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ツイッター「安倍晋三発言集」は安倍総理の思想、信条、考えかたを知るうえで貴重な存在だ。

過去の発言から厳選した言葉を繰り返しツイートしてくれるので、記憶力に自信のない私でもどんな内容だったかを大体覚えている。

しかし、次の発言内容には記憶がなかった。

この発言がいつ頃のどんな場でのものかと調べてみたら、なんと愛読書の『美しい国へ』（安倍晋三著）に書かれていた。何度か読んでいるはずなのに、思い出さなかったのだ。
以前は今ほど外交に興味がなかったからか年のせいなのか。

それはともかく、この本が出版されたのは2006年7月だから、書いたのは小泉内閣の官房長官時代ということになる。その第4章「日米同盟の構図」に”リベラルが穏健というわけではない”という項があり、そこには次のように書かれている。

日本には、アメリカの民主党はソフトで、共和党のほうが強硬だというイメージをもっている人がよくいるが、それは歴史的にみれば大きな誤解だ。
ケネディ大統領は、１９６１年１月、就任演説で、

「我々に好意を持つ者であれ、敵意を持つ者であれ、すべての国をして次のことを知らしめよ。我々は自由の確保とその勝利のためには、いかなる代償も支払い、いかなる負担も厭わず、いかなる困難にも進んで直面し、いかなる友人も助け、いかなる敵とも戦う、ということを」

と言った。ブッシュ大統領がこれと同じことをいえば、おそらく「何と好戦的な」といわれるだろう。ケネディは、リベラルの代表格であり、民主党出身の大統領である。アメリカの大統領、表現こそ違え、じつは代々、同じような主張をしているのである。
（美しい国へ　Ｐ119－120）

私も以前は漠然と共和党のほうが強硬で民主党はリベラルだと思っていたが、最近はそうでもないと感じている。日本を戦争に追い込んだのも、日本の戦後レジームに強く関わったのも米国の民主党政権なのだ。悪夢の民主党は日本だけではないのである。

ただ、当時と比べるとアメリカは政権が共和党か民主党かに関係なく、少なくとも軍事面ではかなりソフトになっていると思う。中国の台頭を許し北朝鮮を核保有させてしまったオバマ大統領、世界の警察をやめたがっているトランプ大統領と続いたからだ。

実は、安倍総理は上記の文章の前に次のようなことを書いている。

”リベラルが穏健というわけではない”
　現在のアメリカの外交には二つの考え方があるのはたしかだ。
　一つは、二十一世紀のグローバル化した時代には、アメリカのスーパーパワーをもってしてもコントロールできない問題がつぎつぎに起きるから、軍事力にのみに頼らず、他国を魅了する政治的イニシアティブを発揮するなどして、国際的な協調に外交の比重を置こうという意見だ。かつてクリントン民主党政権で国防次官補をつとめたジョセフ・ナイに代表される、いわゆる国際協調主義の発想である。

　もう一つが、混沌の時代だからこそ、世界の安定の基礎には、アメリカの軍事力が不可欠なのであり、アメリカと利益の相反する国と妥協することは、国益を損なうばかりか、世界を不安定に導く。だからアメリカは、超大国の地位を長く保ち、必要に応じて行動しなければならず、それが世界の安定につながるのだ、とする単独行動主義である。しかしどちらも（一方はハードパワー、他はジョセフ・ナイに代表される、いわゆる国際協調主義、ソフトパワーのことを指す）、アメリカの理念を信じ、アメリカは世界のなかで絶対的に優位な立場を保つべきであるという点では、その価値観に決定的な違いはない。
（美しい国へ　Ｐ119）

この文章の後に冒頭の安倍晋三発言集の言葉が続くのである。
この部分を再読して、私は、第一次政権時からいまに至る安倍外交は、一つ目の国際協調路線とアメリカの軍事力が不可欠とする二つ目の考え方の両方を取り入れていると確信した。

まず安倍総理は、トランプ大統領と強い信頼関係を築いて悪夢の民主党政権でガタガタになった日米同盟をそれまで以上に強固なものとした。そのうえで強固な日米同盟を基軸とし、日米印豪だけではなく、英仏まで巻き込んだインド太平洋戦略を展開している。

そして、一方では地球儀を俯瞰する外交を展開して各国に国際協調を呼びかけている。
主要国はもちろん、アジアアフリカの発展途上国、中東諸国とも良好な関係を築いてきており、安倍総理はいまや世界の調整役にもなっているのである。

一方、オバマ政権、トランプ政権とタイプの全く違う政権が続いたこともあり、アメリカの考え方は当時の安倍総理の認識とはかなり違ってきている。特に軍事面では、最近の北朝鮮に関する発言や中東政策からブッシュ時代とは比較にならないソフトさを感じる。

しかし、国際協調という面では、それとは逆に自国優先のハードな政策に変わってきている。
トランプ政権は経済面で中国をはじめ各国に厳しい要求を突きつけ、受け入れられないと関税を課すなどの具体的な圧力をかけてきているのである。

まるで、軍事力を前面に出さない分をこちらの方でカバーしているように見える。
とても、国際協調主義とは呼び難い手法だが、いまのところそのやり方は一定の効果を挙げていると言えるだろう。

その結果、国際協調という面でトランプ政権と安倍政権のやり方は対照的といってもいいくらいの違いが出てきた。米国の対中政策が強硬になればなるほど、日本の対中政策はまろやかになってゆくようである。

例えば、先日のエントリ（『戦略的日中友好』2019-10-08）でも取り上げたように、「日本国民みんなが習主席の訪日を心待ちにしています」とまで述べて、両国関係の改善に注力しているのである。

このような安倍政権の対応に対し、保守派の論客やジャーナリストの多くは批判的だ。
米国が世界のルールを守らない中国に対し、経済、人権など様々な分野で圧力を高めているのに、日本が相反する動きをしているというのである。

【古森義久のあめりかノート】危うい安倍首相の対中観
産経　2019.10.13 09:26
　ワシントンから安倍晋三首相の中国に対する言明を読むと、なんとも奇異に映る。危険さえも感じる。首相自身が日本の安全保障の基軸だと宣言する同盟相手の超党派の対中姿勢とは正反対であり、トランプ政権の対中政策を否定するような観さえあるからだ。

　安倍首相は４日の所信表明演説で中国との「あらゆるレベルでの交流の拡大」を強調した。米国では逆に中国の無法な対外攻勢を抑え、対中交流をあらゆる面で画期的に縮小するようになったのだ。だが米国と比較しなくても安倍首相の言明には無理が多すぎる。首相の対中融和姿勢は１月の施政方針演説での「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」という言明の延長だろう。

　だが日本領土の尖閣諸島の日本領海に武装艦艇を恒常的に侵入させ、同諸島の武力奪取の構えさえみせる中国との関係がなぜ「正常」なのか。
（中略）
　習近平政権は日本には微笑をみせ始めた。国内でも反日と映る活動を抑え出した。トランプ政権から全面対決を迫られ、日本との対立を減らして、日米離間をも狙うという戦術である。その証拠に前記のような日本への敵性ある政策の根幹はなにも変えていない。
（以下略）
https://www.sankei.com/world/news/191013/wor1910130004-n1.html

安倍総理がここで指摘している程度のことを理解していないと考えることに逆に驚く。
拙エントリ『戦略的日中友好』にも書いたので詳細は省くが、日米は全く違う手法ではあるが、協力しながら暴走する中国に国際ルールを尊重させようとしているのだ。

目指すのは、中国が「競争から協調へ」「日中は脅威でなくパートナー」「自由で公正な貿易の推進」の３原則に沿った施策の転換を進めることなのである。
軍事面での備えは忘れてはいけないが、武力衝突になればどこも得にはならないのだ。

安倍総理がトランプ大統領に相談もせずにここまでやれるはずがなく、役割分担をしていると考えるのが自然ではないか。
私たち国民は安倍総理の『戦略的外交』を信頼して、ゆったりと構えていればいいと思う。

（以上）

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安倍外交の真髄