というわけで、劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン4度目の観賞。映画この世界の片隅にの観賞ペースには及ばないものの、なかなかにハイペースで観ています。あと3回くらいは行くかな。

 

今回はユリスのお話。

病名はわかりませんが、重い病気の少年ユリス。入院して1年、3度の手術でも完治せず、自身の余命を悟り、家族に手紙を遺そうとヴァイオレットに代筆を依頼します。

 

識字率が低い時代ですが彼は病床で新聞を読み、当時最先端であった電話機を使いこなすなど、本来は聡明で快活な少年だったのだろうと思われます。新聞の記事でヴァイオレットの活躍を読んだのかも知れません。簡単な読み書きは出来る、でも心のこもった「自分が死んだ後に家族が読んで、元気になるような手紙」を遺すために代筆依頼をします。

 

お見舞いに来た家族に悪態をつくユリス。大切なはずの家族についきつく当たるのも、愛されていることを理解していて、だからこそ自分がいなくなった後を思うと辛い、心配でならない。欲しいのは同情や過保護では無く、もっと違う何か。その願い、ヴァイオレットは過去の経験をひとつひとつ重ね、紐解き、理解して、ユリスが望む手紙を書きあげます。

 

そしてユリスは、ヴァイオレットにも同じように思いを届けたい人物(ギルベルト)がいること。彼と彼女は会えないことを知り、彼女が自分にしてくれたのと同じように、感情を紐解き、ヴァイオレットが彼に何を伝えたいのか理解させます。

 

ユリスの手紙が家族の手に渡された日、つまりユリスが死を迎えた日、ヴァイオレットはその愛する人のすぐそばにまで辿り着いていました。このことはユリスにとって、とても嬉しいニュースだったと思います。テレビシリーズ10話のアンの母の時の経験があるにせよ、会うたびに弱っていくユリス。(劇中2度目の訪問時、ユリスの声量やハリ・話したあとのブレスが弱く、荒くなるのがわかります。声優さん素晴らしいですね)とても辛い仕事。でもホッジンズに言われた「過ちは消えない、でもドールとしてしてきたこともまた消えない」言葉の通り、同僚の助けを受けながらも自分の仕事が届くべき人に届いたことをあらためて知り、過去と向き合うのと同じく、今自分が受けている仕事の責任と向き合うためにライデンへ戻ることを決断します。

 

自動手記人形の仕事は依頼内容によって、指名や振り分けがあることが描かれています。

その点ユリスはヴァイオレットが直接依頼を受けた数少ない人物だと思われます。そのせいか独断で料金を安くしたり、何なら無料で1通サービスしたりと以前の融通の利かなさが信じられないほどの臨機応変で情のある対応をします。

 

自分の仕事にプライドを持ち、自分の判断で責任を持つ。

 

ユリスの手紙の代筆でその思いを強くし、また、

ユリスとの会話の中でギルベルトに伝えたい事を理解したヴァイオレット、

 

彼女はライデンに帰る直前、ギルベルトへ最後の手紙を書きます。

 

そしたらそれが頑なで大馬鹿野郎の堅物元軍人のギルに突き刺さった訳です。

 

もう船は出港しています。海はぱっと見そんなに浅くも無いようです。なんか遠くから聞こえてきました「ヴヴァイオレットオオオ↑↓オオオ

 

困りますね。普通の女子なら。いや、普通の人間なら。しかし彼女は、

 

 

ライデンシャフトリヒの戦乙女として斧を振り回し、戦場を震撼させた元人間兵器。ウィッチクラフトに比べれば義手で泳ぐことなど造作もありません。

 

彼女は自分の書いた手紙に対して、責任を取りに行ったわけです。それは

 

ユリスが教えてくれたギルベルトへの言葉によってであり、

ユリスが教えてくれた「伝えられるときに伝えなければならない」であり、

ユリスが喜んでくれたギルベルトとの再会。

 

あの再会を果たした瞬間に、ユリスとの指切りの契約は満たされました。

 

ユリスの物語はただポンとはめ込まれたわけでは無く、彼がいなければギルベルトの最後の一歩は無かったかも知れません。60年後の郵便局員の「グー」も無かったでしょうし、切手も存在しなかった。デイジーと両親のあの結末は無かったかも知れません。

 

ユリスは短い人生だったかも知れません。でも多くの「未来の人へ」強い「WILL」を遺しました。

 

余談と想像ですが、前述した識字率、ユリスの両親は父の方が読み書きが得意なのかも知れません。母に合わせて平易な文章にしたのはユリスの優しさでしょう。リュカを遠ざけたのも彼の優しさ。決して彼はわき役などでは無く、外伝の姉妹と同様に物語の主役の一人でした。残された家族が、幸せな時間を過ごし今頃両親とは再会しているのかな、とか思うわけです。