この街には不幸な夢が多すぎる───
中国美青年黄(ワン)の言葉通り本郷が出会った人々は虚しい夢を追いかけては破滅してくばかり。
そんな不幸な街だって男一匹俺流を貫く本郷でしたが、まさかの行方不明に・・・
本当は好きなくせに素直になれない黄は本郷の行方を探して旧知の小此木大佐と接触します。
大佐によると、最近上海では武器・弾薬・阿片が以前の数倍出回り官憲の目を盗んでは内地へアメリカへと秘かに運び出されてるんだって。
そして中国内のおびただしい数の労働者が失踪し、世界各地で科学者がさらわれてるんだって。
どうやら彼らが連れ去られた先は上海から揚子江を遡った上流らしい、と。
オケー?理解した?
さてさて、小此木大佐が黄に語ったように本郷が連れて行かれたのは揚子江の上流の切り立った岩山の中にぽっかりと開いた洞窟でした。
なんとこの地下に武器製造の秘密基地があって本郷は愕然としてしまいます。
そんでついに因縁の影村月心の登場でございます。ようこそ本郷君
影村月心は日本軍の情報将校で新聞記者の本郷が内地で追っていた人物です。
いつの時代でもよくある話、相手が大物過ぎて上部から調査打ち切りを命じられ怒った本郷は腹いせに別の記事をでっち上げた。
それが「海を渡る恋」日本軍人と清朝最後の姫の恋愛悲話(ロマンチックじゃねーか)
私はかわいいものを見るとついいじめてやりたくなる性分でね
ヤバいヤバいよ本郷さん
月心こんな基地を作っていったい何を企んでいるのー
この基地は月心がシンジケートと組んで作り上げた阿片・銃器の大製造工場だったのです。
そして、その目的は───
この亜細亜に私の帝国を築き上げることだ!!
イカれてますなー
「君は私の捕虜だ。そして君は一生この工場でその好奇心の報いを受けるのだ」
サディスティック月心にそう告げられ本郷は連れて行かれてしまいます。
工場にはたくさんの人間が働かされておりまさに地獄のような有り様でちょっとでも休もうものなら容赦なく鞭が飛んでくるのです。
その非道さに耐えかねてここから逃げ出そうとする者は即射殺されてしまいます。
本郷はその仲間から以前たった一人だけ逃げられた奴がいたんだと聞かされます。
それが揚(ヤン)、同じ人間同士としてあなたと友達になれそうな気がすると本郷に言ってくれた青年でした。
革命軍の工作員だった揚は、揚子江上流で日本人による陰謀が行われているという情報を探る為に入り込みこの計画を知らせる為に脱走したと言うんです。
本郷はこれまでの出来事が繋がったのを感じました。
でも揚は、本郷の目の前で殺されちゃったんですよね・・・・
またまた大勢の新しい男たちが連行されてきました。
本郷はその中によく知った顔を見つけます。
黄でした。
黄は本郷を逃がす為に潜入して来たのです。
ところが本郷さんたら逃げるんじゃなくて俺たちの手でこの基地を爆破しようと言い出しちゃう。
黄・・・・・あぜん
そりゃこの基地で作ってるのは武器と火薬です。
そりゃそうなんだけどいかにも無謀な計画に黄は無茶だと反対します。
二人では無茶でも仲間がいればやれるという本郷の強い言葉に周囲の男たちも動かされます。
ここにいたってどーせ命はないんだやってやろーじゃねーか!!
憂いを帯びた黄の顔がたまりませんな。
長い前髪が垂れてくるのもせくしーですね。
影村月心を父に清朝の姫を母に持った影村詮(あきら)は15歳で日本を捨て中国へと渡りました。
この時代、1930年代中国は内戦状態にありました。
南京には蒋介石の国民党政府があり、毛沢東の共産党は都会から追いやられていました。
東北地方には満州国が建国され日本に占領された状況は中国人に屈辱感を与え抗日運動の気運は高まって行ったのです。
しかし蒋介石はまずは国内の敵である共産党を打ち破りそれから外敵である日本と戦う事を主張します。
そんな複雑な中国情勢の中で、黄と名乗るようになった彼は革命軍へ身を投じ抗日運動へ命を捧げようとしたのです。
祖国を他国の支配から解放し飢えや貧困に苦しまないですむ国を作る為に、若い黄はその命を共に燃やす仲間を夢見ていました。
が、ある時アジトが日本の憲兵隊に襲われ日本から来た黄は仲間から疑われ窮地に立たされてしまいます。
上海に来ていた小此木大佐に呼び止められ街角で立ち話したのを偶然見られていた事も一因でした。
小此木大佐は昔父親の親友で中国という国を愛し幼い黄を可愛がってくれた人でした。
仲間から日本のスパイだと疑われ逃亡して以来、黄の心は孤独に凍りついたままなのです。
それでも本郷の為に工場の爆破計画を練る黄を、再びあの時と同じ状況が襲います。
かつての仲間が工場にいて黄を裏切り者のスパイだと糾弾したのです。
行き場のないやるせなさに黄は深く傷つきます。
久しぶりの親子の対面は苦いものとなり、もうどうでもいい的な心持ちになってしまうのです。
まあ黄の気持ちもわかるんだけど、父親が日本の軍人ていう出自からして信用されないのはしょうがない気もしますが。
ここでチャイナクイーンが登場。
黄の事をただのチンピラじゃないと思ってたけど月心の息子だったとはね、と驚きます。
月心と組んでこんな工場作ってあんたの目的はなんなんだい?
実は彼女はロシア革命で祖国を逃れてきたんですよね。
彼女もまた故郷を失い街をさすらい誰かを何かを求めてさ迷う姿は黄と同じ境遇なんです。
まったく上海って街と来たら・・・
でもなんと言うか、酒場の歌姫がチャイナクイーンだったとか、久々の親子対面で月心が黄に口づけしてきたり、チャイナクイーンが宙吊りにされた本郷を鞭打ちしたりと、ベタな展開やご都合主義がなにやら昔の香港映画みたいです。
黄は今までとは別人のように明るい表情を見せ雑踏の中へ消えて行きました。
一本気な熱血漢の本郷と他人を寄せ付けない黄。
でも成熟した大人の男性である本郷と違い黄はまだ若いのだもの。
本郷の存在が黄の心に再び生きる意味を見いださせたのかも知れません。
本郷も晴れ晴れとした気持ちで黄が消えて行った街の雑踏を見つめながら煙草に火をつけました。
二人の物語にはまだ続編があるのですが今日の所はこれにて終了でございます。
Solong 上海