3
レインボーブリッジに差し掛かる頃には、もうすっかり夜になっていた。
先生の車は、まるで先生の人間性を表しているかのように、穏やかに走る。
ゆっくり、丁寧に。静かに、おおらかに。
窓から、月が見えた。
綺麗な、大きな月だった。
でも、ほんの少し、頭の部分に青黒い雲が霞めていた。
なんだかわからないけど、切なくなった。
「菜緒?」
はっと、彼の方を振り向く。
「どうしたの?」
「あ、ううん…なんでもない」
慌てて目線をフロントガラスに戻す。
ふん、とゆっくり深い息を吐いて、前を見据え、微笑みながら彼は言った。
「さっきからずっと浮かないお顔をされていますが?お姫様」
「・・・なにそれ。そんなことないよ、平気」
「出た『平気』」
「・・・なに?」
「菜緒の『平気』は人の『つらい』」
「・・・」
「図星」
「・・・そんなこと」
「かわいいなぁ菜緒は」
・・・目線だけ、ゆっくりと動かして、彼の顔を見た。
「だからやめられないんだな。菜緒のこと」
ホテルを出た後、月は、ちゃんとした満月になっていた。
私は、勇気なんかないし、持つつもりもない。
それでも、今こうしてちゃんと、彼の横にいる。
こんな私でも、彼のそばにいられるのだ。
「あのね」
「ん?」
少し低い、甘めの彼の声は、たとえ短い言葉でも私の胸をキュッと締め付ける。
「・・・いいや。なんでもない」
行こうっ、と彼の腕を組む。
本当は、クリスマスのことを聞こうと思っていた。
どうして逢えないのか、もう一度聞きたかった。
でもなぜか、言葉はおのずと胸の奥底へ入っていった。
代わりに、はぁっと漏れた白い吐息だけが満月の夜空に溶け込んだ。