事件は退屈な日常の中にひそんでいる | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

野獣のような事件は、いつも羊のような日常のなかにひそんでいる。
ツタヤでDVDを借りたとき、このようなクーポン券をもらった。
「ガスト夏のキャンペーン。欧州ビーフカレー・セット899円が599円!」
オレはガストやファーストフード店にはほとんどいかないので、そんなクーポンをもらったことさえ完全に忘れていた。
今日DVDを返しにいったとき、黒いDVD袋のなかからこのクーポン券がポロッっとでてきた。
ちょっと腹が減ったし、数年ぶりにガストへいってみるか。
店内にはいると、ひまをもてあました主婦や女子高生たちがとりとめもないおしゃべりをしているありふれた風景だ。
New 天の邪鬼日記-110728gust.jpg

運ばれてきた欧州カレーは、大衆向けにうすめられた歌謡曲のような味がした。
ウエイトレスがとなりのテーブルにいる女子高生たちに注文をとるとき、ふとテーブルの上の缶コーヒーに気づいた。
「あの申し訳ありませんが、飲食物のお持込はおひかえ願います」
ウエイトレスはこう言うつもりだったのは火を見るよりも明らかだ。
「今の聞いた?」「言ったよね、言ったよね!」
オレにも聞こえた。ウエイトレスはこういってしまったのだ。
「飲食物のお持込はおひけえ願います」
女子高生のテーブルから爆笑が起こり、オレも鼻から欧州カレーを吹き出しそうになった。
足早にキッチンへ逃げ帰ったウエイトレスのほうからも声を殺して笑うスタッフの声が聞こえる。
女子高生はツボにはまったらしく、涙を流しながら「おひけえなすって」と手のひらを上に差し出して、死にそうなくらい笑っている。
その昔、航空機墜落事故を報じた女子アナが「遺族たちは悲しみのズンドコに突き落とされました」と「言いまつがえ」て問題になったが、
まさかガストのウエイトレスに渡世人の心意気をみるとは、世の中捨てたもんじゃない。