好きなお菓子は?

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好きなお菓子は?
そう聞かれたら、普通はスナック菓子を思い浮かべるのだろうか?
俺の場合は、ショートケーキやガトーショコラ、アップルパイに
モンブランetc.
そんな洋菓子が浮かんでくる。
別に、今流行りの『スィーツ男子』なんてコジャレたもんじゃない。
町のケーキ屋の息子に生まれ、ガキの頃から毎日おやつといえば
ショーケースに並ぶ洋菓子たちっていう環境に育ったせいだ。
それは、店を継いだ今でも続いている。
って云うか、拍車が掛かっている気もする…
 
「薫!またそんなに食べて!」
所狭しとテーブルの上に並べられたスィーツを見て、姉の晶が
呆れた顔をした。
「あんた、いくら何でも食べすぎでしょ」
「しょうがねぇだろ。春の新作スィーツの試作を作ってんだから」
「それにしたって…
ね、気付いてる?あんた、最近太ったよ」
口の悪い姉貴は痛いところをズバリ突いてくる。
俺はだんまりを決め込み、試作品の抹茶のマカロンを
口の中に放り込んだ。
ん、なかなかの出来栄え!
京都産高級抹茶の濃厚な風味が口内に絶妙に広がる。
ガン無視されても姉貴は攻撃の手を緩めない。
「そんなんだから、彼女が出来ないのよ」
まともに喰らえば瀕死の一撃を繰り出してきた。
これには俺も黙っていられない。
「家族経営の小さい店で働いてたら出会いなんてねぇだろうが!」
「あら、うちのお店はお客様の女子率90%超えじゃないの。
”蓼食う虫も好き好き”ひとり位、あんたを良いって言ってくれる
女の子はいないのかしらねぇ」
あぁ言えばこう言うだ。
姉貴の彼氏は、よくこんな減らず口と一緒にいられるなと、いつも
感心してしまう。
「ったく、うっせぇな!
客は客だ!それ以上でも以下でもない」
大体来店する女性客の殆どは子供や旦那、彼氏の為の
誕生日ケーキを求めてやって来ている。
そこに俺の入り込む余地なんて、針の穴ほども無いだろうが。
それを聞いた姉貴は、何故だかニヤニヤ笑いを浮かべた。
「へぇ~、ふぅ~ん。そぉなの?
客は客なんだぁ~。じゃあリボン姫も?」
「なっ!」
予期せぬ言葉に俺はぶっ飛ぶほど驚いた。
”リボン姫”というのは姉貴が勝手に付けたあだ名。
本名は知らないが、3ヶ月位前に近所に引っ越してきた服飾系の
専門学校に通う学生だ。
レースたっぷりのフリフリワンピースにぽっくりのような厚底ブーツを
履いている彼女のウェーブヘアには、いつもでっかいリボンが
自己主張していた。
「何だよ、いきなり」
内心の動揺を押し隠してみたものの、姉貴にはお見通しらしい。
ふふん、と鼻で嗤い
「私見ちゃったのよね。あんたがリボン姫に『これ、おまけです。
いつも御贔屓にしてもらってるお礼に・・』とか、なんとか言って
前の晩に特別に作った抹茶のフィナンシェを渡してたでしょ」
まさか、あれを見られていたとは…一生の不覚だ――――
「別に、特別って訳じゃ・・試作品の残り物をあげただけで・・」
「彼女、無類の抹茶好きだものね。
あ!それで今年の春フェアーは抹茶なの?」
うちの店のケーキは、華やかな色合いの物が多い。
どちらかといえば地味な感じの抹茶系はプリン・シフォンケーキ
ロールケーキの3種類だけ。
彼女は週替わりでその3種類をローテ―ションで購入していた。
3度目に来店した時、
『抹茶、お好きなんですか?』という姉貴の問いに
『はい。あたし断然抹茶派なんです!色んなお店
食べ歩いたんですけど、ここのが一番美味しいです』
そう答えた人懐こい微笑みに俺はノックアウトされてしまったのだ。
…んな事、姉貴には素直に言える筈がない。
「抹茶は、新緑をイメージして―――――」
「はぃはぃ。そういう事にしといてあげるわよ。
精々精進して最高の抹茶スィーツを作ってあげなさい。
パティシエとしての腕だけは一流なんだから」
褒められてるんだか貶されてるんだか・・
俺はため息を吐き、
「作業の邪魔だ。ネェちゃんは売り場に戻れよ」
「了解」
白いエプロンを手に取ると、あっけないほどあっさり
引き上げていく・・と思いきやドアの前でくるりと振り返り
「頑張ってね。恋愛はスィーツほど甘くはないわよラブラブ
「うっせぇ!」
俺が立ち上がると同時に部屋を飛び出し、ぱたりとドアを閉めた。
まったく…言われなくてもそんな事は百も承知だ。
だてに彼女いない歴を年齢と共に更新しているわけじゃない。
って、偉そうに言う事じゃないが…
 
俺は深呼吸すると白衣に腕を通した。
先の事は判らないが、今はこいつを完成させる事に全力を注ごう。
抹茶のクレーム・シャンティイ(ホイップクリーム)をたっぷり絞った
―――Chou à la crèmeb―――

俺の好きなお菓子はシュークリームだ。
           ☆☆☆FIN☆☆☆
 
お粗末さまでした///(;^ω^A///