1975年、横浜山下町。







加門良(沢田研二)は、「クラブ日蝕」でギターの弾き語りをする歌手です。
まだ若くて痩せててマジかっけー。


それだけでは食っていけず、クラブのオーナー野々村(藤竜也)から斡旋された女性を相手に、売春をしていました。


良は一晩10万で買われる高級コールボーイでした。







良には二つの秘密がありました。


一つ目は、グリオプラストーマという悪性の脳腫瘍に犯されていた事です。


突発的に起きる発作は激しい頭痛や痙攣を伴い、良を悩ませていました。







そんな良に付きまとう影。


良が以前働いていた八村モータースの社長八村(荒木一郎)が、妻のふみよ(安田道代)に命じて良の身辺を探らせていたのです。






有名なアレね。


八村が疑っていた良のもう一つの秘密。
良は、7年前に起こったあの「三億円事件」の犯人だったのです。


時効を心待ちしている良は疑いを誤魔化す為に、暴力とセックスでふみよと関係を持ち、丸め込んでしまいます。







時効成立まで日がない中、「クラブ日蝕」に三億円事件を執拗に追う刑事白戸(若山富三郎重鎮)が現れます。


良が三億円事件の犯人だと睨む白戸は、八村を拷問し話を聞き出すと、八村モータースに居座ってしまいます。


八村家のお茶の間でちゃぶ台を囲んで一緒に飯を食う重鎮、謎のホームドラマ的ノリに。

おばあちゃん役の浦辺粂子さんとも意気投合です。








一方、良は頻繁する発作に耐えかね病院で主治医(金田竜之介)を暴行、余命半年もってあと1年だと聞き出します。


やけっぱちになり電車の中でひと暴れした後、以前自分を買った事のある恵い子(那智わたる)に再び買われます。


でも胸にポッカリ穴が空いてしまったように虚しい気持ちの良は、恵い子からもらったお小遣いの札束をトイレに流してしまいます。


トイレが詰まらないかと、余計な心配をしていると、「何億あっても買えない物がある。人の気持ちと命だ」とつぶやいた良が恵い子相手にまた暴行してました。







三億円の隠し場所を探して、重鎮は良の住まいを違法に捜索し、部屋の中をめちゃめちゃにしてしまいますが金は見つかりません。


実はその金は、足が不自由で入院している良の妹いずみの車椅子に隠してあったのです。







その車椅子からはみ出していた万札(聖徳太子のお札デカっ)に、気づいてしまった看護師静枝(篠ヒロコ)を、良はまたまたセックスで自分の虜にして疑惑を誤魔化してしまいます。


部屋で一人になった良は、新たな隠し場所に移す為、車椅子から三億円を取り出しベッドに並べて眺めたりしてみます。うれしそう。
できれば峰不二子みたいに全裸で札束の上に寝たりすればいいのに・・・



その頃、八村はふみよに子供ができたので大喜びしていました。


でも実はお腹の子の父親は良だったのです。


そして麻雀の負けがこんで借金がスゴい事になってしまった八村は、オカマのヤクザ(伊東四郎笑)からの取り立てにあって、にっちもさっちもいかない状況に陥っていたのです。








「クラブ日蝕」では、良が車椅子から取り出した1枚の一万円札を野々村に見せていました。


良「捜査関係者しか知らない、一万円札の中にナンバーが控えられている物があると言ってたけど、本当に野々村さんはそのナンバーを知らないのか?」


元刑事の野々村は顔色を変えてその札にライターで火をつけます。


すると突然現れた重鎮が野々村の手首を捻りあげたので、野々村は慌てて燃え上がる札を手で握り潰します。


札は野々村の手の中で灰になっていました。





野々村は一万円札のナンバーの控えを隠し持っていました。


良♡Loveな野々村は、良が自分の手元から離れて行ってしまう事を異様に恐れていたのです。












悪魔のようなあいつは、最近何かと話題な沢田研二さんが1975年に主演したテレビドラマです。


原作は阿久悠、昭和の絵師上村一夫が作画を担当した漫画です。



アマゾンプライムで有料視聴したです。



このドラマは、実際に起こった三億円事件という昭和最大の未解決事件がモチーフになっています。


三億円事件は1968年(昭和43年)12月10日午前9時30分頃、雨の中を日本信託銀行国分寺支店から、府中の東京芝浦電気(現東芝)事業所まで従業員のボーナスを積んでいた現金輸送車から現金三億円が強奪された事件です。


現金輸送車が府中刑務所の壁を左側に見ながら走る通りに面した時、ニセ白バイに乗って警察官を偽装した男が後方から近づいてきて停車するよう合図しました。


「支店長宅が爆破された。この車にも爆薬が仕掛けられたという情報があるので調べさせてもらう。」と言うと、輸送車の車体の下回りを調べるふりをして隠し持っていた発煙筒に点火。


「爆発するぞ。早く逃げろ!」と言われて銀行員が慌てて車から降りた所、男はその輸送車に乗り込み運転して逃走しました。





現金輸送車が奪われた現場。シートを被っているのが犯人が乗り捨てたニセ白バイ。右は府中刑務所の塀。



なんでこんな鮮やかに騙されてしまったの。


実はこの4日前の12月6日に、日本信託銀行国分寺支店長宛に「現金300万を指定の場所に持ってこないと支店長宅を爆破する」という脅迫状が届いていたのです。


当日犯人は現れなかったのですが行員たちはこの事が頭にあったんでしょうな。





犯人が逃走用に使用したと見られるトヨタカローラに残されていたジュラルミンケースを報道陣に公開する捜査員。




当時大学卒の初任給が3万円の時代なので、当時の貨幣価値での三億円はすごい金額だったらしい。


また奪われた三億円のうち、番号がわかっていた500円札2000枚分のナンバーが公表されました。








この事件では、ニセ白バイ初め多数の遺留品があった為犯人はすぐ検挙されると思われていましたが、捜査は長期化。


11万人超えの容疑者がリストアップされたが、事件は未解決のまま7年後に時効を迎えています。







三億円強奪事件が起きる前に、日本信託銀行脅迫事件の脅迫状と同じ筆跡で、多摩農協脅迫事件が起こっていて、警察はこの3事件は同一犯人と見ていました。


ドラマでは2件の脅迫事件の犯人は八村で、従業員だった良が偶然知り、単独で三億円強奪事件を起こした事になっています。


良は非常に頭が切れる人物で周到な計画を立てます。


バイク屋にいたからバイクの扱いはお手の物なので、スプレーで白く塗ってニセ白バイを作ったりします。


警官の制服は、同僚がエキストラで撮影所からくすねてきたのを譲り受けたりして準備に余念がありません。


降りしきる雨の中を、沢田さんが再現する三億円強奪のシーンは臨場感があって見てて面白い。


でもこのドラマが放送されていた年末の12月10日が、実際の時効日だったので、揶揄されてるようで当時の警察は面白くなかったでしょうねえ。


毎回、ドラマのラストは沢田さんが「時の過ぎゆくままに」という名曲を歌うシーンなんだけど、「三億円事件の時効まであと◯日」というテロップが出て、なんかあおってるみたいだよね。


懸命に捜索してる警察を愚弄しとる、とか今だったら言い出しそうな人がいそうだ。




それにしてもこの良を演じる沢田さんが、いつも気だるげで虚無な感じがハマリ役でねー。


沢田さんに惚れ込んでる伝説の演出家久世光彦や、沢田さんと仕事をしたかったという阿久悠(モテモテだねー)とか、皆から崇拝される沢田さんてただのアイドルじゃないんだね。


きれいで、一見優しい良はそりゃあよくモテます。
ちょっと見は弱い存在のようにも見えるが、実はたちが良くない。
美しさの奥に何か暴力的なものを秘めているのです。



良が自分から女を抱く時は、疑いを持たれたり、犯人だとばれそうになった時です。



自分の虜にして支配する為に「前から好きだった」なぞと甘い言葉で抱いてしまう。


そうして女が夢中になってしまうと、自分はもう所在なげになんか物憂げな顔で、窓辺から外を見てたりするのです。


もうすべてに飽き飽きしたなーって感じで。




良は女だけでなく男さえ魅了してしまいます。


藤竜也さん(カッコいい)演じる野々村は「汚い仕事は俺に任せろ。おまえの為なら何でもしてやる」と言ってはばからないほど良に惚れこんでいます。


野々村はかつて三億円事件の捜査を撹乱する為に、わざと誤認逮捕をしてそれが原因で警察を辞めているのです。


そんな良の為に全てを捨てた野々村なのに、良はいつも塩対応。


報われない愛に、苦しそうにリョオオー!!と叫ぶ野々村の、男の純情が滑稽でなんか切ない。


みんなそれぞれが一生懸命に生きてはいるんだけど、うまくいかない人生に虚しさを抱えていて、良の中に光を見いだしては引き寄せられていくんだよね。


でも結局良は誰も愛していなかったんだろう。
まさに悪魔のようなあいつなのだ。




冒頭はデカダンなジュリーの存在感でミステリードラマっぽいのだが、話が進むうちに良が三億円を奪われたり奪い返したり、記憶喪失になったりとまさにジェットコースターな暴走展開で先がまったく読めないです。


堕ちていくのが幸せだよ、と歌う切ない名曲と、昔のテレビドラマの面白さと、沢田さんの魅力を知ってしまった。









ああこんな古いドラマを面白いと感じる自分は、やっぱり古い感覚の人間なのだろうか。



ま、いっか。