「名無しの探偵」

ビル・プロンジーニ原作のハードボイルド探偵小説シリーズ。

中学生の時に、第一作の『誘拐』と、第二作『失踪』を買って読みました。
以来、この作品の世界観に囚われている。

とは言え、読み返している訳ではありません。

新潮社から翻訳が出て、しばらく続きましたが、
途中で徳間に移って楽しくなくなりました。
「翻訳者って大事ですね」。

それでも邦訳は全て揃えています。

高校生の頃、絶版になったシリーズ本がなかなか見つからずにいた
時のことです。

ふと降り立った駅の近くを歩いていると、急に大雨となりました。
幸いにも傘を持っていたため、濡れずにすみましたが、
前方からベビーカーを押しているお母さんが…。
傘もなくずぶ濡れです。

当時、高校生で見た目もそんなに真面目ではない私でしたが、
見かねて傘を渡そうとすると、
やはり、訝しんだ母親に丁寧に断られました。

でも、この時、生えたての髪が雨に濡れて顔にはりついた赤ちゃんの顔が
見えたのです。
そして、口を衝いて出た言葉。
「赤ちゃんがずぶ濡れじゃないですか」。
言うなれば『マディソン郡の橋』に出て来るイーストウッドが雨に濡れている
シーンのよう。何とも情けなく、堪らなかった。

気圧された母親に傘を押し付け、
半ば自己満足に浸って、雨に濡れながら古本屋に逃げ込みました。

すると、どうしたことでしょう、
見上げた棚には、探し続けても見つからなかった『名無しの探偵シリーズ』が
全巻セットで破格の値で鎮座しているではないですか!

「気持ち悪いほど、誰かに見られているな」。
「もうちょっと自重してくださいね」。

そんなことってあるよね。結構な頻度で。

因果応報とは、このような、神との遭遇を指す言葉です。はい。

では。