寄稿 元検察官さん
安芸高田市長(石丸伸二)の “ 専決処分 ” について(1)

〔本寄稿は、詳細に論証され長文になっていましたが、筆者の了解を得て簡略化しておりますのでご承知おきください〕


1 恫喝裁判 一審判決について
 石丸氏は、令和5年12月26日に判決のあった、いわゆる恫喝訴訟で、実質的に敗訴しました。彼の違法行為が認定されたが故に、彼が市長を務める安芸高田市が賠償責任を負うことになったのです。
 石丸氏は、原告の山根議員から「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」と恫喝された旨、議会内で発言したり、Twitter (現「X」)に投稿したりしましたが、その発言や投稿は、
① 職務行為の外観を有すると認められること
② その発言や投稿内容が真実である、ということを証明する証拠がなく、また、真実であると思わせる相当の理由もないこと
③ したがって、山根議員の社会的評価を低下させものであって名誉毀損に当たること
などから、裁判所は、国家賠償法1条1項を適用し、石丸氏個人に対してではなく、名誉毀損の違法行為をした同人に代わって、被告安芸高田市に対し、原告山根議員に対する賠償責任を認めたのです。 


2 敗訴した被告安芸高田市の控訴について
 前述のとおり、この民事事件で敗訴したのは被告安芸高田市ですから、その判決に不服があれば、被告安芸高田市は控訴ができます。ちなみに、勝訴した原告も、不服があれば、被告同様に上訴できます。
 ただし、地方自治法96条1項12号は、普通地方公共団体(安芸高田市は「普通地方公共団体」です。)が当事者となる訴えの提起については、議会の議決が必要である旨規定しており、今回の一審で敗訴した控訴の提起は、議会の議決が必要となります。
 なお、控訴(控訴状の提出)は、一審の判決を受け取った日の翌日から起算して14日以内にする必要があり(民訴285条)、ちなみに本件の場合は、令和6年1月9日が控訴期限でした。


3 市長専決処分が許される場合について
 議会の権限である議決が必要な事案であっても、地方自治法179条1項に規定された場合にかぎり、市長の専決処分により事務処理をすることができるとしています。
 地方自治法179条1項には、「議会が成立しないとき」等の4つの場合が規定されていますが、今回の控訴については、
普通地方公共団体の長において、議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議決を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき
に該当します。