寒い季節が本格化してきましたね。
みなさま、風邪などひかれておられませんか。
私は一週間具合が悪かったのですが、なんとか大切な取材の日に間に合い、
先週の金曜日に日本からのお客様の同行で、「聖ジャコブ財団」の取材に行ってきました。
目的は『TIRGGEL ティアゲル』というスイスの郷土クッキーのアテリエでの取材でした。
スイスいえばチョコレートというイメージがありますが、
スイスの歴史的なお菓子の一つに『ティアゲル』というクッキーが国内では知られています。
ちなみに、スイスドイツ人が発音するティアゲルは、私が何度練習しても、わかってもらえませんでした😂
そのティアゲル、こんなお菓子です。
このクッキーは蜂蜜、水、小麦粉だけで焼いている、とてもシンプルなお菓子です。
うちの夫をはじめ、このクッキーを大好きなスイス人はとても多いのですが、
日本ではあまり知られていませんね。
私も初めて食べた時は、とても固いクッキーで驚きました。
でも、ぱくぱく食べるのではなく、まずは舌の上でゆっくり蜂蜜味を楽しんで、
味わいながら食べることがポイントで、食べ始めると、これが意外とハマる自然な味わいです。
コーヒーや紅茶に浸して食べるのも楽しい味わい方の一つです。
このクッキー、実はとても長い歴史を引き継いでいるんです。
ティルゲルは1461年にチューリッヒで見つかった文献の中で初めて登場します。
半世紀以上、その原型を変えることなく、歴史を正統に伝授してきたお菓子なんです。
まさに、食の芸術品なんです。
私たちが訪れたのは、チューリッヒにある、聖ヤコブ財団 (Stiftung St. Jakob)。
世界でたった1人、『ティアゲルの名匠』と言われる、Urs Jaekle ウルスさんと
ここでお会いすることができました。
聖ヤコブ財団は事業の一部でもあるカフェの入っている、大きなビル全体ですが、
このカフェに陳列している商品は、全て手作りなんです。
個々の事業は、カフェや600名ほどの従業員が働いていて、その中の460名が障害者の方なんです。
この団体は、基本が障害を持つ人々に、社会的な環境の中で、職業訓練と職業を持つことを提供することを
目的としているんです。
Tirggelをはじめ食品のアトリエ以外のサービス、デジタル、電気関係、
建物やお庭のメインテナンスの分野でも様々な社会福祉活動をしているようです。
たとえば、企業での清掃部門などもその一部のようです。
この背景で、若者の社会参加を支援するために、
独自の職業訓練プログラムを設立していて、毎年多くの実習生を受け入れているそうです。
さて、ティアゲル菓子にもどりましょう。
喫茶部門におかれているティルゲルをご覧ください。
いろんなデザインのものがありますよね。
薄い(厚さはデザインなどによっても異なります)お菓子なので、
あかりを背後からかざすと、透けて見えてデザインがよく見えます。
Urs(ウルス)さんが作った、ティアゲルで作ったお菓子のお家。
さてその多くの部門の中の一部である、ティアゲルのキッチンに入ってみましょう。
ティアゲルとチューリッヒの歴史の強い繋がりを感じてもらえると嬉しいです。
外側から写したキッチンの様子です。
ローマ帝国がスイスを支配した頃は、蜂蜜が贅沢品だったので、
ティアゲルは貴族にしか手に入らない貴重なお菓子でした。
自分たちの権力や富裕を世間に見せしめるために、
家系の紋章などの型を作らせてティアゲルを焼かせていました。
1336年にチューリッヒで労働組合が盛んになって以来、
ティアゲルを職人が作ることを許されるようになり、少しずつ庶民のお菓子として広まっていきました。
初めは都市のパン屋さんだけしか作ることを許されなかったものが、
1840年ごろには、すべてのパン屋さんに生産権が与えられるようになります。
労働組合を作った職人たちは、スイスでは『ツンフト』と呼ばれています。
実はこの『ツンフト』たちの存在が、貴族社会を消滅するきっかけとなります。
その頃に勢力を強くしていったツンフト(労働組合)の職人たちは、
このティアゲルに自分たちの職業を記したり、
様々な社会の様子を刻んだ型を抜いたお菓子を作らせました。
また、労働組合での会合の際に、お土産として特別な型で抜いたティアゲルを
贈り物として作らせるということも流行しました。
Module (型)はよく使うものだけでも、これほどあります。
保管庫のものも含めれば、600種類以上はあるだろうと、仰っておりました。
さて、ティアゲルを焼くまでの工程を覗いてみましょう。
まずは生地を作ります。
材料は蜂蜜と水、その上に小麦粉(スイス食品協会の認証済み)を入れて練ります。
🔺これは私が製造過程をビデオで写しました。
ヘラで手際良く混ぜ込んでいきます。
これを30分に一回ぐらい行って、生地のベースを作ります。
この手順はウルスさんだけの仕事です。
ここで混ぜ込んだ生地は、一晩寝かせます。
翌日に、まとめた生地を切り、下の写真の機械で2ミリの厚さに伸ばします。
それを型の上に置いて、生地に型の模様を嵌め込んでいきます。
この工程は見学の時にタイミング的に行っていなかったので、
下記、Stiftung St. Jakobオリジナルのビデオをご覧ください。
型は様々なものがあります。
丸い生地の時は、ウルスさんがちょうど生地を伸ばしていました。
これは、当時のツンフト(職人)の職業の紋章
これは、チューリッヒの歴史的な建物(教会や大学、公園など)
これを見せてくれる時に、スイス人の広報の方が、「Die Biene Maja !」と言ってました。
「あー、知ってる!みつばちマーヤの冒険」だよねーと意気投合笑
「それなら、ハイジの型はないの?」と思わず聞いてしまいました。
残念ながらないそうです笑
昔は木製の型だけでしたが、今ではコスパのいい材質のもので型をつくることもあります。
3Dという会社がオーダーして作った型は、プラスチックでできていました。
伸ばした生地を型の上に置き、機械でしっかり模様を刻み込みます。
生地を置く前に、型にほんの少しのサンフラワーオイルで濡らします。
型を刻んだ生地は、最後の工程として、指でもう一度記事の上から型をなぞります。
こうすることで、型の模様がしっかり生地にプリントできるんです。
これも全部手作業です。
最後に指でしっかり型から刻み込んだ生地の周りをローリングナイフで切って、
綺麗な形に仕上げます。
この時に切り落とした生地は、コンフェティとしてもう一度製造過程に戻ります。
何一つ捨てないようにしているそうです。
ただし、切り落とした生地は、普通の大きな型のティアゲルには作れないそうです。
その代わり、コンフェティという下の小さなティアゲルに生まれ変わります。
美しい!!さすが名匠ティアゲル!!
そして、刷毛などで、生地についている粉を落とします。
お掃除お掃除
そして、ここですぐ焼くのではなく、
この後、またもや一晩生地を寝かせます。
この時に左右に扇風機が一日中回りっぱなしで、生地が室温によって、伸びて広がるのを防ぎます。
生地を作りはじめてから、3日目にティアゲルを焼き上げます。
なんと400度という高温で、ほんの90秒焼き上げるだけなんです。
しかもこのオーブン、上火だけで焼き上げます。
ティアゲルというお菓子は、上はこんがり黄金色に焼き上がりますが、
下の部分は真っ白のままなんです。
とても特徴的なお菓子ですよね。
購入すると、約半年は日持ちがします。
もちろん添付剤などは一切使用していません。
蜂蜜と水と小麦粉だけの郷土菓子なんです。
昔は甘いものといえば蜂蜜でしたが、
お砂糖が登場してからは、ティアゲルは市場から少しずつ消えてしまいます。
それでも、この長い歴史を潜ってきた、チューリッヒ特産の硬いクッキーを
ゆっくり舌で楽しんで紅茶などと一緒に楽しむスイス人も多いです。
ティアゲルは、クリスマスの時期が一番忙しいです。
こんな繁忙期に時間をとっていただいた、聖ジャコブ財団の皆様と
巨匠ウルス様に本当に感謝です。
最後にお土産までいただきました。
これは、チューリッヒでプロテスタントを広めるのに大きな役目を果たした、
グロスミュンスター(大聖堂)です。
そしてこちらは、Hotel Bauerという、老舗のホテルです。
このほか、チョコレートやサンドイッチなどのパンの製造、
ケーキなどのパティスリーなどのアテリエも見させていただき、
充実の2時間取材となりました。
私のお客さまも、とてもご満足の時間だったと喜ばれていました。
みなさまも、もしチューリッヒに来られた際は、
このティアゲルのお菓子、お土産にお持ちくださいね。
ゆっくり舌の上で転がしながら、味わってください。
次回はこのツンフト(労働組合)の文化を色濃く残した、
ツンフトハウスと呼ばれるレストランを訪れてみましょう。
みなさま、最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
楽しいクリスマスをお過ごしくださいませ。
アキ