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初恋





第9章・執行

第10章・陥落



最終章







第9章・執行



腰までにも達した長い髪をブロッキングをされながら強張りある種蒼ざめたような顔色のK子は小さなハンカチを握りしめていた。

サッカーキーパーの守備位置から俺の脳裏には、今までの様々なK子の長く綺麗なロングヘア姿のシーンが浮かんで来ていた。

ex.)先述、No.2だった女の子がショートになってしまって泣いているのを優しく抱いて慰めるK子の胸に巻かれたボリュームたっぷりのロングへア、、
ex.)教室の一つ前の席で椅子から大きくはみ出して下に掛かるロングヘア、、、
ex.)体育の跳び箱で走り跳ぶ際に風になびくロングヘア、、、

そんな永遠に続く栄華を誇るように長期間、腰までも掛かる長く綺麗に誇ったロングヘアを、ついにK子が切られ奪われ失われてしまおうとしているー
そして儚くもついにその時は訪れた。
「じゃ切り始めるよ。。」と言う理容師さんの一言、K子はハンカチを更に固く握りしめ、
「、、、はい、、、。」と答えた。

次の瞬間、肩の上、襟足ギリギリの高いラインで真横・水平にハサミの侵入を許し滑り込み交差されたK子の後髪は、短くバッサリ切り揃えられ、K子の物で無くなった長く大量の髪が光沢ケープをスルスルと地面まで滑り落ちて行った。K子独特の神秘的な雰囲気を醸し出していた要因でもあった、今でいうとシャギーのような不揃い感ばかりしか纏って居なかった彼女が、今まではほんの少しすら存在しえなかったパッツンとした一直線のカットラインを、初めてにも関わらず、とても高く短い位置で切り揃え作られてしまった瞬間だった。見える事など無かった光沢ケープの結び目や肩が露出させられた。

(あぁ、K子のあの長い髪が、、、、、、、、)
俺は、堪らない感情で溢れてしまっていた。

K子は光沢ケープを滑り落ちて行った、自らの物では無くなった長い髪束を背後に感じ、振り返っていたが目視は出来ないようで、引き続き俯いていた。
ブロッキングを解いて櫛で梳かすと腰までの長い部分で隠れるが、またすぐに同じように真横にハサミを入れられ、光沢ケープ結び目や肩はすぐに露出させられてしまう。何度も同じ工程が繰り返されるうちに、短く切り揃えられ終わってしまったばかりの内側部分の髪量の方がブロッキング部分を上回り、段々とブロッキングを解いても隠れにくくなり、ついには後ろ髪部分のブロッキングは全て短く切り揃えられてしまった。サイドはまだ手付かずだったものの、あれほどまでに長く背中から腰までをもたっぷりと覆っていた後髪は全て肩上ラインですっかり短く切り揃えられ尽くしてしまった。

(教室の前席で、あれ程までに椅子を覆っていたあの長かった後髪が、、、無い、、、肩にも付かない?!本当にこんなに短く切られてしまった?!)
この後姿だけでは、これがつい数十分前まで同じ椅子にあの長い髪を垂れ掛けて座っていた同じあのK子だとはにわかに信じられなかった。

理容師さんのハサミは尚もサイド、横髪部分に襲いかかる。アゴライン辺りでまたもや真横一直線にハサミを滑り込ませられてしまったK子から密着していたハサミが離れると、K子の横顔にはやはりアゴからうなじにかけて繋げられてしまったばかりのぱつんとした一直線のラインが高く短い位置で作られてしまい、首を露出させられてしまっていた。その後も何度もブロッキングを外しては短く切り揃えられ続けた。ようやくハサミの動きが止まった時、先述、彼女独特の神秘性の源だったシャギーのような不揃い感は、片側のサイド全て綺麗スッパリとアゴライン辺りでぱつんと一直線にすっかり短く切り揃えられ、代わりに長さと重さを失ってボリュームを増した短くされてしまったばかりの髪が、まるで定規を引いたように見事な一直線ラインを横から後へ繋げて作り上げられてしまっていた。

(あのサイドの長い横髪を耳に掛ける仕草がもう見れなくなってしまう、、、)
後姿と違い、顔に髪が掛かる横顔が少し覗くサイドは、顔正面程ではないものの、イメージ形成の影響力が大きい。胸下からヘソまであれだけ長く掛かっていた横髪は顎下から全て無くなり、代わりにぱつんと一直線のラインを作られてしまったK子の横顔は既にやはり別人にされていっているようで、大変身させられてしまっていっているK子を改めて実感させられた。

理容師のおばさんのハサミは尚も残る逆サイドに勢い増して襲い掛かった。転がったサッカーボールを取りに行く際に間近で見ると、逆サイドだけはは依然として今までと変わらぬロングヘアのK子の姿がまだ辛うじて残されていたが、理容師のおばさんのハサミはリズミカルに再始動し、またもやその面影をも全て奪い去ろうとし始めていた。そのリズミカルな動きが再び止まった。残片サイドも全て短く切り揃えられ尽くしてしまったのだ。

あれほどまでに長く背中から腰までをも優雅に覆い尽くしていた綺麗な髪は、今も頭頂部からうなじ部分までは変わらず下りてきてはいたが、そこでいきなり断崖絶壁のように真横水平に断ち切られ、光沢ケープの結び目が全露出し、その上には、すっかり剥き出しにされてしまったばかりの彼女の首と、そこに肩上一直線に短く切り揃えられて無残にもコケシのようにされてしまった頭がチョコンと頼りなさげに乗っかっていた。

地面には大量の長い髪が横たわり、もはや彼女の物で無くなって尚、未だ輝く艶を放っていた。
肩下まで髪があるのと肩上までしか髪がないのとでは、人の印象というのは大きく異なる。未だ長い前髪がそのまま残されている為、正面や横顔から見えるのは、いつものK子のままのようだったが、顔が見えなくなる後姿から見ると、既に別人にされてしまっているかのように見えた。

おばさんの腕は確かに良かったのだろう、だがそれはあくまで「理容師」として単に真っ直ぐに切り揃える技を指してのもので、K子を可愛くする「美容師」としての力量では必ずしもない。長さをバッサリ短く切られてしまうのみならず、サラサラの不揃いだったシャギー部分を全て寸分の狂いもなくスッパリ真っ直ぐに切り揃えられてしまう事は、その醸し出して来た独特の大人っぽさや神秘的だった雰囲気をも全てK子から奪い去られてしまう事になる。断髪前後ビフォアフターを別人のようにされてしまうギャップと伴う恥ずかしさを最大化されてしまう屈辱以外何物でもなかった。


(、、、も、もぅ駄目だ、、これ以上は、、、。)
あんなに綺麗で長かったK子のロングヘアが、、今目の前でこんなにバッサリ短くしかも真っ直ぐ切り揃えられてしまったなんて、、信じられない、。
残るあの長い前髪までをもバッサリ切られて短くされてしまったら、K子はどんな姿にされてしまうんだ?もはや本当にK子では無い別人にされてしまう、、、)
俺は崩壊寸前の自制心を首の皮一枚必死で堪えていた。

目に悪いかも知れない長い前髪を切るか切らないだけの話だったはずが、いつの間にか話をロングヘア全体にまで大きくされ、入学式以前からずっと維持して来たロングヘア自体を本当に切られてしまったK子。しかし、悪夢の断髪はここでは終わらない。メインとも言えた長い前髪が残っていた。

顔正面から見ると、未だ手付かずの長い前髪部分がかなり厚くボリュームを多く残されており、既に短く切り揃えられて終わってしまったサイドやバックとの比較からか、前髪が今や最も長い部分・最後の砦となって強調され、若干乾き始めたお陰もあってかサラサラとボリュームたっぷりに胸下〜ヘソ辺りまで長く綺麗に流れ、以前と変わらぬ彼女のシルエットと印象を残していた。

K子の断髪時間は、既にそこまでの時点で早くも先の男の子達の平均を3倍以上遥かに大きくオーバーし1時間を突破しようとしていた。無論、切って行っている長さ、量は3倍どころでは到底済んでいない為当然とも言えたが、先述の理容師のおばさんのモチベーションの高さがヒシヒシと伝わって来ていた。

その頃、自分と一緒にサッカーしていた男の子達は、よそ見ばかりして全くヤル気ない俺に流石に呆れたのか、サッカーを終了して引き上げてきた。そして、そのサイドとバックをバッサリと断髪されてしまったばかりのK子の後姿と地面に落ちた大量の髪の束を一目見るなり、

「うわ~!スゲー切ってるー!」

「お~すげー真っ直ぐんなってる!真っ直ぐー!」

などと騒ぎ立てた。

そして、アイス休憩を取りながらドッカリ座って、K子の断髪を間近で見始めた。

K子はそんな男子達の反応に、恥ずかしそうにしながらも、今や自分の後や横髪姿がどう切られてしまったか見えずに分からない為、不安で堪らない様子だった。しかも、よりによって恐らくトレードマークのあの長い前髪を断髪されてしまう時間帯に、その断髪過程を、よりによって間近で同級生の男子達に見られ続けてしまう事になりそうな雲行きに、更に不安を募らせている様子で、
K子:「、、イヤ、、、見ないで、、、、、、。」
と、か細い声で懇願して来た。
しかし断髪開始前にはK子を守ってくれた、最後の砦とも言えた理容師のおばさんは、
理容師さん:「あんたらサッカー疲れちゃったのかい!」
と一言だけは言ってくれたものの、珍しく俺達が大人しくしていたので、仕方ないといった様子でそれ以上は追い払おうとはしてくれなかった。普段学校ではあれだけ多くの女子達が周りを取り巻いてくれている彼女だったが、残念ながらそこには守ってくれる女子は誰一人おらず、たった一人で衆目に晒され続け、しかも現在の自分がどんな姿にされて行ってしまっているかを自らでは確認出来ない残酷な環境下に晒されてしまっていた。






第10章・陥落


ケープの緩みが気になって来ていたのか、もしくはおばさん自らの気合を入れ直す為だったのか、あの光沢ケープの結び目部分のマジックテープと紐を一度外してしっかりとキツく留め直そうとしたが、その際「ん~?」と何かに気付いて確かめるようにケープの裏地にまで手を伸ばして弄った。

「うわっ!スゴイ汗かいてるよー!このケープ分厚いのもあるけど、緊張してるからだね、大丈夫?」

と言っていた。

今までのK子では有り得なかったような醜態に、極度の緊張が表れていたようだが、更にそれを暴露されてしまい「大丈夫です。」と答えつつも恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いていたK子だった。理容師のおばさんはタオルで裏側を拭いてあげ、再びその光沢ケープを巻き直した。そして、ついに最後に残った前髪のブロッキングを全て解き、丁寧にブラッシングし始めた。この断髪最大のクライマックスへの合図とでも言わんばかりに、おばさんはブロッキングを全て解いた前髪部分に霧吹きで水を吹きかけ直し始めた。かなり多めに厚く残してあるようで今まで横や後ろに流されていた部分も加えられていた為か、しきりに櫛で丁寧に何度も真っ直ぐ梳かし降ろされた彼女の前髪部分として残された部分は胸下〜ヘソ辺りまで達しボリュームタップリに彼女の顔を全て覆い尽くし視界を塞ぎ切った。

理容師のおばさんは切るラインを見定めているのか、開始前に仮想定規のように見立てた櫛を再び使い、櫛の裏面を水平にして目の上から眉ラインあたりを慎重に何度か上下させていた。K子は、長い前髪に視界を塞がれていたものの、その微かな隙間から、おばさんの櫛の上下動を悲壮な表情で神経質そうに目で追っていた。夕方に差し掛かった頃で、辺りは静寂に包まれ始めていた。暫くしてカットラインを見定め終わったらしいおばさんは、K子の心情も酌量していたのだろう、普段は元気な声のおばさんもその周囲の静寂に同調するように静かに呟くように言った。

「なかなかここまで前髪長い子も居ないよ。よくここまで綺麗に伸ばしたね・・。5年間だっけ?
でも、これじゃあ黒板見えなかったでしょう」

K子は小さな声で、「•••いえ・・・。」とだけしか答えていなかったが、俺は理容師のおばさんに向かって、

(→あんたがそうなるように梳かしただけだろ!いつもはキレイにブローしてサイドに流してたから大丈夫だったんだって!)

とツッコミを入れたい所だったが、ドキドキし過ぎていてそれどころじゃなかった。

理容師のおばさんはハッキリK子に聞こえるように言った。
「じゃ、切るよっ。黒板しっかり見えるようにしてあげるから。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

既にあのロングヘアをすっかり奪われ切ってしまい、うなじが露出してしまう程までに短く切り揃えられてしまった姿で、ついに前髪を切られてしまう不安の極地に押し潰されそうに蚊の鳴くような小さな声で答えるK子は文字通り、もはや虫の息だった。

なす術もなく観念したようにギュッと目を瞑ったK子は、ただ黙って頷くだけで言葉は発せず、口元と身体も一緒に硬直させたように見えた。俺の得体の知れない胸の鼓動も、もはや最高潮を迎えていた。

(、、K子の、あの、あの長い前髪が、、、ついに切られてしまう、、、)
脳裏に様々な今までの長い前髪を纏ったK子のシーンが浮かび上がって来た。
ex.)ピアノ演奏の際に綺麗な長い前髪が枝垂れ落ちるK子
ex.)学芸会のコンテスト出場時の大人っぽい衣装と合わせた長い前髪を流したヘアスタイル
ex.)ふとした瞬間に前髪をかきあげる仕草
etc、、、
次の瞬間、ゆっくりとコメカミ近くの眉付近からハサミが真横に滑り混んでいき、追って2本の刃が少しずつ交差していった。ついにK子の長い前髪がハサミの侵入を許し、コメカミ付近の端の眉ラインから最初の一房が断たれて光沢ケープに陥落させられていった瞬間は、スローモーションのように今でも鮮明に覚えている。それは、先程まで理容師さんが櫛を目の上で上下させて切るラインを想定していた中でも、最も上のラインでは無かったかと思える程、眉ラインギリギリの高く短いラインでバッサリと切り落とされて行った。常にK子が共にして来た、40~50cm近くはあったであろう、とても前髪とは思えない長さと大量の髪束が光沢ケープをスルスルと滑り落ちて行った。

(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、‼︎)
俺はもはや放心状態だった。そして自分の中の言い表せない何かが弾けたような気がした。

少しずつ少しずつ、そして何度もハサミの刃を交差させる度に長い前髪の束が大量に彼女の目の前を降り注ぎ、光沢ケープへスルスルと滑り落ちていく。そのあたりからか理容師おばさんがK子の頭に密着するような体勢に入った為、彼女の顔全部が見える事は無くなったものの、体勢の角度を変え続けるおばさんその隙間からサブリミナルのようにチラチラ覗くのは、瞼上・眉ラインで一直線に定規を引かれたように少しずつ前髪を断ち切られ続け目をギュッと瞑ったままで青白い彼女の横顔だった。それは優雅なカーテンのように顔を覆っていた長い前髪を根こそぎ奪われ、裸のK子自身が全て露出されて行ってしまう過程であり、隙間からは勿論今まで見た事もない初めての彼女の横顔が現れ始めていた。理容師のおばさんのハサミは尚もゆっくりゆっくりと、丁寧にその大量の長い前髪を断ち切り続けていき、トレードマークだった自慢の長い前髪がどんどん光沢ケープに滑り落ちて行った。

こうした眉ラインという短さや、まるで定規を引いたようにスッパリと切り揃えられて行っているその一直線さは、一般的に誰でも女の子の前髪カット直後にはつきものであり、数日間は自分自身の中で馴染まず周りも見慣れない為、恥ずかしいものだと思う。誰でも前髪カット直後からは、一時的に周りの子の中で「一番短い子」・又は「一番揃っている子」になってしまいがちで、その恥ずかしい[風物詩]は皆で定期的交互にローテーションされて行っているとも言えた。
しかし、あの長い前髪を今までずっと誇って来たK子だけには全く無縁で程遠く・あり得もしなかった事で、小学校入学以来6年目•最終学年まで守って来たその牙城を崩され、ついに初めての事態に追い込まれてしまおうとしていた。

K子の横顔を覆っていた長い前髪が断ち切られ続け、引き続きおばさんの背中からチラチラと覗くK子の顔の端から目尻辺りが露出されようとしていた頃から俺は一つの違和感のようなものに気付き始めていた。それは他の同級生の女の子達のみならず、先程その同じおばさんにカットしてもらった低学年の女の子とすらも違う、K子の前髪がされてしまいつつある何かを。

それは、目尻やコメカミを遥かに超えて奥まで、そして丸くラウンドではなく一直線更にはU字にまで見えてしまう程作られた幅広さと、本来明らかに後髪だった部分まで持って来て切り揃えられて行ってしまっている、その分厚さだった。先程の低学年の女の子は元々ショートで前髪も作ってあった為、おばさんは短くはしたものの、厚さと幅は決まっていて変える事がなかった。ところがK子の場合、あのワンレングスに近い長さを誇り無論前髪など作られていなかった為、厚さと幅まで全てゼロから、理容師のおばさんの手で思うがままにデザインされてしまう事態となった。理容師のおばさんの職人魂には、その綺麗な長さを誇って来たK子の前髪へのリスペクトや容赦などの情状酌量は全く入り込む余地がなく、寧ろ逆に仇となってしまった事態だった。もし万一、仮にお母さんなどの手によるカットで事前にある程度前髪が作られ、狭い幅と薄さが決められていて、その手直しでおばさんにやってもらいに来た、といった状況であれば、短さは同じように短くされてしまったかも知れないが、ここまで幅広く分厚くされてしまっていく「悲劇」はまず起こらなかっただろう。言わずもがな、幅広く分厚くされてしまう分だけ、ビフォーアフターのギャップ、大変身衝撃度は増してしまう事になる。その「悲劇」の予兆はハサミが切り進んでいき、目や瞼が露出される程に確信へと変わって行った。目を瞑らされており、(仮に鏡もないこの青空理容室で目を開けていてもK子にはそんな悲劇の全貌は知る術もなかっただろうが)、ハサミの触れる感触と、「シャキシャキッ」という交差音が、目より上のみならずどうやら更に高い位置の眉付近で感じられる事と、「バサっ、バサッ。」とあまりにも長く大量に目前を降り注いでスルスルと光沢ケープを滑り落ちて行くその髪束に、その悪い予感を感じてなのか、耐えるようにただひたすら目を瞑り続けていた。やはりK子の緊張と不安も極限に達していたのだろう顔にも若干の汗が滲み出て来ていたらしく、切られた前髪が鼻周辺に張り付くシーンがあり、おばさんは何回かタオルで取り払ってあげながら、尚も櫛で何回も丁寧に前髪を梳かしながら更に短く真っ直ぐ一直線に切り揃え進んで行った。どれだけ大量の長い前髪が断ち切られ続け、光沢ケープを滑り落ち続けて行っただろうか。長い前髪部分も逆サイドのコメカミ奥深くの最後の一束を残すのみとなっていた。そしてハサミはその最後の一束をも断ち切り尽くし、逆サイドまで到達してようやくその動きを止めた。恐らく少なくとも20分以上にも及んだであろう、長時間の前髪へのハサミの密着状態からようやく理容師のおばさんのハサミが離れていった。直ぐに今度は櫛で何度も何度も前髪を丁寧に丁寧に梳かされ続けて行った。そんな櫛梳かしも終わると、全体バランス確認の為に一度遠目からか見る為だろう、前髪を切り始めてからずっと密着していた理容師のおばさん自体も、久々にその手を止めようやくK子から離れた。
それはすなわち、あれほどまでの長きに渡りトレードマークだった自慢の長い前髪が、K子から遂に全て奪われ尽くしてしまった瞬間を意味していた。

前髪断髪開始から20分程ずっと理容師のおばさんに覆い隠されていたその影から、初めてその全貌を現してゆく瞬間のK子の姿は、ゆっくりとまるでスローモーションのようだった。
あれ程までに長く覆っていた髪が一本たりとも掛からなく無くなって面積と伴う反射が倍増した光沢ケープに照らし出されていたのは、まるでお椀かヘルメットを被せられてしまった、無残にもキノコのようなおかっぱにされてしまった、信じられない程別人のような頭に変わり果ててしまった、無様なK子の姿だった、、、

あれ程までに誇った長さをすっかり全て失い、代わりに一気に短く眉ギリギリのラインでしかも分厚く幅広くパッツンと一直線に切り揃えられ尽くされてしまった前髪は、今まで一本の髪にすらも覆われる事の無かった額をビッシリと覆い尽くしていた。また先程までは最後の砦となった長い前髪が目立っていて、カモフラージュされて目立たなかったが、その最後の砦の長い前髪までもがもはや全て短く切り揃えられ尽くしてしまった今、既に短く一直線に切り揃えられ済んでいたアゴラインのサイドと、そこから繋がれた襟足ギリギリラインで同じく短く一直線に切り揃えられ尽くされてしまっていたバックを覆い隠せる物はもはや何一つ残されておらず、残酷な現実をクローズアップされてしまった。
ハサミが交差しながら水平に横一直線に通過して行った後、あれだけ視界を遮り顔全面を覆っていた長い前髪が垂れ掛かっていた感触が、スッパリ眉下から一気に全て無くなってしまった感触で、K子も長かった前髪がすっかり全て短く切られ済んでしまった事だけは薄々感付いていたとは思うが、不安や羞恥心、現実直視への恐怖からか、引き続き目を硬く瞑ったままだった。

理容師のおばさんは、櫛で丁寧に梳かしながら、既に短く切り揃え終わり、長い箇所など微塵も残さず短く切り揃え尽くしたばかりの前髪ラインを尚も更に丁寧に切り揃え続けていく。既にまるで定規を引いたようにスッパリ横一直線に揃えられ切っていたが、尚もミリ単位での慎重な切り揃えが何度も何度も執拗に繰り返されて行った。先生と違い、理容師のおばさんにはフェチ心は全く無かったと思うが、その理容師としての職人魂が0.1ミリのズレも許さなかったのだと思う。K子にしてみれば、一時も早くこの恥ずかしい光沢ケープを外して解放して貰い、すぐ家に帰って、自分がどれだけ短く、どんな髪型・前髪にされてしまったのか確認したかったと思う。しかし、あれだけの長さの前髪やロングヘアをバッサリ短く切られ尽くしてもはやこれ以上切る長さなど無くなって尚も、未だこの恥ずかしい光沢ケープに全身をスッポリと拘束され続け、まるでトドメを刺されるかの如く断髪ラインをあまりにも執拗に何度も何度もクッキリと切り揃えられ続けていているK子の様子は、断髪前後のギャップを最大化されてしまっているだけでなく、あの華麗なワンレンロングだった栄光などまるで記憶から抹消され、今後もう元には戻れない様にまるで髪型形状記憶されてしまっているかのように思える程に屈辱的な姿で、今後再び伸ばす気力や意志すらもK子から奪い去ってしまう最終過程のようにすら思えてならなかった。断髪時間は、ついに1時間30分を超え、歴代「青空理容室亅最長時間記録をはるかに更新し続けていた。

その頃、先述の隣のおばさんがPTAから帰って来た。そのK子の断髪されている姿を見るやいなや、目を丸くして一瞬絶句した後、自転車を停めて急いでウチの庭に上がって来た。

「え"ーーーホントにK子ちゃん!?信じられないこんなにバッサリ短く⁈別人みたい〜〜⁈」と言いながら、以前から親しい理容師のおばさんに、こともあろうに触って良いか許可を求めて「まだ完成前だけど亅と了承されると、K子のまだ短く切り揃えられ続けている最中の前髪に触れながら、

「あんなに前髪長かったのに一気にこんなに凄いバッサリ短くスッパリ短く切り揃えて貰っちゃったんだーー後ろもバッサリ!こんなにスゴイー!!」
と驚愕していたが、何やら満足そうにニヤリと笑顔を浮かべながら言った。
「何だかホント小学校入学式の時のK子ちゃんに戻ったみたい。亅
1年生から前髪を伸ばし始める前のK子のイメージが思い出されたようだが、前髪を作っていた当時でも、全体自体はロングだった為、
「でも当時でも全体はロングだったから、一年生どころか幼稚園生か。そんなに短いおかっぱまでは初めてね〜。亅
K子は”おかっぱ”というフレーズに絶望的衝撃を受けた不安な様子で「私まだ見れてないんです、、。亅と、引き続き目を瞑ったままだった。


チリも積もれば山。何度も何度も執拗に繰り返し切り揃えられ続けていくうちに、少しずつジワジワと前髪のラインも上げられて行ってしまっていたのは気のせいではなかった。両端など眉尻の一部分のみではあるものの、事もあろうに、眉がチラチラと見え隠れし始めた。
(K子の、眉尻が出されてしまう、、眉上にされてしまう、、、)
俺は、あのK子には有り得ない姿を見た動揺を通り越し、見てはいけない物を見てしまったかのような錯覚に陥った。羽が抜け落ち禿げてしまった鳥を見てしまった時の、痛々しい気持ちにでも近かったかも知れない。先程までのK子の面影は何処にも残されず、もはや完全な別人だった。

先に、僅かな長さの違いであっても、肩下か肩上かで大きな印象の違いが生まれると述べた。前髪は顔に近い分間違いなく最も大きく印象を左右し、長さラインにより大分すると5段階でセグメントされるという話を聞く。その分岐点を経ると、長さ自体は僅かに短くしただけでも、印象は激変してしまう。

①肩より下(ワンレン)

②アゴ~リップライン

③目より下

④目の上

⑤眉上

K子の場合、

上記①だったトレードマークを②までで留まる希望が聞き入れられずに、一気に④でバッサリと切り落とされ、最後は⑤にまで差し掛かろうかという所まで切り揃えられ尽くしてしまった。最長から最短まで4段階も一気に経た大変身をさせられてしまったのだから、まるで別人のようになって行ってしまっているのは当然だった。
今までK子の顔はキレイな細い縦長シルエットイメージだった。しかし、それは顔側面サイドを長く覆っていた長い前髪のカーテンがあってこそだった。長い前髪のカーテンを一気に全て失って、コメカミ奥深くまで顔側面サイド全て露出されてしまったのみならず、逆に反面、今までキレイに何も掛かる事の無かった額は、分厚く短く一直線に切り揃えられた前髪でビッシリと覆われ尽くしてしまった為の逆転現象で、顔全体が今までとは全く180度真逆の横長のシルエットにされてしまい、むしろ丸くぽっちゃりと見えるようにすら変わり果ててしまっていた。

理容師おばさんは前髪を完成させたらしい後、先程完成させたと思われたもう一つの横一直線ラインである、アゴラインからバックに繋げられた横から後髪にかけてのラインも再度切り揃えに入った。前髪と同じく、おばさんは櫛で何度も梳かしながら、執拗に何度も何度も切り揃え続けて行った。その結果、アゴだったラインが上げられリップラインやや上にまで切り揃えられてしまったた為、ほんの僅かだがサイドから耳たぶを露出されてしまう事になってしまった。そこから一直線に後髪のうなじ生え際より数センチ上まで繋げられた。それはすなわち、後髪うなじ部分数センチだけではあったが、刈り上げ処理されてしまう事を意味していた。前髪断髪時から一度も目を開ける事なく引き続き目を瞑ったままのK子だったが、危機的異変を感じ取ったのだろう、頭を前にぐいっと押さえ付けられていく際、薄目を開けておばさんの手元を見た。そこでK子が見たものは、おばさんの手に握られていた、K子の前順番だったスポーツ刈り男の子含む数人にも使われていた漆黒に光るバリカンだった!待ち時間に直前順番だったスポーツ刈りの男の子に使われている工程を眺めていた時には、まるで別の惑星の事のように他人事に見えていたであろうそのバリカンが、つい先程まであのロングヘアが靡いていた自身のそのうなじにまさか入れられてしまう事態になろうとはK子自身想像だに出来なかっただろう。信じられない驚愕の面持ちで迫り来るその漆黒に光る物体を凝視し、あの(ブィーン)というモーター音に怯えたように顔をしかめ、再び硬く目を閉じたK子だった。後頭部をぐいっと前に押さえつけられ、うなじに滑り込まされたバリカンで何度も何度も上下動往復させられようやくバリカンの音は鳴り止んだ。しかし尚も理容師のおばさんの櫛とハサミでうなじを執拗に何度も何度も刈り上げ処理され続けた。
そのハサミの交差音がようやく終わりおばさんの手の密着が離れた。その跡から目に飛び込んで来たのは、つい先程まで腰までをも長く覆っていたあの綺麗なロングヘアが優雅に生えていた同じ箇所とは全く信じられない、無残なまでにキレイサッパリ刈り上げられ尽くされてしまったK子のうなじだった。
「綺麗な長い髪だね。」長い間皆から褒め称えられて来た後ろ姿の襟足からうなじにかけて生えていた長い髪の生え際根元だった部分は、短く刈られ過ぎて、[長い髪の毛の根元]から[髪の無くなった単なる毛穴]に降格させられて皮膚に埋もれてしまってもはやその存在を消され、その長い栄光の歴史に終止符を打たれてしまっていたーーー
おばさんの理容師としての技術の結晶•本領発揮と言える一糸乱れぬ完璧な刈り上げグラデーションが襟足からうなじにかけて数センチの幅に渡って作り上げられ尽くしていた。
今までのK子は、①前髪②サイド③後と、全箇所において無論一番の長さを誇り続けて来た女の子だった。他の女の子より短い髪の毛など何処にも存在していなかった。増してや言わずもがな男の子と同じ土俵で比較などするべくも無かった。
しかし、これ程までに大断髪されてしまった今、
①前髪両端の眉尻一部露出箇所
②サイド耳たぶ露出箇所
はもはや女子の中で最短部類にまで短くされてしまった証としてまるで烙印を押されてしまったかのように額と耳に断崖絶壁一直線断髪ラインを携えられてしまっていた。
そして、
③うなじ刈り上げ
に限っては、襟足から数センチだけの狭い範囲限定だけだが、K子の前順番だったスポーツ刈りの男の子とすら同短で、男子を混じえた中ですら最短部類にされてしまった証の刻印のようにうなじを青白く透かせて残酷に刻み込まれてしまっていた。
事実、自分は男の子の中では割と長めで無論刈り上げてまではいなかった為、後ろだけ見ると先程散髪完了済の男の子の自分よりもはやK子の方が短くなってしまっていた。
(あのK子の長かった後髪が、自分なんかより短い刈り上げうなじにされてしまった。。。。。⁈⁈)にわかには現実と信じられない驚愕の光景が目の前には繰り広げられていた。

そこまで徹底的にやり切って理容師のおばさんは自己の職人としての仕事にようやく納得出来たのだろう、長時間握りっぱなしだったハサミと櫛をようやく置いた。代わりにすぐに剃刃とシェービングクリームを持ち出して来て、うなじ・襟足部分と眉周り、もみあげ部分を剃り始めた。K子にとってはまたもや初めての経験だったのだろう、うなじ剃りの際には慣れない雰囲気で頭をぐいっと前に押さえ付けられていた。ポニーテールのようにアップにしていた時には後れ毛すらも様になっていたが、もはや結ぶ長さなど何処にも残さず短く切られてしまった今、そんな後れ毛も邪魔になってしまうとばかりに全てキレイサッパリ剃られてしまった。また、眉や瞼周りにもクリームを付けてクッキリ眉ラインに入念に剃られてしまった。これが意外にもスパイスのように、断髪されてしまった前髪の衝撃を最大化させる事になるのだった。シェービングが終わり一時的にピン留めしていた前髪を再び降ろし櫛で梳かし揃えると、その真っ直ぐ一直線に切り揃えられた黒く分厚い前髪ラインの下に、ツルツルに剃られたばかりの瞼の真っ新な白い肌とのコントラストがより一層、短く切り揃えられてしまった前髪の一直線さと分厚さの断崖絶壁感を鮮明にしていた。蒸しタオルで、剃ったばかりの襟足やモミアゲ、顔周りのクリームをキレイに拭った理容師のおばさんは、今度は櫛で入念に髪全体を梳かし始めた。しかしつい2時間程前の断髪開始前ブラッシング時には腰までの長い距離往復していた櫛は、後頭部までしか必要無くなった超短距離往復にその役目を変え繰り返し何度も何度も往復し、断髪開始前ブラッシング時はもとよりK子自身でも櫛を走らせた事が無かった前頭部から眉上に掛けての額に同じく何度も何度も入念に櫛を通された。
厳しく真剣な表情で自身が作り上げた各断崖絶壁断髪ラインや全体シルエットをチェックしてあち理容師おばさんだったが、今度こそ本当に職人魂が満足したのだろう。一転して満面の笑みと晴れ晴れとした声で、未だ目を瞑り続けているままのK子に、ついにようやく全て完成した事を告げた。



理容師さん:「はいっ長い時間お疲れ様!大完成しましたーっ❗️」

K子にとっては永遠に続くような屈辱的長時間に感じられたであろう、悪夢のような大断髪式がようやく終わったのだ。

前髪を切られ始めた頃からずっとだったのでどれだけの時間だっただろう、ずっと目を瞑り続けていたK子はその声を聞いて久しぶりに目を開けようとしていた。ゆっくりと恐る恐る目を開けたK子には、視界全面を遮っていたあれだけ長かった前髪がもはや微塵も無くなって全て開けてしまった視界に、激しく戸惑い動揺した様子で、代わりに眉ラインでビッシリと分厚く額を覆う切り揃えられ尽くしてしまったばかりの短い断崖絶壁前髪を、目上の視界に捉えようと限界まで上目遣いを試みていたが、余りにも短か過ぎて視界に捉えられ無い様子で、目を白黒させていた。

理容師さん:「大変身しました~❗️亅

と言われながらおばさんに手鏡を渡されたK子は、初めて、変わり果てた別人のようにされてしまった自分の姿を見た。

K子:「・・・・・・・・・・・・❓‼️」
眉やうなじにハサミの当たっていた高位置やあまりに長時間に渡っていた大断髪時間で、ある程度の覚悟はしていたのだろうが、それはK子自身の想像を遥かに上回っていたに違いない。あまりに変わり果てた自身の姿に、信じられないと言ったような驚愕の表情を浮かべ暫く絶句し、ショックと落胆の色が有りありと現れていた。短く切り揃え作られてしまったばかりの断崖絶壁前髪を、恐る恐る慣れない手つきでまるで腫れ物を触るように触った。つむじ付近から下に辿って行った前髪は以前と変わらぬ艶やかさだったが、その艶やかさは突然眉ラインで断崖絶壁のように一直線に断ち切られ、その分厚い断崖絶壁ラインはコメカミ付近奥深くまで寸分狂わず真っ直ぐ一直線に繋げられてしまっていた。

しばらく呆然とその断崖絶壁前髪を撫で続けていたK子に、おばさんは尚も合わせ鏡を見せて、ダメ押すかのように、サイドとバックを、確認させた。

理容師さん:「後ろは、はいっ!こんな感じ❗️亅

K子:「・・・・・・・・・‼️❓❓‼️」

K子には先の前髪に続く更なる大衝撃の連続に、もはや耐えきれない動揺が表情に色濃く現れていた。自らのものとは信じがたい後頭部を恐る恐る触るK子。つむじ付近からから下に辿って行った髪は以前と同じ艶やかさで輝いていたが、その感触は後頭部でまたもや前髪同様突然断崖絶壁のように一直線に断ち切られ、そしてその下うなじ部分は事もあろうに、ジョリジョリと青白く刈り上げられてしまっていた。
あれだけの長さを奪われてその重さをすっかり失った短く切り揃えられた髪は乾いた事もあってか、更にボリュームを増し、キノコのようなおかっぱにされてしまったインパクトを最大化させていた。
あのサラサラの長い前髪がトレードマークのシルクのようなワンレンロングを長い間誇ってきたK子には、余りにも残酷過ぎる大断髪後の変わり果てた屈辱的な自身の姿だった。

理容師のおばさんも、流石にこれだけの長時間に渡る大断髪仕事をやり切った事で、職人としての達成感や満足感がMAXだったようで、自身で勝手に自己納得したような口調でハイテンションで語り掛けていた。

理容師:うんっ、前髪サッパリしたね〜〜❗️
サイド、後もだけど。やっぱりこれ位短く切り揃ってる方が小学生らしくて可愛いよっ❗️まぁ、こんなに思い切り一気にバッサリ短く切っちゃったから、一年生通り越して、さっき[幼稚園]まで言われちゃってたけど(笑)きっと明日学校の先生も褒めてくれるよ。亅
K子:「・・・・・・・・・・・・。」
理容師: 「、、どう?自分では?。」
K子: 「・・・・・・・。」
理容師: 「サッパリしたでしょー?」
K子: 「・・・・・は、、はい・。」
あまりの大衝撃と動揺の大きさに声にならない涙声のように一言絞り出すのがやっとのK子だった。

周囲で観ていた悪ガキ達に、

「ウオー、K子がオカマになったー!男になったー(笑)」と意味不明の囃し立てられをしたが、今までのK子の溢れる女性らしさや神秘的な大人っぽさが根こそぎ全て奪われ、挙句の果てにはバリカンまでもを入れられてしまった衝撃の大変身を間近で見た表現としてはあながち間違いでは無かったと思う。男の子達に見られていた事を思い出して恥ずかしがり、その断崖絶壁一直線前髪を両手で覆い隠す素振りを見せた。しかしかつて優雅に覆っていた長い前髪のカーテンを全て失ってすっかり全露出されてしまったその頬には、もはや覆い隠す前髪は1本たりとも残されておらず、顔剃り直後という事も相まってか真っ赤に染まっていた。地面には、他の男の子達の散髪時にはまず有り得なかった信じられない程大量の長い髪束が辺り一面を覆い尽くしていた。

ずっと光沢ケープに覆われたまま手鏡をもちながら前髪、サイド、後髪の断崖絶壁ラインを手でなぞり続けていたK子の姿を、満足そうな笑顔で暫く見守っていた理容師のおばさんだったが、頃合いと見たのか、声を掛けた。

「じゃ、ケープ外すよっ〜〜❗️」

K子にとっては願っていたあの恥ずかしい光沢ケープからのようやくの解放だったが、その中から現れたのは、その同じ光沢ケープに拘束されて行った断髪開始直前だった僅か約2時間程前とはやはり変わり果てて全くの別人にされてしまったK子の姿だった。あれだけたっぷり長く掛かっていた前髪やロングヘアがもはや全く微塵も掛からなくされてしまった胸や背中、肩までのみならず、タートルネック風のセーターの首元までをも全て露出されてしまった姿は、その2時間前まで細い縦長シルエットだった全体スタイルをも、先述顔同様、丸く大きくぽっちゃり見えるようにすっかり変えられてしまっていた。何よりこのキノコのようなオカッパにされてしまいK子独特だった大人っぽさや女性らしさをも一気に根こそぎ全て奪われてしまった結果、実年齢相応を通り越し、隣のおばさんや理容師さんが言うように前髪を伸ばし始める前の1年生はもとより、ロングまでをも断髪されてしまった結果、幼稚園時にまで戻されてしまったかのような今のK子には、あれだけ似合っていたその日の大人っぽいスカートやニットが、まるで七五三で着させられている衣装のように不釣り合いな違和感ばかりで全く似合わなくされてしまっていた。あの光沢ケープにスッポリ包まれ拘束されてしまった約2時間程の間に長く垂れ掛かっていたワンレンロングという唯一無二にして最大のアクセントを跡形も無くされてしまった洋服は、その洋服自体をもまるで別の物に変えられてしまったかのようだった。人一倍オシャレだったK子にはとうてい受け入れられない現実だったろう。
K子にとっては悪夢のような大断髪式になってしまい実際の何倍の長時間にも感じられたであろうし、何より大断髪後に変わり果ててしまった自らの姿に受けた衝撃がさぞや大きかったのだろうし、何よりあれ程の髪の重さが無くなってしまい直ぐにはバランスが取れなかったのだろう、ハケで襟元の毛を払われながら立ち上がる彼女の首元はグラグラとまるで落ち着かず、足元は明らかにフラフラとおぼつかない様子だった。
そして心ここにあらず茫然自失と言った様子で、
「・・ありがとうございました」と、気持ちの込もらない御礼をしていた。K子がお会計を支払おうとお母さんから預かったらしい茶封筒を開いている時、丁度PTA会合を終えたK子のお母さんが帰って来たようで、庭の自転車置場に停めている音が聞こえてきた。

「お帰りー!」と大きな声で声を掛けたのは、ベランダで洗濯物をしまっていた隣のおばさんとウチの母親だった。

「戻りましたー!」と同じくベランダに向かって大きな声で返しながら、自転車カゴから荷物を取り出しいるK子のお母さんに、隣のおばさん嬉々と続けた。

「K子ちゃんっ!も~う凄い‼︎バッチリ仕上がっていってるみたいよ❗️」

「ホント?!見に行かせてもらうわね。」と言って一旦勝手口に荷物を置きに行ったようだった。

そしてK子が支払いを済ませたところへ「ありがとうございました~!」と言いながら、家に荷物を置いたお母さんがやってきた。K子は不慣れな手つきで、断崖絶壁前髪ライン辺りを触りながら、お母さんに見てもらえるのを待っている落ち着かない様子だった。それは、

『一番の理解者であったお母さんの反応で、自分がどんな姿にされてしまったのかを冷静に確認したい』
という気持ちと、
『この断髪を後押ししたお母さんにだけは褒めてもらいたい』

という2つの気持ちが入り混じっていたのだと思う。

そんなK子の気持ちをよそに、次の瞬間大断髪され別人のように成り果ててしまったK子の姿を初めて見たお母さんは、明らかに驚いて動揺し一瞬言葉を失って呆然とし、一歩だけ後ずさったようにすら見えた。それは、お母さんの中での完成イメージを遥かに上回っていた為か、そこまでの姿にされてしまうとは想定せずにオーダーした為か。そして、沈黙を破ろうと言葉を発しようとしたが言葉が出ず、その笑顔は明らかに引きつっていたように思う。

「・・よ、良かったじゃないー、バッサリ切ってもらって、、、」

俺ですら感じた、その言葉とは裏腹なお母さんの本音を、娘のK子が敏感に感じ取らない訳がない。

(だから、言ったじゃない!嫌だって、、、、、❗️)

とでも言いたげな、泣き出しそうな表情になった。最大の理解者だったお母さんに裏切られたような気持ちになったのだろう。

理容師のおばさんと庭の片付けを始めたウチの母親が、「アンタも手伝いなさい。」と俺に言っていたのを受けて、K子のお母さんは「私達もやりますよ。」と言ってK子を促し、「そのままで大丈夫だよー。」と遠慮して言うウチの母親と理容師のおばさんをよそに、片付けに加わった。つい先程まで自らのものだった、未だ艶を放って椅子下に横たわるつい先程まで自身のものだった大量の長い髪を、泣きそうな顔でゴミ袋に集めるK子の姿は、悲哀に満ち満ちていた。計5〜6人の子供達の髪を集めてゴミ袋がパンパンになった事は、無論[青空理容室]史上、後にも先にも間違いなくこの一度きりの空前絶後の事態だったし、言わずもがな、中身の9割以上はK子のものだったロングヘアだったのは間違いない。

掃除と椅子片付け会場撤収が終わり、解散の挨拶時になった。
引き続き放心状態で、全て根こそぎ奪われ失ってしまった自身のワンレンロングヘア幻影を追い求めるように、一直線に短く切り揃えられてしまったばかりの断崖絶壁前髪や後髪をまるで隠すように触り続けるK子だったが、無論つい2時間前までのあのワンレンロングに戻れるべくも無い。相反していまだ達成感冷めやらない理容師さんがそんな様子のK子に近付いて、自らが大断髪完成させたばかりのK子の前髪や後髪を自慢げに触りながら意気揚々とK子のお母さんに言った。
理容師さん:「まーこれだけ短くなっちゃったからには、今までのずっと長かった頃とはもうガラリと180度打って変わって、今後はマメに最低1〜1ヶ月半に1回位は切り揃えなくちゃならないですよ〜。この短い前髪•サイド•後は伸びて来ると目立っちゃうし、特にこの後ろの刈り上げのとこは特にみすぼらしく見えちゃうから亅

K子のお母さん: 「、、、、、、、、、❗️❗️亅

[みすぼらしくなってしまう亅という、今まであの優雅なロングヘアだったK子にはまず程遠く有り得なかった形容に、軽率に担任の先生に従った訳では無いお母さんも、切らせてしまったロングヘアの余りの長さと、想定以上にこんなに短く切られてしまった事態の重大さと、そのうなじに刻印されてしまった刈り上げにより背負ってしまった十字架を初めて認識し、後悔の念のようなものが浮かんでいた様子だった。

K子のお母さん: 「、、そ、そうなんですね。この子も私もですけど、ずっと長くてこんなに短くなった事初めてでまだ全然勝手がわからないです。。。。亅

理容師さん: 「来月のこの会は、、、○○日(日)お隣さん家会場○○時からだったかな?その時また来て下さい、キッチリ綺麗に切り揃えますから!亅
K子のお母さん: 「、、そ、そうですか、毎月カット必要になったんですもんね、、、亅

またもや大人達に勝手な予約を交わされてしまったK子は、それまでの放心状態から一転して目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。

(、、、、、、!!!もう切る長さなんて何処にも残って無いじゃない、、、)

(こんな悪夢が1〜1.5カ月おきに、、、これ以上されたら私はどんな姿にされてしまうの、、、?)

と絶望的に思ったのだろう。
これ程まで見事に短く真っ直ぐ一直線断崖絶壁ラインに作り込まれてしまった前髪•サイド•後を維持するには、確かに今後短いサイクルでのマメな切り揃えカットをしなければならないのが宿命とも言えたが、
それまであれだけ長い間誇って来たロング、前髪を一気に奪い尽くされてしまったばかりのその時のK子には、失ってしまったものと、変えられてしまった現在の自身の姿の衝撃があまりにも大き過ぎ、そんな短い髪の子になってしまった自身の現実を認識しそして今後の短い髪の子としての宿命や刈り上げメンテナンスカットの十字架を背負い受け入れるには、余りにもまだ到底時間が足らな過ぎた。

こうして、K子の大断髪式は幕を閉じた。幼心には、あまりに衝撃的過ぎる、初恋の女の子の大変身、いや生まれ変わりと言っても過言ではないレベルの事態を目の前で観てしまい、美しい物が破壊されてしまい、全く別の姿に変えられてしまった変態プロセスとその最終態に、その当時言葉には言い表せないそこはかとない何かエロスのようなものを感じ、その日の夜はなかなか寝つけなかった。




終章



結局あまり寝られず、翌朝珍しく早くに学校へ向かった。昨日目の前で起こった事は未だ信じられなく、幻だったのではないかと思えた。大断髪されてしまったあの短いおかっぱ姿のK子の印象が薄れ、今までの長い前髪とロング姿のK子が脳裏に浮かんでいた。学校へ着くと、K子はまだ登校していなかった。学校は普段と変わらぬ月曜日朝、朝礼が始まるまでの日常時間だった。それぞれ、日曜日に遊びに行った話、テレビの話などで騒がしかった。K子の大断髪を一緒に見たはずの男友達2人も、別の話に夢中でK子の「K」の字すら話題に出さない。俺から話題にしようかと思ったが、K子の事が「好き」である事を悟られたくなく、触れられなかった。そうこうしているうちに、昨日の事は幻だったのではないか?K子は、今までと変わらぬあの長い前髪とロングを靡かせて登校して来るのではないか?と尚更思えて来る。

いつもは早目に登校している印象だったK子だが、この日はなかなか登校して来ず、朝礼が始まる時間の5分前になってしまっていた。始業時間になると先生がやって来て、遅刻扱いにされてしまう。勿論K子は遅刻などした事はない。今まで無かった事態に女子達も気にし始めた。

「K子風邪でも引いちゃったのかな~?」「大丈夫かね~?」と囁かれ始めた。

そんな頃だった。教室外の廊下から喧騒が巻き起こった。

女子達の「えーーーーー誰!!!!」という甲高い悲鳴のような声と、

男子達の「ウオーーーーー!!!」という驚愕の声がこだました。

教室内にいた子達もその声を聞いて、数人更に廊下に出たが、同じく絶叫に加わり、そのこだまは大きくなり続けて教室に向かって来ていた。

女子達の、

「K子ーーーーーーー??!!!」

という声が鳴り響いてきた。

俺はその声だけで即座に全てを察した気がした。昨日見た光景はやはり幻などでは無かったのだ。紛れもなくあの大断髪された姿のK子が登校し、教室に向かっているのだ。遅刻ギリギリまで皆に見られるのが怖かったのだろう。

教室の後戸が開いた。先に様子を見に廊下に出ていた数人の子達と共に、恥ずかしそうに俯きながらK子が入って来た。

教室内は更なる大喧騒になり、女子達が取り囲んだ。

K子の姿は、言わずもがな、昨日目前であのロングを大断髪されてしまった、短いオカッパ頭そのものだった。その洋服も昨日似合わなくなってしまった自らの現実を認識したからだろう、今まで見た事が無い初めて着て来たような服装だった。

「え"ーーーーホントにK子?!」

「キャーー切っちゃったのーーーーー?!」

その髪に触りながら、

「こんなにバッサリーーーー?後ろ刈り上げ?!」

「短いーーーーー!前髪もこんなに短く切り揃えられちゃってーー!」

などと、女子達が騒いでいた。

「K子がちびまる子になったー!」

と悪ガキ達が囃し立てていたが、俺は加わる事は出来なかった。

「可哀相でしょ~!」などと女子達が庇っていた。K子には、恥ずかしさを覆い隠す以前のような長い前髪のカーテンは跡形も無く、眉ラインに沿ってビッチリと短く切り揃えられている前髪の下に眉剃りされた瞼が露にされ切ったコントラストが鮮明だった。実際に改めて周りの子達と比較してみても、最も分厚く短く切り揃えられた前髪の子に、入学以来この6年生時にして初めてK子がなってしまった事は明らかだった。あれだけ最も長い前髪を誇って来たK子がだ。

周りの子達の反応も、断髪直前にも少し兆候が現れていたように、K子を擁護するものから移行してK子の陥落への好奇心に満ちていた。最も象徴的だったのは、前述の「人気No.2だった」女の子だ。彼女は、ショートになって「普通の子」になってしまってから約1年経ち、以前のロングにまでは戻るまでは勿論ないが、肩に着くか着かないか位までには戻ってきていた。今やすっかり長さが逆転したK子の横に立ち、短く切り揃えられた前髪や後ろ髪を触りながら、勝ち誇ったように笑いながら言った。

「こんなに短くされちゃって、、、なんか別人みたいにされちゃったね。。。」

その子の断髪時には、あれだけ優しく庇ってあげていたのに、K子とすれば、飼い犬に手を噛まれたような気になった事だろう。残酷な反応に黙って俯いて耐えているようだった。



そこへ、先生が教室に入って来た。朝礼の時間になったらしい。今までには無かった騒ぎに何事かと思ったのだろう、一瞬怒りに声を荒げた。

「コラ!静かに!!席に着きなさい!!!」

騒ぎが大き過ぎたのか、先生を持ってしても一言では収まらなかった。しかし次の瞬間、皆の声からか異変を察した先生自身も、騒動の源である大断髪されたK子の姿を目視確認したのか、瞬時に全てを把握したようだった。予定通りと言わんばかりの余裕溢れる笑みを浮かべた先生は、一転して静かに落ち着いた低い声で言った。

「朝礼始めます。」

皆も不思議と静かに席に着いた。号令係は学級委員であるK子の役目だが、かつてない動揺をしていたのだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・」

号令が掛からず静まり返る教室に、先生はK子を直視し、促した。

「号令。」

「・・・・・起立。気を付け。礼。着席。」

先生に見つめられ続けているK子は、今までに無かった、蛇に睨まれたカエルのようで、号令の声にも動揺が現れていたようだった。

先生は溢れる笑顔が隠し切れず、零れるようにニヤリとしながら、自らの策略でついにトレードマークを全て奪われた姿のK子を見つめ続け、いつもは直ぐに始める伝達や配布物をせず、暫くの間を置いていた。K子も、明らかに先生から見詰められ続けているので、ただ俯くより他ないようだった。再びの静寂が教室を包む。

「・・・・・・・・・・・・・。」

例の家庭訪問以来丁度約1週間だろうか、K子に全くと言って良い程声を掛けて来なかった先生が、引き続きK子を見詰め続けながら、満を持したように、

「K子ちゃん、、、?」

次の瞬間、勝ち誇ったように嬉々と大きな声で言った。



『サッパリしたじゃな~い~〜〜❗️❗️❗️』



その瞬間クラス中が一挙に沸き、その日一番の大騒ぎになった。

断髪を策略した張本人の先生から見ても、このK子の完成姿は自身の目論見を遥かに上回る出来だった様子で、溢れ出る喜びを全開にし、尚も畳み掛けるように、K子の側に向かい、短く揃えられた前髪、サイド、うなじラインを撫でていた。
その二人の姿を見て再認識した事があった。
(あのボーイッシュな先生よりK子の方が短くなってしまった箇所が多い、、、)
無論、段が全面に入ったベリーショートに近かった先生よりトップの部分まで短いという事は流石に無いものの、以外の部分はK子の方がより短くなってしまったのは事実だった。
先生もその事実を意識してかのように更に勝ち誇った様子で言い放った。

『でも全然誰だか分からなくなっちゃった位後ろまでこんな一気にバッサリ思いっきり短くなっちゃったのね~❓‼️でもあれだけのワンレンロングだったK子ちゃんが、こんなにキレイさっぱり短いキノコみたいなオカッパちゃんになっちゃったのも可愛いわね~~❗️❗️❗️』

「キノコみたいなおかっぱちゃん」という、ショッキングなフレーズにまたクラス中が沸き、K子にはもはやこれ以上ない屈辱だったと思うが、「ショートボブ」など髪型呼称はそぐわなく、確かにK子がされてしまった頭に一番合った表現だった。
6年生といえども子供は残酷なものだ。先生の真似をして、今までK子を敬い取り巻いて来た女の子達がK子のおかっぱ頭を多く触りに来たが、それはK子を庇っり守ったりするようなものでは無く、寧ろ逆に、初めての服を着たおかっぱ姿に成り下がってしまったK子を見下し、揶揄う残酷なリアクションだった。
「うわー!おかっぱちゃん刈り上げ凄いジョリジョリするー‼︎」
「ウチのお父さんのヒゲ触ってるみたいー‼︎」
いつもならそんな騒ぎを制止する先生も、満足そうにニヤリとほくそ笑みを浮かべながら見ていただけだった。
溢れていた女性的魅力を一気に全て失ったのみならず、よりによって男性の象徴「お父さんのヒゲ」とまで表現されてしまった今のK子には、かつての神秘的とも言えた神通力など見る影も無く皆を制止する術はもはや他に何も無かった。ただ晒し者にされ続ける余りにも屈辱的な時間に俯いてただただ耐えていた。

K子が、前日の大断髪式で根こそぎ奪い去られた「美」に引き続き、翌日のこの朝屈辱的に晒し者にされたおかっぱ姿お披露目会にて、伴うその「力」をも全て跡形も無く奪われて無力にされ、全てを失った『幼稚園生のような女の子』に陥落させられてしまった瞬間だった。先述したように、先生の権力基盤確立の見せしめ踏み台に利用されてしまったのだった。



こうして、トレードマークだった自慢の前髪やロングヘアを、一気にバッサリと短く切り揃えられ尽くしてしまったK子だったが、その長さとしては少なくとも40cm程、こと前髪に関しては更なる長さを思い切りバッサリ一気に切り落とされてしまったのは確実だった。理容師のおばさんは「結ぶか切るかしなくてはならない中学校入学までに一度試しておいてもいい」などといい加減な事を言っていたが、一般的に髪が伸びるのは1カ月に1cm程度と言われているので、その大断髪されてしまった5月下旬時点から卒業の3月までは約9カ月しかない。そう、もし再び伸ばしたとしても最長でも9cm程度までしか戻らないし、増してや理容師のおばさんが言っていたように、マメなメンテナンスをしながらとなれば8cm,7cm,6cm,5cmと下がっていく。あれだけ腰まで40cm〜50cmあったかのようなロングの栄華を誇ったK子からすると、そんな5cm程度は[ショートヘア]の範疇でしかなく、5cmごとき戻っても全く価値は無い。何よりこれだけの大断髪をされて[美]と[力]をも全て奪い去られてしまった衝撃はトラウマとなって、K子から再び髪を伸ばす気力と意志までをも根こそぎ奪い去っていた。言うべくもないかも知れないが[試し]など始めから存在せず、その意味でも【あのK子の姿】はもはや二度と戻って来ないのだった。


その日は「おかっぱ」になってしまったK子の姿を事ある毎に追ってしまった。真後ろの席から見えていた、椅子に掛かる程まで長かった髪は、うなじが見える程短く揃えられ、鉛筆でノートに描く時に耳に掛けていた長い前髪は、コメカミ奥深くまで分厚く短く揃っていた。体育の時間には跳び箱を跳ぶ時に揺れて靡いていた髪は一糸乱れず揃っていた。

そんなクラスや学年、学校中、強いては地域全体を揺るがした衝撃的な大変身も、ゆっくりではあるが日を追う毎にさすがに少しずつは違和感が薄まっていくようだった。

「ロングからバッサリ短くなってしまったK子」

から、

「ショートボブのK子」

が少しずつではあるが、浸透していった。

1ヶ月半程経った夏休み前だったろうか、大分慣れて浸透し切った頃だったと思う。美意識の高いK子だからか、若しくはお母さんがチェックしていたからだろうか。恐らく短くなった事で伸びが気になり易くなったのだろう。前髪と後ろ髪ラインを切り揃えるカットをして来た。青空理容室ではなくも他の店に行ったようで、無論バッサリする長さはもはや無く揃えるだけではあったが、「切ったばかり」という事が明らかに分かるキッチリとしたカットラインで、周りからも「切ったー?!」と言われて恥ずかしがっていた。以前のK子ではあり得ない短い間隔サイクルとカットラインに、短い髪の子になったK子を改めて認識すると同時に、やはり再び伸ばす気力はもう無いのだと再確信した。
その後も卒業まで定期的に1ヶ月~1ヶ月半という、女の子にしては割と早いサイクルでK子の切り揃えるカットは続いて行った。青空理容室には二度と来なかったのは残念だったが、そのアフターカット姿を見るのが俺にとっては密かな楽しみであった。


様々な偶然が幾つも重なり合い遭遇出来た、奇跡的な体験であったと思います。これが私が生で見た、初めてであり、現在までで唯一の断髪にして私のフェチを目覚めさせた決定的な出来事となったのでした。
未だその幻影を追い求めている気がします。そして、これからも追い求め続け生きていくのだろうと。