ダウナー 45 | 自虐ネタはお手の物

ダウナー 45

気に入らないモノは壊す。欲しい物は手に入れる。
それが、物であっても、……人であっても。


「今日の2時、丑三つ時に駅前公園、だよな」
なんだって亡霊達やら犯罪者やら、
(真)人間を辞めてる奴らがそわそわし出す時間に、俺は公園に居なければならないのか?

えーと、そうだ。
俺の名前はタカシ。学校は、夜通し友達と遊ぶのが楽しいから殆ど行っていない。
なんとなく、一年くらい前から、ギャング気取りで仲間と夜遊びをしている。

もっとも、警察とか族とか、カラーギャングとか、小指の無い人達は「気取り」ではなく【ギャング】そのものとして俺達を見ているらしいが。

別に悪い事をしているワケじゃない。夜遊びにはお約束のトラブルがある。

俺達は降りかかるトラブル・・・火の粉を払っているだけだ。
しかし、この火の粉は払えば払う程、更に激しくなってしまう事が往々にしてあるのだが。

結果、それを理解していなかった俺達に今回降りかかったのは、火の粉どころか大規模森林火災並みのトラブルだった。

簡潔に話そう。俺達は、族よりチームよりギャングよりある意味警察よりヤバくて、ヤクザと同じ位怖い存在に目を付けられた。

【喪服】。
連中はそう名乗っている。
いわゆる黒ギャングだが、その勢力・戦闘力・影響力は凄まじい物があった。
今や、日本中でも朝のニュースで報じられない日は無い。
【喪主】と呼ばれる頭を狂信的に崇め、狂ったように抗争を繰り返す。

その結果、こいつらは全国でも業界NO.1と呼べるほどの巨大勢力と化した。

何でも【喪主】の非常識な位のカリスマ性と喧嘩の強さで成長したらしい。

その内、海が割れたモーセの奇跡でも再現するんじゃないかという勢いだ。
いやいや、ひょっとするとキリスト教や仏教と並ぶ宗教でも作るかもしれない。

黒づくめの救世主なんて見たら、あの世からイエスとブッダが鉄パイプと木刀片手に乗り込んでくるだろう。

で、何故か知らんが俺らが標的にされた。
理由はわからない。奴らは構成員が千人以上、対する俺らは三十人足らず。
蟻と象どころか、蚤と戦車の戦いだ。

【皆殺しにされたくなければ其方の頭を寄越せ】
そんな感じの脅迫状が俺ら全員の家に届き、話し合いの末、頭同士のタイマンになったわけだ。

「…ぉい……おい、タカシ!何ボサっとしてんだよ!!」

「あ、わりーわりー。ちょっと考えごとしててな」
「ったくお前は呑気だな…………あいつら、もう来てるぞ」

仲間の声に思わず辺りを見回す。
うわぁ・・居た。いっぱい居た。黒くて気づかなかったが、俺らを取り囲むようにいっっっ・・・ぱい居た。

黒服の集団の内、俺の正面にウジャウジャ集まってた奴らが、綺麗に二列になった。
その間から、二人、やっぱり黒づくめのチビとゴツい奴が歩いてくる。黒いパーカー。黒いズボン。チビは黒い仮面にフード。

ほら見ろ、海は海でも人の海だが、これはモーセの奇跡じゃないか。次は何だ、キリストよろしく最後の晩餐でもするか?

「お前がタカシか?」
ゴツい奴だ。身長は…2mくらい?体格は…やっべ、武蔵並みじゃね?
「そうだ、アンタが【喪主】か」
ちょっと、俺の声が震えてる気がするが、そんな事は キニシナイ!
「違う、【喪主】はこの方だ」
そう言ってゴツいのが指差したのは…………隣のチビ?うはwww楽勝wwww

『………君が…タカシ…?』
「しつけーな、タカシだよタカシ」
『…そう………じゃあ…君、欲しいから……頂戴』
「なんだ、人身売買する気か。俺の内臓は安いぞ」
『……違う…言っても……わからないだろうから………始めよ?』

「おぅ、負けたらどうする?」
『君が…勝ったら……こっちは解散……僕が勝ったら…君を…【喪服】に…取り込む』
なんかトロくてイライラする喋り方だ。
大体【僕】って何だよ。お坊っちゃんかコイツは!あームカついてきた!!
チビには悪いが即座にボコって終わらせる!!
「上等だ。約束は守れよ」

双方から立会人を出し、ルールが説明される。武器は禁止、どちらかが気絶するかギブアップすれば終了。
「…行くぞチビ!!」

正直、俺はこのチビを舐めすぎていた。
あーあ、正直やり合う前に降参しときゃ良かった。
ブンッ スカッ
何、コイツ?実はどっかの特殊部隊なんじゃねーの?
俺だって喧嘩にゃ自信あったんだけどなぁ。一発も当たんねーし、殴られっぱなしだし。
ガスッ
ゴッ
随分とタフな男だなぁ。こんなに痛めつけても、まだ気絶も降参もしないなんて。
……あんまり傷付けたくないんだよね。壊す為に来たんじゃないし。
ルール違反だけど…仕方ない、か。


「…グ……ざっけんじゃねえぞコラアッ!!」
ブオンッ
クソッ、俺の黄金の右、また外れちまった。
目が腫れてよく見えねえし。

『……もう…辞めたら?』

「誰が・・辞めっかよ・・・」
『……そう、ごめんね…』
チビの拳が飛んできた。速いのなんのって、ボクサー並みじゃねえか。
男にしては随分小さい手だな。避ける?無理無理、立ってるだけで精一杯だ。

あ?なんかこのパンチ・・・痺れるんだけど・・・・・

ドサッ

『…僕の…勝ち……彼…貰ってくよ……』
「・・・・ぁ?」
目が覚めたら、俺は知らない部屋に居た。
小綺麗で広い室内、ふかふかのベッド、顔には絆創膏。
顔がぱんぱんに腫れていた。あれだけ殴られりゃ当然か。

『………目…覚めた…?…大丈夫…?』「っ!?」
あのチビが、いつの間にか横に居た。つーか大丈夫も何も、人の事ボコボコにしといて何言ってんだコイツ。
「おかげさんで顔がアンパンマンみて~になってるよ」

『………ごめんね…』
「負けたんだから仕方ねーよ。で、俺は何すりゃいいんだ?」
『……何も…しなくていいよ…?』

「何もって、意味わかんねーんだけど」『……好きに…したらいい……君の仲間も……君も……でも…条件が…一つ』


『………僕の…モノになれ…』

「は~?俺にそんな趣味はねえよ?」

『……負けたんだから…男らしく……約束は……守れ…』
無理だ。こいつはシャブか葉っぱかバツでもキメてるんだろう。
さっさと逃げて胸糞悪いが警察にでも行くしかない。
「悪いけどな、俺はホモじゃねえから無理だ。じゃな……」
『………だめ……』
ドッ
「がはっ・・!!てめぇ…」
腹に一発貰って、俺は意識が薄れていった。
倒れる瞬間にチビが俺を抱き止めた時、何か柔らかい感触といい匂いがしたが・・・・多分、気のせいだろう。
また目が覚めたら、窓から光が差し込んでいた。
どうやら今日も学校を休む羽目になったらしい。
「あいつは…居ねえな」
今の内に逃げるしかない。悔しいがあのチビには歯が立たないからな。
見つかったら最後、一体どんな目に合わされるんだか……

カチャ、キィ、パタン。
「え~!?」
全く昨日からクエスチョンマークだらけだ。
あのチビかと思ったら、部屋に入って来たのは同い年くらいの黒づくめの女だった。それも、かなり可愛い。
『……おはよう…。…はい…朝ご飯……』
女が、典型的な日本の朝食一式が乗ったお盆を差し出す。
かなり美味そうな匂いはするが、今はそんなのどうでもいい。
「悪いんだけどさ、逃がしてくれないか」
『……え…?』

「頼む!あのチビが来る前に俺を逃がしてくれ!」
『……駄目って…言った…でしょ?』

このコは何を言ってるんだ。俺とは初対面の筈なんだが。

『…そっか…わからない…よね…………これで……どう?』
ガスッ ドカッ

「ぐはっ!!いきなり何す……あっ。お前、まさか」
忘れようがない、このパンチの威力。この声。
『……ふふ…思いだした…?』

あ、あのチビだ。
「お前っ、女だったのか!?」
『男とは……言ってない…でしょ?』
うん、それもそうだ。確かに言ってないな。
『それより……朝ご飯……食べよ』
「お、おう」
何だかペースが妙に狂わされる。こいつに勝てない以上、仕方ないが飯を食う事にした。
「・・・美味いな」
『…そう……?良かった…』

「ところでさ、質問いい?」
『……なぁに…』

「なんで俺らに目付けたんだ?」
『…君と…仲良くなりたかった……』

「じゃあ、普通に遊んで知り合えばよかったんじゃねwwww?」
『そういうの……苦手…だから…ね』

「ふーん……お前のモノになるってのは、具体的にどういう事?」
『……基本的には…自由。…でも…僕が何か命令したら……絶対服従…かな』

「じゃ、俺はもう帰っていいのか?」
『……今日は…一日…僕に付き合って……終わったら…帰っていいから……』

「さっそく命令かよ!ふざけんなっ!」
『……ちゃぶ台返し…いってみようか…?』
「ぐ…それはちゃぶ台じゃなくてテーブルだが……わかった、飲もう」
『じゃ……早く支度して…行こ…?』
何だかんだで、一日コイツに付き合わされた。
最初はいきなり抗争にでも連れて行かれるかと思ったが、意外にも普通に買い物だった。
「おい、どうした?」
『……あれ…欲しい』
黒づくめでややゴスロリ風に見えなくもないが、服屋で買い物をする姿は普通の女の子そのものだった。
『…店員さん……ここから、ここまで……全部…ちょうだい』

前言撤回。服屋で大人買いする時点で普通じゃねえ。
「・・どっからそんな金が」
『……上納金……全国に…メンバーが居るから……凄いお金になるの…』

だそうだ。色々店を巡ったが、始終こんな調子だった。いつから俺はこんな非日常に足を踏み入れたのやら。
「なんかさ、喉渇かね?」
『…そう…だね…』
「知り合いの喫茶店近いからさ、行こうや」
『………そこ……甘いの…ある?』
「ん?甘いのか。パフェが評判らしい」
『…ぱふぇ……好き…』


「どーよ、結構美味いって話なんだが」
『うん……おいしー…』
「おっ!タカシ!珍しいな、お前が彼女連れてくるなんて」
「あ、マスター。お久し振りっス。・・この人は・・彼女っていうか、その・・・」

「タカシには勿体無いくらい可愛いコじゃないか、大事にしてやれよ」
「マスター、ちが」
『……どーも…(かぁぁ)』
「さっきはごめんな、彼女とか言われちゃって」
『…いいよ……気にしてないから…』

「顔赤いぞ?大丈夫か?」
『……うるさい…殴るよ…?』
「勘弁してくれ、顔面蛾ブッ壊れる」

『……一つ…謝りたい……事があるの…』
「あ?何が?」
『……君を倒した…最後のパンチ……これ…使ったの…』
「そ、それって」
『うん……スタンガン………君を…傷つけたく…なかったから……ね』
なんだ、その歪んだ優しさは。

「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
『………うん……また…呼ぶから…来てね…』
「うぃーす。了解」
『あっ……忘れ物………』
「ん?・・・忘れ物なんてしてな」

チュッ

『……じゃ…またね…ばいばい……(///)』
「おう、ま、またな」

・・・これは恋愛と呼ぶのだろうか?
あいつは彼女というのだろうか?
そもそもあいつの事、名前すら知らないじゃないか。