の関係を知り
大伴は夏生を選ぶが、今ヶ瀬への気持ち
から夏生を抱くことはできなかった。
大伴は今ヶ瀬との関係を続けるなか、
部下のたまきを気にするように。
たまきもまた、大伴へ好意をよせていた。
たまきの父の葬儀をきっかけに、大伴は
たまきとの距離を縮めていった。
今ヶ瀬は大伴とたまきの関係が、ただの
上司と部下では無いことを察し、別れを
告げる。
今ヶ瀬が出ていった後、大伴は自分に
とって今ヶ瀬が大切だったと痛感するが、
既に彼の姿はなかった。
今ヶ瀬が居なくなったことをきっかけに
大伴はたまきと結婚を前提に付き合い
始めるが、そこに今ヶ瀬が現れる。
今ヶ瀬を忘れることが出来なかった大伴は
たまきにバレないよう、関係を再開して
いた。
ある時、今ヶ瀬が冗談で女と別れて欲しい
という言葉に大伴は女と別れるから
一緒に暮らそうと返す。
いつになく真剣な大伴の言葉に今ヶ瀬は
らしくないと返す。
翌朝、自分用に置いていた灰皿を
ゴミ箱に捨て今ヶ瀬は大伴の元を去って
しまう。
大伴はたまきと別れ、捨てられた灰皿を
戻し帰らない今ヶ瀬を待っている。



ー感想ー
行定勲監督のテイスト全開でした。
台詞、言葉の一つ一つが心をえぐるような
せつなさでいっぱいで、若い頃、損得なく
胸を絞るほど誰かを好きになったあの頃の
気持ちが蘇る、最高のラブストーリー
でした。

前半の今ヶ瀬は、つかみどころのない
男ですが、大伴への想いの深さから
余裕がなくなり、後半は自分が見えなく
なっていく。
今ヶ瀬が「あなたじゃ駄目だ。」と
言った時には既にフラグが立っていた
ように思います。
大伴は今ヶ瀬を探してハッテン場で
自分の気持ちに気が付き号泣します。
大伴は「女」を好きでないといけない
という概念でしたが、ここで「男」とか
「女」とか関係なく、ただ今ヶ瀬が
好きなんだと気が付きますが遅すぎ
ました。
もう少し早く、大伴が自分の気持ちに
正直に向かい合えれば、決断をすることが
出来れば結末は違っていたのかも
しれません。
今ヶ瀬もまた、嫉妬から大伴を信じきれ
ない辛さや、せつなさに耐えられない
状態だったのだと思います。

最後は大伴の決心と今ヶ瀬への想いは
わかりましたが、今ヶ瀬の想いの解釈が
私には少し難しく、どう捉えるのが正解
なのかがわかりませんでした。
今ヶ瀬は大伴が彼女と別れる気が無いと
タカを括って「彼女と別れて下さい」と
言い、大伴は「別れるよ明日」と答えます。
らしくない、と答える今ヶ瀬に、大伴は
「恋愛でジタバタもがくことより大切な
事が人生にはいくらでもある。お互い
そういう歳だろ。一緒に暮らそう。」
と、言いますが今ヶ瀬は答えません。
今ヶ瀬がその言葉をどう受け取ったのか。
今ヶ瀬が最後に言った
「本当に、好きだったなぁ」は別れる
決意表明のようでした。
大伴を欲しいと思う反面、好きだからこそ
大伴の結婚を邪魔してはいけないと
今ヶ瀬が考えたのか、それとも、
自分が惚れた大伴が変わっていくのが
怖かったのか。
結局、同じことの繰り返しで駄目になって
行く関係だと思ったのか。
他の男と体を重ねて泣く今ヶ瀬の姿は
大伴への想いや思い出、離れてしまった
後悔、何してるんだろうという自分への
憤りなど様々な想いがあったのではない
でしょうか。
複雑な感情が詰まっていたのではと
思いますが、ただ「別れる」という
揺るがない決意と事実が今ヶ瀬を号泣
させたのだと思います。
そんな今ヶ瀬の離れていった想いを
知らない大伴が、捨てられた灰皿を洗い、
今ヶ瀬の座っていた椅子に座って、
帰らない今ヶ瀬を待つ。
大伴の姿は見ていて心臓が絞られる程に
せつないシーンでした。

基本的にハッピーエンドが好きなので
私としては、少し残念にも思えたの
ですが、考えてみると、大伴と今ヶ瀬に
とっては、これがハッピーエンド
なのかもしれません。
元来、大伴の浮気調査で始まったこと。
奥さんを大事にしたいと言いながら
「嫁は絶対に自分を裏切らない」という
確信の元、浮気をしています。
大伴にとって、大事にしたい相手は既に
恋愛対象ではないように思います。
そういう意味では、大伴の大事にしたい
人になるよりも、曖昧なまま好きな人で
いる方が今ヶ瀬にとっては幸せなのかも
しれません。
また、大伴にとっても今ヶ瀬と同棲して、
結局、寄ってくる女を切る事もできずに
今ヶ瀬を苦しめるよりは帰らない今ヶ瀬を
待つ方が幸せなのではないかと思います。

〈別記〉
今回は大倉忠義さん。
ドラマ「知ってるワイフ」でも活躍中。
この映画ではジャニーズとは思えない
思いきったシーンもあり、演技派として
今後活躍されるのではと期待です。
個人的には好きなビジュアルではないの
ですが、元春もそうですし、大伴の時は
とても魅力的でした。

成田凌さん。
この方には驚かされました。
ドラマや映画で拝見することもありますが
「アリバイ崩し」や「逃げ恥」など
コミカルな役もこなしますし、この作品に
ついては正直、誰かわかりませんでした。
映像の中で生きている「今ヶ瀬」そのもの
だったと思います。
これは映画やドラマを小説や、アニメの
ように「リアル」と切り離して見る
私としてはそれはとても重要で、
綾野剛さんや、菅田将暉さんもそういった
タイプの俳優さんですが、同じような
雰囲気を感じます。
作品の中で、そのキャラクター自身に同化
して生きてくれているのは、
嬉しい限りです。