【黒川検事長の定年延長判決】検察取材40年の記者が明かす安倍政権が検察人事に介入した理由「話がわかる検事と彼を重宝し…」
6/28(金) 18:12配信
文春オンライン

東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年を延長した閣議決定について、国に経緯を検証できる文書の開示を求める訴訟。大阪地裁は6月27日、一部文書の開示を命じ、「法解釈の変更は黒川氏のためと考えるほかない」と指摘した。

【画像】桜を見る会の前夜祭を巡っては安倍氏の秘書が政治資金規正法違反で略式起訴された

なぜ、安倍政権は検察人事に介入しなくてはならなかったのか。〝特捜検察取材歴40年〟の事件記者が、その経緯を解き明かした。

◆◆◆
検察首脳人事にまで介入した安倍政権

安倍政権との近さが取り沙汰された黒川氏 ©時事通信社
 政治と検察を巡っては、安倍派のオーナーだった故・安倍晋三の政権が、検察首脳人事に介入した3年前の「黒川弘務・林真琴騒動」がまだ記憶に新しい。人事を巡る法務・検察高官の政権への忖度疑惑が取り沙汰され、検察も国民の厳しい批判を浴びた。

 2012年暮れ、民主党から政権を奪還した自民党の安倍政権は、政治主導の名のもとで官僚グリップを強化した。その少し前、検察では大阪と東京の両地検の特捜部で捜査をめぐる不祥事が発覚。国民から厳しい批判を受けていた。郵便不正事件での証拠改ざんと、民主党代表の小沢一郎に対する検察の不起訴を審査する検察審査会に事実と異なる捜査報告書を提出していたことだ。検察は抜本的な改革を迫られていた。

 このとき、関連の法改正や予算折衝などで政界ロビーイングの先頭に立ったのが、法務省官房長の黒川だった。政権は話がわかる検事と受け止め、彼を重宝した。

 実際に安倍政権が検察首脳人事に口出しを始めるのは、2016年9月の法務事務次官人事からだ。法務・検察が「3代先の検事総長に」と予定していた、刑事局長の林を事務次官に起用する人事案を政権が拒否。林と検事任官同期で官房長の黒川の起用を求めたのだ。

 そして「1年後には林を次官にする」との感触を政権から得た法務省は、黒川を次官に起用した。だが政権は林を次官にしないまま2018年1月、検察序列ナンバー4の名古屋高検検事長に転出させた。そのうえで黒川を2019年1月、検察ナンバー2で検事総長テンパイポストとされる東京高検検事長に起用した。

 だが検察も、完全に政権の言いなりではなかった。政権は黒川の検事総長起用を強く希望したが、検事総長の稲田伸夫は、黒川が定年を迎える2020年2月までに総長職を禅譲することを拒んだ。さらにこの間、稲田率いる検察は、2019年7月の参院選をめぐる公選法違反(買収)容疑で、安倍側近の前法相・河井克行と妻の案里を捜査。2020年6月、2人を逮捕した。政権はこれを検察の「反逆」と受け取め、苛立った。もっとも、検察側も立件に前のめりになりすぎ、禁じ手の脱法的司法取引を使ったことが後に発覚。批判も受けた。

 そして安倍政権が東京高検検事長の黒川の定年を、国家公務員法を根拠に半年間延長する異例の人事を行ったのは2020年1月末のこと。法務事務次官だった辻裕教が、黒川の半年間の定年延長という奇策を編み出したのだった。次期検事総長含みでのウルトラCだった。野党側は「違法な法解釈による違法人事だ」と猛反発。公職選挙法違反の疑いが指摘されていた、首相主催の「桜を見る会」前夜の夕食会での飲食代提供問題などで検察の手心を期待した人事ではないか、と勘繰った。

政権はさらに、政府が必要と認めた検察幹部については定年延長を可能とする検察庁法改正案を3月に上程する。これに反対する女性が「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグ付きでツイッター(当時)に投稿すると、それが爆発的に拡大。元検事総長の松尾邦弘ら有力検察OBらも「検察への不当な人事介入だ」と反旗を掲げた。

 騒動は意外な結末を迎えて終わる。黒川がコロナによる外出自粛の中、親しい新聞記者たちと賭け麻雀に興じていたことを「週刊文春」に暴露され、5月に引責辞任したのだ。前後して政権は通常国会での検察庁法改正案の成立を見送った。そして検察は名古屋高検検事長の林を急遽、検事総長含みで黒川の後任に起用。林は同年7月、総長に昇任した。

 こうして安倍政権の「野望」は潰えた。だが一連の人事騒動を通じ、法務・検察は、政治に近すぎて、「国民の期待に応える検察権を行使していないのではないか」との疑念を国民に抱かせることになった。

 実際、安倍政権時代、法務・検察は与党政治家のからむ事件の捜査に神経を使っていた。安倍自身が告発された桜を見る会などの著名な事件は別にして、法律解釈が分かれるような事件では、検察上層部が「筋悪」と判断し、人知れず闇に葬ることもあった。

 数々の特捜事件を指揮した元検察首脳は「無理筋の事件を潰すのが上の役割。現場の評判が悪くなっても、特捜幹部と示し合わせてボツにすることもあった」と振り返る。

 それは、あくまでも検察の理念である「厳正公平・不偏不党」の名のもとに行われたが、捜査される側からすると、「ありがたい忖度」に見えたことだろう。

変質した政権と検察の関係
 その後、政権と検察の関係は大きく変わった。法務・検察は、「政治への忖度」批判を恐れ、官邸や法相への業務報告などでも極力、マスコミなどから政治と近いとみられないように気を使った。法務・検察首脳の人事は林検事総長のもとで一新。黒川の定年延長問題で批判を浴びた辻は検事総長候補から外れ、2023年7月、定年まで1年以上を残して、仙台高検検事長で退官した。

 いまの法務省には、黒川のように政界ロビーイングを得意とするタイプの幹部はいない。法務事務次官の川原隆司は、東京地検刑事部で「たたき」(強盗)や「殺し」(殺人)を扱う強行班検事として鳴らし、警視庁にファンが多いとされる。捜査現場の証拠、法律判断を尊重するタイプとされる。刑事局長の松下裕子は女性初の特捜部副部長だった。その後、刑事局総務課長や会計課長などエリートコースを歩んだ。林の薫陶を受け、彼女も現場を大事にしてきた。

 林の後を受けて検事総長になった甲斐行夫は立法の専門家だが、検事としてはオーソドックスで、政治性はゼロと言われる。事実上、検察の捜査現場を取り仕切っている、元特捜部長で、最高検刑事部長の森本宏は、アグレッシブな性格だ。筋のいい事件なら、立件に向け現場の背中を押す。(文中敬称略)


 特捜検察取材歴40年の村山治氏が、安倍政権が検察人事に介入した背景から東京地検特捜部が裏金問題で安倍派に捜査のメスを入れるまでを詳細に解説した「 特捜検察取材歴40年の事件記者が解き明かす『検察VS安倍派』怨念の歴史 」の全文は、「文藝春秋 電子版」で読むことができます。
村山 治/文藝春秋 電子版オリジナル


以下、オラのコメント

林人脈が終焉し、自民裏金事件の摘発に弱腰だった女性検事長が次の検事総長だからね。

当分は、検察への期待値はゼロだよね。