注意:櫻葉小説です。



〜〜⋰〜〜〜⋰〜〜〜⋰〜〜〜⋰〜〜〜



side 雅紀


抱きついたまま
しばらくぐずぐず泣いて、
最後は2人とも鼻をすすりながら顔を見合わせた。




「……なにこれ。」

「……ひどい顔だよ、翔ちゃん。」

「お前もな。」



一瞬、間があって
どっちからともなく吹き出した。


「よしっ!」

翔ちゃんが手を叩く。

「泣いた!以上!はい終了!晩ごはん作ろ!」

「切り替え早っ!」

「腹減ると余計寂しくなるからな。」

「それはわかる!」






キッチンに並んで2人で立った。

冷蔵庫を開けて、中を覗き込む。



「豚肉ある。」

「キャベツもある。」

「卵もある。」

「……焼くか。」

「焼こ。」




結論が早い。
フライパンに油をひいて、
豚肉を広げる音がやけに元気よく響く。

「ジュ〜〜〜」って音がして、
それだけでちょっと気持ちが現実に戻る。





「雅紀、キャベツ切れる?」

「任せて!」

「指も切るなよ。」

「それは翔ちゃんの方が危ないでしょ!」

「俺は切らない!」

「この前切ったじゃん!」

「バレてたんかい!」

「ふはは」





しょうが焼きのタレを回しかけると、
甘辛い匂いが部屋に広がった。


「あー……この匂い。」

「うん。」

「ちゃんと“家”って感じする。」

「するな。」




「雅紀、皿!」

「はいはい!」

「スプーン!」

「はーい!」



無駄に元気。
無駄に声が大きい。

テーブルに並ぶのは
・豚のしょうが焼き
・キャベツ山盛り
・冷奴
・インスタントの味噌汁


「……完璧じゃん。」

「完璧だな。」




向かい合って座って、
少しだけ声を張って言う。


「いただきます!」
「いただきます!」



もぐもぐ食べながら、
わざと明るく話す。


「竜也、絶対向こうで野菜不足だよ。」

「わかる。肉しか食ってなさそう。」

「また胃もたれして連絡してくる。」

「その時は俺がアドバイスする。」

「英語で?」

「なんで英語www」

「あはははは」






「竜也くん、これ好きだったよね。」

「……うん。」





一瞬、空気が揺れる。
でも翔ちゃんはすぐに、
わざとらしいくらい明るく言った。



「あー!これ!このキャベツ俺が切ったところ!綺麗だろ?!」

「え?!違うよ。翔ちゃん結局は最後手でちぎってたじゃん!」

「え?これ…雅紀が切ったところなの?」

「どう見てもそうだよ。」

「マジかぁ〜」

「ふふふ」





笑いながら箸を動かす。





「……でもさ。」

翔ちゃんが、キャベツを一口噛みながら言う。




「向こうでも、ちゃんと飯食ってるといいな。竜也……。」

「うん。」

「寝てるといい。」

「うん。」

「無理しすぎてないといい。」

「……うん。」





少しだけ静かになる。
でも俺は、すぐに口いっぱいにご飯を詰めて言った。



「大丈夫!竜也くん強いもん!しっかりしてるし!」

「そうだな。」

翔ちゃんも笑った。


「だから俺達も、ちゃんと食って、ちゃんと寝る。」

「そうそう!」

「次会う時に、元気じゃないと怒られる。」

「それはイヤ!」

「だろ?」




食べ終わって、
皿を流しに運びながら、




「あー腹いっぱい。」

「食ったなぁ。」

「ちょっと元気出た。」

「俺も。」




寂しさはまだ胸にある。
でも今は
ちゃんと“生きてる生活”の中に戻ってきてた。




「なぁ雅紀。」

「なに?」

「明日、竜也に写真送ろ。」

「いいね!俺たちの元気なとこ!」

「嘘でも元気なとこ!」

「嘘でもwww」




笑い声が、
静かな部屋にやさしく広がった。








次は土曜日です。