戦国自衛官

戦国自衛官

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「なんであなたがここにいるのよ?」

あなたには、住居と職を失った農民の仕事斡旋をお願いしたのよ、どうしたの?
突然現れた風間翔太の姿に首をかしげるしかない氏康。

「今川義元の留守を狙って駿河を攻めるつもりなんでしょう?でも、後方で構えている義元の盟友武田信玄が気になって進めない。違いますか?」

氏康の軍は陣取りながらも進めないでいた。

「悔しいけど当たりだわ。で、何か策はあるんでしょうね?」

「もちろん」





―――――――興国寺城
わずかな手勢を連れて進軍してきた氏康と翔太。その数はわずか千。

「この数であの城をどうやって落とすのよ?」

「簡単」

そう言って荷馬車で引きずってきた箱から荷物を出す。

「こ、これは何?」

「未来の種子島と・・・ここで言うならば噴進弾とでも呼びましょうか」

「噴進弾?」

「花火のように飛んでいって、当たったら爆発する・・・まあ、見てればわかりますよ」

普通科隊員じゃないからうまく扱えるかどうかは不明だが、演習で見慣れている。

「くらいやがれ!!」

翔太が構える細長い筒の先端は本体と分裂し火を吹きながら興国寺城めがけて突っ込んでいく。

「次」

再び同じものを手に取り、同じように突っ込んでいく。

武器の名前は110mm個人携帯対戦車弾。ドイツ名称パンツァーファウスト3。使い捨てなため発射チューブはポイ捨てされた。

「あ、あ―――――」

氏康は呆然としている。たった二発の弾頭で爆発し燃え広がる興国寺城。再び翔太が手にした武器“84mm無反動砲”からは榴弾2発が発射された。

「氏康様。今川の兵は大混乱しているはず」

「わ、わかっているわ。全軍突撃!!」

「「「「うをおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」

わずか千の部隊で陥落した興国寺城。わずか一日での陥落は今川武田両雄の耳にも届いていた。





―――――三河
今川義元の陣に怒声が響く。
「こ、興国寺城が一日で陥落!?どういうことですか!!」

「城内部で謎の爆発が。おそらく北条と手を結んでいた内通者がいるのではと・・・」

太原雪斎の言葉にプルプル震える義元。

「全軍退却よ。信玄と手を組み叩き潰してやりますわ!!」



―――――甲斐
「なんだと!!戦支度する前に目標の城が取られるとは・・・」

「それだけではありません。わずか千の軍団で一日もかからず城を叩き落としたのです」

軍師山本勘助は信玄に詳細な報告をする。

「噂によりますが、北条は南蛮以上の兵器を開発したそうで。地上から飛翔した物体が興国寺城に衝突。大爆発を引き起こしたと」

「う~ん・・・こりゃ、我が武田全軍を率いても難しくなるな。わずか千で、一夜で城を落とす兵器」

「一般に城攻めには3倍の兵力を必要とすると言われております」

「それを、興国寺城のいる今川軍の3分の1以下の兵力で叩き潰したか…」

信玄は顎に手を当て、首をかしげるしかなかった。










―――――小田原城
興国寺城陥落から1週間後

「入植者?」

初めて聞く言葉にクエスチョンマークを頭上に浮かべるしかない氏康。

「ええ。ここ、琉球の南にかの明ですら手の付けていない土地があります」

「ふーん。そこに何があるというの?」

「砂糖。あの、甘い白い粉が作れます」

「さささ、砂糖!?」

先程までのそっけない態度とは一転、目を大きく輝かせて翔太に飛びついた。

「そういえば玄庵から聞いていたわ。砂糖が作れるの?ねえ、ねえねえ?」

「は、はい。砂糖のもととなるサトウキビの栽培法も砂糖の精製法もすべてこの中に入っていますから」

と、自分の頭をつんつんとつつく翔太。

「しかし、意外ですね。甘いものが好きとは」

「甘いものが嫌いな人間なんているわけないでしょ。ああ~砂糖が自前で手に入るなんて。はっ!?もしかして、これは、大儲けの機会!?」

「俺はそのつもりで話したのですが?」

この人は俺が甘党だとでも思ったのか?
いや、嫌いじゃないけどね。

「すばらしいわ。全国に砂糖の需要を増やすのよ!!」






「し、新天地ですか?」

「ええ。新しい土地で、新しい作物を作り、生活をするのです」

あの時の大災害。いや、大人災とでも呼ぶべきか。万を超える人々の住処と職が奪われた。
彼らは今何もすることがなくただの穀潰しとなっている。

「わしらは、命を救ってくれた現人神様のためとなら新天地とやらにいってもいいべぇ」
「俺も」
「私も」
「神のお告げじゃ」

「あなた・・・あの村においては本当に神様みたいな扱いを受けているのね」

翔太のその強大な影響力を目の当たりにした氏康はただ呆然とするしかなかった。

「えーと、2,352名ね。結構な数が入植者となるのね」

「まあ、資金が集まってからですが」

まだ金山採掘は始まっていないので。

「じゃあ、残りは?」

「金山採掘と、小田原再開発です」

「小田原再開発?」

「ええ。小田原城をこの日の本で最も美しく、最も大きく立派な町に変えるのです」

「成程ね。いいわ。資金源から構想まで全部あなたに託すわ。この私に生まれ変わった小田原を見せてね」

「御意に」

コンコン

と、氏康さんに一礼すると、ご来客の様子。ふすまを叩く音と共に姿を現したのは氏康さんと瓜二つな少女。

「お姉さま失礼します・・・こちらの方は?」

初めて見る顔なのだろう。現に俺もこの人を見るのは初めてである。
いい機会だ。自己紹介をしておこう。

「お初目にかかります。北条家において客将の扱いを受け回った風間翔太を申します。以後、お見知りおきを」

「こちらこそ」

互いに一礼する二人。仕草からしていいとろこのお嬢様なのだろう。氏康さんとは違ってと、失礼なことを考える。

「紹介するわ。私の妹、北条早河よ。まあ、見ての通り私と違って姫武将ではないわ」

「私はお姉さまのためにと、日々鍛錬をしていたのですが…」

「あなたは私と違って武将ではない姫として生きなさい。いい?」

「はい。それと、今川家から書状が来ています」

どうぞ、これを。と、一言告げると早河殿は再び一礼すると氏康の御前から姿を消す。

「えーと、なになに…..」

「ど、どうしました?」

顔が次第に青ざめていく氏康。きっと、あの書状にはよからぬことが書かれているのだろう。

「今川家が、北条家と武田家を混ぜた三国同盟を結ぼうと・・・」

「は、はははは」

歴史は繰り返される。
その言葉の真意を悟った翔太であった。
河越を拠点としていた風間翔太27歳元自衛官はUH60JAから武器と使えそうなものを外し、放棄。もうすでに整備などできない。使えないものをいつまでも手にしていても仕方がない。7tトラックに必要なものを詰め込み、牽引する1t水タンクトレーラーには水の代わりにUH60JAから抜き出した燃料をいれ、小田原へと拠点を移した。

やはり臨時と言われているが、その弾薬料は果てしない量が保存されていた補給基地だ。後方の自衛隊の基地は、ミサイルの目標となるため地図には載っていない非常時の臨時基地が設営された。人目のつかない山道に作られ、弾薬や燃料は地下に備えられた。そこにある弾薬は一台の7tトラックに収まるものではない。7tトラックに収まりきらない武器・弾薬・燃料とその他鍛冶道具は全て荷馬車によって小田原まで運んでもらった。

―――――小田原城
「ちなみに、言っておくが俺は貴方の部下じゃない。あなたと対等の存在だ」

「ええ。わかっているわ。だから、あなた専用の部屋も用意してあるわ。でも、評定には参加してもらうわよ」

「ああ」

「それと、一つ。あなたに頼みたいことがあるの?」

「頼みたいこと?」

翔太は首をかしげた。






「こ、こんなに・・・」

氏康様に言われるがまま馬に乗って連れてこられた場所。
そこにはボロボロになったたくさんの人々がいた。

「上杉軍、いや、あの野盗達の被害にあった農民達よ。村は焼かれ、土地は破壊され、住むべき場所も、職も失った人々よ。今は上杉軍からかっぱらった兵糧でまかなっているけど、あなたには彼らに新しい道を見つけることが出来ると思うの」

数十や百単位じゃないなこれ。

まあ、当時は民のほとんどが農民。
万を超える数だぞこれ。

「対等の立場。とはいえ、しっかりとした衣食住提供しているのだから、しっかりと働いてもらうわ」

「え、ええ。りょ、了解しました」





「とはいったものの」

俺のために作られた小田原城の片隅にある小屋。トラックに、武器・弾薬・燃料が置かれ、仕事がしやすいようになっているが、パソコンとにらみ合いをしている。

唯一の救いといえば、この辺の地形図が自衛隊で渡されており、また、今は亡き仲間たちが、偵察という名目でこのへんの航空写真を撮ってくれてあったことぐらいだ。

「一時的に彼らの仕事を与えなければいけない。一番いいのは公共事業だが・・・」

そこで、考えたのは城の再建築。

小田原城。その名を聞けば、日本屈指の巨城。だが、この時代は言うほどでもない。
周囲10kmなどと言われているが、このサイズは半分といったところか。

とはいえ、これだけの人数の農民が突然いなくなるのだから、農作物がだいぶ減るな。追い討ちをかけるような事実であるが、被害が二期作を展開していた河越周辺の農村である。

「ノーフォーク農法を展開するのがベストだな」

ノーフォーク農法――――――
18世紀イングランド東部ノーフォーク州で始まった新農法。春はカブなどの根葉類、夏は大麦・ライ麦・稲等の夏穀、秋は地力回復のマメ科植物、冬は小麦などの冬穀を植え、休耕地を作らない。

二期作とは違い米の収穫量は減るが、それ以外の食物が育ち、なおかつ、地力回復作物を植えることにより収穫量の降下を防ぐことができる。

「いや、ここはあえて、商品作物を売るという手もある」

特に砂糖。
この時代、日本で砂糖はすべて輸入に頼っていた。一部鹿児島などではサトウキビを植えていたそうだが。

この時期のフォルモサ―――――台湾島はどこの国も領有を宣言していない。
そのため、ポルトガルやオランダなどが寄港地として領有を宣言しているが、言うならば港だけである。

つまりは誰も手の付けていない土地。

あれだけ温暖な地域が、ほぼタダで手に入る。そして、サトウキビのプランテーションを展開。そして、北条家が国内で砂糖を唯一生産し、砂糖の交易力は凄まじいものになるだろう。

それ以外にも、柴田が行っていたサトウダイコンと言う砂糖の原料となる地中海原産の根菜による製糖もある。イタリア名バルバビエートラ。サトウキビとは違い寒冷地域でも育つため、台湾の入植以外にも並行で進めよう。

「まあ、今は城及び城下町の再開発だな。時代が来れば石垣なんて無駄なものになる。ならば、土塁で・・・ここは西洋建築を使って五稜郭みたいな星型要塞に変えるのも悪くない。しかし、まだ大砲ができるのは先だ。しっくい壁よりもコンクリート製がいいだろう。」

ある程度構想ができた上での目の上のたんこぶ。それは

「資金源か・・・」

砂糖による資金回収はいいとして、見越して一年より後だ。一年後にも資金は欲しいが、今すぐ欲しいのだ。




「金山?」

「ええ。伊豆の修善寺瓜生野と土肥と、まあ伊豆一帯に金山があります」

臨時野営地に置かれていたパソコンに搭載されていたオフラインでも使えるモバイルペディアから地図を探り出し、シャープペンを使って手書きで書いた地図に幻庵殿は驚いていた。

「こんなに正確な地図をお主はかけるのか?」

「え、ええ、まあ、それは置いておきまして、土肥鉱山とでも言いましょうか。ここからは後300年以上採掘が続けられる鉱山です。そして駿河東部・・・興国寺城から目と鼻の先の富士に今川がたくさんの金が眠っている富士金山を所有しています。また、最近手に入れました武蔵国西部」

シャープペンを持ち、バツ印を付ける。

「これらのところから金銀鉄等がごくわずかですが出てきます。」

今まで説明したところ全てにバツ印を付ける。

「ほかにも、ここやここに・・・」

日本にあった鉱山をあらかた調べ、そのうち北条家が所有している伊豆、相模、武蔵、駿河東部に位置する鉱山全てにバツを付ける。

「これだけ揃えば、北条家は潤うでしょう」

「300年以上も採掘される金山・・・この戦国の構図が変わる!!いや、南蛮も含めた世界の構図が変わる!!」

幻庵殿は机を叩き、立ち上がる。

「石見銀山。ここから溢れんばかり算出される銀を求めてたくさんの南蛮船が、明船がやってきた。ここ、小田原を拠点に貿易をすれば金を求める商人も多いだろう。このこと・・・ほかの誰かに漏らしたか?」

「いえ、幻庵殿が最初です」

「そうか。伊豆にこんなに金山があるとは」

「金・銀・銅等の鉱石は溶岩から取れるものです。溶岩が吹き出すのは富士山。つまり、富士周辺に眠っていてもおかしくないのです。武田・今川・北条。富士周辺の争いは激しくなるでしょう。氏康様は今川義元の留守を期に駿河への進行を狙っています。取るならば富士山周辺は確実に取るべきです」

「つまりは、興国寺城を再奪還する・・・と」

「そうです。しかし、武田信玄の動きが気になります」

「うむ。それは儂も気になるところだ。何か手はあるのか?」

「もちろんです」

翔太はにやりと笑い、その場を立ち去った。
「今日の天気は雨。梅雨時期は汗ベタベタになるから嫌だねえ」

「そう言うなって。そのおかげで敵さんも攻撃してこないしな。俺たちはともかく、農民にはさぞやきついだろう。この雨に身を任せて休ませよう」

「確かにな。雨に感謝感謝」

ハハハと笑う柴田と翔太。上杉軍の姿かたちを昨夜から見ていなく、襲撃一つない。故に農民も、そして自衛官たちも少し気が緩んでいた。

それは、上杉軍も同じことであった。

「河越城の包囲網をときました」

「うむ」

雑兵の報告を聞いた上杉憲政は、自衛官たちのこもる陣地における戦闘で8万を切ったが、それでもなおほぼ7万の兵力を維持している軍勢による、数の暴力で陣地を攻めるつもりであった。

それゆえ、数千の軍勢で陣地を攻めていた部隊にとってはかなり気が緩む話であった。それと同時に、士気が格段に下がったということも。

北条軍とは戦わずに済む。自衛官の陣地も数で攻めればなんとかなる。という楽観的な思考に。それになにより、目的を達成したところで自分たちが得られるものも何もない達成感のなさ故であろう。

「それと同時に、北条軍が河越城を明け渡す様子で、ぞろぞろと城兵が出ていきます」

「怪しいと思っていたが、嘘ではなかったのだな」

「では?」

「明日の明朝、いや、朝日が昇る暗闇、我々はあの妖術使いどもの陣地を攻める」





――――――小田原城
「義姉様!!それは真でありますか?」

「ええ。川越城を明け渡す?嘘嘘。罠に決まっているでしょ?」

河越城から帰還した北条綱成は小田原城に城主。そして小田原北条家3代目当主北条氏康の御前にいた。

「今私たちには無傷の1万の軍勢を手にしている。上杉勢はあの陣地を攻めるわ。おそらく短期決戦をかけてね。私たちは明日明朝、上杉軍に奇襲総攻撃をかけるわ!!」

「そ、それでは、か、彼らは?」

傍若無人の振る舞いを気に食わなかった綱成だが、彼らを殺すには惜しい武人にも思えていた。

「最悪、北条家のために死んでもらうわ。囮にさせてもらうということよ」

「・・・」

武人として、それがどれだけ卑怯な振る舞い、戦法か。それぐらいわかっていた。でも、北条家が河越城を失わず、そして関東から関東管領上杉と、没落した古川公方の旧態依然とした勢力を追放するにはいい機会だと思う自分がそこにはいた。

「出撃は明日明朝。たとえ雨だとしてもよ。全兵に通達しなさい。今のうちに寝ておきなさいとね」

「はっ!!」





「明日は雨が止むな」

「明日って、もう今日だろ?」

「違いない」

89式小銃を手に周囲を警戒する3名の自衛官。昨夜から霧が出て、雨が上がり始めたことから、敵の襲撃も近いと、警戒をしているのである。

特に、朝に襲撃させられるとたまったものではない。故に3時間おきに警戒部隊を出しているのである。

「しっかし、霧が晴れないな」

「まったく。これでは目視確認ができないな」

そういって、一人の自衛官は未だ空に日が昇らず、暗いゆえに暗視スコープを取り付けた。

「ん?なんだ?」

視界に映るうっすらとした赤い影。それも、一人や二人ではない。たくさんと。
こんなところにこれだけの数の人間が展開するその意味。

それは、言うまでもなく自分たちを殺すため。

「しまった!!やつら、この霧に中で展開してやがる!!――――――新井三尉、新井三尉!!」

[こちら、司令部。新井三尉ではないが、風間だ]

「翔太か!?こちらB地区。霧のせいだ。昨夜から上杉軍が周辺でこの陣地を包囲するように展開している。全員起こして襲撃に備えろ」

[了解。すぐに戻れ]

「ああ。りょうか――――――っがは!?」

[ど、どうした?]

「「「「「――――――うをおおおおおおおお!!」」」」」

[・・・・この声は!?]

霧の中から飛び出してきた幾千もの弓矢。そして同時に飛び出す上杉軍。

「ひ、ひいいいい、く、来るなあああああ!!」

パパパパパパパパ

乾いた連続射撃音が無線を通して聞こえてくる。

「まずいな」

翔太は3名の自衛官を警戒用に派遣したB地区の危険性を危惧し、残りの自衛官のみならず、すべての農民を起こす。

総力戦だ。

おそらく、この陣地を潰すために相当な数を用意してきたはずだ。男だけ武器を持たせるなんて言っていられない。陣地の中に避難した女子供も武器を持って戦ってもらう。

「すまない。時間稼ぎぐらいはしてくれ」

新井三尉はB地区に派遣した3名の自衛官を助けることはできず、ただ、無事に生還してくれることだけを祈った。





「はぁ、はぁ・・・」

一緒に来た二人は殺された。だが、俺はこいつらを殺した。何百人もの侍を。

「ハハハ、ハハ。お、お前たちごときが、お、お、俺様に、俺たちに勝とうってのが間違いだ。なんせ、5、5世紀もじ、時代が、ち、違うんだよ」

死んだ侍の頭をグリグリ足で踏みつけて半笑いをする。89式小銃は震える手のせいでうまく握れない。

「「「「「うらあああああ!!」」」」」

「ま、また来たのかよ。いい加減にしろよおおおお」

パパパパパパパ

再び鳴り響き乾いた連続射撃音と、ドミノ倒しのように倒れていく武者たち。

カチ、カチ

89式小銃からは乾いた連続射撃音ではなく、引き金を弾く音だけがその場に鳴り響く。

「え、え、う、嘘だろ?お、俺、もう、弾薬持ってない――――――」

B地区の電源が入ったままの無線からは一人の男の悲鳴がいつまでも聞こえていた。








「―――――っ!!上杉軍来ます!!」

「了解!!ひきつけろよ」

柴田が暗視スコープを通して深い霧の中迫ってくる上杉軍の居場所を各陣地に通達していた。

「こちらM2機関銃大丈夫だ。いつでも撃てる」

「こちら、地雷の敷設及び原始的な罠だが仕掛け終えた」

「こちらも準備満タンだ。いつでも指示通り動けるぜ」

各防御陣地からの報告が終えると、新井三尉は号令をかけた。

「戦闘開始の合図は上杉軍が地雷郡に足を踏み入れたその時だ。そして、コレ以上通達することはないだろう。全員無事に朝日を迎えられることを祈る」

これ以降、各防御陣地の自衛官が新井三尉と直接顔を合わせることはなかった。




ドゴォォォォンという盛大な爆裂音を遥か遠くから聞いていた北条軍はそれが戦闘の合図だと、誰から言われなくとも理解していた。

「おそらく今のが、彼らと上杉の戦闘開始の合図ね」

「おそらくは」

「霧の中での奇襲をかけてあの陣地を攻撃しようとしたのだけれど、まさかされる側に回るなんて思ってもいないでしょうね」

「我々が裏切るとは考えていないでしょう」

「じゃあ、行きましょう。北条家の未来のためにも」

北条氏康・綱成率いる北条軍1万1千は上杉軍奇襲のため動いた。







パパパパパパ
ドゥドゥドゥ

重く低い重低音と軽く乾いた高音が奏でる二重奏。祭り上げられるは戦の神。流れるのは銃声、悲鳴、汗、そして血。

[こ、こちら、防御陣地Aだ、弾薬不足です。し、支給救援を!!]
[こ、こちら防御陣地B、敵の屍が多すぎます!!敵が屍を盾にしているようで距離が縮まっています]
[こちら防御陣地C。防御陣地Bの援護に回ります]

「防御陣地A。そちらに風間と、数名の男手を送る。それまでに時間を稼げ。防御陣地B。そちらにC4を持たせた柴田を送る。それまでは防御陣地Cと共に白兵戦を覚悟せよ」

[[[了解]]]

「言ったとおりだ。柴田は防御陣地Bに。風間は防御陣地Aだ。二人共明日には必ず生きて会おう」

「「はっ!!」」

新井三尉、風間翔太、そして柴田は互いに敬礼をした。







パパパパパ
ドゥドゥドゥ

「あの銃声。あそこが戦闘地域ね。なら」

少し後ろ。おそらく敵の後続が及び上杉本陣があるはず。

「失礼します!!」

「風音か。どうしたのだ?」

黒装飾を身に羽織ったくのいちが綱成の前に現れたと同時に、ある報告をした。

「ここから南に5町ほど先に上杉軍の本陣を発見しました。数で押し切れると、楽観している模様。本陣の気はかなり緩んでいます」

「ご苦労さま。では、行きましょう」

「ええ。義姉様」

「ふぅ――――――全軍私についてきなさい!!」

「「「「「「「うをおおおおおおおおおお!!」」」」」」」






[こ、こちら、防御陣地C、か、壊滅。し、支給増援を――――――]
[お、同じく防御陣地B。敵の屍に囲まれ脱出不能]
[こちら防御陣地A。風間翔太。弾薬は持って10分です]

「これまで・・・か。俺も出よう。時代は違えど、日本国民の命を守るのが自衛官。身を張って向かおう」

新井三尉は数々の弾薬と武器を手に地上へと上がった。

「がっぐああああ!!」
「柴田ああああ!!」

「うらああああ!!」

「くそっ!!」

屍の山が敵の盾となりて、我が身に降りかかるのは弓矢から敵兵と変わっていく。
近距離では銃よりナイフのほうが強い。とは誰が言った言葉なのだろうか?
その言葉が深く感じられた。

屍の山を這いずり登って次々現れる侍に銃よりもナイフや銃剣が役に立った。

侍から奪った槍の方が役に立った。

途中C4で屍の山を潰したが、次々にたまっていく屍にC4爆弾による撤去作業など気休めにしか過ぎなかった。

次々に死んでいく仲間達。ついには守るべき農民にも被害が及ぶ。

武器も弾薬もたくさんある。
なのに、敵が近すぎて使えない。

この距離で無反動砲なんか使ってみろ。それこそ、全滅だ。

このままでは別の意味でジリ貧である。
この状況を変える一手が欲しい。なにかが、何かが

「「「「「「うをおおおおおおおお!!」」」」」」

「あ、新手か!?」

突然側面から聞こえた雄叫び。

「いや、違う」

もはや防御陣地Aで一人になった翔太はその軍勢の掲げる旗に別の勢力だと。これが、自分が望んだ今状況を変える一手だと、感じた。

「風間翔太殿!!上杉軍の露払いはお任せを!!」

「北条・・・綱成か」

助かった。霧の中から現れた軍勢を見て力が抜けた翔太は、土塁に背中を預けた。

「もっと、早く来てくれよ…なあ、柴田」

さぞや苦しかっただろう。
弓矢で脳天一発ならまだしも。銃を使うには狭すぎるこの防御陣地Cで、一人で白兵戦を強いられ、体中を槍と刀で穴だらけにされて。
ひん剥かれるような白目になったその顔が苦しさを訴えていた。

「安らかに眠れ」

翔太は柴田のまぶたを閉じさせると、両の手を胸の前で握らせた。

「風間一等陸士・・・生きていたか」

MINIMI機関銃と89式小銃。そしてカールグスタフと重武装をしたヘリパイロット。そしてここに来た俺たち漂流自衛官の最高指揮官である新井三尉がそこにはいた。

「随分とボロボロですね」

「ふっ、君もじゃないか」

新井三尉も、翔太と同じように力が抜けたのか土塁に背中を預けた。

「まさか、生きて君とまた会えるとはな。ほかに生存者は?」

新井三尉の言葉に翔太は首を横に振った。その無言の反応に深く追求するほど野暮な男ではない。

「ふっ、だが、俺たちはこれだけの罪なき民を救った。たしかに、戦闘員としてかりだしてしまった男性数人には何とも言えない気持ちだが、我々はそれだけの意味あることをしたのだ。誇るべきことだぞ」

「ええ貴方達はそれを誇っていいわ」

「「!!」」

背後から聞こえた声。この男の死体ばかりの血みどろの空間にはなんとも場違いな甲高い声。そして傷一つない綺麗な肌。美しいと言わざるを得ない美貌。

頬や衣服に飛び散る血飛沫、髪を赤に染めた血液は、それさえも、彼女の美しさを表現するパーツとなっている。
透き通るような白い肌に、どこか冷酷さを感じる少しつり上がった、切れ長の目。腰まで下りた長い髪。
鮮血が似合う女性を、翔太は初めて見た。

そう。彼らに「誇っていい」と微笑んだのは正しく戦の女神“ヴァルキュリア”の微笑み。

「あなたが、この陣地の党首さんね。お疲れ様」

「あなたは、そうか。あなたが北条氏康様ですね?」

新井三尉は口から垂れた血を抑えて聞いた。

そしてその時俺は気がついた。新井三尉の横っ腹に突き刺さった一本の弓矢を。もはや手遅れ。なんて言わずともわかる。底を知らない程溢れ出る血液と青ざめていく彼の顔に、彼の寿命が、命の灯火が消えかかっていることなど言う必要もなかった。

「ええ。そうよ。上杉軍の本陣を私たちが奇襲をかけたわ。敵軍も指揮の乱れで統制なんて取れていないわ。私たちの勝ちよ」

「そうか。それは良かった。このまま、俺は安らかに」

「良くないです!!良くないですよ、新井三尉!!」

風間翔太は柄にもなく大声で叫んだ。

「あ、あなたが死んでしまったら、お、俺は、俺は、俺はこの時代に一人になる!!俺は誰を、何を信じて戦えば、誰の指揮を聞けばいいのですか!?」

俺の農民を助けるという感情的な話に新井三尉は迷わず賛同してくれた。
なんの道しるべもなくこの時代に来た俺達をうまくまとめてくれたのはこの人だ。
俺はこの人なら、この人の下なら、ついていける。そう思っていた。

「風間翔太一等陸士・・・この場を持って貴官の自衛官としての職を解く」

「えっ?」

「貴官はこの時代の民を救った立派な戦士。武士だ。いまから500年も未来、日本は異民族による侵略を受け、国土がこのようになるだろう」

ボロボロになった防御陣地に、血まみれになった土。漂うは鉄と火薬の匂い。

そうだ。俺は後方に配備されていただけで、戦場の最前線に立っていない。
だが、彼、新井三尉は前線に部隊を運んでいた。

彼は知っているのだ。俺が垣間見た光景をこの人は己の肉眼で見ていたのだ。

「この設備も銃器もすべて貴官にたくそう。そしてこの日本を変えろ!!俺たちの家族が、友が、仲間が、戦友が!!失われた命をもう二度と失わないような日本をお前が創れ!!」

「!!」

お、俺が日本を創る?

「貴官にはその力がある。共に散った仲間達のことをいつでも思い出せ。お前が、翔太、貴様が、独り、生き残った….意味を…俺たちが救った命の…その尊さを…」

腸が飛び出し、溢れる血を右手で抑えながら、最後に新井三尉は言った。

「貴様といた6年は、貴様と戦った今日これまでが、俺の…誇り…だ」

柴田とは違い、まぶたをゆっくり閉じ、力の抜けた腕が垂れ下がる新井三尉の姿は死というよりかは、眠るような、意識をすっと失うような。

「あ、新井三尉?う、嘘ですよね?あ、あなたが、あなたが死んだら」

再び降りそそぐ冷たい雨が彼の血を大地に流していく。鼓動は止まっても血は止まらず流れていく。
動かなくなった彼の身体を引き寄せると、俺は不甲斐なく泣いた。

「――――ご冥福、お祈りするわ」

「・・・お前たち。恥ずかしくないのか?」

「ん?」

なんのことかしら?とでも言いたそうな顔で首をかしげる北条氏康。
その顔に俺は腸が煮えくり返るような憎しみが、心の奥底から吹き出すような憎悪心が湧き出てきた。

「ふざけるなあああああ!!」

「義姉様!!」

翔太は氏康の袖を掴むと顔の数センチまで近づく。

「俺たちにこれだけの大軍が迫ってくることが、まずありえない!!」

「なんでそう言い切れるの?」

「お前たちの河越城が包囲されていたはずだ!!つまりお前たちはどういうわけか、河越城の包囲を解かせた。おそらくは明け渡すとか言ってな!!そして俺達を囮にして敵軍に奇襲をかけた。違うか!?」

「はぁ・・・ご名答。正解よ」

「てめえ、よくもまあ、ぬけぬけと俺の前に姿を現したな!!」

「あなたがどの国から来たのかしらないけど、今は戦国の世よ。使えるものは何でも使う。違うかしら?」

「それでも一国の領主か!!」

「ええ。そうよ。親兄弟ですら裏切るこの戦国の世。私はどんな卑怯な手を使っても、たとえ冥府の輩と手を結んでまでも、生き残るために戦うわ」

「くっ!!」

その、鋭い切れ長の瞳に嘘偽りはない。
彼女の言葉がどれだけ卑怯なことを言っていても、生存するためと平気で切り捨てられるその考えが許せなかった。そして羨ましかった。卑怯なことでも、自分が、己が信ずる道へとまっすぐに貫く心が。

「彼らを見ても何も思わないのかよ」

俺は彼女のことを言う資格などないだろう。

俺の怒りは俺たちを囮にしたこと。そしてそれゆえに亡くなった俺以外の自衛官達のこと。
だが、俺は彼女を批判するため、彼らを。罪なき農民を使った。

上杉軍が消え、安堵を隠せない弱者である農民を。

「――――ええ。それが戦国だからよ。弱肉強食の世界よ」

「お前!!領主なら、領民を守るのが筋だろうがあああ!!」

「なら、あなたがやってみなさい!!」

「!!」

「貴方達が守ったのはこの地域だけ。それだけでも素晴らしい、誇らしいことよ。武人が罪なき民のための盾と矛になる。でもね、私が持つ領土にどれだけの民がいると思うの?」

伊豆、相模、武蔵、河東。数十万人はいるとみていいな。

「敵軍は8万以上。私たちは1万1千。そして西に今川、武田。四方八方包囲されて、あなたはすべての民を救えるのかしら?それとも救ったことでもあるのかしら?」

「俺は――――」

俺は―――――救えなかった。

ロシア、中国の連合軍数十万が迫る中、俺たち自衛官は半年で国土の半分を失った。
たくさんの人々が亡くなった。

「戦で罪なき民が亡くなること。あなたの言うとおり見過ごしていいわけがないわ。でもね、人は死ぬのよ」

現代日本で俺たちは救えなかった。
それを、その事実を棚に上げて俺は彼女を責めた。偉そうなことを言って、言った俺が何も出来ていないじゃないか。なんて、情けない、いやらしい、醜い人間なんだ。

翔太の右手は自然と力が抜けて、彼女の袖から手が離れていた。そして、立つことすら無理だった。

「くそ、くそ、くそ、くそおおおおおおおおおお!!」

頬を流れるのはこの雨なのか、涙なのか、わからなかった。
でも、それでも、おれは拳が血で赤くなるまで地を殴った。叫んだ。泣いた。

「俺は、俺は、俺は、なんとために、生き残ったんだああああああ!!」

仲間をすべて失い、この世界で誰も仲間と呼べる存在がいない今、俺は何のために、誰のために生き残ったのだ?

神よ。神がいるなら俺は、俺は….

「――――あなた、顔を上げなさい」

「へっ?」

パシン

一瞬、俺の身に何が起こったのか理解できなかった。
突然俺の左頬を襲った衝撃と痛み。

「ふざけないで!!」

「・・・」

「せっかく助かった命に何の意味を求めるの?生きたくても生きられず死んでいく戦国の世で、亡骸に対しこれ以上の無礼はないわ!!彼の言葉、もう忘れたの?」

――――――この日本を変えろ!!
――――――失われた命をもう二度と失わないような日本をお前が創れ!!
――――――共に散った仲間達のことをいつでも思い出せ。
――――――独り、生き残った….意味を…
――――――俺たちが救った命を…その尊さを…

「あなたは彼の死までも踏みにじる気なの?あなたはやるべきことがあるのではなくて?」

「俺は、俺は―――――」

もう、目の前で人が死ぬのは嫌だ。もうたくさんだ。
これまでも、これからも。

―――――貴様には力がある。

ああ。俺にはこの時代にないものを作る力がある。
新井三尉が託したすべての武器と、そしてこの設備。

「俺は――――――この国を変えたい!!もう、罪なき人が、日の本の民が血を流すことがないような、安定した国家を創りたい!!」

「じゃあ、どうする?この質問をするのは二度目ね。貴方の技術を北条家で活かしてみないかしら?」

答えは言うまでもなかったが、俺は大きく頷いて答えた。

「喜んで活かそうじゃないか」

俺は、この日自衛官をやめた。

そして、俺はこの日を持って武士となる。

俺は北条氏康の右手を握った。
「かかれええええ!!」

ボオォォというほら貝の音と同時に騎馬が駆け巡り、足軽たちがガシャガシャと具足の音を鳴らす。

「撃ち方、始め!!」

パパパパパ

ドゥドゥドゥ

乾いた連続音と、鈍い重低音が混じり合う。

鉄条網に足を絡めた足軽と騎兵は動くことができず次々に屍の山が出来上がる。

「ったく、そろそろ諦めろよ。何時間俺たちを働かせる気だ?」

「仕方がないだろ?周辺に河越城があるんだ。上杉勢もここを北条家の拠点とでも思っているんだろ?」

「まあ、農民にはお世話になっているからな」



遡ること3日前。

早朝。朝おきて、周辺を確認する役割の風間はとんでもないものを見た。

「な、なんで、火の手が?」

いつもお世話になっている農村から火の手が上がっているのを双眼鏡で確認できた。

畑を荒らし、家を荒らし、村人を荒らし…
刀や槍を手に持った野盗達か?

始めはそう思っていた。

「あの旗は?」

野党どもを指揮している者はなぜか旗を立てていた。

野盗に旗?どうもおかしい。

竹に飛雀・・・

「関東管領上杉!!」

そうか。関東管領上杉と北条家の係争地河越。

これが、後の河越城の戦いの一部だと、気がつくのに時間はかからなかった。

「新井三尉。農村が上杉勢に燃やされています」

「上杉?何故に上杉がここに?」

「おそらく、河越城の戦い。もしくは、上杉謙信の北条征伐です」

これのどちらかだ。

それ以外に上杉勢が関東の奥深くまで乗り込む戦いはない。と思う。

「農村を助けないのですか?」

「・・・上杉家に牙を向き、北条側に付くか、静観を決めるか」

「あの、農村にどれだけお世話になっていると思っているのですか?北条も上杉も関係ない。俺たちの単独戦争です!!所詮野盗に過ぎない侍たちです。我々にかかればひとたまりもないでしょう」

上杉勢の侍たちに統率がなかったのは河越夜戦で証明されている。統率が取れている侍たちであっても、俺たちの陣地を落とすのはほぼ不可能だろう。

「単独戦争。勝てる見込みは?」

「勝利条件によります。農民を救う。それが勝利条件なら100%です」

目をつぶる新井三尉。

首を縦に降ると、新井三尉は号令をかけた。

「我々は今から戦争に突入する。しばらくは平和など訪れないと思え。迫る軍勢は上杉連合軍数万。我々に退路はない。民を救い、野党たちからこの陣地を守るのみ」

俺たちは農民救助のため、出陣した。






あれから3日。救えた農民の男達に俺が作った回転式銃や、火縄銃、マスケット銃を渡し、女子供は補給基地に避難。兵糧は敵から奪ったのを合わせて1ヶ月ほど。

不眠不休の戦いを強いられる男達。死の恐怖を、男達の飯を作ることで紛らわせる女たち。

戦力は史実によるならば8万対数百。が、敵が投入できる軍勢はそう多くはない。
河越城を包囲しているならば、の話だが。

退路はない。背水ですらない。四面楚歌。

拠点の大きさ半径百メートル程度。四方八方を土塁と、竹の盾、二重の鉄条網、あらゆるところに張り巡らされた有刺鉄線。
一番恐れるものは騎馬隊による突撃や、数の暴力。それを防ぐための土塁と鉄条網、有刺鉄線。
次に恐るべきものは弓矢。そのための竹の盾。

二つの12.7mm重機関銃、3つの5.56mmMINIMI機関銃。10丁の89式小銃。数丁の回転式銃。十数丁のマスケット銃と火縄銃。

「8万の軍に勝てますかね?」

「俺たちの目標はこの地下で震える農民たちを救うことだ」

「数百名を救うために8万を殺す。面白い矛盾ですね」

「無駄口を聞いている暇があったら一人でも多くの野盗を殺せ」

「へいへい」

新井三尉に怒鳴られる柴田。

だが、隊員たちはこの殺す光景を嫌がってはいなかった。

下の時代に帰れないのではないかという不安と、下の時代の日本がどうなっているのかという不安。俺たちに庇護者がいなくてどうやって生きていくのかという不安。

だが、この現状。

何千という軍団をわずかな時間で屍に変える圧倒的な武力。

庇護者などいらない。俺たちが最強だと、積み上がった屍は隊員たちの心の中で自信に変わった。庇護者などいらないという自信に。

そして、釣り積もっていた不安等、はじめは嫌がっていた殺人が、いつの間にか、銃撃の快感へと変わっていた。

自身の罪悪感を、正義の味方を気取ることで消し、人を殺したという罪を、合法的な人殺しへとすり替え、快感にしていた。

「流石に撤退したか・・・」

「警戒は怠るなよ?」

「へいへい」

暗視スコープを装着し周辺の警戒を始める。

「まだまだ戦いは続きそうだな」

風間翔太はそっと呟いた。






「敵軍の動きがおかしいな」

河越城城主北条綱成は怪訝顔で呟いた。

「どうも、我々に対する包囲網が弱まっております」

綱成の部下大道寺政繁は答えた。

「我らを誘っているのか?」

「あいにく、我らはそんな軟派ではありませんので。そんな安っぽい誘いに乗ることはないでしょう」

8万の兵力に包囲されている城だということを思わせない軽口。

「しかし、気になるな。これが、俺たちを城から出させるために誘っているのか。それとも義姉様か、他の誰かによる工作によるものなのか」

「もし、何かあるなら伝令兵か何かを送ってくるでしょう」

「それもそうだ。我らはこの包囲に耐え、機会をうかがう。それだけだ」







「攻勢の機会?」

北条氏康もまた、小田原城内にて、怪訝顔で答えた。

目の前にいるのは北条幻庵。彼の助言がどういった意図を持っているのか、彼女は気になった。

「うむ。わしがかつて言った河越の不審者たち。どうも彼らが地元の農民を救うため上杉勢に攻撃を仕掛けたそうだ」

「成程ね。で、戦況は?」

「河越城を包囲している軍勢は推定8万。じゃが、不審者たちに手こずっているせいか、河越城の包囲網はどんどん弱まっている」

「どの程度かしら?」

「未だ包囲軍は数万の数を維持しておるが、不審者たちを倒すために戦力を割いたために減っている包囲軍の兵力と、河越の不審者たちの戦力に恐れをなしている。兵の士気はかなり下がっていると聞く」

「そうね。いいことを思いついたわ」

立ち上がった氏康は、妖艶の笑みを浮かべた。






――――――上杉軍本陣
「北条家が城を明け渡すだと?」

関東管領の役職につき、今回の北条攻め総大将となった山内上杉家当主上杉憲政は首をかしげた。

「はい。城兵の命と、兄北条綱成の命を助けていただくのであれば、河越城は明け渡します」

河越城城主北条綱成の妹、北条綱房は上杉軍本陣にて、義姉にあたる北条氏康からの書状を渡した。

「ふむ、では、河越の農村の拠点は北条家ではないと?」

「はい。まったくもって身に覚えがありません」

綱房は首を横に振って答えた。

(このままの状況が続けば、あの怪しげな術を使う集団に対処する兵力が減る。今のうちにただで城が手に入るというのなら、それも悪くなかろう)

「うむ。よかろう」

「ありがたく御礼を申し上げます。失礼ながら、少し条件をつけさせていただきます」

「条件?」

上杉憲政は眉を八の字にして首をかしげた。

「城を明け渡すとは言え、明け渡す準備が必要となります。城兵の武装解除期間及び、城兵の安全の確保を約束していただきたい」

「安全の確保?」

「はい。武装解除するにあたって、無抵抗で城から出るのですから、城の包囲も解いてもらいたい、ということです」

「・・・」

上杉憲政の口は閉じたまま一向に開かない。

(包囲を解いたところで、河越の兵力は3000。我が軍は妖術使いたちに手こずっているとはいえ、7万以上は有している。包囲から解いて、早期に妖術使いたちを倒す方が効率的といえば、効率的だな)

ちまちまとした戦力では、妖術使いたちこと自衛隊に、返り討ちに合うだけなのは目に見えている。

ならば、彼らの言うとおりに包囲を解き、全戦力をもってあの拠点を叩き落とすのは悪いことではない。

上杉憲政はそう考えていた。

「よかろう。3000の兵力でなにが出来るとも思えん。貴殿らの講話条件に従おうではないか」

「心から御礼申し上げます。では、私はこれにて、河越城へと伝令として向かいます」

綱房は兄綱成のもとへ向かうため、馬を走らせるのであった。
「本当にあの北条氏康様でしたか・・・とんだ失礼を。自分はこの陣地の臨時代表の風間翔太です。今後お見知りおきを」

正座で風間はハハーと言って頭を下げる。

「首をはねないだけマシだと思いなさい。で、この周辺の村に活気がわいていて、不思議に思ったのよ。二期作、輪栽式農法、脱穀機、唐箕、紡績機。全部あなたが考えたの?」

「ん~考えたのは俺じゃないけど、教えたのは俺達です」

「俺達?」

翔太の言葉に首をかしげる氏康。その姿を見たのか、翔太はもう一人の臨時補給基地の留守番役である柴田予備二等陸士を呼んだ。

「なんか用?」

「ああ。お客さんが来たから呼んだだけだ。特に用はない」

「用がないなら呼ぶな・・・よ?だれ、この美人さん?お胸が凹んでいるけど」

柴田のこの言葉に本人と翔太を除く氏康の周りの人間は何かが切れる音がした。

「どこの誰の胸が凹んでいるんですって!?」

「ひ、ひぃ、すいませんでした」

速攻土下座をかます柴田。

「義姉様、話がそれてしまいましたぞ」

義弟の綱成は土下座柴田と氏康の間に入り、氏康をたしなめる。

「そ、そうだったわ。で、あなた達のこの技術を北条家で活かしてみないかしら?」

「・・・つまりは?」

「私たちに仕えなさい、ということよ」

「ふむ」

これだけの技術。そう簡単に手に入れることはできまい。

この技術を河越周辺だけでなく、北条家の治める全域に広めて国力を高めたいのと同時に、この技術が他大名家への流出を恐れている。

と、俺は見た。

が、隣の柴田はそれどころではなく

「もしかして、俺達が天下を取れるってこと?」

「天下?それは、あなたたちの働き次第ね」

「おい、こりゃ、いい機会じゃねえか?俺たちの武力と知能をもってすれば、この日本の長きに渡る戦乱をとめることだって「お断りします」」

柴田の発狂ぶりは置いておいて、翔太は丁寧にお断りした。

「おい、風間!!お前、こんなチャンス巡ってこねえぞ?お前の言ってた天下とやらも夢じゃないぜ?」

「俺たちの責任者は新井三尉だ。こういう大きなことは俺たち単独で決めていいことではない。ましてや、人を殺して、歴史を書き換えるような大事をするのならなおさらだ」

とは言え、本音は違う。こいつらの傘下になって天下を取るなど、いいように利用されるだけだ。

俺がとりたいのは、誰かに天下を取らせるわけではない。俺自身が、俺たちが天下を取るのだ。いいなりになってたまるか。

チッ、と舌打ちをする柴田を奥に行かせると、翔太は氏康の前に出た。

「今日決めることは不可能ですので、帰っていただきたい」

「あらそう。あなた達に拒否権でもあると思っているのかしら?」

その言葉に、周りの侍たちは一斉に抜刀した。

抜かれた剣先を翔太に向けて。

「・・・」

「さあ、答えを聞かせてもらいましょうか?」

再び差し伸べてくる手を握らず、翔太は肩からかけていた89式小銃を手にする。

「!!」

氏康の耳に入る連続とした乾いた音。

その背後、立ち並ぶ木々は腐りきった木のように、スカスカになっていた。

「今日はお帰りください。そのようになりたくなければ…」

脅し文句をつけると、翔太は銃を下ろす。殺す意思はないと、見せるために。

「わ、私たちに宣戦布告でもするつもりなのかしら?いい度胸してるわね。種子島でも、これだけの人数を相手に戦うとしたら飾りに過ぎないわよ」

「そのようなつもりはありませんが、北条家と戦争ですか…例え10万の軍勢が来ようとも、我々はここを死守します。我々を倒すというなら、それだけの屍を用意することです」

もう、これ以上は交渉の余地なしと翔太は奥に入っていく。

何一つの挨拶も交わさないで。

「氏康。これ以上の交渉は無駄じゃ。また、日を改めて来ようとしよう」

「そうね。望んで穴だらけにはなりたくないものね」

氏康は蜂の巣とかした木々を見ると、その場から部下を連れて消えていった。






「北条家・・・か」

その夜。総員10名による会議が開かれた。

「現場責任者として、風間三等陸曹はどう考える?」

「無闇矢鱈にホイホイついていくのは危険すぎます。俺たちは俺たちとしてのテリトリーがあります。指揮権をやすやすと渡してはなりません」

「では、共にいた柴田予備二等陸士」

「この時代には我々よりも大きな、時代の庇護者とやらが必要だと考えます」

「ふむ、庇護者か。とはいえ、ここに来てもう6年。庇護者が必要か?」

うっ、と肺から吐き出したような声を出す柴田。

ここに来て2年が経つが、十分と言えるほどの生活を行えている。

風間は鍛冶師として、周辺の農家に農具を食材と交換。ある奴はこの補給基地に紡績機やらなんやら作って売りさばいて金を手に入れる。また、一部畑を開墾して食料の自足を図っている。

そして、最低限4人いればこの陣地は守られる。二重に敷かれた鉄条網に高く敷かれた土塁。騎馬の突撃は確実に不可能であり、足軽の突撃も無理である。故に鉄条網に絡まった武士たちは銃弾によって蜂の巣にされるのが目に見えている。

「庇護者が必要という案は却下だな。他に何かある奴はいないのか?」

新井三尉の言葉にみんな狸寝入りを敢行。

そもそも現場に俺と柴田以外誰もいなかったが、本当にどうでもよさそうな顔をしている。

「仕方がない。もう、これ以上の会議は無駄だな。解散」

その言葉でみんな狸寝入りから起き上がった。

だが、この時、まだ、知らなかった。

わずか数日で、庇護者が必要だったと思わせられるとは。