機甲兵団ワルキューレ ~第24話 嵐の予兆~
~登場人物~
シエミナ=シェード
・オペレーター兼メカニック見習い。
3人のパイロットの妹的存在。温和な性格で、まだ未熟なところも多々ある。
エネス=トルーン
・ラグナロク本部総司令。司令官として若いが、戦略に長けている。
全体を冷徹に見通す冷たい戦略眼と、未熟なクルーたちを支える優しさを併せ持つ。
マリア=アルカディア
平和主義コミット最大規模を誇るアルカディアの若き指導者。父の遺志を継ぎ
平和主義路線を拡大させていく。エネスを信じラグナロクに協力を申し入れる。
ウォルフ=ヨービル
・アルカディア戦闘家老。平和主義のアルカディアにおいて、防衛、訓練を一手に
引き受ける人物。先代からアルカディアに仕えており、若きマリアの良き相談相手。
フォンベルク=クロウ
コミット:クローレの設立者。1技術者から立身出世した野心家。
クローレ機動大隊のファントムの設計にも深く携わっている。
搭乗ファントム「アイオテ」で機動大隊とともに進軍する。
アベル=ブラウン
クローレ機動大隊の若き隊長。指揮能力・操縦能力ともに優れた戦士。
クローレに絶対の忠誠を誓い専用ファントム「バルムンク」で多くの戦場に立つ。
・用語解説・
ファントム:人型の戦闘兵器。武装を変えることで様々な戦場に高い適応性を持つ。
コミット:国に代わり世界を動かすようになった企業、経済、資源を多く持つ
様々な集団。それぞれの資本を武器に領土を日夜奪い合う。
ワルキューレ:コミットへの抵抗組織「ラグナロク」のファントム機体コード名。
~劇中表記~
ミナ:♀:
エネス:♂:
マリア:♀:
ウォルフ:♂:
クロウ:♂:
アベル:♂:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミナ:司令、見えてきました。もうすぐアルカディア領内に入ります。
エネス:わかった。ふむ、襲撃の爪跡はまだはっきりと残っているな…。
ミナ:かなりの激戦になったようですから…。
エネス:まさかクラウス社連合がアルカディアを強襲するとはな。
ミナ:やはり、事実上サハドを抑えたクローレに対抗するためでしょうか?
エネス:それ以外には考えられまい。ドーベル殿も思い切ったことをする。
ミナ:この情勢、一体どうなるのでしょう?
エネス:それをマリア様と話にいくのだ。その時はお前も同席しろ、シエミナ。
ミナ:わ、私もですか!?
エネス:お前もこれからの事はしっかりと頭に入れておく必要がある。
ミナ:かしこまりました…。
エネス:どうした?不服そうだな。
ミナ:今回の訪問と会議が大事であることは理解しているつもりです。でも、
せめて1日や2日、フォルたちと過ごす時間を作ってもよかったのではないで
しょうか?リゼアさんはともかく、他の皆は疲れ切った顔をしていました。
エネス:私自身がアルカディアに足を運べるのは今をおいてほかない。
今ならばクローレとは同盟があり、クラウス社連合が立て直しを図るのにも
時間がかかる。一瞬だけでも顔を合わせられたのだ。今はそれでいい。
ミナ:でも!
エネス:これからあいつらには、サハドの東地区の占領戦で今まで以上に過酷な
任務が待っている。苦しくても耐えねばならない。リゼアがついている。
なんとかするだろう。
ミナ:リゼアさんの経歴を見ました。幼いころから歩兵、戦車兵をへてファントムの
パイロットに…まさに百戦錬磨(ひゃくせんれんま)ですね。
エネス:ウェインには優しさがあった。リゼアにもそれはあるが、戦場では
冷徹になりきれる。3人も多くの事を学ぶであろう。さて、着いたな。
シエミナ、いくぞ。
ミナ:はい、司令!
・・・
ウォルフ:マリア様、ただ今通信が入りました。間もなくラグナロクのエネス
司令が到着なさいます。
マリア:そうですか。…こんなに早くお会いする機会を持てるなんて、嬉しい
ことですわ。
ウォルフ:この機に様々なことを詰められると良いのですが…。
マリア:クラウス社連合に対する姿勢についても、協議しなくてはなりませんね。
ウォルフ:クローレについても、ですな。
マリア:しかし、クローレは私たちに援軍を下さいました。これは信義の現れ
ではないのでしょうか?
ウォルフ:マリアさまは何事もまっすぐにお受けになられます。ですが、
フォンベルクという男は一筋縄ではいかないでしょうな。
マリア:と、いいますと?
ウォルフ:あのタイミングでの援軍…すでに場の優劣は決定しておりました。
あえて戦力に傷はつかず、利だけをとった形ですな。
マリア:しかし、あの援軍こそが勝敗を決したといえるのではないでしょうか?
ウォルフ:そこが、あの男のうまいところでございますな。我々には、間違いなく
クローレに借りが出来てしまったことになります。
マリア:そんな計算を…本当に?
SE:ゲートが開く音
ウォルフ:…エネス司令が到着したようです。話しの続きは彼らを交えてに
いたしましょう。
マリア:そうですね。すぐにエネス司令をここにお通ししなさい。
ウォルフ:はっ…。
・・・
クロウ:いやぁ、なかなかに速い。もう少しすればアルカディアだ。あっという間
だねぇ、アベル。
アベル:機動大隊の特殊ブースターと地上空母のカタパルトを併用しております。
さすがに速度も出ます。
クロウ:ふふっ、相変わらず不機嫌そうだねぇ、アベル?
アベル:当たり前です!なぜフォンベルクさまが自らアルカディアまで出ていく
必要があるのですか!?クラウス社連合への対応の話し合いならば、通信
回線で十分ではないですか!
クロウ:怖い怖い。そう怒るな。直接会って話すことも大切さ。
アベル:おまけに護衛は私ひとりなど…機動大隊の半分は動員するべきです!
クロウ:もっとも信じているアベルと、我が機体アイオテ。これで十分さ。
アベル:くっ…レイア達さえいなければ、ミーアも連れてこれたものを…。
クロウ:悪戯っ子にはお目付け役が必要だからねぇ。ミーアも苦労するね。
アベル:しかし、なぜアルカディアには事前に連絡をいれないのですか?
これではまるで強襲です。そうでなくても先の戦闘でアルカディアは神経を
とがらせている事でしょう。
クロウ:変に構えられたくない。私はね、アベル。本音を語りに来たんだよ。
マリア様とエネス君にね。
アベル:フォンベルク様の…本音?
クロウ:そうさ。それさえうまくいけば一気にすべて片が付く。ま、難しい話
だけれどね。やっておく意味はある。
アベル:だからといって…。全く、アイゼンとの戦闘から、気の休まる暇も
ありはしません。
クロウ:お疲れ様。
アベル:誰のせいだと思っておられますか!もう少しご自身を大切にですね。
クロウ:ありがとう、アベル。君には感謝しているよ。
アベル:なっ…!は、はは!ありがたきお言葉!
クロウ:君は素直でいいね。さぁて、行くとしようか。
・・・
ウォルフ:マリア様、エネス司令とシエミナ殿をお連れしました。
エネス:マリア=アルカディア様。お目に掛かれて光栄です。ラグナロク司令、
エネス=トルーン、ただいま参りました。
ミナ:マリア様!お会いしたかったです…。ラグナロクオペレーター、
シエミナ=シェードです。
マリア:エネス司令。それにシエミナ様。お会いしたかった…。よくぞお越し
下さいました。マリア=アルカディアです。
エネス:もったいなきお言葉です、このエネス=トルーン…
マリア:待ってください、エネス司令。先の通信会議でも話しました。我々は
同志。どうか、楽になさってください。…ミナもね。
ミナ:マリア様…ありがとうございます。
マリア:ふふっ、マリアとは呼んでくれないのね。
ミナ:そ、それは…がんばります!
ウォルフ:さあ、エネス殿。そういうことでございます。此度は胸襟(きょうきん)
を開き話し合いましょう。
エネス:ウォルフ殿、感謝いたします。
ウォルフ:時が惜しいです、早速会議に入りましょう。まずはクラウス社連合に
対してですが…。む?通信室より内線が…失礼いたします。…今は会議の
最中だ、何事…むっ、なんだと?
マリア:ウォルフ、一体どうしたのですか?
ウォルフ:急速に我が領域に接近する機影を確認した、とのことです。
ミナ:そんな!また強襲なのですか?
エネス:機体の数は?
ウォルフ:それが…わずか2機、そのうえ機体の識別コードを送ってきております。
マリア:どういうことでしょうか?
ウォルフ:こちらのデータベースにつなぎます。ご覧ください。
エネス:このコードは…アイオテとバルムンク?クローレ…フォンベルク殿が?
ミナ:実質クローレの上位2機?どうして…
マリア:…奇襲では、無さそうですね。ウォルフ、お迎えの準備を、ただし…
ウォルフ:はっ。十分すぎるほどに警戒いたします。
マリア:お願いします。…すこし待ちましょう、エネス司令。
エネス:はっ。…フォンベルク=クロウ…、何を考えている?
・・・
クロウ:ふふ、まさか早速会議の間にまで案内頂けるなんて思いもしなかったよ。
直接はお初にお目に掛かります、マリア様。私はクローレを束ねております、
フォンベルク=クロウと申します。…エネス君も、元気そうでなにより。
アベル:アベル=ブラウンです。皆様、よろしくお願いいたします。
ミナ:アベルさん…。
マリア:マリア=アルカディアです。先の一戦では心強い援軍、誠にありがとう
ございました。
クロウ:いえいえ礼には及びません。同盟コミットとして、当然の行動ですよ。
ウォルフ:して、フォンベルク様。このたびは突然のご来訪、どういたご用件
でしょうか?
クロウ:あっはははは。単刀直入だねぇ、嫌いじゃあないよ。戦闘家老、
ウォルフ=ヨービルくんだったかな。
エネス:フォンベルク様、お会いできて光栄です。
クロウ:私もだよ、エネス。君の冗談が私は大好きでねぇ。今日も楽しみにして
来たんだよ。
ミナ:お言葉ですが、司令は会議の場で冗談などいいません。
クロウ:わかっているさ。ごめんね。
アベル:フォンベルク様!このような時におふざけになってはなりませぬ。
エネス:それでフォンベルク様。今日は我々と雑談をかわしにいらっしゃった
のでしょうか?
クロウ:なんだい、皆してなかなか急かすねぇ。もう少しゆるりと言葉を交わし
たかったが…。まあいい、本題に入ろう。
マリア:お願いいたします。会議ののち、ゆっくりとお話も出来るでしょう。
クロウ:では…。はっきりといいましょう。マリア=アルカディア。そして
エネス=トルーン。クローレに降りたまえ。
マリア:っ!…それは、降伏しろ、ということでしょうか?
クロウ:降伏、とは少し違うね。私たちと共に来い、ということさ。
エネス:それと降伏と、何が違うのでしょうか?
クロウ:エネス。私は君の演説を聞いた。素晴らしいものだとも思う。共感する
ことも多くあった。だが…あれではただの理想論だ。
ミナ:司令の演説が…理想論?
ウォルフ:随分な言われようですな、フォンベルク様?
クロウ:まあ聞き給え。いいかい?君の説いた演説の先に何がある?戦いの無い
世界。そうだろう。けれどね、その世界は一体どうなっている?
皆仲良く手を繋いで、毎日ニコニコと平和ごっこをしているのかい?
違うだろう。
マリア:おっしゃりたいことが、よくわかりませんわ。
クロウ:君たちが望むのは、平和な世界。ならば!我がクローレとともにその
世界を作ろうではないか。平和のために戦うのであれば、その先を考える
べきなのだ!
エネス:平和になった後の世界、ということですね。
クロウ:そうだ。その世界の具体像すら語らず、民衆を扇動するなどテロと
同じだ。エネス、君はテロリストか?違うだろう。それならば、平和になった
世界の後のことまで責任を負わねばならない。
マリア:平和になった、あとの世界…。
ミナ:平和にすること。その先…考えたことも無かった。
アベル:フォンベルク様は、常に人よりも先を見越しておられます。どうか、
平和を願うフォンベルク様の思いをくみ、クローレとともに来てください。
マリア:ですが、クローレは技術大国であるとともに軍事コミットです。
戦いが無くなれば滞ることも多いのではないでしょうか?
クロウ:そのすべてを導く自信が、私にはある。まずは鎮圧。これだけでも
何年もかかるだろう。増えていく人口に備え地下の拡大も急務だ。
兵器を活かす場所はいくらだってあるさ。世界が、この私の元で平和に
なったあかつきには、さらに豊かな世界を作り上げると約束しよう。
さあ、エネス、マリア。答えを聞こう!
ウォルフ:マリア様…。
ミナ:司令…。
マリア:…そのお誘い、お断りいたします。
クロウ:ほう?なぜ?これこそが平和へのもっとも近い道だというのに。
マリア:覇者として、フォンベルク様が立つ。そして平和と繁栄が訪れる。
それは実現可能なことなのかもしれません。ですが…フォンベルク様が
倒れた後、その世界はどうなりますか?絶対的な一人の人間の統治では、
その人間を失った後、結局はまた戦乱が訪れてしまいます。
クロウ:私が後継者を指名したとしても?
マリア:それでも…きっとそうなるでしょう。歴史がそれを語っております。
私は…例え甘いと言われようと、永遠に続く平和の道を模索したいのです。
エネス:私もです。フォンベルク様、高いお志、しかと胸に刻みました。
お話もよく理解したつもりです。ですが、今まで私が死地においやった
者たちのためにも、私は私が掲げた理想を、その世界をあきらめるわけには
いかないのです。
ミナ:死んでいった、皆…。
クロウ:…そうか。同じ平和を望むものでも、やはり、わかりあえぬか…。
ウォルフ:フォンベルク様…。
クロウ:…なぁんて、ね。いいさ、よくぞ私の話を真剣に聞いてくれた。
感謝いたしますよ、マリア様、エネス君。
エネス:こちらこそ、感謝いたします。よくぞお心の内の内まで語ってください
ました。
マリア:共に、望むものは平和な世界。それを確認できて嬉しく思いますわ。
クロウ:ははは、それはどうも。さて、残念ながら振られてしまったことだし、
そろそろ帰るとしようか、アベル。サハドの統治もまだ途中だしね。
アベル:かしこまりました、フォンベルク様。皆様、話し合いがまとまらなかった
事は残念です。ですが、お会いでき、言葉を交わせてよかった。
ミナ:あの、アベルさん!
アベル:シエミナさん…でしたか?どういたしました?
ミナ:ありがとう、ございました!
アベル:えっ?何を言われます?
ミナ:映像会議のときのことです。他の皆様は私たちを戦力とみることもなく、
ただ嫌味をぶつけるだけでした。でも、アベルさんは私たちをきちんと
同盟の仲間として扱ってくださいました。…嬉しかったです。
アベル:そのようなこと…。同盟を結んだもの同士、当然のことですよ。
礼にはおよびません。
クロウ:いくよ、アベル。
アベル:はっ!
クロウ:…そうだ、ひとつ教えよう、エネス。
エネス:なんでしょう?
クロウ:サハドのゲリラは活発化している。特に君たちラグナロクのところでは
一大反攻作戦が画策されている。気をつけ給え。
ウォルフ:確かに、ラグナロクはほかに比べ地力が弱い…ゲリラたちが目を
つけそうなものですな。
クロウ:奴らはまだかなりの勢力だ。気をつけたまえ。…つまらないことで、
死なないようにね。君は大切な人材だ。いつか私が君を心服させてみせる。
それまで死ぬな。
エネス:感謝いたします、フォンベルク殿。
クロウ:では、いずれまた…。
マリア:…行ってしまわれた。
エネス:フォンベルク=クロウ。思ったよりもずっと、深いものをもった男です。
ウォルフ:野心か、夢か…。大した男ですな。
マリア:それでも私は…理想を決してあきらめません。
エネス:私もですよ、マリア様。
ウォルフ:さあ、今度こそ会議に入るとしましょう。我々は、我々の全力を
尽くすべきです。
ミナ:はい!
・・・
ウォルフ:次回予告!
アベル:フォンベルクの理想を目の当たりにした、マリアとエネス。しかし、
二人は自らの信じる道を歩む。
ミナ:それがたとえ遠回りだとしても、思い描く平和のために。
マリア:覇者による平和。人々による平和。背負った命と戦い続ける指導者たち。
エネス:サハドに戻ったフォンベルクは、サハド占領の宣言として、世界に
その思いを語る。次回、機甲兵団ワルキューレ25話「野心家の描く夢」
クロウ:分かり合えたのかもしれない、しかし、共には歩むことは出来ない。
覇者とは、何事にも妥協しないたった1つの存在…。私には、その覚悟がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続く
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