白樺の樹の絵画をふたつ
その1 イワン・シーシキン(1832年生まれ)
視覚的にリアル。写真のよう。物差しで測ったような絵。
僕はシーシキンの絵があまり好きではない。
モスクワのトレチャコフ美術館にたくさん飾ってあったけど、たいした感動はなかった。
その2 アルヒープ・クインジ(1841年生まれ)
光と影の美しい対称。
クインジは最も好きな画家のひとり。
僕はこの絵をモスクワで観たとき、そのあまりの迫力に言葉を失くした。
これが本物の白樺だと思った。この絵は実物の白樺よりも白樺に近いと思った。
(またプラトンの話になるが、)白樺のイデアがあるとしたら、それに最も近いものをクインジは描いた。
(僕の心のなかの理想の白樺イメージに最も近い白樺だったということ。)
これらの絵を観にモスクワへ訪れたのは、一年前のこと。
モスクワからロシアの田舎へ帰ると、白樺の林がもう葉をつけていた。
そこに日が差す様子と、クインジの描いた風景とが、僕の心のなかで重なる。
今借りているアパートの窓からは、触れられるくらいのところに立派な白樺の木が伸びている。白樺の葉は風に吹かれると、カラカラと渇いた好い音がする。