給油を済ませた私たちは10分ほど車を走らせたスーパーにいた。

我々の前にtankenしていた巨体の男の20リッター×3のポリタンクがまだ気になって仕方ない。

 

スーパーはかなりこじんまりとしたショッピングモールになっていて、写真屋、パン屋、雑貨なども入っている。雑貨屋などは色合いや置いてあるものと質素な街並みからの偏見からかどうしてもチープに見えてしまう。

 

ジーナさんが大きなカートを引き私とフォルさんを率いて売り場に入る。

二人は何を購入するかしばし話しあう。

 

その後、フォルさんは私を加工品売り場へ案内してくれた。この一件目のスーパーは対面販売式の加工品売り場は無かったが、棚に並んでいる乳製品を含めた加工品はやはりヨーロッパという品揃えだった。

ここポーランドに来ても世界的にメジャーどころの同メーカーのおなじものは必ず置いてある。小さな町の片隅のスーパーにも、だ。

そう考えるとどのようにそれほど製造できるのか、疑問に思うのである。それは日本にもあるし最近では高級スーパーではない普通のスーパーでも見かける、某国産生ハム。しかも同メーカー。定義としては、その地域(最近では近郊と表現)でしか育てられない豚で世界中のありとあらゆる何某県何某町の名前すら知らないスーパーにも置いてある。いったい何頭分の豚ももが世界中のスーパーを掌握できるのだろう。

 

こういった場合(スーパー)のドイツソーセージは、その地域に近いメーカーで勿論、中規模以上の工場製品が多い。ただ空港のお土産の瓶詰や缶詰製品、海外に輸出していくような製品はかなり大規模な工場生産になることは疑う余地はない。

あとはライセンス契約で現地の加工メーカーが名前を買い、製造するなんてことも当然のことだ。日本でも、多くの消費者が気付いていない場合が多いのがこのライセンス契約かもしれない。ふたを開ければ、誰もが知っているメーカーだったとがっかりする人も多いはずだ。

表示を見ろ、とは何も添加物の有無、その種類の話だけではない。誰が、どこで作ったのか?そのヨーロッパ的名前のその製品は本当にその国から来ているのか、そんなことも気を付けてみてほしいということだ。

 

 

話しは少し脱線したが先ほどの某国産の生ハムの話に戻ろう。

 

 

 

数学ほど難しい計算式はいらない。

算数でいい。

算数の足し算、引き算が豚の腿の数と販売数合っているのかという事なのだ。

産地であるか何かは分からないが、どこかに矛盾が出てくるはず。

 

 

 

フォルさんとも『それ』を見ながらそんなことをはなした。

『確かに』

二人で苦笑いする。

ヨーロッパの加工品が好きな日本人は多い。ただヨーロッパの冠が付いていれば良しとしてしまう日本人もまた、非常に多いのではないだろうか。

私はハム・ソーセージの職人なのでその事だけについて話すが、やはりクオリティの違いというものがある。これを日本で考えてみれば当たり前なのだが、ヨーロッパという名前が邪魔してしまい盲目になってしまう事がある。

 

まずクオリティをカテゴライズする。

 

日本であれば、コンビニクオリティ、平凡なスーパーのクオリティ、高級スーパークオリティ、デパートクオリティ、個人店の手作りクオリティ・・・と区分けできるはずだし、ほとんどの日本人が容易に想像つくはず。そしてまたその『カテゴライズ』された個々のカテゴリーの中で更に細分化できる。

ただし、高級スーパーに置いてあるから高級スーパークオリティなのか。それも違うはずである。ただ単純に値段だけを高くして内容の伴っていない場合もあるからだ。

 

またこのようなことも実際にある。『個人店の手作りクオリティ』とは言っても、量販のものと何も変わらないものを作っていることもあるし、本当にこだわり抜いた極めた仕事をしている所だってある。

それでもまず、細分化することによって随分クラール(klar クリア・透明)になる。

では海外にたくさん輸出できる加工品とはどのようなカテゴリーに区別されるのだろう。やっぱりそれなりの規模の製造現場だろう。もちろん個別に少量ずつ個人店と契約して、という事も考えられるだろうが、どこでも見るような製品は『中規模以上の大規模な工場生産』になるはずだ。

 

日本の高級スーパーにあるような何某産の加工品。果たしてどのクオリティにカテゴライズされるのか?考えても良いテーマだと思う。

 

自分自身の作っている加工品を考えたときにどのように考えカテゴライズしているか、私の考えは以下の通り。

ドイツの普通の個人店のクオリティ。(対面販売)

ドイツのこだわった個人店のクオリティ。(対面販売)

ドイツのスーパーマーケットクオリティ。(委託販売・製造のみ)

ドイツの中規模工場のクオリティ。(委託販売・直販あり)

ドイツの大規模工場のクオリティ。(委託販売・空港などの海外への土産物。缶詰など常温製品)

 

同じヴィーナー(燻製のスタンダードソーセージ)でも、作り手の想いも、中に詰まっているもの(添加物・原料肉)も全く違う。

こう考えると、似て非なるものだと分かると思う。

日本でも考えてみると良い。

豆腐ひとつとっても上記のようにカテゴライズすれば、答えは見えてくる。

今回、まさに問題にしている『異常な安さ』だが

大規模工場は薄利多売で頑張っているのか、それとも個人店が高すぎるのか?

 

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私の経験では、個人店は真っ当な値段をつけている、だ。

真っ当な値段よりも少し安く設定しないといけない事情がある。それはスーパーに並ぶ加工品が安すぎるためである。

そのため消費者に価格のアベレージが擦り込まれる。

『ソーセージはこの値段。』

【この値段】という擦り込みが個人店の価格設定を苦しいものにしているのは間違いない。

 

皆さんも『そんな値段ではうちは出来ない。』というような言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。

物の原価だって限界がある。それが肉であればなお更だ。

 

 

『原価を限りなく0に近づける努力』

こう言えば必ずしも薄利多売の世界ではない。むしろその方が利益は残るのだ。

 

フォルさんの明らかにしたソーセージの製造現場で使われていたもの。

それは通称プロテインパウダーと呼ばれる白い粉と少しの肉、そこにSeparatorenfleisch(セパラトーレンフライシュ)と呼ばれる肉とは呼べない肉。そこに水。

※絹引きのソーセージを作るうえで水(氷)を混ぜることは必要な事なのでこれ自体は悪ではない。

 

 

奴らはいつでも突然やってくる

『味はそのままで、原価も安くできますよ』

 

秋田『うちは添加物使ってないから来ないでください。』

商人『また明日来ます』

 

実際にあった添加物屋とのやり取りだが、アポなしで来て、こちらが断ってもしばらくまとわりつかれた。奇妙で不気味だと感じたが、加工品だから本当は何か使っているんだろうと思って来たのかもしれないし真意は分からないが、とにかく気持ちのいいものではなかった。

 

別の人物から聞いた話だが、例えばレシピを盗むことだって出来るらしい。研究と検査を繰り返してレシピを盗む、というのだ。難しい作業ではあるが可能だと。

 

何から何まで恐ろしいはなしである。

 

それに加えてフォルさんの明かしたセパラトーレンフライシュ。

つまり彼がテレビで証明したのは、まともな肉が僅かしか入っていないソーセージを作って、日本でも有名なドイツのコンテストに出て銀メダルを獲得した。これがドイツ国内を揺るがすスキャンダルとなって、『ソーセージはごみと水からできている』なんて皮肉を受ける。

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セパラトーレンフライシュ

職人が枝肉を脱骨する。

その骨は通常処分される。

もちろん筋などは残っているが綺麗に肉は取り除かれた状態の骨。

それを出口が2つある専用のミンサーにかける。

一つの穴からは砕かれた骨

もう一つからは髄液や筋、ほんの少し残った肉の破片がドロドロしたミンチ状に出てくる。

これがセパラトーレンフライシュ。

もとは処分していたはずの骨から物語は始まったのだ。

 

二件目のスーパーの対面販売式食肉加工店の前でプレスハムを指さし

『あれはセパラトーレンフライシュ混ざってるな』

 

フォルさんが鋭いまなざしで私に語った。

※ Mäßigkeit 節度