今日も一日は、
キスとハグから始まった。
もう何度目か分からない、
僕たちの朝のお決まり。
会ったら、
チューをして、
ぎゅーをする。
昨日もした。
今日もした。
たぶん明日もする。
それでも俺は、
毎回ちゃんと嬉しい。
好きな人との「当たり前」って、
慣れていくものじゃなくて、
積み重なっていくものなのかもしれない。
俺の日課。
俺には、
もう一つお決まりがある。
ひーちゃんの足を、
マッサージしてあげること。
疲れている足を触りながら、
今日も頑張ってるな、
なんて思う。
別に、
大したことをしているわけじゃない。
でも、
少しでも楽になればいい。
俺がしてあげられることなんて、
案外こういう小さなことくらいだから。
そして今日も、
コンビニで飲み物を買ってきた。
今日選んだのは、
「私のフルーツこれ1本」の鉄分が入った飲み物。
このシリーズは、
俺がひーちゃんによく買っていくものの一つ。
その日の体調を考えて、
今日はこれ。
明日はこっち。
たかが一本の飲み物なのに、
選んでいる時間は、
だいたい彼女のことを考えている。
それから、
二人で飲んでいるものがもう一つ。
ネイチャーメイドの、
スーパーマルチビタミン。
これも、
いつの間にか僕たちのお決まりになった。
キスをして、
ハグをして、
体重を報告して、
サプリを飲んで。
文字にすると、
僕たちの日常は、
恋愛なのか健康管理なのか、
たまに分からなくなる。
でも、
それくらいでいい。
好きって、
「愛してる」って言うことだけじゃなくて、
ちゃんと食べた?
今日は何キロだった?
これ飲んでおきな。
足疲れてない?
そんな言葉の中にも、
普通に隠れていると思うから。
君がいないと、少し寂しい。
今日は、
ひーちゃんが仕事の途中で外出した。
もちろん、
ずっと一緒にいられるわけじゃない。
そんなことは分かっている。
分かっているんだけど、
ちょっと寂しい。
普段近くにいる人が、
少しの間いない。
ただそれだけなのに、
なんとなく物足りない。
こういうところが、
たぶん俺の犬っぽいところなんだと思う。
そして、
ひーちゃんが帰ってきた。
心の中では、
たぶん尻尾を振っていた。
実際には生えていないので、
バレてはいないと思う。
たぶん。
最近の、二人のお昼寝。
外出から帰ってきたひーちゃんと、
中休憩で一緒に眠った。
最近、
僕たちのお昼寝には定番がある。
ジブリのピアノ。
静かなピアノを流して、
二人で寄り添って眠る。
会話なんて、
ほとんどない。
ただ、
好きな人が近くにいて、
聞こえてくるのは、
優しいピアノの音。
こんな時間が、
俺は好きだ。
何か特別なことをしなくても、
隣にいるだけで落ち着く。
眠る前、
ふと目が合うことがある。
すると、
ひーちゃんは微笑んでくれる。
ほんの一瞬。
それだけ。
でも俺は、
その一瞬が好き。
目が合ったから、
笑ってくれる。
それだけのことで、
なんだか、
「ここにいていいよ」
って言われているような気がする。
猫と、犬。
そういえば、
僕たちは以前、
動物診断をした。
ひーちゃんは、
猫。
俺は、
犬。
……うん。
なんとなく、
分かる。
ひーちゃんは、
自分のことを話すのが少し苦手で、
自分の時間も大切にする。
近づいてきたと思ったら、
一人の時間が必要なこともある。
猫みたいに、
自分のペースを持っている。
一方、
俺はというと。
好き。
会いたい。
心配。
可愛い。
一緒にいたい。
たぶん、
感情が顔に出ている。
ひーちゃんにも、
俺は少し犬みたいな性格だと言われる。
そして、
そんな俺を見て、
「可愛い」
と言いながら、
なでなでしてくれる。
俺はもう、
否定しないことにした。
5個上の猫みたいな彼女に、
なでなでされて喜んでいる犬。
それが俺。
悪くない。
むしろ、
結構気に入っている。
横から見る君。
仕事をしているひーちゃんを、
横から見ることがある。
俺は、
この時間も好きだ。
真剣に仕事をしている彼女は、
いつも凛としている。
初めて見たとき、
「綺麗な人だな」
と思った。
一緒にいることが当たり前になった今でも、
仕事をしている横顔を見ると、
同じことを思う。
やっぱり、綺麗だな。
指先も、
華奢で綺麗。
別に、
本人に毎回言うわけじゃない。
ただ横で、
勝手に見て、
勝手に思っている。
付き合ったら、
好きな人を見慣れてしまうのかと思っていた。
でも俺の場合、
そうでもないらしい。
最初は知らなかった表情を知って、
仕草を知って、
性格を知って。
知れば知るほど、
見るところが増えていく。
だから今でも、
ふとした瞬間に、
彼女を見てしまう。
寛大な君。
ひーちゃんは、
寛大な人だと思う。
俺は、
たぶん少し面倒くさい。
好きすぎるし、
心配しすぎるし、
寂しがるし、
よく喋る。
犬みたいに、
感情をそのまま持っていく。
それでも彼女は、
そんな俺を受け止めてくれる。
なでなでして、
可愛いと言って、
微笑んでくれる。
だから俺は、
彼女の優しさに、
甘えすぎないようにしないとな、
とも思う。
猫には猫の時間が必要だから。
……犬として、
覚えておこう。
朝はキスで始まって、夜は声で終わる。
仕事が終わる。
そして最後も、
やっぱり僕たちは、
キスをして、
ハグをした。
朝もしたのに。
何回するんだよ、
と思われるかもしれない。
俺もそう思う。
でも、
したいものは仕方ない。
そして、
バイバイ。
それぞれの帰り道へ。
でも、
今日もこれで終わりじゃない。
帰り道は、
いつものように電話をした。
さっきまで一緒にいたのに、
また話す。
第3話でも同じことを書いた気がする。
たぶん、
これからも何度も書くと思う。
だって、
これが僕たちの日常だから。
それに俺は、
ひーちゃんの声が好きだ。
顔が見えなくても、
声を聞けば、
彼女がいる。
笑っている声。
少し眠そうな声。
楽しそうな声。
いつもの声。
全部、
俺の好きなひーちゃん。
今日という一日を振り返る。
朝、
キスとハグをした。
足をマッサージした。
飲み物を渡した。
サプリを一緒に飲んだ。
少し離れて、
少し寂しくなった。
帰ってきた彼女と、
ジブリのピアノを聴きながら眠った。
目が合って、
笑ってくれた。
なでなでされた。
仕事をする綺麗な横顔を見た。
そして最後に、
またキスとハグをして、
帰り道は、
好きな声を聞いた。
こうやって並べてみると、
今日も特別なことは、
何も起きていない。
でも、
猫みたいな君の隣で、
犬みたいな僕が、
今日も尻尾を振っていた。
それだけで、
俺には十分だった。
明日もきっと、
君は君のペースで歩いて、
俺はその近くを、
嬉しそうについていく。
たまに離れたら、
少し寂しくなって。
戻ってきたら、
また嬉しくなって。
目が合ったら、
君が笑う。
そんな毎日が、
俺は好きだ。
猫みたいな君と、
犬みたいな僕。
相性はきっと、
悪くない。