― 第1話:初日の衝撃 ―
ドイツの片田舎。初めて足を踏み入れた練習場の芝生は、まるで絨毯のように整っていた。
整然としたライン。均一に刈られた芝。どこを見ても「ちゃんとしてる」。
ブラジルでの経験があったからこそ、余計にその違いが鮮明だった。
あちらでは練習場と試合会場が別々で、もっとラフな空気だったから。
「ここで練習も、試合もやるんだよ」と言われたとき、
一瞬だけ、自分が“どこか特別な世界”に足を踏み入れたような気がした。
それでも驚いたのは施設だけじゃなかった。
ブラジルでは、仲間といえど“ライバル”。ピッチ上では本気の衝突が常で、
新参者には、どこかに「敵対心」が含まれていた。
でもドイツは違った。
まるで“歓迎の嵐”だった。
「新しい仲間が来た」と、誰もが手を差し伸べ、笑顔で迎え入れてくれた。
そんな空気の中で行われた最初の練習は、2ゴール式のミニゲーム。
――正直、このレベルでお金もらえるの?ラッキーじゃん。
最初の感想は、そんな感じだった。
だが、その日の午後に試合を控えていると聞いてから空気が一変した。
目の前でスライディング。
それをカウンターで返す。
前後左右にバチバチと火花が散る。
――え、これ本当にあの練習の延長?
――この中に俺が入ってプレーするの!?
不安と興奮が入り混じる中、ピッチサイドで待機していた自分に、
一人の選手がユニフォームを手渡してくれた。
「このポジション、後半頼むよ」
それが フリックさん との出会いだった。
あとから知ったが、彼とは誕生日も同じで、なんだか運命めいたものを感じた。
プレー中、自分にできることは限られていた。
でもその日、何度もスライディングでボールを拾った。
必死だった。ただ、残りたかった。
気づけば「闘う系の選手だな」と、チームに印象を残せたらしい。
そうして生まれたご縁。
プレジデントであるアンドレアスさん、そしてチームの計らいで、
自分はこのシュレックスバッハというクラブで、
「プロのような生活」を送れることになった。
家も、食事も、練習も揃っていた。
何より、心から“ここにいていいんだ”と思える環境だった。
ただ、ここでの生活が”特別”だったのは、サッカーだけが理由じゃない。
そこには、「人」がいた。
どこまでも器が大きくて、あたたかくて、
そして…驚くほど、こちらに関心を寄せてくれる人たちが。
次回、「あなたはよいが、私は時々そうではない」
――そんな一言が、心に深く刻まれた、ある夜の話へ。