1938 リンカーン ゼファー ル・バロン コンバーチブル | 乗り物ライター矢吹明紀の好きなモノ

1938 リンカーン ゼファー ル・バロン コンバーチブル

1938 LINCOLN ZEPHYR LE BARON CONVERTIBLE

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1936年、リンカーンは前年までのモデルKA(ショートホイールベース)、モデルKB(ロングホイールベース)というラインナップに加えて、新たにゼファーという名のニューモデル市場に投入した。ホイールベース122インチとそれまでリンカーンより10インチ以上も短く、プレミアム性に優れかつ扱いやすいというパーソナルユースをより強く意識していたのが特徴だった。


エンジンは267cu:in(4.4リッター)という小さめなV型12気筒サイドバルブ。最高出力は110hpとそれなりではあったものの、静かで滑らかなエンジンという意味では従来のモデルに対して遜色はほとんど感じられなかった。何よりもリンカーンとしては初めてヘッドライトがフェンダーに埋め込まれたこと、そしてアールデコの象徴というべき流線型ボディが採用されていたことで、従来のモデルとは一線を画する新時代のイメージに溢れていたと言って良いだろう。


なお従来のモデルは基本的にリンカーンのファクトリーで生産されるスタンダードセダンやリムジンの他に、ル・バロン、ブルン、ジャドキンス、ウイロビー、ディートリッヒといった各コーチビルダーによるスペシャルボディが各種用意されていたのだが、ゼファーは4ドアと2ドアの各ファクトリーセダンのみというラインナップだった。


1938年、リンカーン・ゼファーはホイールベースを125インチに拡大すると共に新たに2ドアクーペ、4ドアタウンリムジン、そして2/4ドアコンバーチブルをラインナップに加えた。このことはゼファーに対してより多くのバリエーションを求める声が高まっていたことの証明でもあり、一部のコアなユーザーの中にはスタンダードボディをコーチビルダーに持ち込み独自のボディを架装する例も現れることとなった。


今回紹介するモデルはまさにそうしたスペシャルコーチワークモデルに他ならない。ベースとなったのは4ドアコンバーチブル。ただしそのボディ外板とインテリアはコーチビルダーのル・バロンによってオリジナルのイメージを残しながらも全面的に変更されており、非常に高い質感を感じるものとなっている。


一見しただけでわかるスタンダードとの違いはフロントグリル形状、ボンネットライン、ウインドシールド形状、そして最大の違いはスタンダードのリアドアが後ヒンジだったのに対して、このボディは前ヒンジとなっていたこと。またドア自体の大きさも拡大されており、相対的にウインドウ面積が縮小され非常にタイトなキャビンイメージが表現されていたと言って良いだろう。


このル・バロン4ドアコンバーチブルは事実上のワンオフと伝えられており、この個体の他に現存するモノは確認されていない。もしかしたら当時他に製造されたのかもしれないが、リンカーンのヒストリーブックを紐解いてもその詳細については言及が無い。すなわち歴代リンカーンの中でも超一級のレアモデルである。