~ 雨の止まないファン国城の夜 ~
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ … 」
「ま、またか … 」
さすがのテギョンも、生まれて初めて体験する『夜泣き』には悩まされた。
マテ誕生後も何度となく育児書を読み、今では中身を丸暗記しているテギョンも、ただ説明書きを眺めるのと実際に身をもって体験するのとでは訳が違う。
その高名な医師が綴った育児書にも書かれてない、テギョンの新たな悩みの種が1つ …
それは、なかなか泣き止まないマテの世話などより … 愛してやまないミニョが1日中、寝不足な事。
『眠れない』事に慣れてるテギョンは『完璧な王子』の仮面を被りさえすれば『完璧な執務ぶり』に集中できるが …
『テギョン様を、睡眠不足にしてはいけない』と頑張るミニョは、ただでさえ『眠り』が足りてない上に、元からそそっかしい。
『あっ』と叫んだミニョが、両手を広げ転びそうになっては『おいっ、気を付けろ!』とテギョンが抱きかかえ …
ドボドボッとミルクのお湯を哺乳瓶から溢れさせては『ミニョっ、ヤケドするぞ!』とテギョンがタオルを持って駆け付け …
あまりの眠さに、甘い甘い時間のはずのバスルームでも、テギョンが目を離した隙にバスタブの中へズルズルッと沈みそうになるミニョ。
ファン国城の長~い階段を、ミニョ一人ではとても登り降りさせられる状態ではなく、マテの世話よりミニョの方が手間がかかっている。
これでは、さすがのテギョンも身が持たなくなってきた。
「テギョン様 … 私が … 」
眠い目をこすり、まだ眠気で焦点の定まらないミニョがベッドから身体を起こした。
数時間前の慌ただしい秘め事の名残りで、片方の白い丸みがローブからこぼれ落ちている。
( うっ … ミニョ、ソレを見せるな。また、お前を寝不足にさせてしまう … )
思わずソレに触れそうになった自分の手を握り一呼吸したテギョンは、ミニョのローブの乱れをサッと直した。
「お前は寝てろ」
「で、でも … 」
「お前が倒れたら、俺が一番困る」
それはテギョンの偽らざる本音だ。ミニョが寝込んでしまう事態になるのだけは、何としても避けたい。
そんな事になるくらいなら『自分が24時間でもマテの世話をする』テギョンはそう思っていた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ … 」
「あ、マテが隣の子供部屋で呼んでます、テギョン様 … 」
「とにかく、ミニョ、お前は寝ろ。マテは俺が何とかしてやる」
「でも … テギョン様のお身体が … 」
テギョンはベッドから出ようとするミニョを、その唇で遮った。
マテが泣き叫んでいるというのに、二人の部屋には、しばし時が止まったような空白の時間が流れる …
舌と舌が絡み合うだけで、また時計のない空間へと互いに誘われてしまいそうになるが …
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ … 」
… と、体重が増えるほど泣き声も大きくなったマテが、テギョンとミニョを必死に呼んでいる。
「俺が心配なら、お前はとにかく寝てくれ。今度お前に何かあったら、それこそ俺の心臓が止まる」
そのテギョンの言葉は大げさではなく、ミニョの身に何か起きる度に、テギョンは何度も息が止まりそうになった。
こうして手を伸ばせば、いつでも強く抱き締める事ができ思う存分、口づけを交わせる距離にミニョがいる。
それが何にも変えがたい『自分の幸せ』なのだと、他の誰でもないテギョン自身が実感していた。
「テギョン様 … 」
「頼むから寝てくれ … マテは俺に任せろ、男同士で話をつけてくる」
「はい、分かりました … テギョン様、本当に有難うございます … 」
チュッ …
ミニョからのキスは、軽く頬に触れる程度だったが … テギョンは全身に力がみなぎるような感覚になった …





