今日は休み。
特に、
大きな予定はなかった。
でも、
気づけば俺たちは、
山梨へ向かっていた。
急遽決まった、
山梨ドライブ。
しっかり計画を立てて、
時間を決めて、
行く場所を決める。
そんなデートも、
もちろん好き。
でも、
何も決めずに始まる一日も、
俺は結構好きだ。
「とりあえず行ってみよう」
それくらいでいい。
だって、
俺の横には、
ひーちゃんがいる。
それだけ決まっていれば、
今日の予定としては、
案外十分なのかもしれない。
計画なしのドライブ。
車を走らせる。
目的地は、
なんとなく山梨。
細かい予定はない。
でも、
車の中はいつも通り。
隣を見ると、
ひーちゃんがいる。
そして、
今日も笑っている。
手を繋ぐ。
話す。
また笑う。
少し黙って、
また何かを話す。
そして、
また笑う。
会話が途切れない。
というより、
別に途切れたっていい。
話している時間も好きだし、
黙って手を繋いでいる時間も好き。
目的地へ向かっているはずなのに、
俺にとっては、
この車の中も、
もう目的地みたいなものだ。
今日は、少しだけ真面目な話も。
そんなドライブの途中。
今日は、
ひーちゃんの悩みも少し聞いた。
いつもの、
くだらない話だけじゃない。
ひーちゃんが考えていること。
悩んでいること。
心の中にあるもの。
俺は、
ひーちゃんが笑っている顔が好きだ。
できることなら、
ずっと笑っていてほしい。
でも、
好きな人だからって、
いつも笑っていなきゃいけないわけじゃない。
悩む日もある。
迷う日もある。
少し立ち止まりたくなる日だってある。
そんなとき、
全部解決できる人間に、
俺はなれないかもしれない。
正しい答えを、
いつも言えるわけでもない。
でも、
話したくなったときに、
話せる相手ではいたい。
解決することだけが、
そばにいることじゃないと思うから。
君が話すなら、
俺は聞く。
それくらいなら、
いつだってできる。
サービスエリアが、最近ちょっと楽しい。
途中、
サービスエリアに寄った。
最近の俺たちには、
ちょっとしたブームがある。
目的地へ行く途中にある、
サービスエリアを物色すること。
「なんか面白いものないかな」
と、
二人で見て回る。
ご当地のお菓子。
よく分からない商品。
「誰が買うんだろう」
と思うもの。
そして、
なぜかちょっと欲しくなるもの。
目的地とは、
まったく関係ない。
でも、
こういう寄り道が楽しい。
昔だったら、
サービスエリアなんて、
トイレ休憩をする場所くらいに思っていたかもしれない。
でも今は違う。
ひーちゃんと一緒なら、
サービスエリアすら、
ちゃんとデートスポットになる。
……。
いや。
さすがに、
言いすぎかもしれない。
でも、
結構楽しい。
今日のお昼。
そのまま、
サービスエリアで昼ごはん。
そして外を見る。
曇り。
せっかく山梨まで来たのに、
富士山、見えません。
見事に、
見えません。
まあ、
そういう日もある。
晴れていたら、
きっと綺麗だったと思う。
二人で、
「すごいね」
なんて言いながら、
眺めていたかもしれない。
でも、
見えないなら見えないで、
それも今日の思い出。
完璧じゃなくていい。
予定通りじゃなくていい。
そもそも今日は、
最初からほとんど予定なんてない。
だから、
富士山が見えないことまで含めて、
今日の山梨。
それでいい。
デザートは、二人で。
ご飯を食べたあとは、
ジェラート。
二人で仲良くいただきます。
こういう時間も、
なんだか好きだ。
ものすごく高級なデザートじゃなくていい。
有名なお店じゃなくてもいい。
二人で、
「美味しいね」
と言えれば、
それで十分。
好きな人と食べると、
なんでも少し美味しく感じる。
……。
ただし、
第12話のラーメンは別格。
あれは、
普通に悪魔的に美味しかった。
河口湖へ。
そして、
河口湖へ。
そこで見つけた、
アヒルボート。
乗ります。
大人二人で、
アヒルボート。
いいんです。
こういうのは、
楽しんだ人が勝ちです。
湖の上を、
ゆっくり進む。
急ぐ必要なんてない。
どこかへ向かう必要もない。
ただ、
二人で乗って、
景色を見て、
話して、
笑う。
まったり。
本当に、
その言葉がよく似合う時間だった。
今日のドライブ自体も、
そうなのかもしれない。
目的地を一つずつ攻略するようなデートじゃない。
時間いっぱいまで、
予定を詰め込むわけでもない。
そのとき行きたい場所へ行って、
疲れたら休んで、
面白そうなものがあれば寄ってみる。
そんな一日。
俺は、
こういうデートも好きだ。
君が好きなもの。
夜ご飯は、
ほうとう。
ひーちゃんが好きなもの。
山梨に来たなら、
やっぱり食べたい。
温かいほうとうを、
二人で食べる。
俺は、
ひーちゃんが好きなものを、
少しずつ覚えていくのが好きだ。
好きな食べ物。
好きな場所。
苦手なもの。
喜ぶこと。
疲れているときに欲しいもの。
そういうものを、
一つずつ知っていく。
付き合うって、
もしかしたら、
好きな人の取扱説明書を、
毎日少しずつ書き足していくことなのかもしれない。
ただし、
完成はしない。
たぶん、
これからも新しいページが増えていく。
それでいい。
俺は、
その続きを知りたいから。
家に帰って。
山梨から戻って、
家でまったり過ごす。
今日一日、
ずっと一緒にいた。
車でも。
サービスエリアでも。
河口湖でも。
ご飯を食べているときも。
それでも、
家に帰ってからも、
一緒にいる。
何かをするわけでもない。
ただ、
ゆっくりする。
俺は、
この時間も好きだ。
デートの最後に、
もう一つ予定を入れなくていい。
好きな人と、
何もしない。
一日の余韻を、
二人でゆっくり過ごす。
そして、
バイバイの時間。
楽しい一日は、
ちゃんと終わる。
少し寂しい。
でも、
今日もたくさん一緒にいられた。
それでいい。
目的地よりも。
今日を振り返る。
急に決めた、
山梨ドライブ。
車の中で、
手を繋いだ。
たくさん話した。
たくさん笑った。
少しだけ、
真面目な話もした。
サービスエリアを、
二人で物色した。
お昼を食べた。
ジェラートも食べた。
河口湖で、
アヒルボートに乗った。
夜は、
ひーちゃんの好きなほうとうを食べた。
そして家で、
二人でまったりした。
こうして書いてみると、
いろいろしている。
でも、
今日一番好きだったものを聞かれたら、
俺は少し困る。
だって、
どこへ行ったかより、
その全部に君がいたことの方が、
俺には大事だったから。
富士山は、見えなかった。
今日、
富士山は見えなかった。
せっかく山梨まで来たのに。
あいにくの曇り空。
きっと晴れていたら、
綺麗な富士山を見られたと思う。
写真も撮ったかもしれない。
思い出も、
一つ増えたかもしれない。
でも。
不思議と俺は、
今日を残念だったとは思わない。
だって、
俺の隣には、
ずっと笑っている人がいた。
車の中でも。
サービスエリアでも。
河口湖でも。
ご飯を食べているときも。
家に帰ってからも。
今日も、
ひーちゃんはよく笑っていた。
綺麗で、
可愛くて、
見ている俺まで、
明るい気持ちにしてくれる。
第12話で、
俺はひーちゃんのことを、
太陽みたいな人だと書いた。
今日、
山梨まで来て、
改めて思った。
やっぱり、
そうみたいだ。
空は曇っていた。
富士山も、
見えなかった。
それでも、
今日という一日は、
ずっと明るかった。
なぜなら、
俺の隣には、
今日も太陽がいたから。
計画なんてなくてもいい。
富士山が見えなくてもいい。
目的地が、
途中で変わったっていい。
君が隣で笑っていて、
俺がその手を握っていられるなら、
たぶん俺は、
どこへ行っても楽しい。
今日も、
可愛かった。
今日も、
よく笑っていた。
今日も、
俺の一日を明るくしてくれた。
富士山は、
見えなかった。
でも、
俺が今日一番見たかった景色は、
最初からずっと、
俺の隣にいたのかもしれない。