分水嶺

   ―負けてたまるかこんちくしょう―

 

 

第一章  津軽                       

第二章  上京                       

第三章  緑のターフ                    

第四章  ホリデイ・イン・ラスベガス            

第五章  リストラ                     

第六章  海と山、二つの世界自然遺産                      

第七章  参鶏湯とキムチ                  

第八章  尊敬する父                    

第九章  修行の地                     

第十章  英国風の美しい街                 

第十一章 奇岩の名所                    

第十二章 不夜城の街                    

第十三章 出逢いそして恋                  

第十四章 最愛の母                     

第十五章 大勝負                      

第十六章 帰国                       

第十七章 再出発の地・東京                 

第十八章 三年後                      

 

 

 

  第十二章 不夜城の街

 

  1

 

       マカオには面白いゲームがあることを発見した。

 

 これまでに見たことのない『大小』というゲームだ。

 

 「勝負」の勝ち負けは、三つのサイコロの出目で決まり、幾通りかある。

 

 基本は出目の合計数が、

 

              四から十までのグループを『小』、

 

              十一から十七までのグループを『大』

 

 として、数の小さなグループ、または大きなグループのどちらが出るかを賭けるというものだ。

 

 そして最大配当は、ふられたサイコロの出目が

 

              三つとも同じであれば『トリプル』

 

 といい、百八十倍の高額配当を受け取ることができる。

 

 そのほかには、サイコロの出目の合計数を当てるという賭けもある。

 

 四(最小)または十七(最大)が出ると、五十倍の配当、それ以外の数字が出た場合は、最小または最大の配当より段階的に少なくなっていく。

 

 勝ち負けのルールはいくつかあり、配当の多寡はあるが、なかなか面白いゲームだと思う。

 

 僕は、ルーレットで勝負しているが、疲れを感じると、この『大小』のテーブルで気晴らしをすることがある。

 

             それから、マカオには

 

                 『エッグタルト』

 

                        という美味しいスイーツがある。

 

 ルーレットで負けが込んでいるときには、気分転換のため、ふらっと街へ出かける。

 

 そのときは、エッグタルトを販売しているカフェに立ち寄るのが楽しみの一つだ。決まったカフェに行くので、店のスタッフは僕の顔をちゃんと覚えてくれている。

 

 店に入ると、「いらっしゃい!豊さん」と挨拶してくれる。

 

 いつからかは覚えていないが、彼らは、僕のことを「豊さん」と呼ぶようになった。

 

 僕は、いつもコーヒーとエッグタルトを二個オーダーしている。

 

 このようにオーダーが決まっていることから、スタッフと言葉を交わすようになり、僕の名前を覚えてくれたようだ。

 

      このカフェでエッグタルトを食べ、

 

               脳に糖分を補給する

 

             ことにより疲れが取れ、気分一新し、生き返ってくるように感じる。

 

 これに、散歩という有酸素運動が加わると、さらにリフレッシュしていくのを五感で感じることができるのだ。

 

 

       マカオの街はいつも観光客でごった返している。

 

 代表的な観光地としては、セナド広場、聖ポール天主堂跡などがあり、他にも歴史的な名所旧跡がたくさんある。

 

 マカオタワーも大勢の観光客が集まる人気スポットだ。

 

 このタワーで、特に人気があるのはバンジージャンプとスカイウォークだろう。

 

 僕は、高所恐怖症があるので挑戦できないが、他人が高い所から飛び降りるところを見るのは大好きだ。

 

 何度見ても飽きることはない。あの勇気が僕にあれば、カジノでの勝負に少しは役立つのではないかといつも思っている。

 

 そのようなことを考えながら数人のジャンプを見た後、自分の心を奮い立たせてカジノに戻った。

 

  2

 

              マカオの街に夜はない、

 

 いわゆる不夜城の街と呼ぶのが相応しいのだろう。

 

 四六時中、観光客やギャンブラーたちで街全体が賑わっている。

 

 夜といわれる時間帯に入ると、カジノ内には、明らかに娼婦とわかる女たちが、客となりそうな男たちを漁っているのが見てとれる。

 

 その女たちの前をすり抜けて、『大小』のテーブルに向かう。

 

 そこには、座席の後ろにも賭け客や観客が群がり、二重に取り巻いているテーブルがあった。

 

 恐らく、大か小のどちらかに偏った出目になっているに違いないと思って、後ろから覗いてみる。

 

 思ったとおり、小の目がボードの上から下までずらりと並んでいる。

 

 客は、次も小が出ると信じているのか、

 

              全員が『小』に賭けている。

 

 そこへ、七十歳は過ぎたであろう一人の男性が、『大』に五千ドルを賭けた。一ドル二十円として、日本円で十万円の金を賭けたことになる。

 

 それを見た群衆がざわつき始めると、新たな客たちも急ぎ大のエリアにチップを置き始めた。

 

 これをきっかけに、小から大に賭け替える客まで出てきて、一気にこのテーブルを囲む空気が熱くなってきた。

 

 「恐らく、小がもう一度続くだろう」と、頭の中で、もう一人の僕が囁いている。

 

 ディーラーが、勝負の合図となるベルを「チン」と鳴らし、覆っている蓋を開け始めた。

 

 皆が固唾を呑んで、何が出てくるか凝視している。蓋が開くと、そこには「三,五,六」の

 

              賽の目が、天を睨んでいた。

 

 出目を合計すると十四の大となる。

 

 大勢の観戦者が取り囲んでいるこのテーブルに、どよめきが起こった。

 

 この勝負に勝ったのは、大に五千ドルを賭けていたあの老人を始め、老人につられ、後から賭けた客たちだったのだ。

 

 ディーラーが一万ドルのチップを老人に渡すと、観戦者は、波が引くかのようにこのテーブルから離れて行った。 

 

 テーブルに残ったのは、席に座っている賭け客のみとなった。

                   

 

 ところで『大小』は、同じ目のサイコロが三つ揃うと配当は百八十倍になる。百ドルをこれに賭けたとすると一万八千ドルを受け取ることができるのだ。

 

 このような当たり前の計算をしていると、もし、これを当てれば、と思っている僕がいることに驚いた。

 

 『一発逆転』という言葉が頭の中を駆け回っていたのだ。

 

 僕は、『大小』の出目も記録するようになっていた。とりあえず今日も、出目の記録をとりながら、時々ベットするという賭け方で、一時間程度遊んだ。結果、負けはしたが、その額はたいしたものではなかった。

 

 良い気分転換となったので、このテーブルを離れ、ルーレットのテーブルへ向かう。 

 

  3  

 

 ルーレットのテーブルは五台ある。そのうちの一つのテーブルは、たった今、勝負の結果が出たところだった。

 

              的中番号は、

 

                   「0」

 

                      とボードに表示された。

 

 その直後に、一つ先のテーブルでも、0番ポケットにボールが転がり込んでいったのがはっきり見えた。

 

 ケアンズにいたとき、「0番がくると連鎖するように他のテーブルにも0番が続く。そして0番がきたテーブルでは、再度の0番や、隣の26番、その先の3番に続くことがよくある」という話をジャックから聞いていた。

 

 もしやと思い、急いで、今0番が出たテーブルの隣のテーブルで参戦し、0番のエリアに百ドルチップを置いた。 

 

 ディーラーのスピニングアップの宣言に続き、投げ込まれたボールの行方を、賭け客や観戦者のギラギラした目が追っている。

 

 勢いが落ちたボールは、コロコロと各ポケットの入り口を舐めながら進んでいく。

 

 ほとんど転がりをなくし、一旦、3番ポケットに入ったボールは、少し弾んで隣の26番ポケットを飛び越し、0番ポケットに飛び込んでいった。

 

         「ウワ~ッ」  「オオッ!」  「イェ~イ」

 

 テーブルを取り囲む賭け客や観衆から歓声が沸きあがった。

 

 この0番には、大勢の客がチップを置いていた。

 

 僕もその一人である。思わず、「やった」と小さな声で、この勝ちの味をかみしめていた。

 

 なお、他のテーブルを見回したが、0番が続いたのは僕らのテーブルまでだった。

 

 セオリーのようなものがあっても、それがすべてではない。少ないチャンスをものにする勝負勘が、勝利を引き寄せるということを肌で感じた勝負だった。

 

 ディーラーが、三十六倍の配当をそれぞれの客に渡した後、0番の上に置いているマーカーをピックアップし、次の勝負が始まった。

 

 僕はジャックの言葉どおり、

 

  0番、3番、26番のそれぞれに百ドルチップをそっと置く。 

 

 0番がくれば連続する可能性があるとともに、近くの3番や26番に入る確率も高いというジャックの言葉を信じ、それに賭けてみようと思ったのだ。

 

 他の客も、思い思いの番号にチップを置き始めた。見ると、僕と同じような賭け方をしている客が若干名いた。

 

 すべての客がほぼ賭け終わった頃合いを見計らって、ディーラーがスピニングアップの声を発し、ボールを思いっきり捻りながら投げ込んだ。

 

  

 

     (3-2へつづく)

 

         次は、3月11日投稿予定です。