前回の通信で、被告石丸伸二の主張と被告安芸高田市の主張が一審においては相反していたことと、控訴審で敗訴することを紹介しました。

これについて詳細に説明します。



1.まず、原告と被告石丸伸二及び被告安芸高田市の関係を整理しておきます。


① 当初、原告山根議員は、「被告石丸の個人的な行為」であるとして、「石丸伸二個人」を名誉棄損等で訴えます。


② ところが、被告石丸伸二は、「市長の職務を行う際の行為」と主張し、国家賠償法によって安芸高田市が損害賠償を負う可能性があるとして、安芸高田市を裁判に巻き込みます。


③ そこで、原告山根議員は「市長の職務を行う際の行為」とする判決に備え、安芸高田市を訴えることにします。


④ こうして、原告山根議員が被告石丸伸二と被告安芸高田市を訴えるという二つの裁判になったのです。

しかし、裁判の原因は一つですので、二つの裁判は統合して進められたのです。



2. 一審の争点をまとめると次の3点になります。


① 「恫喝発言」はあったのか、なかったのか。


② 被告石丸伸二の一連の行為は、「市長の職務を行う際の行為」であるか否か。


③ 被告石丸伸二の一連の行為は、名誉棄損に当たるのか否か。


* 「国家賠償法上違法であるか否か」については、②に関わっていますので省略します。



3.3つの争点に対して、被告石丸伸二と被告安芸高田市はそれぞれ次のように主張します。


〔被告石丸伸二〕

① 「恫喝発言」は会合の冒頭の部分で行われた。


② 被告石丸伸二の一連の行為は、「市長の職務を行う際の行為」である。


③ 被告石丸伸二の一連の行為は、名誉棄損に当たらない。



〔被告安芸高田市〕

① (「恫喝発言」については触れていない


② 被告石丸伸二の一連の行為は、被告石丸伸二の「私的行為」である。


③ (被告石丸伸二の一連の行為被告石丸の名誉棄損については言及なし

 つまり、被告安芸高田市は、他の争点については全く触れず、②については被告石
 丸伸二と完全に相反する主張をしていたのです。



4.安芸高田市が敗訴を不服として控訴した控訴審は、次のように進められます。



控訴審は、控訴人(安芸高田市)の不服申立ての範囲内で、控訴理由の有無を審査した上、第一審の判決の当否について、改めて判断することになる。



控訴審では、「控訴理由の有無」が争点になることがわかります。



5.安芸高田市が不服として控訴した理由は、次のとおりです。


① 10月20日の全員協議会での発言について、名誉棄損該当性の評価が誤っている。


② Xでの各投稿は、市長の裁量の範囲で名誉棄損には当たらない。



 「恫喝発言」の有無及び一審で主張してきた「私的行為」を争点にしておらず、こ
 の2点については、一審判決を認めたことになります。

 つまり、「名誉棄損」のみを控訴の理由にしており、控訴審ではこれが唯一の争点
 になります。



6.安芸高田市は、一審において次のとおり主張しています。



被告石丸伸二の一連の行為は、被告石丸伸二の「私的行為」である。



しかし、控訴理由書では、根拠も示さずにその主張を180度変えて「市長の職務を行う際の行為」であるとし、「名誉棄損には当たらない」と主張しているのです。



7.控訴審は、続審制をとっており、次のような審議になります。


第一審の審理の結果を土台にして、いわば第一審の継続として更に審理が重ねられる。


したがって、逆転勝訴が極めて難しいとされる控訴審で、控訴人(安芸高田市)が、
一審の主張を控訴審で180度変える。




ことなどはありえないことで、裁判官の心証が悪くなるのは必然です。

とても勝訴を目指した控訴理由だとは思えません。

しかも、「名誉棄損に当たらない」とする主張は、以前に指摘したとおり「こじつけ」に過ぎません。


市の顧問弁護士は、一審判決を読んだだけで「控訴しても敗訴することは確実である」ことは理解し、当然市長にも伝えたはずです。

しかし、依頼主の市長が「控訴する」と言い張るので、やむを得ず控訴手続きを取ったことが、控訴理由書から見えてきます。



つまり、この控訴は敗訴が分かった上での時間稼ぎにしか過ぎないのです。