先日、数年ぶりに父方の従兄が訪ねてきた。
関西在住だが、東京で学会があり、そのついでに立ち寄ってくれたのだ。

彼は僕より三つ年上。いまは某大学病院で教授職にある。父親である叔父も医師だったから、いわゆる医家の流れを継いだ形になる。

一方、叔父の弟である僕の父はサラリーマン。僕もそのまま民間企業へ就職し、今に至る。同じ祖父母の血を引きながら、家系の枝はきれいに二つの方向へ分かれた。

ただ、不思議なことに、僕と彼はよく似ている。外見もそうだが、氏名も一文字違い。初対面の人が見たら、きっと兄弟だと思うだろう。僕は一人っ子だったので、彼は兄のような存在でもあった。

そしてもうひとつ。多くの従兄弟たちの中で、ピアノを真剣に弾いていたのは、彼と僕だけだった。

彼は小中学生の頃、ジュニアのコンクールで優勝するほどの腕前で、親族の間では「きっと芸術の道に進むのだろう」と思われていた。

一方の僕も、そこまでの才能ではなかったけれど、同じように音楽の道を目指して、日夜練習に励んでいた時期がある。けれど結局、彼は医学の道へ。僕は民間企業へ。どちらも音楽を職業にはしなかった。


二台のピアノ、従兄弟との夢
 

若い頃、誰にも言ったことはないけれど、彼とピアノデュオを組んで、趣味でもいいから一緒に演奏できたら楽しいだろうな、と真剣に妄想したことがある。

 

連弾か、二台ピアノか。小さなサロンで弾くのもいい。そんな空想を、ひとりでこっそり楽しんでいた。

もちろん、実現することはなかったけれど。

さらに、もうひとつの想像もある。もし彼の専門が脳神経内科だったらと。いまとはまた別の関係が生まれていたかもしれない。そんなことも、ふと思う。

僕も彼も、人生の節目ごとに小さな選択を重ねて、気がつけばまったく違う場所に立っている。どの選択も、そのときは大きな分岐には見えなかったはずなのに、振り返れば風景はずいぶん変わった。

外見が似ていて、名前もほとんど同じで、音楽という共通の記憶を持ちながら、別々の道を歩んできた二人。きっと前世では兄弟だったね、間違いなく(笑)。

もしパラレルワールドが実在するなら、そこでは僕たちはピアノデュオを組んでいるかもしれない。あるいはまったく違う仕事をして、違う場所で暮らしているかもしれない。

もちろん、その世界を覗くことはできない。けれど、こうして現実の世界で再会すると、もうひとつの世界線の存在を、ほんの少しだけ感じることができる。

人生って、不思議で面白い。

 

♪ 今日の一曲 ♬

 

ビリー・メイヤール作曲「ホンキー・トンク」を、ラベック姉妹の演奏で。学生時代、友人とデュオで弾いていた看板曲。二台のピアノが対話するように転がっていく。もし別の世界線があったなら、従兄と向かい合って弾いていたのかもしれない。

 

Honky Tonk · Katia Labèque · Marielle Labèque