機甲兵団ワルキューレ ~第24話 嵐の予兆~ | 台本、雑記置場

台本、雑記置場

声劇台本を書いています。また、随時怪談話を募集しております。皆様が体験した怖い話、聞いたことのある奇妙な話、ぜひお気軽にお寄せくださいませ。
・連絡先・
Twitter:@akiratypeo913
mail:akira3_akira3★yahoo.co.jp ★→@に変えてください

機甲兵団ワルキューレ ~第24話 嵐の予兆~


~登場人物~
シエミナ=シェード
・オペレーター兼メカニック見習い。
3人のパイロットの妹的存在。温和な性格で、まだ未熟なところも多々ある。


エネス=トルーン
・ラグナロク本部総司令。司令官として若いが、戦略に長けている。
全体を冷徹に見通す冷たい戦略眼と、未熟なクルーたちを支える優しさを併せ持つ。


マリア=アルカディア
平和主義コミット最大規模を誇るアルカディアの若き指導者。父の遺志を継ぎ
平和主義路線を拡大させていく。エネスを信じラグナロクに協力を申し入れる。


ウォルフ=ヨービル
・アルカディア戦闘家老。平和主義のアルカディアにおいて、防衛、訓練を一手に
引き受ける人物。先代からアルカディアに仕えており、若きマリアの良き相談相手。


フォンベルク=クロウ
コミット:クローレの設立者。1技術者から立身出世した野心家。
クローレ機動大隊のファントムの設計にも深く携わっている。
搭乗ファントム「アイオテ」で機動大隊とともに進軍する。


アベル=ブラウン
クローレ機動大隊の若き隊長。指揮能力・操縦能力ともに優れた戦士。
クローレに絶対の忠誠を誓い専用ファントム「バルムンク」で多くの戦場に立つ。


・用語解説・
ファントム:人型の戦闘兵器。武装を変えることで様々な戦場に高い適応性を持つ。
コミット:国に代わり世界を動かすようになった企業、経済、資源を多く持つ
  様々な集団。それぞれの資本を武器に領土を日夜奪い合う。
ワルキューレ:コミットへの抵抗組織「ラグナロク」のファントム機体コード名。


~劇中表記~
ミナ:♀:
エネス:♂:
マリア:♀:
ウォルフ:♂:
クロウ:♂:
アベル:♂:


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ミナ:司令、見えてきました。もうすぐアルカディア領内に入ります。
エネス:わかった。ふむ、襲撃の爪跡はまだはっきりと残っているな…。


ミナ:かなりの激戦になったようですから…。
エネス:まさかクラウス社連合がアルカディアを強襲するとはな。


ミナ:やはり、事実上サハドを抑えたクローレに対抗するためでしょうか?
エネス:それ以外には考えられまい。ドーベル殿も思い切ったことをする。


ミナ:この情勢、一体どうなるのでしょう?
エネス:それをマリア様と話にいくのだ。その時はお前も同席しろ、シエミナ。


ミナ:わ、私もですか!?
エネス:お前もこれからの事はしっかりと頭に入れておく必要がある。


ミナ:かしこまりました…。
エネス:どうした?不服そうだな。


ミナ:今回の訪問と会議が大事であることは理解しているつもりです。でも、
  せめて1日や2日、フォルたちと過ごす時間を作ってもよかったのではないで
  しょうか?リゼアさんはともかく、他の皆は疲れ切った顔をしていました。
エネス:私自身がアルカディアに足を運べるのは今をおいてほかない。
  今ならばクローレとは同盟があり、クラウス社連合が立て直しを図るのにも
  時間がかかる。一瞬だけでも顔を合わせられたのだ。今はそれでいい。


ミナ:でも!
エネス:これからあいつらには、サハドの東地区の占領戦で今まで以上に過酷な
  任務が待っている。苦しくても耐えねばならない。リゼアがついている。
  なんとかするだろう。


ミナ:リゼアさんの経歴を見ました。幼いころから歩兵、戦車兵をへてファントムの
  パイロットに…まさに百戦錬磨(ひゃくせんれんま)ですね。
エネス:ウェインには優しさがあった。リゼアにもそれはあるが、戦場では
  冷徹になりきれる。3人も多くの事を学ぶであろう。さて、着いたな。
  シエミナ、いくぞ。
ミナ:はい、司令!


・・・


ウォルフ:マリア様、ただ今通信が入りました。間もなくラグナロクのエネス
  司令が到着なさいます。
マリア:そうですか。…こんなに早くお会いする機会を持てるなんて、嬉しい
  ことですわ。


ウォルフ:この機に様々なことを詰められると良いのですが…。
マリア:クラウス社連合に対する姿勢についても、協議しなくてはなりませんね。


ウォルフ:クローレについても、ですな。
マリア:しかし、クローレは私たちに援軍を下さいました。これは信義の現れ
  ではないのでしょうか?


ウォルフ:マリアさまは何事もまっすぐにお受けになられます。ですが、
  フォンベルクという男は一筋縄ではいかないでしょうな。
マリア:と、いいますと?


ウォルフ:あのタイミングでの援軍…すでに場の優劣は決定しておりました。
  あえて戦力に傷はつかず、利だけをとった形ですな。
マリア:しかし、あの援軍こそが勝敗を決したといえるのではないでしょうか?


ウォルフ:そこが、あの男のうまいところでございますな。我々には、間違いなく
  クローレに借りが出来てしまったことになります。
マリア:そんな計算を…本当に?

SE:ゲートが開く音


ウォルフ:…エネス司令が到着したようです。話しの続きは彼らを交えてに
  いたしましょう。
マリア:そうですね。すぐにエネス司令をここにお通ししなさい。
ウォルフ:はっ…。


・・・


クロウ:いやぁ、なかなかに速い。もう少しすればアルカディアだ。あっという間
  だねぇ、アベル。
アベル:機動大隊の特殊ブースターと地上空母のカタパルトを併用しております。
  さすがに速度も出ます。


クロウ:ふふっ、相変わらず不機嫌そうだねぇ、アベル?
アベル:当たり前です!なぜフォンベルクさまが自らアルカディアまで出ていく
  必要があるのですか!?クラウス社連合への対応の話し合いならば、通信
  回線で十分ではないですか!


クロウ:怖い怖い。そう怒るな。直接会って話すことも大切さ。
アベル:おまけに護衛は私ひとりなど…機動大隊の半分は動員するべきです!


クロウ:もっとも信じているアベルと、我が機体アイオテ。これで十分さ。
アベル:くっ…レイア達さえいなければ、ミーアも連れてこれたものを…。


クロウ:悪戯っ子にはお目付け役が必要だからねぇ。ミーアも苦労するね。
アベル:しかし、なぜアルカディアには事前に連絡をいれないのですか?
  これではまるで強襲です。そうでなくても先の戦闘でアルカディアは神経を
  とがらせている事でしょう。


クロウ:変に構えられたくない。私はね、アベル。本音を語りに来たんだよ。
  マリア様とエネス君にね。
アベル:フォンベルク様の…本音?


クロウ:そうさ。それさえうまくいけば一気にすべて片が付く。ま、難しい話
  だけれどね。やっておく意味はある。
アベル:だからといって…。全く、アイゼンとの戦闘から、気の休まる暇も
  ありはしません。


クロウ:お疲れ様。
アベル:誰のせいだと思っておられますか!もう少しご自身を大切にですね。


クロウ:ありがとう、アベル。君には感謝しているよ。
アベル:なっ…!は、はは!ありがたきお言葉!
クロウ:君は素直でいいね。さぁて、行くとしようか。


・・・


ウォルフ:マリア様、エネス司令とシエミナ殿をお連れしました。
エネス:マリア=アルカディア様。お目に掛かれて光栄です。ラグナロク司令、
  エネス=トルーン、ただいま参りました。


ミナ:マリア様!お会いしたかったです…。ラグナロクオペレーター、
  シエミナ=シェードです。
マリア:エネス司令。それにシエミナ様。お会いしたかった…。よくぞお越し
  下さいました。マリア=アルカディアです。


エネス:もったいなきお言葉です、このエネス=トルーン…
マリア:待ってください、エネス司令。先の通信会議でも話しました。我々は
  同志。どうか、楽になさってください。…ミナもね。


ミナ:マリア様…ありがとうございます。
マリア:ふふっ、マリアとは呼んでくれないのね。


ミナ:そ、それは…がんばります!
ウォルフ:さあ、エネス殿。そういうことでございます。此度は胸襟(きょうきん)
  を開き話し合いましょう。


エネス:ウォルフ殿、感謝いたします。
ウォルフ:時が惜しいです、早速会議に入りましょう。まずはクラウス社連合に
  対してですが…。む?通信室より内線が…失礼いたします。…今は会議の
  最中だ、何事…むっ、なんだと?


マリア:ウォルフ、一体どうしたのですか?
ウォルフ:急速に我が領域に接近する機影を確認した、とのことです。


ミナ:そんな!また強襲なのですか?
エネス:機体の数は?


ウォルフ:それが…わずか2機、そのうえ機体の識別コードを送ってきております。
マリア:どういうことでしょうか?


ウォルフ:こちらのデータベースにつなぎます。ご覧ください。
エネス:このコードは…アイオテとバルムンク?クローレ…フォンベルク殿が?


ミナ:実質クローレの上位2機?どうして…
マリア:…奇襲では、無さそうですね。ウォルフ、お迎えの準備を、ただし…


ウォルフ:はっ。十分すぎるほどに警戒いたします。
マリア:お願いします。…すこし待ちましょう、エネス司令。
エネス:はっ。…フォンベルク=クロウ…、何を考えている?


・・・


クロウ:ふふ、まさか早速会議の間にまで案内頂けるなんて思いもしなかったよ。
  直接はお初にお目に掛かります、マリア様。私はクローレを束ねております、
  フォンベルク=クロウと申します。…エネス君も、元気そうでなにより。
アベル:アベル=ブラウンです。皆様、よろしくお願いいたします。


ミナ:アベルさん…。
マリア:マリア=アルカディアです。先の一戦では心強い援軍、誠にありがとう
  ございました。


クロウ:いえいえ礼には及びません。同盟コミットとして、当然の行動ですよ。
ウォルフ:して、フォンベルク様。このたびは突然のご来訪、どういたご用件
  でしょうか?


クロウ:あっはははは。単刀直入だねぇ、嫌いじゃあないよ。戦闘家老、
  ウォルフ=ヨービルくんだったかな。
エネス:フォンベルク様、お会いできて光栄です。


クロウ:私もだよ、エネス。君の冗談が私は大好きでねぇ。今日も楽しみにして
  来たんだよ。
ミナ:お言葉ですが、司令は会議の場で冗談などいいません。


クロウ:わかっているさ。ごめんね。
アベル:フォンベルク様!このような時におふざけになってはなりませぬ。


エネス:それでフォンベルク様。今日は我々と雑談をかわしにいらっしゃった
  のでしょうか?
クロウ:なんだい、皆してなかなか急かすねぇ。もう少しゆるりと言葉を交わし
  たかったが…。まあいい、本題に入ろう。


マリア:お願いいたします。会議ののち、ゆっくりとお話も出来るでしょう。
クロウ:では…。はっきりといいましょう。マリア=アルカディア。そして
  エネス=トルーン。クローレに降りたまえ。


マリア:っ!…それは、降伏しろ、ということでしょうか?
クロウ:降伏、とは少し違うね。私たちと共に来い、ということさ。


エネス:それと降伏と、何が違うのでしょうか?
クロウ:エネス。私は君の演説を聞いた。素晴らしいものだとも思う。共感する
  ことも多くあった。だが…あれではただの理想論だ。


ミナ:司令の演説が…理想論?
ウォルフ:随分な言われようですな、フォンベルク様?


クロウ:まあ聞き給え。いいかい?君の説いた演説の先に何がある?戦いの無い
  世界。そうだろう。けれどね、その世界は一体どうなっている?
  皆仲良く手を繋いで、毎日ニコニコと平和ごっこをしているのかい?
  違うだろう。
マリア:おっしゃりたいことが、よくわかりませんわ。


クロウ:君たちが望むのは、平和な世界。ならば!我がクローレとともにその
  世界を作ろうではないか。平和のために戦うのであれば、その先を考える
  べきなのだ!
エネス:平和になった後の世界、ということですね。


クロウ:そうだ。その世界の具体像すら語らず、民衆を扇動するなどテロと
  同じだ。エネス、君はテロリストか?違うだろう。それならば、平和になった
  世界の後のことまで責任を負わねばならない。
マリア:平和になった、あとの世界…。


ミナ:平和にすること。その先…考えたことも無かった。
アベル:フォンベルク様は、常に人よりも先を見越しておられます。どうか、
  平和を願うフォンベルク様の思いをくみ、クローレとともに来てください。


マリア:ですが、クローレは技術大国であるとともに軍事コミットです。
  戦いが無くなれば滞ることも多いのではないでしょうか?
クロウ:そのすべてを導く自信が、私にはある。まずは鎮圧。これだけでも
  何年もかかるだろう。増えていく人口に備え地下の拡大も急務だ。
  兵器を活かす場所はいくらだってあるさ。世界が、この私の元で平和に
  なったあかつきには、さらに豊かな世界を作り上げると約束しよう。
  さあ、エネス、マリア。答えを聞こう!


ウォルフ:マリア様…。
ミナ:司令…。


マリア:…そのお誘い、お断りいたします。
クロウ:ほう?なぜ?これこそが平和へのもっとも近い道だというのに。


マリア:覇者として、フォンベルク様が立つ。そして平和と繁栄が訪れる。
  それは実現可能なことなのかもしれません。ですが…フォンベルク様が
  倒れた後、その世界はどうなりますか?絶対的な一人の人間の統治では、
  その人間を失った後、結局はまた戦乱が訪れてしまいます。
クロウ:私が後継者を指名したとしても?


マリア:それでも…きっとそうなるでしょう。歴史がそれを語っております。
  私は…例え甘いと言われようと、永遠に続く平和の道を模索したいのです。
エネス:私もです。フォンベルク様、高いお志、しかと胸に刻みました。
  お話もよく理解したつもりです。ですが、今まで私が死地においやった
  者たちのためにも、私は私が掲げた理想を、その世界をあきらめるわけには
  いかないのです。


ミナ:死んでいった、皆…。
クロウ:…そうか。同じ平和を望むものでも、やはり、わかりあえぬか…。


ウォルフ:フォンベルク様…。
クロウ:…なぁんて、ね。いいさ、よくぞ私の話を真剣に聞いてくれた。
  感謝いたしますよ、マリア様、エネス君。


エネス:こちらこそ、感謝いたします。よくぞお心の内の内まで語ってください
  ました。
マリア:共に、望むものは平和な世界。それを確認できて嬉しく思いますわ。


クロウ:ははは、それはどうも。さて、残念ながら振られてしまったことだし、
  そろそろ帰るとしようか、アベル。サハドの統治もまだ途中だしね。
アベル:かしこまりました、フォンベルク様。皆様、話し合いがまとまらなかった
  事は残念です。ですが、お会いでき、言葉を交わせてよかった。


ミナ:あの、アベルさん!
アベル:シエミナさん…でしたか?どういたしました?


ミナ:ありがとう、ございました!
アベル:えっ?何を言われます?


ミナ:映像会議のときのことです。他の皆様は私たちを戦力とみることもなく、
  ただ嫌味をぶつけるだけでした。でも、アベルさんは私たちをきちんと
  同盟の仲間として扱ってくださいました。…嬉しかったです。
アベル:そのようなこと…。同盟を結んだもの同士、当然のことですよ。
  礼にはおよびません。


クロウ:いくよ、アベル。
アベル:はっ!


クロウ:…そうだ、ひとつ教えよう、エネス。
エネス:なんでしょう?


クロウ:サハドのゲリラは活発化している。特に君たちラグナロクのところでは
  一大反攻作戦が画策されている。気をつけ給え。
ウォルフ:確かに、ラグナロクはほかに比べ地力が弱い…ゲリラたちが目を
  つけそうなものですな。


クロウ:奴らはまだかなりの勢力だ。気をつけたまえ。…つまらないことで、
  死なないようにね。君は大切な人材だ。いつか私が君を心服させてみせる。
  それまで死ぬな。
エネス:感謝いたします、フォンベルク殿。


クロウ:では、いずれまた…。
マリア:…行ってしまわれた。


エネス:フォンベルク=クロウ。思ったよりもずっと、深いものをもった男です。
ウォルフ:野心か、夢か…。大した男ですな。


マリア:それでも私は…理想を決してあきらめません。
エネス:私もですよ、マリア様。


ウォルフ:さあ、今度こそ会議に入るとしましょう。我々は、我々の全力を
  尽くすべきです。
ミナ:はい!


・・・


ウォルフ:次回予告!
アベル:フォンベルクの理想を目の当たりにした、マリアとエネス。しかし、
  二人は自らの信じる道を歩む。
ミナ:それがたとえ遠回りだとしても、思い描く平和のために。
マリア:覇者による平和。人々による平和。背負った命と戦い続ける指導者たち。
エネス:サハドに戻ったフォンベルクは、サハド占領の宣言として、世界に
  その思いを語る。次回、機甲兵団ワルキューレ25話「野心家の描く夢」
クロウ:分かり合えたのかもしれない、しかし、共には歩むことは出来ない。
  覇者とは、何事にも妥協しないたった1つの存在…。私には、その覚悟がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


続く  







にほんブログ村

参加しています。よろしければクリックお願いします!