季節外れの彼岸花の絵柄の封筒。これにはきっと意味がある。そう思い封筒をあけた。
鈴本「……これって」
理佐「それ私と友梨奈ちゃんだね」
入っていたのは1枚の写真。去年の夏頃だろうか。浴衣を着た2人がそこには写っていた。
理佐「去年の夏祭りの時だね。友梨奈ちゃん誘って行ってきたの」
鈴本「なんでこれを私に? 渡すんなら私にではなく理佐さんにじゃ……」
理佐「確かに……ちょっと借りて良いかな?」
そういって理佐は鈴本に手を差し出す。鈴本が写真と封筒を理佐に渡すと、理佐は写真の裏をみて悲しそうに笑った。
理佐「……この写真は私に向けてだったみたい」
鈴本「どうしたんですか?」
理佐「ほら」
少しの沈黙の後、理佐はそう呟いた。鈴本が尋ねると、理佐は写真の裏面を鈴本にみせた。
そこには短文だがメッセージが書いてあった。
『理佐へ。ご飯作ってくれたり、一緒に遊んでくれていつもありがとう。人を避けて孤独になろうとしてた私はあの時救われた。理佐に会えてよかった
友梨奈 より』
理佐「……なんだろ。また会えるはずなのに。もう会えないような気にさせられて胸が痛いな」
鈴本「理佐さん」
理佐「なに?」
鈴本「理佐さんから見た平手友梨奈はどんな子でしたか?」
理佐「え?」
鈴本「私は平手の友達です。だけど私は平手のことをよくわかりません。なんであいつが姿を消したのか。わざわざ理佐さんにこの封筒を私に渡すよう頼んでいたのかなんてことはもっとわかりません」
鈴本「あいつ、前私に言ったんです」
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平手『私がとんでもない最低なやつだったらどうする?』
鈴本『………どう言うこと?』
平手『……友達を平気で傷つけるし、思いやりもないことするやつだったらどうする?』
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鈴本「あの時。平手は凄い寂しそうな顔をしてました。今思えばあいつは何かに悩んでたのかもしれない。もしかしたらその悩みが今回のあいつの失踪と関わってるのかもしれません」
理佐「……」
鈴本「平手友梨奈の友達としてちゃんとあいつのことをわかった上で見つけ出して向き合って話したいんです」
理佐は自分の目をまっすぐ見つめる彼女の話を
なにも言わずに黙って聞いていた。
しばし黙ったあと理佐は口を開いた。
理佐「……貴方は友梨奈ちゃんが大切?」
鈴本「私は平手友梨奈が大切です。平手が何か悩んでるんなら、それは放っとけません」
理佐「……私の知ってることなんて大したことじゃないかもしれないけど、それでもいいなら」
鈴本「私は少しでも平手のことを知りたいんです。平手のことを知っている人の口から……」
理佐「ここじゃなんだし、私の部屋で話そっか」
そう言って理佐は自分の部屋の扉をあけた。鈴本は頷いて部屋に入って行った。
部屋に入り、先ほどの写真を一旦封筒に戻そうと思った時、理佐はその封筒の違和感に気づいた。
理佐「あれ……これって」
鈴本「どうかしましたか?」
理佐「……んーん。なんでもないよ。入って入って」
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理佐「私が友梨奈ちゃんに会ったのは1年前の春。大学生になって一人暮らしをはじめた頃。最初は挨拶してもシカトされてたよ」
理佐「ご近所さんの話を聞くとさ。『愛想がない』『無口で気味が悪い』『あんなんだから両親に追い出されたんだ』とかひどいことばっか言われてた」
鈴本をテーブルの前に座らせると、ゆっくり理佐は話始めた。
理佐の話からすると春頃の平手は荒れていたのか近所の評判は良くなかったようだ。
その人たちは平手友梨奈のなにがわかるのだろうか。鈴本は顔も知らない噂をする隣人たちに嫌悪感を抱いた。
理佐「それで何となく気になっちゃってさ。シカトされてもめげずに挨拶したり御飯作ってあげたりしてるうちに少しずつ心を開いてくれるようになったんだよね」
理佐「そしたらある時 友梨奈ちゃんが私に聞いてきたんだ」
鈴本「なんて言ってたんですか?」
理佐「『こんなに毎日お世話になっても、私はあなたになにもしてやれない。なんでこんなことするの?』ってさ。」
理佐「私も不思議だった。なんで見ず知らずの女の子の心配なんてしてんだろって。大学生になったばかりで余裕なんてないはずなのに。そう言われた時さ、この子は一人でなんでも解決しようとしちゃう。自分で全部なんとかしようとする子なんだ。そう思ったらつい抱きしめちゃったんだ」
理佐「『私がただあなたのことが放っとけないだけ。別に見返りなんかいらない。ただ心配なだけ。少しでもあなたの力になりたいの。一人でなんでも抱え込まないで』」
理佐「そう言ったら泣き出しちゃってさ。こんなまだ十五、六歳くらいの女の子が今まで色んな事に耐えてきたんだ。苦しいことや逃げ出したくなるようなこと一人で抱え込んでたんだと思ったら私まで涙出てきちゃったよ」
理佐「知らない人からみればあの子が無愛想とか無口で気味が悪い様に思えるかもしれないけど、心に傷だってつくし、涙を流すしただの女の子なんだよ」
理佐「その時さ。泣き止んだ友梨奈ちゃんにお裾分けを渡したらさ。はじめて『理佐、一緒に食べようよ』って笑ってさ。しかも名前を呼んで誘ってくれたんだ」
理佐「それから私達は休日は二人で出かけるようになったし、一緒に遊んだりしてた」
理佐「でも、去年の夏前頃からそれが少しずつ減ったんだよね」
鈴本「なんでですか?」
理佐「ふふ。友梨奈ちゃん。気の合いそうな子が出来たって喜んでたよ。そこからよくあなたの名前を聞くようになった」
鈴本「あ……確かに。その時期くらいに平手にはじめて会いました…」
理佐「『しょうもない話にも付き合ってくれる』『久しぶりに理佐以外の人と楽しく話せた』」
理佐「そう言ってて私は嬉しかったよ。あんなに自分の殻に閉じこもってた友梨奈ちゃんが私だけじゃない。誰かと仲良くなってくれたことがさ」
理佐「だから鈴本さん。ありがとうね」
理佐はそういうと鈴本に頭を下げた。
鈴本「わ、私はなにもしてないです。むしろこちらこそお礼を理佐さんに言いたいです」
理佐「私に?なんで?」
鈴本「だって理佐さんが平手に話しかけてなかったら人を拒絶する平手のまんまだったかもしれない。そしたら私は平手と話すこともなかったかもしれない」
鈴本「だから……ありがとうございます」
今度は鈴本が理佐に頭を下げた。
理佐は少し思わぬ事に面くらい、目を見開いた。
理佐「鈴本さん……」
理佐は目の前の少女の言葉に涙を流しそうになった。
自分は平手友梨奈が心配で彼女が少しでも彼女が思う自分らしく生きれれば、それができるために力になれればと思っていた。
他の誰もが彼女を嫌い彼女を否定したとしても、自分だけは彼女を守ると。
だが、彼女の心配をしていたのは自分だけではなかった。目の前には自分のように平手友梨奈を大切に思う存在がいる。その事がなにより嬉しかった。
理佐「……友梨奈ちゃんに会ったらさ。ちゃんとここに連れてきてね」
鈴本「え?」
理佐「探すんでしょ?ならお願い。封筒に書いてあったメッセージ。さっきの貴方の話。この二つを改めて考えるとさ。友梨奈ちゃんはきっと一人じゃ抱えきれないようなことを抱えようとしてる」
理佐「私にもあの子がなにをしたいのかはわからない。けどここでなにもしなかったらあの子は戻ってこない気がする」
理佐「勿論。私も友梨奈ちゃんを探してみる。だけどきっと他でもない貴方に見つけて欲しいんだよ。」
鈴本「……それってどういう」
鈴本が言い切る前に、理佐は先ほどの封筒を鈴本の前に出した。
理佐「この封筒。さっき気づいたんだけど二重封筒なんだよね」
そういうと理佐は封筒の中からもう一枚、糊付けのベロ部分が切られた封筒を取り出した。
その中を確認すると折られた紙が一枚。
広げてみると表には大きめの一軒家が描いてある。
そして裏には『鈴本へ』という平手の文字が書いてあった。
理佐「ほんとに子供っぽいというか変だよね。もしかしたら鈴本さんへの挑戦状のつもりなんじゃない?」
鈴本「……それはあり得ないと否定できないのが残念です」
"平手は私に向けて二重封筒なんていう手間のかかる手段をとってメッセージを出した。平手の行動は不可解だけどなによりもそこに描いてある一軒家は誰の家なんだろ? 1番可能性があるとすれば平手の家。
そこにいけば平手はいるのかな?"
"今どこにいるの? 平手"