4 市長専決処分の検討

(1)前記の規定を具体的に見ていきましょう。この規定は、
 ① 普通地方公共団体の長において、
② 議会の議決すべき事件について、
③ 特に緊急を要するため、
④ 議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、
専決処分が可能だとしています。
 そこで、上記①ないし④の各要件について検討しますが、①ないし③までの要件は、特に問題はないと思われます。
 なぜなら、普通地方公共団体である安芸高田市の長である石丸氏において、議会の議決すべき事件である控訴すべきか否かの案件について、判決の翌日から起算して2週間という短期間に審議して議決すべき案件は、通常、緊急の案件だと理解してもよいのではないかと考えられるからです。
 したがって問題は、本件専決処分が④の「議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき」の要件を満たしているかどうかです。


(2)市長石丸氏の本件専決処分は適法か
ア 専決処分は法規裁量
前述のように、問題は「議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認める」状況にあったかどうかです。
 この要件の認定を誰がするのかと言えば、条文の体裁から、普通地方公共団体の長である石丸氏です。
 ただし、ここで注意する必要があるのは、石丸氏の主観的認識において、時間的余裕がないと認めれば、その認識に基づいて、いわば自由に専決処分をしてもよいということではありません。
 つまり、市長のこの要件の認定は、自由裁量ではなく、法規裁量であり、客観的にも「時間的余裕がないと認められる」状況になければならないと解されているので(通説であり、当然裁判例もあります)、市長の認定が客観的に間違っていれば、石丸氏がした本件専決処分は、違法な処分となるのです。
ところが、石丸氏はこの見解とは異なり、専決処分について、昨年市の広報誌である「あきたかた」に、市長の自由裁量であるかのように解説していますが、誤った解釈だと言わざるを得ません。
ところで、市長の専決処分が、どうして法規裁量と解されているのでしょうか。次号でそれを見ていきます。