短編「薔薇販売人」
後に「原色の街」で芥川賞候補になり、「驟雨」で芥川賞を受賞する作者の、最も初期の短編。
終盤にかけてなかなか読ませる。
吉行文学の主題はこの短編においてすでに提出されている。
男は自分の内にどうしようもなく広がる空洞をみつめている。
女は自らの肉体をもって男に迫りくる。
「性」によって強烈にその存在を主張している。
頑なに自己の内面へと視線を送り続ける男に、外部から強烈な実在感をもって「女」が接近してくる。
そういう緊張関係のなかに、吉行淳之介の文学世界はある。
そういう吉行の女性観は、たしかに男のご都合主義的であり主観的だろうが、吉行はあえて純粋に主観的であることを追求することによって、女という存在を実在感覚といえるほどの生々しさで描こうとする。
吉行の筆は主観の檻に閉じこもってはいるが、それでも主観・自分の身体の外側に「誰かいる」ことを感知し、怯え、本能的にその「誰か」を求めている。
ぼくにはそんなふうに読める。