生まれてから半世紀以上を過ごしてきた。それが、オレンジ色の中央線の沿線だ。

なにかと評判の悪い、通勤ラッシュの大混雑。頻繁な人身事故。悪名高い路線、と言われることも多い。

確かに、事実ではある。それでも、僕にとって中央線は、少し違う存在だ。

子供時代、父の社宅は井の頭公園の隣にあり、吉祥寺駅からも近かった。南側からは井の頭公園が、北側からは中央線の高架が見えた。

窓の外には、緑と線路。今思えば、ずいぶん贅沢な景色だったと思う。

オレンジ色の電車は、決まった時間に、決まった場所を通り過ぎていく。それが、当たり前のようにある日常だった。

 

オレンジ色の中央線電車、東京行き
オレンジ色の中央線

 

父の会社が休みの日曜日。中央線に乗って東京駅まで往復するのが、僕にとっての一大イベントだった。

特別な目的があったわけじゃない。ただ乗って、終点まで行って、また戻ってくる。

車窓を流れる風景に夢中になっていた、あのころ。帰り道では、決まってアイスクリームを買ってもらうのがおきまりだった。

当時は何とも思っていなかったが、仕事で疲れていただろう父が、よく僕のために付き合ってくれていたと思う。今更だけれど、父には感謝の気持しかない。

以来、通学も通勤も、オレンジ色の中央線とともに人生を歩いてきた。

何度も引っ越しを繰り返してきた。今の自宅も、買い替えを重ねて3回目。それでも、いまだに中央線だ。自分でも、なんでだろうと思う。

僕にとっての東京の原風景は、中央線沿線の街並みと言っていい。派手ではないが、なぜだか不思議と落ち着く。たぶん、幼少期の刷り込みなのだろう。

JRの皆さんが聞いたら、少しは喜んでくれるだろうか。

なので、住み替え先を探している今も、やっぱり引っ越し先として中央線沿線に目が行ってしまう。京王線や小田急線も候補には挙がる。便利だし、街もきれいだ。でも、なんか違う。

何が違うのか、うまく説明はできない。たぶん、理屈じゃない。何度選び直しても、気がつけば戻ってきてしまう。

 

それが、僕にとっての中央線なのだと思う。

 

♪ 今日の一曲 ♬


EPO「ダウンタウン」。1980年リリース。シュガー・ベイブの楽曲を、EPOがカバーした一曲。軽やかなテンポに、しなやかなベースライン。派手に主張しないリズムと、角の取れたシンセの音色が、力まず、街の空気に自然と溶け込む。

 

DOWN TOWN・EPO