ご近所さんもみな下町の口調で草履屋の店先では小気味よく会話が交わされていました。
落語の世界そのままでした。
昔は並びに銭湯がありその行き帰りにひと声かけていく方もいました。
ある旦那は、ゆかたがけで頭を手ぬぐいで拭きながら
「結構なお湯でござんしたよ」
この「ケッコウな」の「ケ」にちょっと力を入れた感じで言うのが江戸前に聞こえます。
そういえば「ゆかたがけ」という言い方も聞かなくなりました。
浴衣だけのくつろいだ姿と辞書には載っています。
「浴衣姿」と違ったちょっとくだけた感じがするいい言葉です。
こんなことを話すので「なんで噺家にならなかったの?」と言われるのです。
近所の老舗の天ぷら屋さんに行った時に旦那が言いました。
「水谷さん、それで噺家になってたら『挙げての末の』になっちゃうね」
「挙げての末の」というのは「たいこもち 挙げての末の たいこもち」のことです。
たいこもちを挙げるような贅沢な遊びをしている道楽息子が家を追い出されてしまい、自分自身がたいこもちになってしまったことを言います。
それを全部言わなくても「挙げての末のになっちゃう」で通じるところがやっぱり下町なのです。