akikazecharuのブログ

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えー、良い歳した男のポエムやらプロットやら書いてます
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「姉様」

 

「なにかしら妹様」

 

「そろそろ、雲がお城にかかってしまいそう」

 

 

そう言って、妹のオディールは指先で城の行く先を指し示した。

 

そこには雷を伴った雲がごろごろと、近づいてきていました。

 

 

「あら、それは大変、高度を下げましょう、出来るわね? オディール」

 

「手伝っては下さらないの?」

 

「仕方ないわね、手伝ってあげるわ」

 

「ありがとう、優しい優しい姉様」

 

 

姉のオデットが右掌を雲に向け、妹のオディールはその掌に自分の左掌を重ねた。

 

薄紫色の淡い光が二人の重なった掌から滲み出たかと思うと、二人の住むお城はほんの少しずつ高度を落とし始めた。

 

無事に魔法が成功したことを感じ取った妹のオディールは安心して、姉のオデットに話しかける。

 

 

「皆は元気に過ごすかしら?」

 

「オディール、そうなってもらわなければ困るわ、じゃないと」

 

「じゃないと?」

 

「私達の頑張る番が早まってしまうもの」

 

「それもそうね姉様」

 

「それもそうなのよ妹様、それに」

 

「そう、それに」

 

「お父様とお母様が死んでまで頑張った甲斐がなくなってしまうわ」

 

 

 

そう言って、オデットはオディールの髪をなでた。

 

姉のオデット、妹のオディール。

 

二人はとある王国の偉大な二人の大魔法使いの間に生まれました。

 

両親の魔力を立派に受け継ぎ、特にさしたる努力もせず若くして大魔法使いの称号を手に入れました。

 

双子の姉妹を心から愛していた両親は自分のことのように喜び、父が姉を、母が妹を抱きしめた時、世界は滅びました。

 

空は黒く染まり、大地は白く染まり、花々は枯れ果て、生命は腐り落ちました。

 

悲しみはありませんでした。

 

切なさも、怒りも、苦しみも、寂しさも、なによりも、悲しみはありませんでした。

 

それほど一瞬で、圧倒的で、人間がそれらを感じるには、あまりにもそれは、世界の決断過ぎました

 

命あるもの全てに寿命があるように、この世界、この大地そのものの寿命がやってきてしまったのです。

 

空気を、大地を、生きてゆく棲み処を借りているだけの人間は、それを返す時がきた、それだけなのです。

 

ですが、人間はワガママです。

 

あともうちょっとだけ生きていたかったのです。

 

オデットのオディールの父親から命が消えうせた時、一つの魔法が発動しました。

 

自分の命が霧のように空を舞った時、時間をほんの少し巻き戻す、そんな魔法を父親は自分の体に編み込んでいたのです。

 

そうして、世界のおしまいの前に戻ってきた父親は母親と二人で一つの決断をします。

 

時間はありません、巻き戻したとはいえ、ほんの少しの時間だけ、あと1分後にはまたおしまいの時はやってきます。

 

二人は縋りつく双子の娘を引きはがしました。

 

自分達の命と引き換えに最後の魔法を解き放つ。

 

それは、王様から直々の命令で研究していた魔法、そのオマケで出来た魔法でした。

 

命令通りにいかなかったので、封印した出来損ないの大魔法です。

 

そうしてオデットのオディールの両親は二人に少しの言葉を託すと、魔法を唱え、死んでしまいました。

 

オデットとオディールは泣き叫びました。

 

いかないで、いかないで父様

 

そばにいて、そばにいて母様

 

そんな二人の後ろで、鳥は鳴き、空は晴れ渡っていました。

 

二人の偉大な魔法使いの命と引き換えに、世界はおしまいになりませんでした。

 

正確には、おしまいになる時間をほんの少し伸ばしたのです。

 

たった、5秒だけ

 

二人の大魔法とは、この世界の時間をそっと狂わせることだったのです

 

人間も動物も草花も水も空気も、世界ですら、狂わせました。

 

残された5秒をいっぱいいっぱい伸ばす、それが二人の大魔法でした。

 

だから、これはたった5秒後に終わる物語。

 

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二人の姉妹は泣き疲れて眠った後、王様に事情を話しました。

 

世界のおしまいのこと、父様と母様が自分達に言った言葉、全部を話しました。

 

そして、王様は亡くなった二人の大魔法使いに敬意を示して、残された二人の娘に何かを与えようと思いました。

 

何をあげようか

 

迷って迷って、迷った末に、王様は自分達の住む大地を、この世界をあげることにしました。

 

どこへなりと羽ばたくことを許そう、二羽の鳥よ

 

世界を見ておいでなさい、そしていつでも戻っておいで

 

私は、君たちに世界を与えよう、君たちが決めなさい

 

 

王様からの言葉を賜ると、二人の娘は自分達の城に帰って支度を始めました。

 

旅の支度です。

 

父様や母様の友達や、自分の友達、色々な人に別れを告げました。

 

そして次の日、大勢の国民に万来の拍手と笑顔で二人は見送られました。

 

姉のオデットが手を振るうと、大地が割れ、妹のオディールが杖を振るうと、大地ごとお城が浮かび上がりました。

 

城のバルコニーから姉妹は手を振ります。

 

どんどんと皆の姿が小さくなっていきます。

 

白いドレスを着た少女のオデット

 

黒いドレスを着た少女のオディール

 

国の皆はその名前を忘れることはないでしょう

 

そうして、皆の姿が見えなくなった頃

 

静寂に包まれたお城の中で、姉妹はまた少し泣きました

 

それが、最後の涙でした

 

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「姉様」

 

「なにかしら妹様」

 

「大変よ姉様、大変なのよ」

 

「何が大変なのかしら」

 

「蛇口から紅茶が出るわ」

 

「どうしたの妹様」

 

「さっき高度を下げた時の影響かしら、何かあって蛇口からアッサムティーが出るわ、出続けているのよ」

 

「それは大変ね」

 

「ええ、大変よ」

 

「急いでティータイムの用意をしないと、当分紅茶には困らないわね」

 

「わかったわ、私はクッキーを焼くわ、急いでね」

 

「エブリタイムティータイムね」

 

「それはよくわからないわ」

 

空を飛び立ってからしばらくして、双子の姉妹はそれなりに今の生活を楽しめるようになりました

 

空を飛び回り、人を、世界を見て回る長い旅

 

いざやってみれば、それはそれなりに楽しく、それなりに面白いものでした

 

だって一人じゃないから

 

姉には妹が、妹には姉がいたからです

 

だから、この旅をまだまだ終わらせようとは思いませんでした

 

例え、この旅の先で自分達が死ぬことになろうとも

 

「…………」

 

バタバタとクッキーの準備に向かった妹の背中を見送って、姉のオデットは窓から空を見ました

 

ふと、前に父様と母様が自分達に託した言葉を思い出しました

 

 

オデット、オディール、よく聞きなさい

 

これから父様と母様は命を使ってこの世界の終わりを食い止める

 

だが、それでも食い止めるだけだ

 

お前たちの寿命より早く、この世界の寿命が来てしまうだろう

 

だから、お前たちで決めなさい

 

お前たちの体の中には、この世界の運命を歪めることの出来る大魔法が眠っている

 

命を失うかわりに、この世界のおしまいを変えることが出来る

 

だから、お前たちで決めなさい

 

旅をしなさい

 

色んな人を見て、色んな風を感じ、色んな音を聞いて、この世界は自分の命と引き換えに救うに足ると思ったら、その時はその魔法を使いなさい

 

 

「……父様、母様、オデットにはまだわからないわ」

 

「何か言った? 姉様」

 

いつの間にか、大量のクッキーが乗ったお盆を持ってオディールがそばにきていました。

 

 

「いいえなんでもないの、なんでもないわ妹様」

 

「へんな姉様」

 

訝しむ妹の頭を撫でると、オデットはバルコニーの椅子に腰かけました

 

それを見て妹も腰かけます

 

暖かな陽気の中、二人はティータイムを始めます

 

バターの香りと、紅茶の香り

 

とても幸せな気分でした

 

そう感じることが出来るほどには、姉妹は強くなったのです

 

しかし、まだまだ、決断を出来るほどには強くありません

 

二人の少女の命と、世界の命

 

考えるまでもありません

 

ですが、姉妹はちょっとワガママです。

 

あともうちょっとだけ生きていたかったのです

 

 

 

城の中、暗い暗い奥の部屋で父様の形見の時計がカチリ、と音を立てました

 

だから、これはたった4秒後に終わる物語

 

白鳥と黒鳥が空を飛ぶ、とても不思議なおとぎ話

水月「篠崎先生!」

篠崎「ん? どうしました? 水月さん」

水月「彼の外出許可お願いします!」

篠崎「はは、珍しいねちゃんと報告するなんて。散歩かな? いいですよ許可します」

水月「彼のデータがほとんど送信完了したんです! 
   もう会話だって出来るんですよ! だから私! ちょっと色々この街回ってきます!!」

(走り去る音)

篠崎「そうか……水月さんの努力が実ったんだね、それは良かった……
   待て今なんて言った!?」











水月「到着!」

モニター「お、おう」

水月「ここわかる? パノラマの丘!」

モニター「わかるわかる」

水月「何で、パノラマの丘って言うんだっけ?」

モニター「いやよくは覚えてないけど、私が小5か6の頃に……私? 違うな、俺だ。
     俺が小5か6の頃に隼人のヤツがこの丘見つけて、凄い見晴らし良いから
     意味もわからずパノラマの丘って言い出したんだっけ?」

水月「凄い……ちゃんとよくは覚えてないって感覚を認識できてるんだ」

モニター「あのさ、いやそりゃあ今までの事考えれば当然なんだろうけど
     その機械を相手にしてる感じの言い方やめてくんない?」

水月「あっ、ごめんごめん!」

モニター「で、合ってた?」

水月「何が?」

モニター「いや、お前が言い出したんだろ、パノラマの丘が何でそう言うのかって」

水月「ああ、それ私もよく覚えてないの」

モニター「なんだよそれ!」

水月「ごめんごめん、それにしてもここに来るのも久しぶりだなぁ……まぁ君にとっては
   つい最近の事なんだろうけど」

モニター「いや、だからそんな最近のことでもないんだって」

水月「ん?」

モニター「意識はあったの! 植物状態って言われてた時からずっと!
     パソコンにデータ移動してた時の前後はあんま無いけど
     少ししてからモニターの中からずっと見てたよお前のこと」

水月「え、そうなの?」

モニター「そうだよ」

水月「そっか……へへ、そっかぁ、そうなんだぁ」

モニター「な、なんだよ」

水月「なーんでもない!」

モニター「それにしても……」

水月「なに?」

モニター「本当に、水没するんだなぁ、この街」

水月「…………」

モニター「ちょっと俺のこと持ってくれない? もうちょっと高い所から見たい」

水月「う、うん……」

モニター「うわー凄いな、ほとんど浸水してんじゃん。
     学校のあたりはまだマシだとしても、図書館の方とかはどっぷりって感じだな」

水月「ねー、す、凄いよね」

モニター「ここまでいっちゃうとさ、食料とかどうしてんの? 交通とか当然麻痺してんだろ?」

水月「それは国の人が二週間に一度くらいヘリコプターで持ってきてくれるから……」

モニター「あーなるほど」

水月「ねぇ、どっか行きたい所ある?」

モニター「行きたい所?」

水月「まだ連れてってない所あるよね?」

モニター「そうだな、それじゃあ」

水月「うん」

モニター「商店街、ふれあい商店街」














水月「……はい、えーとあのー」

モニター「あー、うーん」

水月「ここが、ふれあい商店街で、す」

モニター「ふれあいもへったくれもないな、見事に無人じゃんね」

水月「まぁ、みんな避難しちゃってるから」

モニター「うおお……昼間なのに、人がいないとこうまで暗く見えるもんなんだな」

水月「でもせっかく来たんだし、奥までいってみようか」

モニター「おう、ってお前大丈夫か? 足元びっちゃびちゃだぞ」

水月「心配してくれたの? 大丈夫大丈夫」

モニター「いや、考えてみろよ、お前今もしコケて俺を地面に落としたら一発で俺お陀仏だからな」

水月「だーいじょうぶ。たかだかモニター一個壊れるだけで、他のモニターに出力切り替えればいいだけだから」

モニター「そういえば、この俺のこのモニター無線だろ? どのくらい無線で俺って飛べるもんなの?」

水月「うーん、この街全体くらいなら飛ぶかな」

モニター「あ、そうなんだ」

水月「うん」

モニター「それにしても、機械音痴のお前が変われば変わるもんだな」

水月「勉強しましたから」

モニター「最初の頃は、配線一つ繋ぐのもわからなかったもんな」

水月「何でそれを!?」

モニター「だから、植物状態の時も意識はあったんだって、耳も聞こえてたの」

水月「うぐ、そうだったね」

モニター「それにしても植物状態の人間に向かって、どうして工具の使い方を尋ねるかね」

水月「だっ! いやいや、それは勢いというか、そんっ、そんなこと言ったら君だって
   私に体拭いてもらったりしてもらった事を忘れてたとは言わせないぞ!」

モニター「あ、その時はよく覚えてないわ、全然覚えてないわー。植物状態だったもんでー」

水月「え、ごめん……」

モニター「……いや冗談だよ」

水月「冗談だったの!? いや冗談に思えないよ! 怖いよ!」

モニター「悪かったよ! 自虐ネタにしても行き過ぎてたよ!」

水月「本当もう! 今度からそういう冗談はやめてよね! っと、おっとっと!?」

モニター「おい馬鹿!! 転ぶなよ!!」

水月「っと……大丈夫」

モニター「おいしっかりしろよ! ガラスの破片とかそこらへん散らばってんだから!」

水月「…………」

モニター「ん? なんだよ急に黙って」

水月「ん、ううん。べっつにー」

モニター「べっつにーじゃないだろ! なんだよ!」

水月「自分の心配じゃなくて、私の心配なんだーって」

モニター「あっ、あー……それは、まぁ、なんていうか」

水月「あ」

モニター「ん?」

水月「肉の溝口」

モニター「おお、溝口だ」

水月「君、好きだったよね、溝口」

モニター「ここのおっちゃんとおばちゃんってやっぱ街の外に避難したのか?」

水月「ううん」

モニター「え、じゃあどっかにいるのか?」

水月「言いたくない」

モニター「言いたく、ない?」

水月「うん、言いたくない」

モニター「教えてくれよ、俺よく世話になったし、こんな姿だけど意識戻ったんだし挨拶したいんだけど」

水月「……聞いても後悔しない?」

モニター「後悔って……まさか、死んだのか?」

水月「自殺したよ」

モニター「じさっ、は!? なんで!?」

水月「自殺報奨金。人の住める所が減ったからね。60歳以上の人や、怪我人、病人は死んだらその家族にお金や居住権がもらえるの。
   息子さん、借金とかあったみたいだし」

モニター「…………たかだか、数年で、そんなことになってたのかよ」

水月「されど、数年だよ。君が言った言葉だね。変われば、変わるもんなんだよ人って」

モニター「…………」

水月「また、食べたかったよね……ここのコロッケ」

モニター「ああ」

水月「学校帰りにみんなで食べて帰ったよね」

モニター「……おう」

水月「ねぇ」

モニター「うん?」

水月「学校、いこっか」














モニター「……冷たくないか?」

水月「大丈夫、夏だし」

モニター「そういう問題か? なんだったら、今日はもう帰った方がいいんじゃないか?」

水月「ううん、君の意識がちゃんとしたら絶対その日にいこうって思ってた所があるから」

モニター「そうか」

水月「うん、だから待ってて」

モニター「おう」



水月「そう言って、私は学校の中に入った。
   キィと軽い音をたてて開くドアにお化け屋敷みたいだね、なんて笑いあいながら。
   ほんの少し前までチャプチャプと音をたてていた廊下は、いつの間にかジャブジャブに音を変えていて
   私の心をざわつかせた。
   それを彼に気取られないように、また笑い合った。
   まるであの日の二人のように、足取りは変わらず、ステップは心のままに。
   目指すは二階の非常階段。
   まるでその日の二人のように、一人分の水音を立てながら」



水月「はい、着いたよ」

モニター「やっぱりここか」

水月「うん」

モニター「やっぱり、ここだよな」

水月「やっぱり、ここだよ」

モニター「すっかり夕暮れだな、病院って門限ってあったりするの?」

水月「あるよー、もうすっかり過ぎちゃったけど。
   後で先生に怒られちゃう」

モニター「その時は一緒に怒られてやるよ」

水月「そうだね、もう一人じゃないから」

モニター「…………」

水月「…………」

モニター「えーと、どっちが告白したんだっけ?」

水月「本気で言ってる?」

モニター「わかったよ、俺だよ」

水月「そう、ここで私達は恋人同士になったの」

モニター「ガキの頃から一緒のお前に、まさか惚れる日が来るなんてなぁ」

水月「私もビックリ」

モニター「俺も驚いたよ、告白した時、まさかOKもらえると思ってなかったし」

水月「実は告白された時、迷ったんだけどね」

モニター「は!? お前即答で私も好きですって言ったじゃん!!」

水月「うん、だからなんて言うのかな。
   その時に惚れてたって感じじゃなくて、なんて言うんだろう。
   子供の頃から、ずっと好きだったんじゃないかな、私。
   だから、そういう感覚ってわからなかったの」

モニター「あー、そういう」

水月「だから、嬉しかったけど、それ以上に戸惑ったなぁ……」

モニター「おう……」

水月「結果、恋人になって正解だったけどね」

モニター「ありがとうござい、ます?」

水月「いえいえ、こちらこそ」

モニター「ははは……」

水月「あっはは……」

モニター「でも、本当ありがとな。こんな俺のためにここまでしてくれて」

水月「うん、感謝しなさい」

モニター「それで」

水月「ん?」

モニター「お前、いつ街から避難するの?」

水月「……避難、しないよー」

モニター「それは駄目だろ、いつだよ」

水月「わかんない」

モニター「おい」

水月「本当に、わからない、かな」

モニター「……わかった。じゃあ質問変える。
     俺ってさ、いつまでこうしていられるの?」

水月「何で、そういう事聞くかな」

モニター「俺、データ送信の前後は意識が無かったりしたって言ったよな?
     だから詳しい日程とか知らないんだ」

水月「今聞かなくたっていいじゃん」

モニター「でも知っておかなきゃ、いけないことだろ?」

水月「言いたくないな」

モニター「なぁ」

水月「言いたくないってば」

モニター「俺って、いつ消えるの?」














篠崎「彼の意識のデータ化成功、その後のデータの急速解凍。
   奇跡とまでは言いませんが、非凡な結果であると言えます。
   水月さん、よく頑張りましたね」

水月「はい」

篠崎「僕も彼と話してみました。
   何の問題もなく意思疎通が出来ています。
   名前を思い出せないことを除けば完璧といって言い状態です」

水月「はい」

篠崎「確認ですが、これでいいんですよね?」

水月「これで、とはどういう意味ですか?」

篠崎「私は意識のデータ化のお話を水月さんに提示しました。
   水月さんは彼の置かれている状況、状態を理解した上で、それを承諾しました。
   水月さんが当初望んでいた事はほぼ叶いました。
   これでいいんですよね?」

水月「はい、これ以上のことなんてありません」

篠崎「予想より……海面の上昇速度が大きいです。
   もしかしたら、1日、いえ、もしくは2日ほど大停電の予定が早まるかもしれません」

水月「……それ以上早まることはあり得ますか?」

篠崎「わかりません、ただ、おそらくは2日以上、ということは無いように思います」

水月「そうですか……」

篠崎「水月さん」

水月「私、大丈夫です! それに、毎日が楽しいんですよ!
   お話ができることがこんなに楽しいなんて、私今までの人生では経験できなかったんです!」

篠崎「水月さん、これは確認なんです」

水月「わかってますよ、大丈夫です!」

篠崎「今から数えて一週間でこの街に存在する、全ての発電所、無線の基地局が水没します。
   担当電力会社はその水没前に電力の供給を停止します。
   地域大停電、というものです。
   その大停電により、彼の意識が入っているコンピュータもシャットダウンしてしまいます。
   ……つまり、彼とはお別れということになります。
   理解していますね、水月さん。理解した上で、あなたは承諾しましたね?
   これで、いいんですね?」


水月「もちろんです。元々一言も喋れずに水没と同時に死ぬはずだった彼を、
   こうして話せるまでにしてくれたこの病院にはいくら感謝しても足りません。
   これ以上を望んだら、バチがあたります」

篠崎「……結構です。申し訳ありません、こんな事を二度も確認してしまって」

水月「いえ……じゃあ、私行きますね。残りの時間を有意義に使う為にも」

篠崎「はい」















水月「それから、数日の間。私は彼と楽しい時間を過ごした。
   取りこぼしがないように、彼とこの街を歩きまわった。
   一つの後悔も残さないように、想い出を塗り重ねるように。
   厚くなった想いは、いつまでも消えない。
   そう信じて、私達はともに生きた。
   私達は、幸せだ。
   悔いなんて無いに決まってる。
   素敵な出会いだった」
   












モニター「水月」

水月「なに?」

モニター「今までありがとうな」

水月「そんなこと言わないでよ」

モニター「俺のこと、忘れてくれ」

水月「お願い、やめて」

モニター「約束してくれ」

水月「やめて!! 聞きたくない!!」

モニター「頼む! 水月! 約束してくれ! 俺のことでもうこれ以上お前に苦しんで欲しくないんだ!」

水月「いや!!」

モニター「聞けよ水月!!」

水月「強制入力!! 名称リピート!!」

モニター「おい! 水月。 お前なに水月。 水月、てんのかよ! 水月! おい!!」

水月「強制入力、スリープモード!」

モニター「おい! …………」

水月「はぁ……はぁ……」

モニター「…………」

水月「リピート」

モニター「水月」

水月「リピート、リピート、リピート」

モニター「水月、水月、水月……」

水月「忘れられる訳、ないじゃない……」




(水月、泣き声)






水月「私達は、幸せだ。
   悔いなんて無いに決まってる。
   素敵な出会いだった。
   そう、信じてる。
   信じてる、けど、割り切れないことだって、ある。
   だって、そうじゃない……
   いつだって、人生は楽しくて、悲しくて。
   嬉しいのに、苦しくて。
   胸が張り裂けそうな時に限って、時間は早く過ぎ去っていく」

  









水月「なんでさ、アメリカって寝たきりの老人が居ないのか知ってる?」

モニター「いや、わからない」

水月「高齢の重病者だったり、がんで終末期を迎えてる人何かは、口から物を食べられなくなるよね。
   それは人間にとって当たり前の症状で、人という生き物にとって自然なことなんだ。
   それを点滴とかの人工栄養で生きながらえさせることは非倫理的で、むしろ虐待だっていう
   考えが国民みんなが認識してるからなの」

モニター「……なるほどな」

水月「ねぇ、君は私のこと怒ってない?」

モニター「何について?」

水月「脳のデータをパソコンに送信したこと。
   自分を正当化してみようとしたけど、やっぱりこれは私のエゴなんだよね。
   もっと、良い形の最後が……君にはあったかもしれないのに」

モニター「馬鹿言ってんじゃねぇよ」

水月「…………」

モニター「お前と、最後に話すことが出来た。それだけで、十分だよ。水月」

水月「ありがとう……」

モニター「水月、カーテンをあけてくれ」

水月「うん」

(カーテン効果音)

モニター「すっかり、暗くなっちまったな」

水月「そう、だね」

モニター「俺は、これから死ぬのか」




水月「その時、彼の声に反応するかのように、一つ音が消え去った。
   常に病室に鳴り響いていた、高く、硬い音。
   それは彼の肉体の生命維持装置の音だった」



モニター「怖くないって言ったら、嘘だよなぁ……」

水月「……私に、何か出来ることはない?」

モニター「話しを、聞いてくれないか」

水月「うん」

モニター「あれから何度も考えた、考えたんだけど、例えばさ。
     水月がもし大金持ちで、俺の肉体をどっか他の移住地に連れてって
     そこでデータをパソコンに送信できたとしようよ」

水月「うん」

モニター「いや、それどころじゃない。世界一のスーパー天才なお医者様を首根っこ捕まえて
     連れてきて、俺のことを助けさせることが出来たとしよう。
     それでも、俺はここで死ねる方が幸せだと思うんだ」

水月「……何で?」

モニター「俺はさ、高1の夏、トラックに跳ねられた時に死んでるんだよ」

水月「それで、納得できるの?」

モニター「出来るさ、とっくのとうに俺は死んでたんだ。
     勘違いすんなよ、こうしてお前と話せてることは嬉しいんだ、凄い嬉しい。
     幸せ、なんだ。本当に」

水月「…………」

モニター「でも、これ以上は、求めすぎな気がするんだ」

水月「うん」

モニター「そりゃ、さ。飯とかまた食ってみたいよ?  
     体動かして、汗いっぱいかいて、ごくごく水のんで
     明日は休みだ気にすることはねぇ、ばたーんってベッドで、さ」

水月「……素敵だね」

モニター「休日には、またお前とデートして、手を繋いで、抱きしめて
     ……でも死んでるから、俺は。これで、いいんだ」

水月「カッコいいなぁ……」

モニター「だから、惚れたんだろ?」

水月「そうだね、だから好きになったんだよね」

モニター「惚れた弱みってことで、二つお願い聞いてくれないか?」

水月「なに?」

モニター「俺からは出来ないからさ、抱きしめてくれないか?」

水月「わかった……」

モニター「サンキュー」


水月「そうして、私はそっとモニターを抱きしめた」


モニター「不思議だな、何一つ感じないのに、本当に抱きしめられてるみたいだ」

水月「そうだね」

モニター「想像した通りだ、やっぱり、悪くない」

水月「……大好きだよ」

モニター「ああ、俺も大好きだよ、水月」



水月「抱きしめながら、ふいに窓を見てみると
   チカチカと点滅を繰り返す街の光が
   まるで彼の心臓の鼓動のようで。
   トクントクンと、また一つ消えていった。
   そっと目をつぶると
   窓からそよぐ風が彼の息遣い。
   触れたモニターの、電気の熱が彼の温もりに思えて涙が止まらなかった」



モニター「でも、それでも怖いんだ……」

水月「うん」

モニター「幸せなんだよ……だけど、怖いんだ……」

水月「うん……」

モニター「消えたら、俺はどこへいくんだ?
     また、お前と会えるのか?」

水月「会えるよ、きっと」

モニター「離れたくない! 水月!! お前と離れたくない!!」

水月「っ! 大丈夫、ずっと一緒にいるから……ずっと一緒だよ……」

モニター「水月! やっぱ俺ダメだ! ふっ、2つ目のお願い! 聞いてくれ!」

水月「うん……聞くよ、言って……」

モニター「お前の手で、電源を切ってくれ。頼む!!! これ以上お前に情けない姿、見せたくないから!」

水月「……わかった……」

モニター「ず、ずっと、ありがとうなっ!! 本当にっ! 本当にありがとうな!」

水月「うんっ……ありがとう」

モニター「お、おうっ……! き、切ってくれ、電源! 今ならいい!」

水月「わかった、き、切るね……」

モニター「あ、ああ!! 愛してた! 水月!!」

水月「私もっ!!」




水月「パチン。プツン。
   そんな音を立てて、あっけなく彼の電源は切れた。
   モニターが熱を失っていく。
   それと同時に、自分でも驚くくらい目の前のモニターに対しての想いが薄れていった。
   その代わり、彼の声だけがずっと私の耳の中で反響する。
   離れたくない。
   幸せで、残酷な言葉」




水月「……待って」



水月「彼の言葉が反響していく……のに、たった一つ異質な言葉が混じっていく。
   悲しみと愛しさでごちゃ混ぜになった私の心に。
   明確な色と形を持って、現れた。
   その言葉は耳を通って、胸の中に入って、ドンドンと扉を叩く。
   何度も、何度も、繰り返し、繰り返し」


水月「待って!!! お願いだから!!!!」



水月「ついに点滅し始めた病院内の照明に向かって私は叫んだ。
   胸を叩く言葉は、大切な彼の言葉を押しのけてなおも心臓を叩く。
   痛いくらいに、とても冷たく、けれどとても暖かく
   善悪と、罪罰。考えるにはあまりにも時間が短すぎて
   私は……彼の為にと、道徳の境界線を踏み砕く。
   黒でもない白でもない、その決意は。
   いつの日か、彼と見た青色に埋め尽くされていた」




水月「……人間の脳とコンピュータは似ている」













篠崎「水月さん、入りますよ」


(扉の効果音)



篠崎「……寝てしまいましたか。
   起きて下さい、水月さん」

水月「ん……んん……篠崎……先生?」

篠崎「おはようございます」

水月「っ!!」

篠崎「落ち着いて下さい。
   お察しします……辛い、夜でしたね。
   しかし、彼の為にもご遺体を弔ってあげましょう……」

水月「私……私!!!」

篠崎「はい、頑張りましたね……とても立派です」

水月「私、最後に! 最後!!」

篠崎「落ち着いて、落ち着いて下さい、水月さん」

水月「私っ、わた、しぃいい!!」

篠崎「大丈夫、もう全部終わりましたよ、水月さん。
   大丈夫です……しかし、急がなければ、もうすぐ自衛隊の迎えがきます。
   早く彼を弔ってあげなければ」

水月「彼……彼……か、れ」

篠崎「水月、さん?」

水月「か、れが、わた、わたし、し、ぬ、いた、いたい、とむら、う」

篠崎「どうしました? 水月さん? 水月さん!! どうしました!?」

水月「う、み、がっこ、う」

篠崎「え?」

水月「か、れ、う、み、が、こ、う、と、むら、
   変換、彼、海、学校、弔う」

篠崎「……君は」

水月「篠崎先生、大丈夫です。今、全部、全部終わりました。
   先生…………私は、違う、俺……」




水月「俺は、長谷川久哉です」









『the You fixer(あなたを繋ぎ止める人)』




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読了ありがとうございました。

この物語を書こうと思ったきかっけの曲を貼ります。
読み終わった後に、聞いて頂ければと思います。


初音ミク・FIX

http://www.nicovideo.jp/watch/sm15456493



米津玄師・サンタマリア

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20682333
水月「私には、難しいことはわからない。
   だから、お医者さんの言う事のほとんどは理解できずに私の耳を通りすぎていった。
   大切な事のはずなのに、お医者さんは何かに追い立てられているかのように、早口だ。
   言葉を遮って、同じ説明を聞いてはまた一つ、また一つと言葉が私を透明にする。
   ふわふわと、どこを触れば、握ればいいのかわからないそんな会話の中で
   やっと一つだけ、色と形をもって現れた言葉があった
   ……人間の脳とコンピュータは似ている」
   

【the your fixer(あなたの修理人)】









水月「2317年。日本は水没しかけていた。
   南極の氷床が融け、各地の永久凍土が融解し、氷河は後退。
   ニュースで流れるアナウンサーの真面目な顔。
   そのアナウンサーが喋るスピードと同じ速度で海面は上昇し、
   その滑らかな言葉と同じくらい、海の色は綺麗で……
   太陽の光を反射して私の顔を照らした。
お日様色の夕暮れと空色の海。
   オレンジと青色が混ざり合う街。
   潮風と、体温にも届くかという気温の中
   私の住んでいる海辺の街は、どうやらそう遠くない内に水没する運命にあるそうだ」




モニター「……う……み……」

水月「うん、そうだよ、これは海」

モニター「う、み。うみ」

水月「もうすぐね、この海がいっぱい増えてちゃって、街が海の中に沈んじゃうんだ」

モニター「うみー……」

水月「そういえばね。私達の通ってた学校あったじゃない?
   あそこも一階の所浸水が始まっちゃったんだって、何か、寂しいよね」

モニター「……がっ……こう」

水月「ここの病院は丘の上にあるから、まだまだ大丈夫なんだけどね」

モニター「うみ、が、っこう」

水月「……やっぱり、そんなに都合よくはいかないか」

モニター「がっ、こー」

水月「はい、私は誰でしょうか」

モニター「…………」

水月「みーづーき。みづき。言ってごらん」

モニター「う、み、づ」

水月「あー、あー。漢字検索、かーんーじーけーんーさーくー」

モニター「漢字検索」

水月「みず、飲料水、脱水症、水道。共通検索」

ミニター「共通検索、水」

水月「漢字検索」

モニター「漢字検索」

水月「つき、満月、月夜……えーと、月、月……あ、皆既月食。共通検索」

モニター「月」

水月「繋げて」

モニター「水、月」

水月「画像認証、ナンバー1。カテゴリー恋人、名称」

モニター「登録されていません」

水月「……私馬鹿だ。あー、だからか。データ消えちゃってたんだ」

モニター「登録しますか?」

水月「はい、直前データ呼び出し」

モニター「水、月」

水月「辞書登録、呼び方、みづき」

モニター「水、月、辞書登録みづき。を、画像データナンバー1に登録しますか?」

水月「はい」

モニター「水月」

水月「クイズタイム、私の名前はなんでしょう?」

モニター「水月」

水月「はいよくできました」

モニター「水月」

水月「ん? なに?」

モニター「私、の名前を、教えて下さい……認識処理します。
     私の名前ってなんだったっけ?」

水月「おお……ちょっと成長したかな。
   でもごめんね、名前は教えてあげられないんだ」

モニター「なぜ、なんで?」

水月「お医者さんとの約束でね、名前は自分で思い出した方がいいんだって」

モニター「そうなの?」

水月「うん、ほら君はずっと植物状態だった訳なんだけど
   そこから、脳みその情報を全部データに変えてパソコンに移し替えたのね。
   でも人間の脳みそのデータって凄く大きいんだ。
   だから、一度にパーンってデータを読み込めないの」

モニター「……植物」

水月「少しずつ、脳のデータを解凍していって
   パソコンの中になじませていくの……
   それで、そのデータの最後の部分が、君自身の名前なんだ。
   だから、君が自分で自分の名前を口に出した時、本当にパソコンの中に全てのデータが
   移った証拠になるの」

モニター「証拠」

水月「えーと……私も詳しい事はわからないんだけどね
   つまり、君が完成した時のキーワードが君自身の名前なんだ。
   だから先に私が名前を教えちゃうと、いつ君が完成したかわからなくなっちゃうの」

モニター「名前、私の、名前」

水月「面倒だよねぇ……ごめんね。これが人間の脳から人間の脳へのデータ送信だった話しは別らしいの
   でも、結局人格を捨てて生きた肉体提供しますーなんて人が見つからなくてさ。
   頑張ったんだよ、私、色んな所に話ししにいったり、本当頑張ったんだけど……ごめんね」

モニター「う」

水月「う?」

モニター「うみ、が、っこう」

水月「おっとと、最初に戻っちゃったか……んじゃそろそろ病室に帰ろうか
   風も出てきたし、君が錆びちゃあ大変だ」











篠崎「ああ、水月さん」

水月「篠崎先生」

篠崎「こんにちは、お散歩ですか?」

水月「はい、彼に海を見せにいってたんです」

モニター「篠崎先生」

篠崎「はは、やぁ気分はどうだい? そうだよ、僕は篠崎雄太。
   君の肉体の治療を担当させてもらってる医師だ」

モニター「ありがとう、ございます」

篠崎「……水月さん、凄いですね。もう言葉が喋れてるじゃないですか」

水月「何か、突然モードが切り替わるっていうか、いきなり意思疎通がとれる時があるんですよ」

篠崎「お、それは順調にデータが入れ替わってる証拠ですよ」

水月「本当ですか!」

篠崎「はい、この調子で彼の修理、お願いしますね」

水月「はい!」

篠崎「じゃあ僕はこれで退散しようかな、後は恋人同士ごゆっくり」

水月「はーい……良かったね、順調だって!」

モニター「よかった」

水月「うん! じゃあ、台に下ろすよ……よっ、と。
   はい、またクイズタイム。このベッドで眠ってる人は誰でしょう」

モニター「わ、たし」

水月「うん、正解。名前はわかる?」

モニター「わかり、ませ、ん」

水月「残念。まぁ、それがわかれば苦労はしないよね」

モニター「う、み」

水月「ん? ああ、そうだね。窓あけようか?」

モニター「…………」

水月「…………そうだよね、別に窓あいてても、あいてなくても関係ないよね」

モニター「うみ」

水月「でもよかったぁ、順調かぁ、そっかぁ」

モニター「よかった」

水月「うん。3ヶ月かかったけど……やっと私の名前も覚えてくれそうだし。
   少しずつでも成長してるってわかると、私も嬉しい」

モニター「水月」

水月「うん! なに?」

モニター「水月は、あなたの名前です」

水月「そうだよ! 私は水月」

モニター「うれ、しい?」

水月「うん、へへ、嬉しい」

モニター「よかった」










篠崎「では、質問をするね」

モニター「はい、篠崎、先生」

篠崎「例えば、ここにリンゴが二つあります」

モニター「りん、ご」

水月「リンゴ、林檎。果物、甘い果物だよ。甘い、食べ物、林檎、わかる?」

モニター「は、い。りんご、果物のりんごが例えば、二つあります」

篠崎「そのリンゴを二人の人が食べようとします。
   二人はとてもお腹がすいています。
   さて、リンゴはいくつ残るでしょう」

モニター「0です。二人が二つのリンゴをとって、一つも、残りません」

水月「そうだよ、よくわかったね」

篠崎「そうだね、0個だ。でもリンゴは一人が二つとも食べてしまいました」

水月「え?」

篠崎「さて、なんでだろうね」

モニター「一人が二つ、もう一人は、食べられなかった」

篠崎「その通りだ。何故、もう一人は食べられなかったのだろうか。
   理由は多分、いくらでも考えられるよね。
   君は、どう思う? この場合、どんな理由があったんだと思う?」

水月「あ、そういう意味なんですね」

篠崎「さぁ、答えてみてごらん」

モニター「……わかり、ません」

篠崎「うん、わかった。ではこの質問はやめようか。
   私の名前はわかるかい?」

モニター「篠崎、先生です」

篠崎「では、彼女は?」

水月「うん、私の名前」

モニター「み……ず、みず……」

篠崎「うん、あともう一歩だ」

モニター「みず……みず……わかりませ――――」

水月「き、みづき」

モニター「みづ、き。水月」

篠崎「ふむ、補助してあげれば、なんとかって感じですね。
   では次の質問をしてみようか、例えば、人が一人死ににました。 
   その一方で」

モニター「う、み」

篠崎「ん? 海?」

モニター「みう、み、が、っこう」

篠崎「海、と学校かな?」

水月「あ、それ昨日私が教えたんです」

篠崎「ほう、1日過ぎて、記憶が続いてるのか……」

水月「そうだよね、昨日私教えたもんね」

モニター「がっこう」

水月「ん、会話が……」

篠崎「会話が続きませんね。と、いう事はむしろ……そうか。なるほど」

水月「先生、何か原因があったんですか?」

篠崎「今水月さんの名前を呼んでから会話が終わりましたよね。
   恐らく、水月さんの名前に反応したんです。
   言葉には出せていませんが、自我は解凍出来てきているんですよ」

水月「本当ですか!?」

篠崎「ええ、この調子でいきましょう」

水月「はい!」

篠崎「さて、今日はこのくらいにしたらどうです?
   もう日も暮れてしまいますし」

水月「……あと、少しここにいます」

篠崎「そうですか、では私はここで……」

水月「あの、先生」

篠崎「はい?」

水月「自我が解凍してるって、口には出せてないけど、自我が戻ってきてるって
   ……その、本当ですか?」

篠崎「ええ、恐らくは」

水月「恐らく、ですか」

篠崎「申し訳ありません、立場上、断言は出来ないんです」

水月「いえ、十分です! その、ありがとう、ございました……」

篠崎「大丈夫、こんな献身的な水月さんがついているんです。
   きっとすぐ良くなりますよ」

水月「……はい」















   



水月「おはよう! ……って返事が無いのはいつものことですよっと。
   今日はどうかな? 脈拍、心拍数、血圧……うん、平常だね。
   さて、音声とカメラのスリープ解除しましょうねーっと、ほいっ」

モニター「……おはようございます」

水月「はいおはよう、今日の調子はどうかなー?
   海は何色? 私との関係と私の名前は? 君の担当医の人は誰かな?」

モニター「海、は、水色、です」

水月「おっと? 私との関係と私の名前は? 担当医の人の名前は?」

モニター「あなたとの関係は恋人です」

水月「ふむ、名前は?」

モニター「篠崎先生です」

水月「いつから君は同性愛者になったんだい」

モニター「担当医の名前は、うみづき、です」

水月「海に、月、か。クラゲかな?」

モニター「クラゲ、です」

水月「断言しちゃったね。はいはい違うよ違うよ、よく間違えるねー君は。
   記憶するのはコンピュータの専門分野じゃないのかなー?」

モニター「私は、コンピュータではありません」

水月「……ごめん、そうだよね、私が間違ったこと言った。ごめんね」

モニター「う、み、が、っこう」

水月「ん、よく覚えてる覚えてる。一昨日教えた事だね?」

モニター「そういえばね。私達の通ってた学校あったじゃない?
     あそこも一階の所、浸水が始まっちゃったんだって、何か、寂しいよね
     ……がっ、こう、学校」

水月「お、おお。え、なに、それ一昨日私が言った言葉?」

モニター「ここの病院は丘の上にあるから、まだまだ大丈夫なんだけどね」

水月「凄い……ちゃんと記憶してたんだ」

モニター「クイズタイム、あなたの名前は……あなたの名前は……」

水月「う、うん! 名前は?」

モニター「……みず、つき」

水月「そう! 水に月で、繋げてみずつき。あともう少し!」

モニター「みず、つき。みずつき、みずつき、みずつき!」

水月「……待って」

モニター「みずつき! みずつき! みずつき! み……ず……つ!」

(火花の音)

水月「強制入力!! スリープ!! スリープモード!!」


(スリープモードの効果音)



水月「……ちょっと、頑張りすぎちゃったよね。
   ごめん、私のせいだね。
   待ってて、今修理するから……」














篠崎「水月さん」

水月「はい」

篠崎「彼に施した治療、脳内情報のデータ化は非常にデリケートなものであることは、わかっていますね」

水月「はい」

篠崎「今回のように、表面上の簡単な回路なら水月さんが修理してそれでおしまいです。
   ですが、もしもっと内部の故障になってしまったら、お手上げです。なぜかわかりますね?」

水月「それは、その、内部の回路をいじったらショートする可能性があって。
   シャットダウンしちゃうかもってことですよね」

篠崎「そうです。人間が心臓を止めて生きることが出来ないように。
   彼のパソコンもシャットダウンすることが出来ません。
   一度シャットダウンしてしまったら、それまで築いてきたデータが消えてしまい、
   更には再び起動するまで、また年単位での時間が必要になってしまいます」

水月「……はい」

篠崎「それに、今再び起動と言いましたが、脳に多大な負担をかける関係上、
   成功する確率は一回目に比べて絶望的と言っていいほどに下がります。
   水月さんにとっても、彼にとっても、事故は避けたいですよね?」

水月「っ!」

篠崎「わかってくれますね?」

水月「すみません、軽率でした」

篠崎「わかってくれればいいんです
   ……医療エンジニアとして、水月さんは非常に優秀です」

水月「…………」

篠崎「0から始めてたった数年で、驚くほど成長しました」

水月「いえ、そんな、多田先生の教えがあったからです」

篠崎「しかし、その多田先生も今はここにいません。
   もうあなたしか、この街には……いえ、この【島】には医療エンジニアはいないんです。
   正式な免許が無い水月さんに他の患者をどうこうしろ、とは勿論言いません。
   ただ、彼だけは、お願いします。彼の為にも、水月さん本人の為にも」

水月「……篠崎先生」

篠崎「昨日も同じようなことを言いましたが、あなたの名前を答えようとして故障したということは
   彼があなたの名前を呼びたがっている、ということです。
   意思が形にならない苦しさを彼が感じているんです。
   あと、もう少しですよ水月さん」

水月「はい……本当にありがとうございます、私達の為に親身になってくれて」

篠崎「院長ですから」


(携帯着信音)


水月「すみません、母からです」

篠崎「どうぞ」

水月「はい、失礼します……」






水月「えっ?」










水月「母さんからの電話は私にとっては予想通りの内容だったけど、
   同時に予想外の内容だった。
   わかりきっていた事、でもそれは今じゃないと思っていた。
   今までだって我慢してきてたんだと思う。
   わかってる。
   応援してる、と言いながら応援していない事だってある。
   頑張れ、と言いながら挫けて欲しいと思ってる事だってある。
   わかってる。最初からわかってた。
   でも、怒鳴り声の後の、憐れむような声が胸に刺さった」








水月「おはよう」

モニター「おはよう、ございます」

水月「……母さんと父さんがね、街を出るって」

モニター「う……み」

水月「もう付き合えないって、勝手にしろって」

モニター「が、っこ、う」

水月「知ってる? この病院、もうほとんど患者さんもお医者さんも残ってないんだ」

モニター「うみ、がっこ、う」

水月「強制入力、黙って」

モニター「…………」

水月「耳を澄ましてみて」

モニター「…………」

水月「まるで、この世界にたった二人だけみたい」

モニター「…………」

水月「静かだね、とっても。
   ごめんね、もう喋っていいよ」

モニター「うみ、がっこう」

水月「ちゃんと、戻ってきてくれるよね?
   私、信じてもいいんだよね? 成功したんだもんね?
   そこに、君はいるんだよね?」

モニター「……が、っこう」

水月「ねぇ、名前呼んでよ」

モニター「あなたの名前、は」

水月「答えられない?」

モニター「わかりません」

水月「画像認証、ナンバー1。カテゴリー恋人、名称」

モニター「登録されていません」

水月「なんでかなぁ……何回も登録しちゃうけど、いつの間にか消えちゃうね
   忘れたら、その度に登録して、何回も覚えて、何回も忘れて……
   これじゃ、ただのコンピュータと代わりないよ」

モニター「私は、コンピュータではありません」

水月「呼んでよ……じゃあ、名前……」

モニター「が、っこう」

水月「違う! 私の名前はそれじゃあ、ない!」

モニター「…………」

水月「時間がもっとあれば良かったのにね……それとも、最初からもっと別の所でデータ送信を試していればよかったのかな。
   でもさ、それにはお金が必要なんだって!! どんどん街が水没していってさぁ!
   みんななるべく高い所に移住して、でも人っていっぱいいるから食べ物が少なくなってってさぁ!
   怪我人や病人は切り捨てようって、平気でみんな言ってるんだよ!!
   そのくせどうせ死ぬなら体を下さいってお願いしてもっ! ……道徳の問題だっ……て……
   道徳って何よ……道徳がなんだよ……」

モニター「こう、がっ」

水月「だから、これが私の精一杯なの。雇ってくれる所探して働いて、父さんと母さんに借金して
   お金集めて……この街で君を、こんな窮屈な箱の中に入れるので精一杯……」

モニター「がっこう」

水月「全部私のエゴだってことはわかってる。
   でも、割り切れないことって、あるでしょう……?」

モニター「学校」

水月「ごめんね、何か最近謝ってばっかりだ。
   今日は早いけど、もう帰るね……また明日来る」

モニター「そういえばね。私達の通ってた学校あったじゃない?
     あそこも一階の所浸水が始まっちゃったんだって、何か、寂しいよね」

水月「そ、だね。明日は学校いってみようか。
   そうだよね、ちゃんとそうして覚えてる事もあるんだもんね
   すぐにデータ読み込んで昔みたいにお話出来るよね」

モニター「寂し、い……あー、あー。わかった、あー」

水月「え?」

モニター「う、み。がっこ、う。びょう、いん、せんせ、い。
     変換。海、学校、病院、先生」

水月「え、待って。今わかったって、言った?」

モニター「学校、学校、学校。 
     私立小波第二中学校。
     1-3,2-3,2-2。部活動、野球部。
     駄菓子屋、懐かし堂、わかった。
     血液型O型、小学校、旭ヶ丘小学校。
     あいうえおかきくけこさしすせそ。
     わかった。足し算引き算掛け算割り算。分数は大して覚えてない。
     算数5段階評価で2、数学は3。平均で。
     父親、母親ともに中学三年の時に死んでる。
     母親は病死で父親は事故死。
     事故、高校1年の夏、トラック」

水月「……え……」

モニター「あー、あー。
     あいうえおなにぬねの、ざじずぜぞーぱぴぷぺぽ。
     OK、もう一度言ってみ」

水月「え、あ、な、何、を?」

モニター「関連キーワード。
     はい、私は誰でしょうか
     クイズタイム、私の名前はなんでしょう?
     私との関係と私の名前は?
     ねぇ、名前呼んでよ
     呼んでよ……じゃあ、名前……」

水月「過去の話題から自分、自分で、話題を拾ってきたの?」

モニター「いいから、早くもう一度言ってみろ」

水月「っ! 命令文を、自分で喋るってことは、えっと……
   自我形成プログラムの第五段階、で、その」

モニター「……」

水月「そんなっ、いきなりこんなに進展することってあるの?
   多田先生にメール、じゃない篠崎先生に聞いて見ないと!」

モニター「いいから」

水月「もしかして、さっき一度ショートしかけた時に、何か起きたってこと?
   あ、わかった、え、でもやっぱ、わかんない。なんで、全然意味が、わからない……」

モニター「…………」

水月「…………」

モニター「…………」

水月「っく……う……うう……」

モニター「見てたよ、ずっと」

水月「名前!! わたっ、私の、名前!! 呼んで!!」

モニター「ありがとう、水月」
ええ、怒られますね。

具体的に言うと内閣諜報部から警告がきました。

非常に困りましたが、そこは、ええ。

やはりブログを始めるからにはそれなりの、決意といいますか……確かな気持ちを持って始めたので、そこは初志貫徹したいと思いますね。

7年ほどブログをしておりますので、はは、これは自分なりの意地ってやつですかね誰かこのブログを読んで下さい。
ええ、そういう質問を多数頂きますね。
ですが、本当にブログを始めたんですよこれが

ですから、ええ、はい、ブログ……はじめましたね、ええ。