彼女の中は


すごく温かくて


湯船に全身浸かっているかのように


こんな寒い日がまるで嘘のように


滑らかに包んでくれて


頭を撫でてもらうような


なんとも言えない心地よさ


とろけていく


ふやけていく


身に着けた鎧も一緒に溶けていく


今日あった嫌なこと全部も溶けていく


明日目が覚めるまで


また鎧を身につけるまで


余韻は続く





彼女の中に出したら


全部空っぽ


頭の中も


心の中も


重力もなくなったらいいのにな


ニュートンも同じように思ったかな


こんななにもない空っぽの状態では


原理原則も公式でさえなんの意味ももたない


汗をかいたアイスティーを一口飲むと

おへそのあたりまで急降下して

ああ

やっぱり空っぽなんだなってわかった

冷たくて少し筋肉が強張るけど

肩も軽いや


メガネもいらないだろう

こんな時にまで何を見るんだい?


夜景も星空もなんにもいらないだろ


ただ目を瞑った君の寝息だけが


暗闇の中俺にこだまする


明日も来なきゃいいのに


子供でも考えないよな


こんな時にまであれこれ考えてしまう俺は


どうしょうもないほどに愚かで


そんな時、この寝顔をいつまで見られるのかと


守ることさえ許されない者を思い


震える


また器の小ささを自らに露呈する


知ってるけどな


曇った窓ガラスに2人の名前を書いて


消えていくのをただずっと眺めているやうな


それをしてもどうにもならないことをわかって


気持ちいいことでもないことをわかって


寂しさのあまり


彼女を起こす


もう1度中に入って良い?


繰り返すこの行為にすら


本当は何の意味もないかな


意味はあるかな


愛があるから


ひどく寒い日に


そんなことを考えていた



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